+タイルタイルツリー+
あのあと、再び現れたパンジーさんやタイル達に邪魔されつつも
土管の中に入ったりスイッチを押したりと
なんとか目指している方向へと進んでいた。
「…おっ」
そうしてこの空間の一番上の場所なのだろう、
見上げたら天井がすぐそばにある場所に辿り着くと
その壁に木目に沿って割れた穴があったのだ。
彼らが入ってきた入口よりも狭いが
クッパがギリギリ通り抜けられるほどのサイズ感だ。
「ここを出たら多分…もっと高い場所になってるはずだ」
「ええ、そうね。気を付けていかないと」
そして安定してマリオを先頭にその穴の中へと潜って行く。
ピーチが続いてその後を追い、
体格的に万が一詰まった時の対処としてクッパを先に潜らせ、
押し出す要員として
神菜が最後尾になる。
「炎で広げるなら
ピーチがちゃんと出たタイミングでやってよ~?」
「誰がこんな狭い場所でそんな危険なマネをするか!」
彼女の言葉は助言なのかただの戯言か。
威嚇されても怯まない
神菜を見て少し不服そうになるも
クッパも急いでその穴の中へと潜って行った。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「…っとああ!?」
「きゃあっ!」
外へ繋がっているのだろう、
光が見えてきた穴の先へと進んでいると
突如先頭を歩くマリオとその後ろにいたピーチの悲鳴が響く。
「ピーチ姫!?」
「マリオ…っ!」
その目の前で起きている異変に反応し
眩しい光に瞼を薄めながら
神菜とクッパも
急いで穴から抜け出そうともがく。
奥に行くにつれ勢いの付いた風が二人を襲い
ふさがる視界を何とかこじ開けながら光の先へと進んだ。
「わあ~!ラッキーな二人が釣れたねえ~」
その風が落ち着いたタイミングで
響く声に反応するように瞼を開けば
目の前には名前を呼んだ二人ではない人物がそこに立っていた。
「…」
「んっふっふ!やっときたね。
なぁかなか来ないから帰っちゃおうかと思ったよ」
そこには赤い髪の少女が佇んでいたのだ。
背後には黄色と紫のピエロが浮遊しており
姿を見せた
神菜達を見つけるなり嬉しそうに手を振った。
赤髪の少女は彼の様に
笑みを浮かべる事もなければ無表情でもない。
力強い眼差しで目の前の
神菜達を見つめているが
当の本人はその後ろのピエロに気付くなり
感情を込めた瞳で睨みつけていた。
「あッ!!」
「ボンジュ~ルシャノワ~ルちゃん♪
僕の事覚えているかなあ?」
「覚えてるさ!あの時のいけ好かないピエロ!!」
「相変わらず粗暴なコだねえ~こわいこわい!」
「こ、こいつ…!」
明らかにその態度は彼女をからかっているもので、
流石の
神菜もその挙動に全身が熱くなる。
そしてそんな彼女の背後で置いてけぼりだったクッパが
ハッと我に返ると赤髪の少女とピエロの居る方を睨んだ。
「な、なんだお前は!?」
「んっふっふ~ボンジュゥ~ルトゲトゲくぅん♪
僕はノワール伯爵の部下…
華麗なる魅惑の道化師、ディメーン!」
「ディメーン…だと?」
どうやらクッパは初対面のようで、
ディメーンと名乗った目の前のピエロの反応も
神菜の時のように馴れ馴れしい雰囲気は出していなかった。
しかしその名前を聞いてすぐにクッパの視線が外れる。
焦ったように周囲を見渡し、何かを見つけたのか
あんぐりと口を開けながら頭上を見上げていた。
「ピーチ姫ッ!!」
「
神菜!クッパ!」
そこに枝にまとめて吊るされたマリオとピーチがいたのだ。
まるで罠にかかった動物の様に網の中に閉じ込められており
お互いに身動きが取れないのか、
抵抗して揺れているだけだった。
気付いた
神菜も吊られる二人とその網を見る。
