№35 大海原
夢小説設定
少女達の名前を。勇者側はひらがなカタカナ漢字問わず、
伯爵側はカタカナだとより楽しめます。
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+暗黒城+
「お、」
「お待たせ…っ!」
ナスタシアに案内された扉からノンストップで走り抜け、
なんとか城のエントランスまで辿り着けば
目の前の大きな扉をゆっくりと開く。
そこにはディメーンが座る体勢で浮遊しながら待機しており
マオの姿に気付くとにこりと微笑んだ。
「ずいぶん遅かったねえ。何かあった?」
「ちょっとね…でも大丈夫!本も見つかったし」
腰に装着した例の本を見せれば
ディメーンは満足げに頷く。
「それで、どうやって行くの?」
「マオは初めてなんだよねえ。別世界に移動するの」
「まあ…そうだね。ここに来る前の所しか知らないし」
俯きながら述べる彼女の顔に暗さは感じさせず
むしろその記憶を何とか掘り起こそうと真面目な様子だ。
城に来た当初の彼女と比べれば
今の姿はかなり成長しているのがよくわかる。
ディメーンが連れてきた本人であるから余計だろう。
「知ってると思うけど、僕は魔法で移動するよ」
「魔法…じゃなきゃ、外に行けないの?」
「う~んどうだろうねえ。
ココがすでに若干特殊な場所だから
魔法使った方が無難なんじゃないかな~って」
「じゃあドドンタスはどうやって行けたんだろ…」
「んっふっふ…さあ、彼の事だからねえ。
ド根性!とか不屈の精神!みたいので行ったんじゃない?」
その声色は戯言を呟くようなもので。
明らかにその場で考えたような回答に
マオは苦笑を浮かべるしかなかった。
「話を戻すけど。つまりそういう感じで行くよ~」
「……うん」
「ん~?今度はどうしたのさ」
指を構えいざ魔法を放とうとするも
再び変わったマオの反応に首をかしげる。
今度の表情は暗さが現れており
どちらかいえば不安を残したような様子だろう。
小さくため息をつき、構えた手を下ろす。
「ドドンタスもマネーラも…敵わなかった相手に、
勝てるのかな…って」
「自信なかったり?」
「…」
いざ本番の晴れ舞台の前に尻込み、
そのまま萎縮してしまう役者のようだ。
彼の言葉に小さく頷くと考え込むように小さく唸った。
この敗戦の続くタイミングでの出動では
彼女自身プレッシャーも感じているのだろう。
「だいじょお~ぶだって♪
例の子から吸い取った力もあっていつもより元気でしょ?」
「吸い…うん、それはそうなんだけど。
私たちが負けちゃったらって思うと…」
「そんな事考えてるからでしょ~?
勝てなくても、最悪時間稼ぎすればいいんだから」
「時間稼ぎ…って、倒せなくても足止めさせたらい…って事?」
「そうそう!ま~勝てたら万々歳なんだけどねえ~」
彼なりの言葉なのだろう、へらりと笑う姿に
マオも緊張がほぐれたのか、釣られるように笑みを浮かべる。
それを見たディメーンも安心したように頷いた。
「さて、はやい所行っときますか~」
「うん!」
力強く答えた声を合図に降ろしていた腕を再び持ち上げる。
もう片方の手をマオに差し出し、彼女もその手に応えると
ぱちんと指を鳴らし移動魔法で静かに立ち去った。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
魔法で城から違う場所へ移動する。
目的地の地面に足をつけ、周囲を見渡せば
その鮮やかさに眩しくなり、思わず瞼を薄く開いた。
視界全体が青々しい緑に囲まれている。
よく見ればそれらはツヤのある沢山の葉の集合体で
彼女の足元はオレンジに近い茶色の木で作られた地面。
