「アンナ?誰だ、それは?」
4人で旅を続ける事になった勇者一行。
新たに加わったクッパは見ての通りの攻撃型で
マリオと比べるとはるかに強い火力を持ち合わせている。
今までニンゲンのみだったパーティーに
明らかな人ならざる生き物の参戦に
神菜も不思議な感覚になっていた。
その大きな図体という事もあり
必然的に最後尾になる彼は後ろからドシドシと歩みだす。
「お前たち!ワガハイはこれから世界を救いに行くのだ。
くれぐれもピーチ姫には手を出すんじゃないぞ!」
目の前にうろつくクッパ軍団の部下が立ち塞がれば
クッパが前方に出て妨害を阻止していた。
そして彼に指示を与えられた部下たちは
こちらに危害を加えることなく避けていく。
マリオと
神菜もなんとかその一人として扱われているのは
クッパの言葉の後にピーチが助言をしてくれているからだ。
「本当にすごいヒトなんだなあ…」
見る機会は殆どないだろう猛々しい後ろ姿と
歩くたびに揺れる尻尾を思わずじっと見つめていた。
そして部下たちの言葉を聞くところによれば
どうやら結婚式でから世界へと飛ばされなかった者たちは
ノワールによって操られ、彼らと敵対しているらしい。
その見分け方は【赤い目をしている】言っていた。
「ここにきてから"赤"ばっかだなぁ」
「フン!やはり赤色はろくでもない色なのだ!忌々しい!」
「俺を見ながら言うなよ…」
マリオを見下しそう吐き捨てるクッパだったが
当の本人はただ呆れた様子だ。
そしてクッパによって快適になった一本道を何事もなく進む。
変わらないのどかな風景を眺めながら進んでいくと
先頭を歩いていたマリオが急に立ち止まった。
丁度後ろにいた
神菜がマリオの背中にぶつかる。
「うわっ…なに?」
ぶつけた顔を撫でていると
隣を歩いていたピーチが輝いた瞳で前方を見つめる。
疑問に思った彼女もマリオの後ろから移動し、
彼女と同じ目の前の光景を視界に映した。
「海…だわ…」
確かにそこには真っ青な海が一面に広がっていた。
周囲に道は存在せず、海に面した崖のみ。
しかしここに至るまでに道らしき道は存在しなかった。
草原から山、山から砂漠に行った時のように
獣道ではない誰かが通った形跡のある道を辿った結果が
この水平線も見える大海原だ。
「まさか、ここ?」
「しか…ないな」
「船とかは…」
崖下を慎重に見下ろすも
勿論船などの人工物らしきものはなにも見当たらなかった。
「…エッ!?」
すると見下ろす彼女の横で
マリオ助走をつけてそのまま海に飛び込んだ。
地面を蹴った土と草と共に大きな水しぶきが目の前に舞う。
「嘘!?ここで泳ぐって判断するの!?」
「フン!臆病者め」
そんな
神菜の様子を鼻で笑えば
クッパもマリオの姿を追いかけ、
助走をつけて勢いよく飛び込んだ。
その図体に見合った大きな水しぶきが舞う。
困惑したままピーチの方を見上げれば
彼女もどこか笑みを浮かべながらも
神菜を見ていた。
「じゃあ…ここも二人で飛び込みましょうか。
こういうのは勢いが大事よ!」
「ヒエエ…」
崖下の海へと飛び込むなんて
サスペンスドラマでしか見たことのない光景だ。
しかも先に海へ行った二人はそんな緊迫とした状況でもなく
まるで飛び込み台から落ちるように
意気揚々とした雰囲気だった。
困惑する
神菜に対しピーチは楽しそうな雰囲気を纏い、
今度は密着する状態ではなく手を繋げば
神菜は万が一の時のために鼻をつまむ。
その様子に軽く声をかけたのち、
勢いをつけ二人同時に海へと飛び込んだ。
こうして大所帯となった一行の
大海原での賑やかな旅が始まった。
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+ドットドット海+
パラソルのない状態で
着地点がわかる高い場所から落下する感覚は
山で家から追い出された時やズンババの時以来だろう。
しかし誰かと手を繋いでいるという安心感もあってか
強烈な抵抗感はさほど生まれることはなかった。
そして海上に近付いた瞬間、
伸ばした足先から水のなかに埋もれる衝撃が全身に走る。
ブクブクと空気が漏れながら海の底へ沈む感覚に
閉じていた瞼を開いた
神菜は無意識にピーチの手から逃れ
そのままの勢いで地上の空気を求め泳ぎ始めた。
「ぷっはあっ!!」
止めていた呼吸を再開し、酸素を思いきり吸い込む。
決して溺れているわけではないが
今いる場所はそこらの整備されたプールではない。
捕まる場所もなければ明確な目的地すらもない、
足場が不安定な砂漠と似たような環境だ。
本能的に動いたその体をなんとか浮かしていると