編まれた糸が密集して一本の縄のようになり
それが地上へと流れ、ある人へと繋がっていたのだ。
「この糸は鋼でできているの。
だからあまり下手に動かない方が良い…
傷付きたくないならね」
「なんだとっ!?」
「面白いよね~
マオの糸。
しなやかなのに丈夫なんだよ」
マオと呼ばれた赤髪の少女がその束ねた糸を動かせば
頭上に釣られる網の塊がより吊り上げられ、
更にキリキリと音を立てながら縮小しようとする。
その言葉と動きでマリオの抵抗もピタリと止まった。
現状人質となっているのは彼だけではなくピーチもいるのもあり
無暗に動けない事を悟ると深くため息をついた。
「君達と面と向かって会うことが出来て
サイコーにハッピーだよ。
だから君達には更にサイコーのおもてなしをしなくちゃね」
地上には
マオとディメーン、そして
神菜とクッパ。
お互いの戦力はどうであれ、数的には対等になっている。
そしてディメーンが右腕を上げると
その腕をくるくると回しながら親指と中指の先を密着させる。
勢いを乗せたまま前方へ振り、それと同時に指を鳴らせば
周囲の風景がガラガラと変化をし始めた。
「イッツ・ア・ディメーンワールド!」
「なっ…なに!?」
青々しい葉っぱの風景から無機質な緑の風景。
本来緑というものはリラックス効果を得られる色のはずが
そんなものを一切感じさせない不安を煽るような不気味な緑。
その色彩に合わせたような複雑な模様が蠢く壁も現れ
自然とは一切無縁の不可思議な空間へと切り替わったのだ。
「んっふっふ!ここは僕が造った【ディメーン空間】。
この空間に入った者はいつもの256倍のパワーを
発揮する事ができるのさぁ~」
枝に吊り下げられていたはずのマリオとピーチだったが
その枝の姿が消えてなお今でも宙に浮いている。
それでも繋がって垂れ下がる糸を見る限り
今現在でも吊られている状態には変わりないのだろう。
困惑したまま
神菜は周囲を見渡し、ふと
マオの方を見る。
彼女自身も初めて見る光景なのか少々驚いた様子だったが、
神菜の視線に気付くと再び鋭い目線に切り替わった。
「アンタさ…なんか会った事ない?」
「…え?」
「つい最近ね。
アンタとそのディメーンと話してる夢を見たんだ」
「だから…何?」
神菜に対して警戒しているのか。
必要以上の口出しはせず懐に手を入れると
神菜も構える。
「絶対さ…私に何かしたよね」
「…」
「なんか記憶も力もなーんにもなくなっててさ…。
きっと関係があるはずなんだけど」
「それ、は」
お互いの性格上、
神菜の方が優位に立ちやすいのだろう。
力強い声で、しかし冷静に
マオに問いかければ
僅かながらに
マオの反応が鈍くなる。
勿論それを逃すわけもなく、追求をしようとした時だった。
「ッ!!オイ!卑怯なマネをするな!」
クッパの声で二人が我に返る。
振り向いて彼の視線の先を追った先はやはり頭上だった。
しかしそこには罠にかかった二人と網ではなく
透明の無機質な箱が二人を閉じ込められていたのだ。
その空間で何やらマリオが叫んでいるが
酷くこもっていて殆ど聞き取れない状態だ。
「いやぁ~無駄話多いって~
めんどくさいからもう木っ端微塵にしちゃおっかな~って」
「ダッ!?ダメダメダメ!!ダメに決まってるでしょ!?」
「んっふっふ~♪じゃあお話はこれでおしまいね!」
緊迫とする勇者側とは反対に
相変わらずの楽し気な様子で片腕を揺らしていた。
きっとその先の手で人質に更に仕掛けを仕組んだのだろう。
「準備はいいかい?
マオ」
「…うん」
構える
神菜とクッパを見てそう囁けばこくりと頷く。
その応えを合図に
マオの背後へと移動すると
揺らしていたその腕を更に高く振り上げた。
「それじゃあいくよぉ~~!!