木の幹ではなく、そこから生える太い枝という所だろう。
そこはまるで大きな木の中に立ってる様な雰囲気で。
隣にはその姿を見守るディメーンが見守っており、
今いる場所から見覚えのあるシルエットも見えた。
「あれは…」
「例の魔王様の部下だねえ。
多分アレと…アレは、僕達の味方かな?」
彼が指さす先には赤い甲羅にトゲの生えたトゲゾーや
雲に乗って浮遊するジュゲムがいる。
遠くにいる者はよくわからないものの
ナスタシアが放った赤色の術の効果だろう、
マオ達の近くにいる彼らの瞳は怪しく光っていた。
「ところで…ここは?」
「僕の読みが当たってれば~…勇者様の通り道かな?」
「かな…?」
両腕を後頭部で組み、足をふわりと組んだ状態で浮遊する。
いざ現地に到着して戻ってきた緊張感に対して
悠長とした仲間の様子に思わず眉をひそめる。
「いや、ちゃんと来るよ。ここにね」
「本当に?」
「だって通り道なんだからさ~」
完全にリラックスモードに入った彼に対しため息をつくと
一旦彼から少し離れ、改めて場所を確認しようとする。
いつも使っていた鋼線をたらりと取り出し
今立っている場所に鉤を固定させると
束ねた鋼線を命綱の様に垂らし、ぐらりと自身を降下させた。
「……」
今まで籠っていた暗黒城からの彩度の多さに目がくらむ。
しかし彼女の中に眠っているだろう記憶は微塵とも反応せず
ただ新鮮な木々の風景を眺めているだけの状態だった。
「やっぱり…何か、別の何かがないと…」
体が反応しても、脳の記憶として思い出す事は出来ない。
腰の本に触れながら静かに降下し風景を眺め続ける。
「ビバ!伯爵!」
「び…びば、伯爵」
瞳の赤い部下達と遭遇すれば
彼らの記憶に伯爵ズの姿も刻まれているのだろう、
城外でも例の挨拶でマオに敬礼ポーズを見せた。
そして彼女が返事をすればポーズを解除し歩き出す。
もはやロボットのような状態にも見えるその姿に
マオはどこか複雑な心境で見送った。
そして一通り周囲の環境の確認が取れると
ディメーンがくつろいでいる元の場所へと戻る。
案の定、彼は変わらない様子のままで
マオは鉤を地面から外すと鋼線をまとめ始めた。
「…それでさ~、ちょっと試してみたら?」
「え?」
それを見ていたディメーンが話しかけマオが反応すれば
頭上のどこかから浮遊してきたのだろう、
近くに歩いていたジュゲムに指を向ける。
そして気付いたジュゲムがディメーンの方を向いた瞬間、
彼は指をぱちんと鳴らした。
「!……」
すると、ふらりと黒い瞳から光が消える。
そしてそのまま人差し指をくい、と曲げると
まるで人形を操る様にジュゲムがこちらへ移動し始めた。
「え…?」
「まだまだ時間もあるからね。
これで戦って体をほぐしておけば
実戦の時慌てなくて済むと思うよ~」
「そ、そうだけど」
「なあに。こっち側のじゃないから大丈夫さ♪」
彼の大丈夫はどういう意味なのだろう。
そう思っているとマオの手前でジュゲムが停止する。
その瞳は依然光を失ったままで硬直しており
きっと彼女の準備が整うまでディメーンが待っているのだろう。
戻しかけた糸を解き、指に絡め体勢を整えると
静まり返るジュゲムの前に構える。
相手の動きを封じるために拘束をした事はあるが、
攻撃などの実戦はあの城では未経験だ。
改めて感じる実感に体が硬くなるのを感じるも
ディメーンは構わずそのまま再び指を鳴らした。
「…ハッ!」
「!!」
するとジュゲムの瞳に光が戻り、我に返る。
しかし目の前に構えるマオの姿を見て
本人なりに身の危険を感じ取ったのか、
雲からトゲゾーの甲羅と同じ球体のパイポを取り出した。
それを大きく振りかぶると彼女に向かって勢いよく投げ飛ばす。
「わっ…!」
