+カメレゴン城+
「あっ!そういやさっき
パスワードみたいなの見つけたんだよ!」
「おお!それは本当か!」
「うん!確かね…」
あれからなんとか地下空間から脱出し、再び探索していた。
と言っても戻ってきた場所が
この城のエントランスホールだった為
ある意味ふりだしに戻ったという方が正解だろう。
しかし今では手がかりのない手ぶら状態ではない。
相変わらずあの例の猫の壁からは
カメレゴンの笑い声とフラッシュが瞬いていた。
「飽きないものだな…」
「ん~~な事よりも早くアンナを助けないと!」
もう彼女の中ではピュアハートの発見より
アンナの救出の気持ちが大きかった。
収穫したヒントを活用できる場所へと急ぎ
ドカニャンなどの妨害を何とか乗り越え辿り着く。
「2つあるから二手に分かれるか」
「そうだね!ノッテもこっち!」
《早速ミーのお呼ばれだ!》
そう言うとマリオは橋のあった左側の扉に近付き
神菜がその反対の右側の扉に近付く。
ノッテこーがノリノリな様子で
神菜の元へ近付けば
似た者同士のへびードンも自然とついてく。
するとピーチの傍にいたボムドッカんが残った二人に振り向く。
《ピーチとトゲトゲくんはどうするビン?》
「そうね…じゃあ今回はマリオに付いていこうかしら」
マリオか
神菜のどちらかがピーチ姫であれば
問答無用でクッパが彼女の方へ行っただろう。
しかしその選択ができない状態を見て
少し迷ったのちにマリオの元へと移動した。
残ったクッパもどこか渋々な様子で
神菜の方に近付けば
同時に扉を開け、その先へと進んだ。
………………
「ここはさっき通れなかった所だが…」
「大丈夫大丈夫!そのためのノッテだから!」
そうクッパに話すとそのままノッテこーの力を使う。
ノッテこーが乗り物の形になるとひょいっとその上に乗る。
「こ、これに乗るのか」
「二人乗りらしいから平気平気!!」
クッパの体はメンバー内でも一番大柄。
その為か小さな乗り物に乗る事を戸惑っていたのだ。
しかし何かを察したのか、
ノッテこーは
神菜を乗せたまま
自身の体を少しだけ拡大させた。
「うわっ!すご…!」
「本当に大丈夫なのか?」
《ミーの耐久を侮っちゃいけない!
さあさあ!乗っちゃえプリーズ!》
未だに半信半疑なのだろう、
ゆっくりとノッテこーに足をかけると
神菜の背負う膨らんだリュックに少し掴むように乗る。
しかし激しく揺れる事もスピードも落ちる事なく
安定した状態のままスムーズにトゲの上を渡る。
そしてトゲの先にあった足場へと到着すると
神菜から先にノッテこーから降りた。
「ね?」
「う、うむ!コレはなかなかの傑作だ…!」
そのクッパの眼差しには不安の言葉が無くなり
とても輝いているように見えた。
……………
進んで辿り着いた空間は見覚えのある内装。
そして奥には赤縁の眼鏡をかけた
ガードニャンが佇んでいたのだ。
「…デハ、サイゴニ パスワードヲ 入力 シテクダサイ」
「これがさっき言っていたパスワードとやらか?」
「そうそう!で、右側の扉に入ってきたから…」
しかしこれとは別の部屋で解除の試練は経験済みだ。
カメレゴンの気持ちを考えてガードニャンの質問に答え、
提示されたパスワード入力も頭に刻んだ数字を入力する。
「…3っと!どうだ!」
まるでキーボードのエンターでキメるように最後の数字を押す。
すると先程のガードニャンの反応とは違い、
神菜の瞳に目を合わせるなり凛々しい表情が甘く崩れた。
「オカエリナサイマセ ゴシュジンサマ♡
ガードニャンハ イツモ シアワセデス♡」
「ヒエ~…」
それこそまさにまるで猫なで声というべきだろう。
甘い声を出せば何かが作動したのか
突如部屋を囲う壁紙がまるで液晶画面のように暗転し、
その中心に可愛らしい顔がドット絵が浮かんだ。
「ぬおっ!?」
そこに映った顔がニャアと一度鳴く。
そして元の壁紙の状態に戻ると、
ちょうど
神菜とクッパの立っていた所に一つの扉が現れた。
「一体どういう設計をしたらこうなるんだ…この城は…」
「でも指紋とか厳重なガードじゃなかっただけマシだって!