イッツァ・シ~ョタ~イム!!」
そのディメーンの声が開始の合図となり、
あげていた片腕の人差し指を立てくるくると回す。
その動作を見ていた
神菜は嫌な予感を察知したのか
トるナゲールを引き寄せると彼に向かって力を放った。
「おっと~!」
しかしその機動力は遥かに高く、軽々と回避されると
継続していた彼の溜めた魔法が
神菜達に放たれた。
彼女も転がる様にその連続で飛来する魔法を避けると
近くにいるだろうクッパの方向へと視線を向ける。
悔しそうに歯を食いしばりながら足を動かし
ディメーン達と頭上の人質を見ているが
神菜の視線に気付くとそちらへ目線を合わせた。
「クッパ!あの糸、炎でなんとかならないの…っ!?」
「鋼と言っていたな!?溶かすことは可能だが…ッヌワッ!?」
「っ!!」
彼女の言葉に応えていたクッパが突如体勢を崩し
真正面から倒れるように地に伏せる状態になってしまった。
重量のある音と突然の挙動に
神菜は勢いよく後ずさる。
そのクッパの背後へと視線を移せば
先程
マオの傍にいたはずのディメーンが既に移動しており
まさに例の魔法を放とうと構えている状態だった。
「はっやいって…!」
《
神菜~~っ!!》
「なに!?ってわああ!」
トるナゲールの慌てる声に振り向けば
そこからはディメーンの魔法とは違う鋭いモノが放たれていた。
呼ばれた声もありなんとか避けきるも
時折キラリと輝くそれは糸ようにしなり
地面にぶつかる音は鞭のように跡が残る程激しい。
—バシンッ
「ヒイ…!」
なんと
マオは人質を糸で監視しつつ、
それを自身に繋げながら別の糸で攻撃を繰り出していたのだ。
避ければ消える魔法とは違い、物理武器での衝撃は
衝突した場合の答えを目の当たりにしてしまうというのもあり
焼け焦げた地面を見て思わず顔が引きつってしまう。
アンナが居れば対処法を考えられただろう。
クッパは自身の甲羅を盾として扱っているのか
伏せた状態のまま戦況を把握しようとしている。
《クッパと離れた方がいいかもどえーす!》
「なんでッ…?」
《い・い・か・らあ~!》
グイグイと彼女の袖を引っ張ろうとするトるナゲールに合わせ
糸と魔法の間をかいくぐり、クッパと距離を取る。
無我夢中でその間を通っていっただけだったのだが
偶然にもディメーンの方へ接近する形となり
立ち上がって見上げた横には彼の姿がすぐ傍にあった。
「ッディメーン!!」
雄叫びを上げながらディメーンの姿を捕えようとするも
やはり彼は余裕の笑みを浮かべたままで。
彼女の手が掠りそうになった距離で
ディメーンは魔法によって姿を隠してしまった。
空振りとなった手と共に勢いを乗せた体が転がる。
しかしそれも慣れたもので、
なんとか受け身を取ると呼吸と体勢を整えた。
「…ッ!今度はなにさ!?」
すると彼女が顔を上げたタイミングで
激しい音と共に向かい風が彼女を襲う。
そこにはクッパのトゲの生えた甲羅が高速で回転しており
それを認識した直後、まるで放たれた独楽のように
勢いよく
マオの方へと滑りだしていた。
「っ…!」
地上にいる全員を見渡せる位置に立っていたという事もあり
マオはその激しい甲羅を目で追いながら回避する。
しかしノコノコとは違う特大サイズかつ
トゲというオプションも付いているその甲羅はとても驚異的で
回避する彼女の表情に余裕の感情はかき消されていた。
そして一定範囲を駆け回ったのち回転が収まると
甲羅に隠れていた四肢と頭部が現れ、
マオの前に立ち塞がる。
その荒く呼吸する口からは
ボワリと明るいものが溢れるように覗かせていた。
「やっぱり、あの時の魔王…!」
「貴様、あの城にいた小娘だな!?」
「貴方…よく生きていられたね」
「ワガハイを誰だと思っている!!
