+ドットドット海+
土管から抜けても地上ではなく海の中のまま。
ただ先程のどこへにでも渡れる広い所ではなく、
岩に囲まれたまっすぐな狭い通路だった。
岩壁の隙間からは空気の泡が溢れ、
岩壁には海藻やサンゴ礁などがよりこびり付いている。
それはまさに水中洞窟という場所なのだろう。
変わらないピクセルの不思議な光景を眺めつつも
水中の閉所という事もあり、ただ慎重に進んでいた。
「っ!?」
しかしそんな岩壁にあった不自然な穴から
分厚い何かが丁度
神菜の行く手を阻み、急停止する。
それは青い吸盤が揺れる白く長い巨大なイカの足で
のろりと壁のように突然覗かせたのち、
ゆっくりと穴の中へ沈んでいく。
《もしあのウニョウニョにくっついちゃったら…!?
ウウ~~~~ン!!スリリングルグル~~っ!》
「……」
騒ぐキえマースを無視しつつ突然の不意打ちを避け進行すれば
単調な一本道から分かれ道が現れた。
それはこのまま先に進む道と
どこへ繋がっているのか上へとのぼる道。
だがそれに気付かず先に進んでしまったマリオを見て
ピーチは背後で泳ぐ
神菜とクッパへと振り返る。
指を上に立てるハンドサインを送れば理解した
神菜が頷き、
そのままピーチはマリオの元へ急いで泳いでいった。
神菜もふと最後尾に並ぶクッパを見れば
案の定どこか不服そうに眉をしかめており、
しかしピーチに頼まれたからというのもあるのだろう。
そのまま素直に
神菜と共に上の道へと進んでいった。
《
神菜!なにか見えるどえーす!》
見上げて泳げば徐々に光景が変わっていく。
深海の変わらない暗さではなく、
まるで地上に上がるように色が明るくなっているのだ。
そして段々と体が軽くなっていく。
この現象は海面に近付いてきた時の証拠だった。
―バシャアッ
「ぷっはぁあ!」
悟った
神菜はより素早くのぼっていけば
その勢いのまま海面から頭を露出させれば
飛び散った水滴が自身の頭を被る。
「ああ!喋れるっ!空気だ!!」
海中でひたすら溜め込んでいた声を上げる。
ただそこは海の外ではあるもののあの青空の下ではなく、
岩壁に囲まれたままのまさに洞窟の中だった。
照明は一切ないはずだが、暗さはそこまでなく
辺りの岩肌が目視できるほどの明るさだ。
普段とは違う響き方をした声に驚きながら周囲を見渡し、
地上へ上がれそうな場所を見つけて体を引き抜く。
「わあ~あ…」
「グヌ…なんだここは!」
あとから登ってきたクッパも水を払うように身を震わせるも
やはりその光景もあってか怪訝な様子のままだ。
神菜も海水が大量に染み込んだ服を絞る。
背負っていたリュックも確認するが
特に重さが増えている様子はなく
撥水効果があるのか水滴がポロポロと流れ落ちていた。
「…あ!土管!」
その状態のまま周囲を確認すれば
デコボコとした岩の間に緑色の土管が覗いて見えた。
この土管も環境によって馴染んでいるのだろうか
水滴が張り付いていたりコケも生えている。
「何故ワガハイが小娘と…」
「小娘じゃなくて
神菜!