「うむ…」
そして扉に触れればスライド式だったようで、
壁に収まるように横へと自動的に開いた先には
部屋とは言えない程のかなり小さな空間。
それは部屋というよりも見覚えのある別のものだった。
「エレベーターだ!ハイテクな城だなあ~」
「む…」
神菜が先に乗るとクッパも何故か悔しそうな様子で乗る。
その内部には中をボタンも操作するものがなにもない。
しかし彼らがエレベーターに乗った事を確認したのか
再び自動的に扉が閉まり、上へと浮上し始めた。
「…おおおお!」
すると窓から景色が見えてくる。
その景色は見慣れた真っ青な空にピクセル調の白い雲。
見上げていた城を見下ろす形になっており
よく眺めてみれば先程の大樹らしき影も薄らと確認できた。
神菜が目を光らせながら木々や空を眺めていると
そんな空の方に似合わない次元のあなが黒く開いていた。
「…」
クッパがそれを静かに見つめる。
ノワールによって行われた結婚式で、
クッパとピーチの誓いで開いた世界を飲み込むあな。
どういう感情でそれを眺めているかは定かではないが
まるで睨みつけるようにそのあなを見つめていた。
…………………
しばらくしてエレベーターのベルの音が鳴る。
到着した合図だろう、再び扉が自動的に開いた。
「お、おお…」
「む?これは確か…あの大樹の中に住んでいた…」
壁中には可愛らしいキャラクターのポスターが張られており
棚にはゲーム機器やソフト、ディスクなどのコレクション、
その一番下にはパソコンやテレビなどの
機材が詰め込まれていたのだ。
クッパはそのポスターの一つに注目していたものの
絵にかいたような"オタクの部屋"に
神菜はただ呆然と見渡していた。
「他に部屋は…ないよね」
「ならばこの辺りを探せばよいだろう!」
そうしてやっと部屋の中に足を踏み入れようとした時、
彼らの目の前に白いなにかが現れる。
それはクッパよりも大きなメイドニャンの巨大版、
デカニャンだった。
しかしドカニャンのような戦闘機ではいのか
神菜が目の前に立ちはだかっても無反応で、
ただ機械的に部屋の掃除を進めていたのだ。
「…あの上~見たいよなあ」
その視線の先。
棚の上ではあるが明らかに手が届くような位置にない場所で
クッパがジャンプしても届くのかも怪しいほどだ。
そんなクッパはデカニャンを普通に避けると
整頓されているようで乱雑に積まれた棚をひたすらに漁りだす。
《こういう時は思い切ってみるどえーす!》
「だよねえ…!」
しかし
神菜はその棚の高さと
徘徊するデカニャンを見て思いついたのか
軽く助走をつけ地面を蹴り、思い切りジャンプする。
デカニャンの頭へと一度着地をすれば
その勢いのまま踏み込み、
棚の一番上の部分へと乗り移った。
《
神菜の動きもどんどん良くなってるどえーす!》
「そう?」
動きに慣れてない頃から共に旅をするトるナゲールが
そんな軽快なアクロバティックさばきを見て
ぴょんぴょんと喜ぶ。
彼女もどこか照れ臭そうに笑みを浮かべると
着地した付近の探索を開始した。
下にいた時は棚の影に隠れて見えていなかったが
そこにはまた違う機械のコレクションが密集していて。
「うわ~…」
いくつか並ぶコレクションの中から
青い正方形の機械と黒い平たい箱型の機械を見つめる。
これも失った記憶が僅かに作用しているのか、
"なぜか"と問われれば明確に答えられないが
どこか懐かしいような感覚で眺めていれば
その間に挟まる小さな箱を見つけ、思わず手に取る。
「
神菜!何か見つけたのか!」
すると下にいない事に気付いたクッパが見上げており
彼の声と共に蓋を開けていた彼女はそのまま棚から飛び降りる。
その表情は自信に満ちた笑みで、その箱の中身を取り出した。
「…おお!鍵ではないか!」
「ビンゴ!やっぱ大切なものは自室に隠すもんだよね~」
「鍵は一つだけだったのか?」
「うん。でもあのセキュリティの部屋って
確かもう一つあったし、そっちに行ってる
マリオとピーチが何か見つけてくれてるかも!」
「なるほど…そうと決まればさっさとこの部屋から出るぞ!」
クッパの探索範囲では何も見つからなかったのだろう、
神菜の収穫物と別れた二人の事を思い出せば
足早にその部屋から脱出する事にした。
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「あ!マリオ!ピーチ!」
彼らが別れた例の揺れる扉のあった廊下へと戻れば
丁度戻ってきていたマリオとピーチと再会する。
しかしマリオの方はどこか疲れたような表情で
その様子をピーチが宥めるような
笑みを浮かべて隣に寄り添っていた。
「そっちで鍵見つけた?」
「ん?ああ…ちゃんとあったぞ」
その言葉と共に手にした鍵を
神菜とクッパの方へと見せる。
それはまさしく
神菜が先程入手した鍵と同じものだった。
「ていうかどうしたの?なんか変なのでも見た?」
「変っていうか…改めて再認識したというか」
「?」
「まあまあ!さあ!
鍵は揃ったんだし!早く助けに行きましょう!」
謎に声を張るピーチとそれを心配そうに見つめるマリオ。
神菜とクッパは首を傾げつつも
揃った鍵を手に再びアンナを閉じ込める
カメレゴンの場所へと向かった。
…………………
猫の壁の前にマリオが立ち、彼が入手した鍵を差し込む。
[カギ OKニャン]
ちゃんと型が合っていたらしく、そのままカチャリと回せば
鍵穴の上の赤色の装飾が緑に変わり
壁に描かれていた猫が喋り出す。
まさか機械とは思っていなかった一同は
思わず反応し見上げたが、マリオはそのまま
神菜から受け取ったもう一つの鍵を差し込んだ。
[カギ OKニャン]
そしてもう一つの装飾、つまりランプが緑に光れば
猫の表情が緩み、頬の色が少し赤くなった。
[
ニャ~~~~ン! カギ 2ツトモ OKニャ~~~~~ン!]