この大魔王クッパを知らぬ愚か者めッ!!」
漏れる光は徐々に増えていき、咆哮を上げるように顔を動かせば
その勢いのまま口から大量の炎が噴き出された。
勿論、その矛先は
マオだ。
しかし彼女は驚きのあまりか体を動かせず、
ただじっと身構えたまま目を見開いていた。
「っ!!」
炎に飲み込まれようとした直後。
引っ張られる感覚で我に返り、
気付いた時には地面に転がっていた。
心臓がドクドクと鼓動する。
感じた事のない鼓動、鳥肌、全身の震え。
眼前の恐怖というよりも
別の何かに体が何かに反応しているソレに
片腕を強く握りしめ、震えを止めようとする。
浅くなった呼吸を整えながら周囲を見渡せば
その目の前にはディメーンの姿が映った。
「増えるって聞いてないんだけど!?」
そこには一人ではなく、二人のディメーン。
ただでさえ俊敏性も高く放つ魔法も複雑なのに
それが気付けば2倍の状態だ。
「「さあさあ、僕の分身攻撃を見切ることが出来るかなあ?」」
二人のディメーンが
神菜とクッパを追い詰める中
そんな見た事のない彼の姿に呆然としながらも立ち上がる。
彼が腕を引いてくれたのだろうか。
炎の熱は若干感じたものの、大きなダメージはない。
「はあっ!」
そして彼女も応戦するようにそのまま糸を放つ。
標的はクッパではなく逃げ惑う
神菜で
片足に糸を絡ませて移動の自由を奪った。
神菜自身もディメーン以外の存在を忘れかけていたのだろう。
その糸で悟れば目で追って
マオを視界にとらえる。
「うわッ…!?ちょ、ちょっと!」
それとほぼ同時だろう。
魔法で身動きの取れない
神菜とクッパの周囲に
彼らで丁度収まる程の大きさの透明の箱が現れたのだ。
それは人質状態であるマリオとピーチを囲んでるものと同じで。
《知ってル?知ってルンルン?
コレってまさに!?絶体絶命~~スリリングル~っ!!》
「言ってる場合かあーっ!!」
《んん~~~
神菜!!キえマースを使うどえーす!》
「エ!?」
足を縛られ箱に閉じ込められてと四面楚歌の状態だ。
何もできずパニック状態の彼女だったが
先程のトるナゲールの助言の事も思い出すと、
そのまま言葉に従ってキえマースの力を発動させた。
—ドカン!ドカンっ!
その直後に真横で破裂する耳鳴りが起きそうな爆発音に耐える。
動かないよう瞼を閉じていたが爆発の衝撃は襲ってこない。
「どこに行ったの…!?」
遠くで
マオの困惑する声がした。
そして
神菜を囲っていた魔法の箱が消え、
足を縛っていた糸もほどけたのか
彼女の元へ戻っていくのが見える。
キえマースの力はペラペラにするものだ。
サンデールの館で発動した時の様に、
一時的に姿を消して全てをすり抜けさせたのだろう。
「「へえ…君のお友達は不思議な力を持っているようだねえ」」
「フン!ワガハイを前によそ見をするとはいい度胸だ!」
あの爆発を耐えたのだろうか。
少々傷付いた体だったが、誇らしげに笑えば思い切り吸い込み
先程よりも大きな炎を周囲にまき散らした。
今度は一直線ではなく、地上にいる全てへと広がる炎に
二人のディメーンは安定して姿を消し
マオは転がる様に避ける。
神菜はキえマースの力を発動させたまま
少しずつ移動し、静かに戦場の様子を伺っていた。
「どうしたらいいんだってコレ…」
《あのコの糸に捕まったらまたはめられちゃうビン…
トゲトゲくんに任せちゃうビン?》
《多分あの二人の方が素早いから先に疲れちゃうどえーす》
「ディメーンを先に仕留めるか…あの子を仕留めるか…」
彼女の小声に合わせて流石にフェアリンたちも空気を読んだのか
こそこそと
神菜に密着するように言葉を交わす。
《ヨォヨォブラザーッ!忘れてないかい?
オレの存在!セクシー本能!》
「しっ、しぃー!」
《キミの脚力!ハイパーパワフル!踊るピエロに舞うガール!