下から誰かが彼女のもとへと泳いでくる。
「っはぁ」
「ねえマリオ!無理だって!息続かないよ!」
彼女は必死だった。
何せ生身の状態で水中の命綱である酸素ボンベもないのだ。
立ち泳ぎで精いっぱいでパニック気味になる彼女に
マリオはただ冷静に見つめ、肩を掴んだ。
「一旦落ち着け!溺れてもいいのか?」
「うう…」
「とりあえずだ…何故かこの海は水中で呼吸出来る」
「…え?」
「だが喋る事は出来ないし理由もわからない。
あと自然と沈んで歩けるから。OK?」
波と飛沫の音に負けないよう
一つ一つはっきりと伝える言葉はちゃんと
神菜に届いており、
勿論その謎原理に呆然としていた。
その反応にはよく海の中で息をしようと
試みた事に対しても含まれているだろう。
「オーケーだけど…」
「姫もクッパも…なんとか順応してるっぽいから」
そう伝える彼が海の下を指さしている。
彼女はそれに何度か頷き、マリオも確認すると
再び飛沫をあげて海の中へ潜っていく。
神菜も意を決して息を止めると彼の後を追った。
…………
確かにマリオの言っていた通り、
一定の深さまで潜れば
自然と重力が働き体がゆっくりと沈み始める。
海水というのに不思議と開いた瞼が染みることはなく、
水温も冷たすぎず熱すぎず、常温に近い感覚だった。
海底にはピーチとクッパが見上げて待っており
ゆっくりと砂を舞わせながら着陸した。
そして全員揃えば、マリオが腕を大きく振り
「来い」と合図を出すとマリオを先頭に海の奥へと進み始めた。
…………
《海はどの時代になっても変わらないね~》
《でも僅かに電波の違いは感じるビン!》
《いっつもボムの言う電波って何?よくわからないどえーす》
どうやらフェアリンはこの謎原理の海は通用しないようだ。
地上と同じように自由に浮遊ができるし
水中故か声の響きが変わるものの会話もできるらしい。
そんな平和な会話を聞きながら一行は海底を渡っている。
マリオの言っていた通りこの海では地面で歩くことができるが
水の抵抗と謎の重力によって地上の時と比べると
遥かに体力の消耗が激しく、動きづらい。
重い足をなんとか持ち上げても
砂の底にある穴へと吸い込まれそうになったり
そのまま足を踏み外して穴に落ちそうになったりと。
泳いだ方がマシだと確信した彼らは
体を浮かし、浮遊しながら目の前の道を進んでいく。
「…!」
すると視界に黄色い三つの杭の様な物が映った。
素早く動けるフェアリン達がその杭周辺を飛び舞う。
《無理どえ~す…コレここにくっついてるよ~》
トるナゲールで持ち上げる事が出来なければ、
ボムドッカんで壊れる事もない。
クッパが爪でその杭を叩いてみれば、
水中でもわかるような金属の音が響いた。
そしてそのままクッパは
杭のあった場所から先へと視線を向けると
一定の空間を空けて三つの同じ杭が立っているのを見つける。
何かがありそうなスペースに立つも変化は起きない。
そんな合計六つもある杭に何も対処ができず
ずっと悩んでいても仕方がないと判断したのか
マリオが杭から離れるように通り過ぎると
三人もそれに付いていく。
「…?」
「ッ~…!」
しかし大きな岩が立ち塞がっていた。
爆弾の衝撃で壊れる事もなければ
マリオの精一杯の攻撃、クッパの炎も全く効かず。
勿論周辺にも様々な形の岩や砕けた岩などが沢山あるが
マリオはその目の前の岩に対し何か違和感を抱いていたのか
その場で次元ワザを使えば一瞬で戻ってきた。
「…!」
「?」
「~~!」
マリオが
神菜の方を振り向くと
自身の揺れるオーバーオールの紐へと指をさす。
それでも理解していないのか、キョトンとする
神菜に
その紐を握りゆらゆらと揺らせばやっと理解したのか
大きく頷くとその紐を握った。
そして片方の手はピーチに手を差し出し
流れを見ていた彼女も察して
神菜の手に応える。
ピーチもクッパに手を差し出すと
意味がわからないまま照れ臭そうにピーチの手を握った。
それを確認し、マリオが次元ワザを使えば
目の前の岩の表面がぺらりとめくれ岩の内部がさらされる。
そこ見慣れた緑の土管があったのだ。
岩の内部も土管もクッパが入れるほどの余裕のあるサイズ感。
マリオが消える姿は見た事があるものの
物体にその現象が起こるのは初めてだったクッパは
驚愕とした様子で口から空気が漏れ、まばたきをしている。
「…」
声には出せずともその様子に思わず笑みが零れる。
そして次元ワザの有効時間が途切れる前に
マリオを先頭にその土管の中へと入っていった。
№35 大海原
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