+カクカク平原+
入り組んだ地下をひたすら歩きまわり
終着点であろう場所にあった土管の中に潜れば
やっと日の光を浴びる。
眩しさで目を細めながら地上に降り立てば
地下の湿った空気から解放され、深呼吸をする。
そして全員が土管から降りると先へ進もうとした。
すると
神菜が何かを見つけたのか、
その物体の前で立ち止まる。
「サッカーボー…ル?」
白と黒の模様の物体がぽつんと地面に落ちていたのだ。
一見すればまさしくサッカーボールなのだが、
近付いてよく観察すれば、それはただの模様で
ノコノコが背負い、籠る事のできるあの甲羅だった。
動かないことを確認したのち、それを持ち上げてみる。
甲羅の主はいないのか思っていたより軽く、
これを機にと言わんばかりに甲羅を持ち上げ
腹甲部分や背甲部分などまじまじと見つめていた。
「
ヘイヘイヘイっ!」
「ん?」
すると頭上、よりもさらに遠くの方から声が響くと
全員がその声のした方へと見上げる。
そこには石造りの立派な砦がそびえ立っており、
城壁の上にその声の主だろうノコノコが見下ろしていたのだ。
橙の立派な眉毛に青いユニフォームを服を着たノコノコ。
腕を組み、曲げた片膝の足元には
神菜が手にするサッカーボール風の甲羅があった。
「ちょいとそこのあんたら!ここは大魔王様の砦だぜ」
「大魔王…?」
「だから近付く者は思いっきり
痛い目にあわせちゃうんだぜ!ヘイっ!」
そして彼らを見下ろしたまま片腕でハンドサインを
奥にいるのだろう仲間たちに送れば
喚声と共に数人のノコノコ達が砦から現れた。
隠れていた声の数にマリオの表情が険しくなると
ノコノコ、コウラシューターはニヤリと笑った。
「さあ覚悟しな!ヘイっ!!」
その合図と共に後ろから出てきたノコノコ達も
準備してきた甲羅を足元に置くと
マリオ達に目掛け思いっきり甲羅を蹴飛ばした。
「ヒイっ!あぶな!」
「っ!」
一斉に飛び出すその甲羅に流石に狼狽えるも何とか避けきる。
反撃の隙を見せないその襲撃にマリオが動き出すと
神菜の持っていた甲羅を
トるナゲールの力を使ってそのまま掴み取った。
「ヘイヘイヘイヘイうるさいんだっよっ!!」
苛立ちを込めながら声をあげると
トるナゲールによって軽量化された甲羅を思い切り被り
そのままコウラシューターへと蹴らずにそのまま投げつけた。
「ぐはぁっ!」
「貴様あ!ハンドだ!!」
「反則!反則!レッドカード!!」
「やかましい!!」
彼のフォームはとても綺麗で
見事顔面に命中すると当たりが悪かったのか、
コウラシューターはそのまま後ろから倒れ気絶してしまう。
謎のヤジを飛ばす周囲のノコノコすらも
トるナゲールの力でつかみ上げ一蹴すれば
逃げ出したりと第一の砦はあっさりと制覇した。
「おお…」
「やっぱりそうなのね…」
「あいつにとっては不本意だろうが…一応行くぞ!」
「ええ!」
「お、おう?」
ピーチとマリオがそう頷き合えば
静まり返った砦に飛び移り、奥へと進んでいく。
状況の読めない
神菜もとりあえずその後を追った。
が、やはりその砦は一つだけではなかった。
これを見越した第二の砦なのだろう。
登れたとしてもその壁際には黒く光る大砲が仕込まれており
間髪入れずにそこから弾丸、キラーが放たれていた。
その背後にもハンマーブロスが構えており
迂闊に登ってしまえば一瞬で餌食になるのは確実だった。
「どうすれば…」
「…あっ!」
すると
神菜が何か思い出したのか
リュックを下ろすと中身をあさりだす。
《
神菜~?》
そしてリュックから引き抜いた手には
赤いフレーム模様をしたカードがあった。
片面は同じ赤が描かれていたが
もう片面は真っ白で文字も何も書かれていない。
「おりゃっ!」
それを持ったまま立ち上がると
キラー大砲の方に向けてカードを投げた。
それがコツン命中すると、