追いつけるのはキミだケラッチョ!》
現状この空間は色んな音で騒音状態だ。
そしてヘびードンも彼女と共にペラペラ状態ではあるものの
響くその声を抑えさせようと
神菜は慌てる。
しかしその言葉を聞いたトるナゲールは
フェアリンの共鳴は一切見せようとせず目線を動かしていた。
《
神菜~!いい事思いついたどえーす!》
「な、なに?」
……………………
「これっ…狙われてる…!」
炎を吐き散らすクッパの標的は完全に
マオに定まっていた。
本人が忌み嫌う"赤色"の要素が
彼女に含まれているのもあるだろう。
ただ一番の目的はそんな彼女の戦闘スタイルだった。
まるでカクカク平原でマリオと戦った時の様に
姿を消し攻撃を繰り返すディメーンを標的から除外し
常に姿が見える
マオに集中している所だったのだ。
そしてクッパは
マオの動きをちゃんと見ていた。
初めて炎を吐いた時、
彼女がわかりやすく動揺の反応をしていたのだ。
「貴様、逃げてばかりでつまらんぞ!」
炎の耐性があるのか、自身から排出された炎だからか、
舞い上がる炎の中をくぐりぬけ避ける
マオに接近する。
「っ!」
伸ばした腕が彼女の胸倉へ近付こうとするも
膝を曲げて上体を反らし、なんとかその腕から逃れる。
低くなった体勢から数本の糸を絡ませクッパに放てば
くるりと体を回転させながら彼の周囲を回る形に走り出した。
一本では炎の熱で溶かされてしまうだろう
鋼の糸を束ねている状態だ。
丈夫になったその縄はクッパの胴体に綺麗に巻き付き
まるでリードで繋がれているような光景にも見えるだろう。
早い動きを目で追い体の向きを変え続けるクッパを差し置き
彼女は何度か周囲を駆け回ったのち一定の場所に留まると
その走っていた勢いのまま腕を振りかざそうとした。
「んんッ…りゃあッ!!」
「ウオッ!?」
今までの様に軽々と持ち上げる事はさすがに不可能だった。
しかし火事場の馬鹿力というのだろう残していた勢いを出せば
クッパの体勢が崩れ、軽く足を浮かす。
そしてその彼女の振りかざした腕の流れと共に
彼の体は低く浮いたまま放り投げられ、
空間の端へと投げ飛ばされた。
—ドシンッ
跳ねるように転がるクッパを見つめながら
荒くなった呼吸を整える。
小柄な少女が巨大な亀を生身のままで放り投げたのだ。
ディメーンは勿論、姿を消していた
神菜も硬直していた。
「「んっふっふ~♪いいねえ
マオ!サイコーだよ!」」
「ハア…ハア……っ」
喜ぶディメーンを見てから、
神菜は蒼白のまま地に伏せるクッパへ振り向く。
「行くっきゃ…ないっ!」
そしてそう決心すると
マオとディメーンの元へと走り出した。
キえマースの力は解いていないが
影が見えたのか何かしら気配を感じ取ったのだろう、
ディメーンが
神菜の動きを捉えると魔法を放ち始めた。
「「おやおやあ~?
シャノワ~ルちゃんはかくれんぼが好きだねえ」」
見えるという事は、動いている間は
力を発動していても意味がないのだろう。
ただ止まってしまえば攻撃は全てすり抜ける。
彼女はその姿のまま走り続け、彼らの背後まで辿り着いた。
「っとお!」
「こっちにッ…!…て、あ…あれ?」
しかしその場へ転がり込むように倒れると
神菜は未だに力を解いていないのか
姿を見せる事なかった。
勿論、その声が聞こえた方へ振り向くもそこには何も現れない。
慌てる
マオに反して
二人のディメーンは相変わらず冷静だ。
「ど、どこに…!」
「「ん~ん、彼女はココにいるよお。
不思議な力使ってまだ隠れてるみたいだ」」
未だに伏せるクッパの姿を確認すると、彼に背を向ける。
そして
神菜が隠れているだろう空間に視線を向けると
にこりと笑いながら二人のディメーンは片腕を上げた。