ピーチに頼まれたんだからしっかりしてよ~」
「わかっておるわ!」
相変わらず不機嫌そうなクッパに苦笑しつつも
お互い動ける状態になるとそのまま土管の中へと入っていった。
……………
その先も先程と変わらない岩壁に囲まれた洞窟の中。
水中洞窟と同じように一本道であったものの
地上だと水中のように体を浮かすことができず
その不規則に露出した岩壁を慎重に避けて進んでいく。
「おお!こんな所にいたのか!トゲクリボーよ!」
すると
神菜より先に進んでいたクッパが何かを見つけ
歓喜したような声色が洞窟内を響かせる。
彼女もクッパの背後から覗いてみれば
そこには頭に刺のついた帽子を被ったクリボーが歩いていた。
クリボーと言えばクッパ軍団の部下だ。
何故この場所にいるのかは不明な部分はあるものの
主従関係のある彼にとっては感動の再会なのであろう。
「…」
「お、おいっ!聞いているのか!!」
しかしそのトゲクリボーは何の反応も示すことなく、
気付いてこちらを向いたその瞳には光はなく、赤く光っていた。
「ビバ!伯爵!」
そのまま彼の言葉に応えるかのように
クッパに向かってトゲをこちらに向け、突進してきたのだ。
「クッパ!」
「っ…!!」
呆然と立ち尽くすクッパだったが
神菜の声で我にかえると
突進するトゲクリボーに向けて反射的に炎を吐き出した。
「ぐわぁぁあっ!」
その勢いのまま真正面から大量の炎に直撃し、
その悲鳴で咄嗟に炎を止めれば
案の定トゲクリボーはその場でぱたんと倒れてしまった。
とはいえ、彼なりに加減をしていたのか
多少焦げているもののただ気絶しているだけだった。
「あー…えっと、ほら、伯爵に操られてるって言ってたし…」
「…」
「衝撃与えたら解けてるかもよ!だからさ!」
まだ仲間になってから浅い関係という事や
マリオやピーチのように人間ではないのもあるだろう。
どう扱えばいいのかわからず
神菜は困惑するしかない。
その相手は自身を魔王と名乗り、
確かに肩書に相応しい威厳も人技ではできない炎もある。
しかもどうやらピーチ以外には厳しい態度を取る性格故に
下手な事を言ってあの炎の餌食になるのは避けたい所だ。
とりあえず気絶するトゲクリボーを隅に寄せクッパを見てみれば
複雑そうに険しい表情で見下ろしつつも
そのまま目の前の一本道を先に進んで行ってしまった。
「う~…ピーチ~…マリオ~…」
この場にいない人物の名前を呟き届かない助け船を送るも
戻ってくるのは気まずい空気と
付いて来ていたフェアリンのみで。
深くため息をつき、
神菜もクッパの後を追う事にした。
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二人は再び水の中を遊泳していた。
狭い通路を進んだ先に待っていたのは
行き止まりと水面だったのだ。
ただその水面を覗き込んでみれば水溜まりではなく、
神菜が這い上がってきた所のような深い底が揺らめいていて。
「一体なんなのだ!コントンやらあの様子やら…!
こんな狭い所を探索して一体何があるというのだ!」
勿論その水底の奥へと進めるのだが、
諸々の感情が積み重なった
クッパの機嫌が悪くなるのが先だった。
唸りながら地団駄で揺れる水面を睨んでいると
その様子に面倒くさそうな表情の
神菜も背後から追いつく。
睨んだまま動く様子を見せない彼を見上げながら通り越し、
水面の前へと移動してちらりとそう振り向いた。
「も~いちいちグチグチ言う前に足動かしましょうよ~
そんな姿ピーチが見たら悲し…あ、でもマリオがいるか!」
「なんだと!?」
「ヒィ~っ!」
どちらかと言えば最後の人名に反応した方が近いだろう。
意を決して発した
神菜の言葉が効いたのか
より険しい表情を見せながら彼女に怒鳴りつけるなり
神菜は威圧から逃げるように水の中へと飛び込んでいった。
その悲鳴にはそこまで心はこもっていなかったが。
飛び込んだことで跳ねた水滴で揺れる水面を見て、
置き去りになってしまったクッパも
むしゃくしゃした状態のままだったが彼女の後を追った。
…そうして現在の遊泳状態に至るのだ。
《
神菜~大丈夫?》
安定して
神菜の元に付いて来たトるナゲールが
水中故の静寂を見計らって声をかければ
彼女は笑みを見せながら親指を立てたハンドサインを見せた。
そして浮遊するゲッソーを
神菜は避け、クッパは炎で追い払う。
奮起しているのか苛立ちをぶつけているのかは不明だが
クッパの動きはどこか機敏になっており
神菜を追い越し炎をまき散らしていたのだ。
「…!」
しかしそんな一本道の変化が現れ始める。
伸びる狭い通路の先がぽっかりと広がっており
遠くからでも広さが変わっているのがわかる光景だった。
気付いた
神菜は勢いを付けて泳ぎ出せば
追い越されていたクッパも遅れないように後を追う。
―ガシャァン!