キラー大砲がクルクルと回転板の様に回り
まるで掃除機に吸い込まれる様にカードの中に吸収されていき
キラー大砲の姿そのものがその場からいなくなってしまった。
そして吸収したカードは浮遊する力を失い
そのまま砦の方へと落下した。
「わあ…」
「まあ!今のって?」
「ここに来るまでに拾ったカードみたいなの…」
「よく使い方わかったな…っと!」
そしてトるナゲールで掴み取っていたらしい
キラーを砦に残っていたハンマーブロスへとぶつける。
隙が出来たその軍団の間を潜り抜け第二の砦も制覇すると
静まり返った砦で先程のカードを拾い上げた。
「ほら。ちっちゃく【ホカクカードSP】って書いてたからさ…」
「ホカク…捕獲、か」
「まさかこういう形になるとはなあ…って」
自分でやっておきながらも目の前で起きた現象に
思わず困惑の声を漏らしてしまう。
カードには先程のキラー大砲がしっかりと描かれていたのだ。
仲間に向けなくてよかったと安堵しつつも
大魔王がいるだろう砦に向って進み始める。
………………
「これは…」
「ジャンプでは…少し無謀ね」
辿り着いた第三の砦。
それは第一と第二とは桁違いの大きな砦があったのだ。
砦というよりは要塞に近い建物だ。
そんな大きな城壁を見上げた先には
先程と同じようにキラー大砲がいくつか並んでいるが
その高さからはその大砲しか目視できない。
広さの事も考えたら内部にも
コウラシューターかハンマーブロスは待機しているだろう。
《ビン…ビビン…》
すると一行の後ろでのんびりと浮遊していたボムドッカんが
何かを見つけたのか、小さく声を漏らしながら城壁に近付く。
《ビビビ~ン!!ここに赤い×印とひび割れがあるビン!!》
その言葉に反応した三人が視線を向ける。
確かにそこには【赤いバツ】があった。
「…ああ!!【砦の真っ赤な×】!!」
《ビンビン電波を感じるビン!
ドカーンと破壊したくなっちゃうビン!》
神菜が声を上げれば
ボムドッカんも謎の興奮で激しく飛び跳ねる。
頷いたマリオがボムドッカんを掴み上げ
爆弾に切り替わり導火線に火が着くと例のバツ印の所へ置いた。
それを×印の所に置きその場を離れた。
―
ドカアァァァァアアアアンッ!「
どわぁぁぁぁああっ!」
「…ッ!」
普段より遥かに大きい爆発音と爆風に、
マリオ達も驚きながらも飛ばされないよう身構える。
それと同時に低音の雄たけびも響き渡った。
「今、声が…」
爆音と共に聞こえた声。
マリオとピーチは聞き覚えのある声にお互い顔を見る。
そして砦のあった更地の地面に黒い影が現れ
それがどんどんと大きくなっていく。
―ドスンッ
「うわっ!」
そして一人の大柄な生き物が落ちてきた。
先程のカメレゴンと似たサイズ感だが雰囲気は全く違う。
緑の大きな甲羅には黄色のトゲがびっしりと生えており
頭部にはそのトゲと同じようなツノと赤のたてがみと立派な眉。
「
ぐおおお~っ!!」
うつ伏せで倒れこんだまま爆発の時に聞こえた叫び声をあげた。
襲撃直後という事もあってか弱った様子にも見えるが
その厳つい風貌故かどこか威圧感も感じるだろう。
「せっかく住み着いた砦を
木っ端みじんに吹っ飛ばすのは何者だ!!」
「やっぱり!クッパじゃない!」
そうピーチが答えるとピクリと反応し驚いた様子で顔をあげる。
そして目の前にるマリオを見るなりまた険しい表情で睨むと
ゆっくりと伏せた状態から立ち上がった。
「
ぬっ? 何だか見覚えのある忌ま忌ましいそのヒゲは…」
「よう」
「マリオ!!…とピーチ姫♡」
「…」
マリオに気付くなり更に険しい表情をするが
後ろのピーチを見つけると一瞬にして表情が和らげ
その風貌から想像できないような溶けた声が漏れる。
その後ろにいる
神菜には怪訝な視線を送るも
ハッと我に返り、再びマリオを睨みだす。
「どうしてマリオがこんな所にいるのかわからんが丁度よいわ!