「「ズルいコには罰をあげなくちゃねぇ…5~4~…」」
その腕の先にはこちらを見つめているマリオとピーチ。
彼の言う"罰"というのは、あの動作と魔法の箱を見る限り
神菜が何とか回避した爆発の事だろう。
じっと地に伏せてその場に留まる
神菜の目線が泳ぎ始める。
そして何かを願うように力強く瞼を閉じた時だった。
—
ドカアアアン!「わあッ!?」
「「っ!?」」
彼らの背後から激しい熱風と衝撃が襲ったのだ。
背を向け油断をしていたという事もあり、
二人の体勢は一気に崩れる。
ディメーンが勢いよく振り向けば黒い煙が舞い上がっており
そこにはボロボロながらも
笑みを浮かべるクッパが立っていたのだ。
彼の傍らには爆弾の様な妖精、ボムドッカんが浮遊している。
「「っへえ…!」」
その組み合わせで先程の爆風の威力を察したディメーンも
思わず笑みを浮かべながら再びクッパに向き合う。
「ケホッ…!?ああッ!」
「よそ見厳禁ッ!!」
間髪入れずに連続して
マオの小さな悲鳴が聞こえる。
体をクッパに向けたままそちらへ振り向けば
姿を見せた
神菜が
マオを持ち上げている状態だった。
両手で背中部分を掴み、
軽々と持ち上げられた彼女は身構えられず
全身で空を仰ぐような姿のまま抵抗している。
「「
マオ!!」」
「飛んでいけェーーーッ!!」
初めて見せるディメーンの様子に
神菜は気付きながらも
掲げる
マオを勢いよく
彼の方へぶつけるように投げ飛ばした。
二人いるうちの片方、本物の方へと。
「うぅっ!!」
空中で衝突するも、
ディメーンはそのまま
マオをなんとか受け止める。
しかし
神菜の狙い通りに本物にダメージが入った事で
もう片方の偽物のディメーンはジワリと姿が消えてしまった。
だがそんなことを気に留める事なく
彼は
マオの安否を確認しようと視線を定めようとした。
「…ッ!!」
顔を上げた瞬間、そこにはいつの間にか移動していたのか
低くなった彼らの位置より高くジャンプする
神菜の姿があり
その彼女の傍らにはヘびードンが共に浮遊している。
そんな彼女の影に隠れて見上げるディメーンの視線の先には
先程まで彼が見せていたような余裕を含めた笑みがあった。
「ふんっ!!」
「ぐうッ!!」
ヘびードンの力を使い落下速度を速めると
マリオがよくする蹴り技を思い出しながら
ほぼ見様見真似で二人まとめて狙いを定め、
蹴り技を繰り出した。
完全に隙を見せてしまったディメーンは
マオを庇うように抱えると
そのまま彼女の蹴りを見事に受け、地面へと叩き落される。
神菜は蹴り落すタイミングで
その二人を踏み台の如く踏ん張り
もう一度高く飛ぶとクッパの目の前辺りで何とか着地をした。
「や、やったか!?」
ボムドッカんと様子を見守っていたクッパがそう声を上げれば
上空にいた
神菜もなんとか着地し、
ディメーン達の落下地点だろう場所へと移動する。
重みが足されたその蹴りによって起こった砂煙が消え、
彼女が振り向けばそこには倒れる二人の姿が徐々に現れ始めた。
「ディっ…ディメーンっ!!」
「結構…やるじゃな~い…」
先に体を起こしたのは
マオの方だった。
そして彼女を庇って衝撃を全て受け止めたのだろうディメーンは
地に伏せたまま立ち上がれず、顔だけ挙げている状態で。
マオはその状態のまま
見下ろす者達に抗おうと片腕を振り上げるも
接近していたクッパによって掴まれ、軽く持ち上げられる。
掴む手の強さと力尽きている体の重みで全身に痛覚が走り
苦しい表情を見せながらクッパを睨みつけた。
「でも、どうして…?このディメ~ン空間の中では
パワーが256倍にアップするはずなのに…」
「がっはっは!馬鹿め~!