「!!」
そのまま通路から広い場所へ二人が出るなり
大きな音が背後から響き渡る。
慌てて振り向いたそこには
鉄柵が出入り口を完全に封鎖している状態だった。
握りしめて動かそうとしても
その重さと丈夫さ故にビクともしない。
《う~~ん!僕のスリリングな力も使えないなんて!?
スリリングルグル~!!!》
「……」
しかも柵の向きも縦横と格子状になっており
キえマースの力を使っても通り抜ける事は不可能だ。
諦めて周囲を見渡すも、
そこは広いながらも岩壁に囲まれた空間に変わりない場所だ。
上を見上げても太陽光が指すような水面は見えなかった。
生き物と言えばプクプクやゲッソー達が何匹か泳いでおり
海底の方には見覚えのある黄色い杭が一本だけ刺さっている。
それだけだった。
先程対処の出来なかった杭を凝視しつつも、
クッパは動ける範囲を増やすために
浮遊するプクプク達を払って炎で倒していく。
神菜もフェアリンを使って手伝おうと思ったが、
改めて確認した付いて来ているフェアリン達を見るなり
再び諦めたように杭の方へと降下する。
「…?」
やはり同じようにビクともせず、金属音が響くのみで。
頭を掻きながらクッパの様子を見上げてみれば
全て薙ぎ払ったのか、
クッパ以外の生き物は浮遊していなかった。
—ドコンッ
「っ!」
すると視界の外から重いものが落ちる音が響く。
クッパも気付き、お互いにその方向へ視線を向ければ
そこに一つの大きな宝箱が現れていた。
見覚えのある大きな宝箱。
トるナゲールとキえマースがふわりと近付くのを見て
勘付いた
神菜は警戒する事なく接近し、
宝箱の重い蓋を持ち上げた。
「……」
《チェキ!チェケラッ!チェケラッチョ~!》
「っ!」
そこからは予想通りの声色が響く。
おもりの様な形をした台形のフェアリンがふわりと浮上し
目の前の
神菜の存在に気付くと
ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
《オレはさすらいの【セクスィー・ソムリエ】!
あんたのセクスィー具合、オレがチェキしてやるヨオ》
「…?」
フェアリン特有の曲者感を漂わせるその雰囲気に
声の出せない
神菜はただ苦い表情を見せる。
しかし例のフェアリンは気にする様子もなく
何かを見定めるように彼女の顔をじっとみつめた。
《ヨオヨオまずはフェイスをチェキ!
艶のあるブラックヘアーに大きな瞳がキュルっキュル!
とってもセクスィー80セクスィー!》
静かに降りてきていたクッパも
彼女の背後で怪しいものを見るようにそのフェアリンを睨む。
するとフェアリンはくるりと移動し、
神菜の背後に回る。
《チェキチェキお次は服をチェキ!
短いスカートがキューティクル!
超超イケてる100セクスィー!》
「……」
そして
神菜の背後から少し離れると
体全体を眺めるように上から下、下から上へとじっくり眺める。
流石の
神菜も呆れを通り越し眉をしかめていた。
《最後にウッフンボディ~をチェキ!
特に目を引くそのヒップ!大きくて丸くてなやましい…》
「!?」
《なかなか最高オイシソウ、結構ステキでビューティホウ!!
まさにヒップオブヒップ!つまりヒップアンドホップ!!
驚異の10000000セクスィ~!!》
「~~っ!!」
「…」
相手が妖精という幻想的な存在と言えど
彼女に向かって発する言葉はあまり良い気持ちではないもので。
流石に耐えきれなくなったのか、
ご機嫌にぴょんぴょん跳ねるフェアリンを掴もうとするも
それを軽々と避け、目を輝かせていた。
《あんたのヒップは極上ヒップ!キラキラ輝くダイヤモンッ!
オレの本能刺激しまくり!オレの魂揺さぶられまくり!