ここであったが100年目…」
「今はそういう…」
「
ふんぬっ!」
マリオの発言を遮り、力いっぱい地を踏み付けると
その威力で地が崩れ風が巻き起こった。
「っ…!」
「きゃあっ!!」
「うわあっ!」
不意打ちの突風をマリオは何とか耐えたが
耐えられなかった
神菜とピーチは
そのまま吹き飛ばされてしまった、距離が離れる。
更にその衝撃で地面から分厚い壁が伸び
一行を完全に隔離した。
「なんだこりゃあ…」
「マリオよ!もうこれで逃げられんぞっ!!」
何をどうしたらそんな仕掛けが発動されるのか。
いつもより何やら嬉しそうな様子で戦闘態勢をとるが
マリオは面倒臭そうにため息をつくと一応身構えた。
「さあ覚悟するがいいっ!
今日の今日こそギッタンギッタンにしてくれるわ!!」
「そりゃあこっちの台詞だ」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「いったたた…ってうわ!?何これ!?」
吹き飛ばされそのまま地面に倒れ込む。
受け身もまともに取れずに痛む体を撫でながら立ち上がれば
目の前には大きな壁が立っていた。
バンバンと壁を叩くが相当分厚いのか、
彼女の力ではぺちぺちと虚しい音だけが聞こるだけだ。
これでは中の様子が見れないし、中からもわからないだろう。
するとピーチも立ち上がり、ドレスに付いたゴミを払うと
冷静な様子で壁に近付く。
「こういうのもよくあるのよ…あのヒトらしいわ」
「ええ…?」
そんなあまりの冷静さに困惑の声が漏れるが
ピーチは依然として焦る様子はなく、
むしろ苦笑を浮かべていた。
「ていうかさ…」
「?」
「あれが…そのクッパ?」
「ええそうよ。怖い顔しているでしょう?大丈夫だった?」
「いや…そこは大丈夫だったけど…」
そもそも初っ端の歩くキノコや浮遊や二足歩行の亀の時点で
既に違和感はかなりあったのだが。
クッパ。大魔王。
いざ目の前で現れると確かに恐怖心は無い。
そして同時に懐かしみのある感覚もあったのだ。
それは初めてマリオとピーチ、クッパの部下軍団を
見た時と似たような感覚。
「やっぱり…なんか…うーん」
《
神菜~考え事?》
一人自分の中で思考をめぐらす彼女を見て
トるナゲールが心配そうに顔を覗く。
気付いたピーチも彼女の方へ視線を向けた。
「いや~記憶もろもろのね」
「クッパに対しても何かあるのかしら?」
「マリオよりは少ないけど…うん。やんわりと」
「本当に不思議ね…」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
その頃マリオは怠そうにクッパと戦っていた。
クッパも調子が良かったものの
そのマリオの様子で苛立ちが芽生えたのか
大きく息を吸いこむと勢いよく炎を吐いた。
「マリオ!貴様もっとやる気をださんか!
せっかく最高のステージを用意してやったのだぞ!」
「だあから俺の話を聞けって…!」
しかしマリオはそんな炎を軽々と避けながら答える。
幾多のクッパとの戦いを乗り越えた彼だ。
クッパの攻撃を先読みし、いとも簡単に回避する。
そして思い通りにならない状況にやけになったのか
クッパが大きく飛び上がるとマリオの真下へと落下した。
「おっと…!」
流石にその速さに間に合わなかったのか
反応に遅れたマリオがぎりぎりのスピードで攻撃を避ける。
砂埃が舞い、それが消えるとその落ちた場所には
深い穴とヒビが出来ていた。
「がははははは!やる気を出さんからだ!!」
だがその小さな変化にクッパから苛立ちが消え
ただ喜びの笑みを浮かべ反応を楽しんでいた。
そしてその回避で隙の出来たマリオに向けて炎を吐き出し
軽々とは言えない避け方で回避するとなるべく端の方へ逃げる。
「がはははははっ!!情けないぞ!