お前が256倍なら、同じ空間にいる我輩達も256倍だ!」
「
…あ」
胸を張りながら高笑えば
ディメーンは小さく声を漏らし黙り込む。
神菜もその二人と吊られる
マオと見張っていたが
ディメーンが突如笑い出し、ゆっくり立ち上がると
すかさず腕を持ち上げパチンと指を鳴らした。
「うおっ!?」
「あっ!!」
その音と共にクッパの手が勝手に開かれ、
マオの体がふわりと浮く。
しかし彼女は地面に落ちる事なく
ディメーンと共に姿を消してしまった。
目の前で起きたその現象に
神菜とクッパは慌てた様子で見渡すも
魔法の音が小さく響き、二人そろってそちらへと視線を向ける。
「ふっふっふ…もちろんそんなことは最初からわかっていたさ。
これは僕なりのおもてなしなのさ。
気に入ってくれたかぁい?」
「しっ…つこすぎて鬱陶しいぐらいだっての!」
そこにはボロボロな姿だが
いつもの掴みどころのない表情に戻っており
浮遊したままその片腕で
マオを抱きかかえたディメーンがいた。
そして悔しそうに、しかしどこか嬉しそうにため息をつく。
「今回はまだほんのオードブル。
次はもっと素敵なひと時を君達と約束しよう」
すると空いている片腕をあげをくるくると動かし始める。
それはこのディメ~ン空間を作り出した時と同じ動作で、
親指と中指をかけると前方に振りかざしながら音を鳴らした。
「うおっ…!」
視覚を混乱とさせる緑の空間が崩れ、生い茂る緑が現れ始める。
同時にマリオとピーチを閉じ込めていた
魔法の箱が徐々に消えていき
マオが編んでいた鋼線の網も解けていたらしく
シャラシャラと落ちる糸と共に
二人もそのまま地面へと着地する。
そんな崩れる背景と共に
いつの間にか止んでいた風が再び吹き込む。
彼らが最初に対峙したあの大樹の上へと戻ってきたのだ。
ディメ~ン空間での効果の意味の無さに気付いたのか、
消耗した体力の限界でディメーン側が諦めたのか。
どちらにせよ人質を解放し罠も解除したという事は
この戦いで白旗を上げたと認識して良いだろう。
「そんな怖い顔しないでよ~」
「お前の事だ。身構えるのは当然だろ!」
「んっふっふ…安心しなよ。今日はおしまいさ」
ただ万が一の事も考えてマリオとピーチを含めた四人は
浮遊しながら彼ら見下ろすディメーンに対して身構えていたが
当の本人はその光景にただ笑みを浮かべていた。
「それではシャノワ~ルちゃん達!ボン・ボャ~ジュ!」
しかしその構えに応える事はなく、
そのまま頭を垂れて丁寧にお辞儀をすると
抱きかかえる
マオと共に
移動魔法で姿を消してしまった。
「……」
「……」
「…はぁ~…」
激しい戦いが終わった後のせいか
周りの葉が擦れる音がとても静かに感じる。
力が抜けた
神菜はその場に座り込んだ。
そんな各々がひと段落とした静寂を破ったのは
ディメーンの魔法で弾かれた手を握り拳にし
憤慨するクッパだった。
荒い鼻息からは炎が漏れ、歯も食いしばっている。
「ディメーン…なんともふざけた奴だ!
我が妻を人質にしたうえにちょこまかと…!」
「悪い…ちゃんと確認していればあんな罠になんて…」
「本当だ!ピーチ姫に何かあったら
どうするつもりだったのだ!」
「ほら!私はもう大丈夫よ!
確かに乱暴だったけど、それ以上の事はされてないから!」
ヒートアップするクッパを宥めるようにピーチが声をかければ
やはり効果抜群で彼の表所がゆっくりと表情が落ち着いてくる。
それを座って見上げていた
神菜は
自身の持っていたリュックを降ろし中身を漁り始めると
蓄えていたキノコ缶をクッパの元へと投げた。
「ムっ…!?」
「ま~仕留め損ねたのは悔しいけど…
結果よければすべてよしって事でさ!一旦休憩!」
ひたすらに動き回っていた
神菜の姿も少し傷付いていたが
快活な笑顔を見せると手に持っていたキノコ缶の蓋を取り
スーパーキノコよりも小さい
手のひらサイズのキノコを取り出す。
それを見ていたクッパも一度渡されたキノコ缶を見下ろし
目の前のピーチが微笑みながら頷く姿を見て
神菜と同じようにキノコ缶の蓋を開けた。
№39 vsディメーン&マオ
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