消された記憶も飛び出すぜベイベ!》
「………」
《そいつを使ってアタックかけりゃ
どんな奴でも一撃コロリ、バタンでキューっと潰れちまう。
ヒップを征する者は世界を征する。
オレはそいつに青春をかける》
そして恒例の動きであろう
神菜の回りをくるくると回り、真上でピタリと止まった。
《付いていくぜマイブラザー!!》
こうしてヒップドロップフェアリン
【へびードン】が仲間になった。
「……」
《オレが太陽ならあんたは月。
オレがクレオならあんたはパトラ。
二人で行こうぜどこまでも~!》
言動に難アリとはいえ、今までの経験上
フェアリンの存在はこの旅には必要不可欠な存在だ。
しかもほぼ手ぶらの
神菜にとっては余計に感じるもので。
言葉を発せない代わりに面倒臭そうに頷けば
へびードンはクッパ存在も気にする事なく
黄色い杭のある場所へと軽快に移動する。
《でもその前にちゃんとこの部屋から出てみろヨオ!
オレのセクスィーな力を使って!》
「…?」
へびードンは答えを知っているかのように杭の上で跳ねる。
神菜もクッパも同じ心境なのか、首を傾げれば
それを眺めていたトるナゲールが
神菜の耳元へ移動する。
《ヒップドロップ!ヒップドロップどえーす!》
「…!!」
ヒップドロップという言葉の意味。
そして先程へびードンが勝手に行った謎採点。
つまりお尻を使って力を使わなければならないらしい。
しかしすぐに力を発動する気には慣れず
その行為自体に抵抗感があったのか、杭の前で狼狽えていた。
《チェキ!チェケラ!世界を拓くセクスィーボディー!
見せておくれよラブリィ~ハート!》
「……!」
煽っているようにも聞こえるその声に断念し、
意を決してへびードンをつかみ取ろうとするが
隣にいたクッパが先にへびードンを引き抜くと
軽く浮上してから黄色い杭に近付き、力を使った。
―ドスンッ!
水中では表現できなかった力強い音が響く。
同時に硬く刺さっていた杭が地面に地面へと深く沈むと
出入り口を覆っていた鉄柵が音を立てて解除されていった。
「…!」
パチパチと音のならない拍手をするも
クッパは鼻で笑うように反応し
そのまま一本道の通路の方へと先に進んでしまった。
《ヒップしかないって?ノウノウ違うぜ!
スレンダーな足でもセクスィーに拓く!》
「…」
呆然と眺める
神菜にへびードンが声をかければ
「先にそれを言え」と言わんばかりに睨みつける。
だが当の本人はきょとんと見つめる姿を見せるだけで、
思わずため息をつくと彼女も急いでクッパの元へ泳いでいった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「
神菜!クッパ!何かあった?」
水中と岩壁の通路を抜け、土管の生えていた空間まで戻れば
途中で分かれていたマリオとピーチが既にそこで待っていた。
先に進んでいたクッパも既に到着していたが
神菜に気付いたピーチが駆け寄れば
彼女の肩からひょこっとへびードンが姿を見せた。
「まあ!フェアリンを見つけたの?」
「うん。ヒップドロップフェアリンらしくて…
色々ツッコミ所あるけど、結構役立ちそうだよ」
そう頭を掻きながら笑うとピーチも吊られるように微笑んだ。
久しぶりの一息にマリオが安堵していれば
その様子を見ていたクッパが彼の元へ近付いた。
「お前達は何か見つけたのか?」
「物はなかったが、壁画はあったな」
「へきが?」
「ええ…確か杭が6つあって、
左から上・下・下・上・下・上…だったかしら」
「杭…って、もしかして黄色の?」
「そう!多分あれの事なんだと思うんだけど…」
新しいフェアリンの効果を知らないマリオとピーチは
その得た情報の使い方に悩んでいる様子で。
しかしそれが聞こえていたのか、
そのままへびードンがマリオの前へと飛び出した。
《それならお任せ!セクスィーパワーでちょちょいのチェケ!》
「あ…?」
「あ~えっとね、ヒップドロップだから…」
「…ああ!」
ピーチは依然口元に手を当てていたが
そのワードを反芻していたのかマリオが突然声を上げる。
そして
神菜と目線を合わせ大きく頷けば
察した彼女も同じように頷いた。
№36 ヒップドロップフェアリン
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