どうした?!いつもの力を出さんのか!」
「話にならない…っ」
既に沢山の情報があるため必要はないと思っていたが
アンナと
神菜達がいない為、クッパの事を調べる事が出来ない。
そして何かないかと背後を振り向けば
偶然にもそこにはボムドッカんだけがいた。
「他のやつらは?」
《
神菜のとこだビ~ン!》
「…まあお前だけでもいけるか!」
ピョンピョンと跳ねるボムドッカんを掴み爆弾に切り替わる。
そして前に視線を戻すとクッパが突進してきていた。
「うらっ!」
そしてもう爆発しそうな爆弾を
タイミングよくクッパの方に投げた。
「ぬおっ!?」
その図体の大きさと勢いでは避けきれなかったのか
クッパの目の前に飛んできた瞬間
その爆弾が見事爆発し、爆風がマリオ達を包んだ。
だがその爆風の影にはトゲの甲羅だけが映っており
そこから立ち上がる姿に戻るのが見える。
「いや~…流石クッパ様だね」
風が消えたそこには無傷のクッパが笑って立っていた。
あの甲羅で爆発をガードしたのだろう。
鼻息から炎が舞い、興奮しているようにも見える。
「面白い物を手に入れたようだな…
だがワガハイにはそのようなモノは効かんぞ!」
そしてまた勢いよく、高く飛び上がる。
それを見たマリオが次元ワザで姿を消せば
空中から落下しようとしていたクッパは驚愕の表情を見せた。
「なっ…!?」
誰もいない地面に着地し大きな音だけが響く。
目の前で紙の様に消えたマリオは依然姿を見せない。
「どこへ逃げた!まさか怖気ついて…」
その場から移動し、クッパしかいない空間を見渡す。
「ど~も」
「!?」
するといきなり後ろから声が響いた。
勢いよく振り返るとそこには爆弾を持ったマリオが立っており
ニヤリと笑い爆弾を落とし次元ワザでまた姿を消す。
その爆弾はクッパの足元に落ちており、もう爆発寸前だった。
―ドカアンッ!
そうして二度目の爆発音が響く。
「ぐぬぬっ…!卑怯者め!」
甲羅で庇う事の出来なかった爆発に直撃し、
流石に彼の足元がふらつく。
だがそんな隙もマリオは見逃さない。
またボムドッカんを掴み爆発ギリギリまで待つ。
クッパの元へ爆弾を落としその場から離れる。
確かに卑怯な手かもしれないが、状況が状況なのだ。
本来交渉すべき時間でこんな戦いをしている場合ではない。
これも手っ取り早く終わらせるための手段だった。
「ぐががぁ…」
それを何度か繰り返せば
流石のクッパも衝撃に耐えれる力が削れていく。
そして再びクッパの背後で次元ワザを解くが
その手にボムドッカんは握られておらず。
「これでっ…と!」
「ぬおおっ!?」
そのまま垂れる尻尾の先を両手で握りしめると
力尽きていたクッパの体勢が一気に崩れ、倒れこんでしまう。
力強く踏ん張り自身を軸にし
握りしめたその対象を勢いよく振り回すと
その勢いに乗せてクッパを宙へと投げ飛ばした。
「
ぐわぁぁぁぁああっ!」
その雄叫びと共に彼が出現させた壁へと激突する。
激しい轟音と砂嵐が舞い、
そのままボトンと地面へ落ちていった。
次元ワザでの消費もあり、乱れた呼吸を整えていたマリオも
クッパが落ちたであろう場所へと移動すれば
そこには砦が爆散して落ちてきた時のように
地に伏せている状態でクッパは力尽きていた。
するとその声と同時に隔離していた壁が真っ直ぐに沈んでいく。
そこには
神菜とピーチが立っており、
戦い終えた彼らを見つけると駆け出した。
「マリオっ!」
「大丈夫?」
「あぁ…なんとか」
そしてピーチはマリオに話し掛け、
神菜は伏せたクッパを見下ろした。
するとピーチの声に反応したクッパが
先程の疲れた様子はどこへいったのかと言わんばかりに
素早く立ち上がるとゴホンと咳払いをした。
そして二歩前に進むとキラキラと輝いた瞳を見せる。
「おお、ピーチ姫っ!!我が愛しの妻よ!」
「はっ…!?」
「つっ…妻!?」
「え?」
まさかの言葉に全員が同時に反応するも
ただやはりピーチとマリオが一番驚愕とした様子。
その反応を見たクッパが逞しい胸を更に張った。
「ガッハッハ!そうだぞ。ワガハイ達は結婚したのだからな!」
「なっ…え…!?」
「あ…あんな無理矢理なのは結婚とは言えません…!
…そんな事よりもクッパ、
貴方はどうしてこんな所にいるの?」
多少動揺していたがクッパのペースに流されないよう
ピーチは冷静に彼に問いかけると
上機嫌だったクッパの表情から笑みが消え、険しくなった。
「そんなことワガハイも知らぬわ!