初めての敵意と攻撃性の強い勢いに一瞬狼狽える。
しかし咄嗟に体は反応しそれを回避すると
糸を広げ雲に乗るジュゲムを拘束しようとした。
「ッ…」
しかし相手は雲という乗り物に乗っているのもあり
空を舞う糸より勝る機動力で彼女の糸から逃れる。
「あの時…城にいた時は、体が覚えてたみたいに動いたから…」
彼女の心情が糸さばきに露骨に現れている。
戦いの素人とはいえ、普段から糸を扱っている彼女には
すぐに自覚できる感覚だった。
それに気付いたマオは瞑想するように瞼を閉じ
呼吸を整えながら冷静さを取り戻そうとする。
同時に思い出す事は出来ないだろう記憶を
無理やり絞り出すように
強く、強く体に感情を込めた。
「…ッ!!」
そし瞼を開くと目の前には再び振りかぶるジュゲム。
同じ轍は踏まないとパイポが飛び出す前に素早く回避すると
彼女も腕を振りかざし、ジュゲムに向かって糸を放った。
「ぐへぇっ!」
「…!」
光の速さで跳ねるその糸は見事に命中していた。
ちゃんと加減もしていたのか傷跡が残る程ではなく
ぐらりと体勢が崩れたジュゲムは、
そのままから雲から突き落とされ床へと落ちる。
観戦していたディメーンもわずかに反応するも
そんな暇はないマオの視線はジュゲムのみだ。
倒れこむジュゲムに接近しながら糸を放ち
今度は彼の胴体に絡めると、そのままの勢いで再び振りかざす。
「ふんっ!」
ジュゲムの体を宙に浮かすも叩きつけるような事はせず、
頭上の高さのある枝に糸を巻き付け宙吊り状態にした。
とはいえまだ4m程の高さだ。
ギリギリ宙づりになったジュゲムの姿は目視できるが
当の本人は足がつかない高さのため、
どう暴れても脱出することは不可能だった。
その流れで彼女の動きが落ち着くと
観戦していたディメーンがふわりと移動する。
「相変わらず優しいね~」
「や、優しいかな?」
「うんうん。だって本来だったら
徹底的に叩きのめさないといけないでしょ?」
「そうだけど…私たちがけしかけなかったら
攻撃してこなかっただけだったからさ」
もがいて暴れるジュゲムを見上げながらそう答えれば
ディメーンはパチパチと拍手しながらも
どこか呆れたように微笑んだ。
「んっふっふ~でも彼は例の魔王の部下なんだけどなあ」
「じゃあ、さっきいた私たち側の部下に教えてあげよう。
そのまま…大人しく従ってくれるかはわからないけど、
ナスタシアの所に連れて行ってもらうとかさ」
グイ、と繋がったままの糸をひっぱれば
ジュゲムから苦しそうな悲鳴があがった。
その彼女の声と表情から緊張感は溶けているのか
とても冷静で芯が通っているように見える。
落ち着いた様子の彼女を見てディメーンも一息つくと
いつもの移動魔法で一瞬姿を消した。
しかし数秒後に再び姿を見せると
その傍らには赤い瞳をしたパタパタが二体が共に浮遊していた。
そしてパチンと指を鳴らせば
パタパタ達は一直線にジュゲムの方へと飛び出す。
「お友達になるんだから、優しくしてあげてね~」
「「ビバ!伯爵!」」
「ぐぬぬ~~っ!クッパ様ァ~~!」
パタパタ達がジュゲムを捕らえるのを確認すると
マオは糸を緩め、彼を解放する。
しかし捕らえられたままの為自由に動く事はできず
そのまま連れ去られるように
悲痛な声を叫びながら空へと旅立っていった。
小さくなる彼らを見届けるよう二人は空を見上げる。
「さて、勇者達が来るまでここで待機って感じだからさ。
こんな感じで自由に過ごしてなよ」
「…うん」
マオに向って手を振るとまた高く浮遊し
生い茂る木々の中へと消えていった。
一人になったマオは枝から足をぶら下げるように座り、
勇者達が通るだろう木々の下を眺める事にした。
勇者Side▷