あのノワール伯爵とやらの城でピカーっとなったあと、
黒い城の中で小娘を見かけて…だが
気が付いたら見知らぬ草むらに倒れていたのだ」
「…」
「近くに丁度良さそうな砦があったから
しばらくここに住んでいたという訳だ」
「そうなの…」
話し終えた彼の表情はどこか疲れを帯びている。
意気揚々とマリオに決闘を申し込んでいたものの
そんな彼にも色々大変な事があったのだろう。
しかし現状彼の身にだけ寄り添っている場合ではない。
ピーチが真剣な眼差しで彼の前に出た。
「それよりもクッパ。貴方の力を貸してちょうだい!
一緒に来てほしいの!」
「何?どういう事なのだ?」
何も状況を理解できていないらしいその様子を見て
後ろで見守っていたマリオが口を開いた。
「お前とピーチ姫がやった結婚式とやらで
ラブパワーが混沌に染まって、世界が滅ぶ…だったかな?」
「ええ。【コントンのラブパワー】…そう言っていたわ」
「なんだと!ワガハイ達の結婚で
混沌がラブパワーして世界が滅ぶだと?」
「覚え方が混沌としてるなあ」
小さく呟くも聞こえいたのか
クッパの鋭い瞳が
神菜を睨みつける。
その視線に一瞬狼狽えるも、
苦笑していたピーチが彼女の前に立った。
「そうよ…だから貴方にも
ピュアハート探しを手伝って欲しいの!」
しかし彼女の背後にいるマリオと
神菜を見つめると
腕を組んだまま背を向き、大きく鼻で息をついた。
「フン!お断りだ!!
ピーチ姫だけならともかく、何故マリオと見知らぬ小娘に
手を貸さねばならん!」
「そんなことを言ってる場合じゃないの。
事は一亥を争うわ。お願いよクッパ…」
ピーチの声はどこか哀傷を帯びている。
しかし魔王のプライドが許されないのか、
背を向けたまま動く様子はなかった。
「ワガハイはクッパ!
いずれ世界を支配する恐怖の大魔王なのだ!!
たとえ妻の頼みでもその邪魔をする
にっくきマリオに手を貸すことなどできるものか!!」
「そんな…どうしても駄目なの?」
「駄目なものは駄目だ!」
その声と共にピーチの表情が暗くなる。
ずっと様子を見ていた
神菜だったが
その状況を見かねて彼女の前に乗り出すように顔を出した。
「でもさ、このまま手を貸さないで世界なくなったら
その世界支配~なんてことも
出来なくなっちゃうんじゃないかなーっ…と、思いますが」
相手が大魔王と称する存在という事もあり
なるべく煽らないよう、冷静に説得を試みれば
クッパの体が小さく反応する。
そんな
神菜を見ていたピーチも何か思いついたのか
小さく声を漏らし顔を上げた。
「…それにノワール伯爵に捕らえられている
貴方の部下達もどうなるのかしら?
「ム…!?」
「今では伯爵達に操られて手先となって働いているのよ。
薄情な主をもつと部下も可哀相だわ…」
「むぐが…」
とうとう向けていた背から振り向き、
ひたすら声をかけるピーチと向き合う状態になる。
クッパは反論の言葉が出ずに詰まらせており
そのまま瞼を閉じると深く唸り始めた。
「むぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ
ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ~!」
「……」
「……」
「
うが~~~~~っ!!」
「うわっ!」
悩みに悩んで決断したのか
瞼を開き、組んでいた腕をほどくと大声をあげた。
「し、仕方ない。お前達と一緒に行ってやろう!」
「ありがとうクッパ!」
ピーチが満面の笑みを見せる。
それを見たクッパの表情も釣られるように笑みを浮かべたが
その背後にいる存在に気付き勢いよく顔を横に振る。
キリ、といつもの厳つい表情に戻ると
再び腕を組んで見下ろした。
「たが、勘違いするな!
ワガハイはマリオの仲間になって世界を助ける訳ではない。
ワガハイが支配する世界を守るため、
ワガハイの部下を取り戻す為に
やむを得ずマリオと手を組むのだ」
「素直じゃない魔王様だ…」
「何か言ったか!!」
「ひぃ~怖い怖いっ」
しかしそんな
神菜の声はふざけたような声色で。
そんな光景を見るなりマリオが呆れた様子で笑えば
ピーチも微笑ましい様子で見つめ、安堵の息をつく。
「えぇ、わかってるわ」
№34 vsクッパ
こうして恐怖の大魔王であり、
4人の勇者の一人であるクッパが仲間になった。
■