機械的な声からまるで
アニメの萌えキャラのような甘い声を発するも
目の前のマリオの姿を見るなり目つきが変わる。
[…デモ チョットマツニャン。
オマエ ヨク見タラ ゴシュジンサマデ ナイニャン!]
「…」
[コノ部屋ハ カメレゴンサマト
カワイイ オンナノコシカ ハイレナイニャン]
「つまり…?」
[ミニクイオッサンハ ハイジョスルニャン!]
その言葉と共に嫌な予感を察したマリオが猫の顔から離れるが
機械の反応の方が素早く、突如両目から図太い光線が放たれる。
「うおぁ!?」
「ちょっ!?飛び火っ!飛び火!!」
まさかの排除のやり方にかさすがのマリオも慌てた様子。
勿論傍にいた
神菜達も仲良く巻き込まれており
なんとかその光線を避けてその場から離れると、
死角であろう廊下に並べられていた柱の影へと隠れた。
そして猫の視界から消えたからであろう
ぴたりと光線の動きが止まった。
そっと覗いてみれば、猫の表情は通常の状態に戻っている。
「醜いオッサンて…」
「とりあえず!あの猫ちゃんが言うには
カメレゴンと女の子以外は受け付けないって事よね…?」
「そう…だけ、ど」
ピーチの言葉に反応した
神菜が言葉を返すも
何か違和感を抱きちらりと視線を彼らに向ける。
マリオ、ピーチ、クッパの全員の視線が
神菜に集中しており
神菜自身もまばたきを繰り返したのち、我に返った。
「え?」
「女の子っていったらなあ…」
「いや、あの、ピーチ姫も一応候補の中に…」
「ふふ、私は"レディ"よ?」
「はい?」
いつも穏やかで安心するピーチの笑みに寒気を感じる。
口角をあげるも強張った表情でクッパの方を見てみれば
ピーチの言葉に同調するように大きく頷いていた。
彼からすればただ彼女を
危険な輩の元へ行かせたくはないのだろう。
はあとため息をつき、諦めて頷けばピーチが彼女の両肩を叩く。
「さ!頑張って!勇者様!」
「ヒエエ…」
こうして柱に三人を残したまま
トボトボともう一度扉に近付いた。
………………………
[
ニャニャニャ~~!]
猫のセキュリティは
ガードニャンと同じシステムを搭載しているらしく
例の質問攻めにオタクの気持ちで回答を続けていれば
再び甘い声を響かせ、ペロンと扉が出現する。
ペロンというのはその猫の喋っていた口が大きく広がり
そのまま大きな両開きの扉へと変化したのだ。
相変わらずイエスのみという回答という事もあり
イエスのゲシュタルト崩壊を起こしかけていた
神菜だったが
その扉が現れた瞬間、思わず安堵のため息をついた。
「これで…」
この扉を開けばすぐそこにカメレゴンとアンナがいる。
ふと三人が隠れているだろう柱の方へと視線を映せば
排除という脅威が一旦収まったという事もあり
姿を見せた状態で
神菜の事を見守っていた。
しかしそこから動く事はない。
《ボクチンがいるどえーす!》
「と、トナ~~~!」
いつの間にか肩に乗っていたトるナゲールが力強く声をあげる。
よく見ればボムドッカんもキえマースなど
フェアリン全員が彼女の周囲を浮遊していたのだ。
まあ丸腰の彼女からすれば妥当の付き添いではあるのだが。
そして安新と複雑な感情を抱きながら、
ゆっくりと扉に手をかけた。
…―バタン
中に入るとまず部屋の匂いがぷんとする。
全くの無臭ではなく、しかし激臭という訳ではない、
まるでシャンプーのような香りが鼻をくすぐる。
そして扉を閉めると、
音に気付いたカメレゴンの肩がビクリと反応した。
「だ…誰なんだなお前は…?
ぼ…ぼ…僕の部屋に無断で入ってくるなんて…
ちょっとし…し…失礼だぞ」
「仲間を目の前で誘拐しておいて忘れたなんて
そっちの方が失礼でしょ!」
彼の言葉に反論するが、ただその声にビクリと反応するだけで。
明らかにこちらを向いているが
視力が悪いのか本当に忘れたのか
神菜の存在を誰かとは認識していない様子。
彼女も警戒しながら彼の背後にいるだろうアンナの様子を見る為
なんとか冷静を保ちながらカメレゴンへと近付く。
そして距離が縮まった事で鮮明に見えるようになったのか
カメレゴンは眼鏡を掴むと
神菜をまじまじと見つめた。
「…
きっ…君はっ!?」
「うわっ!?」
「カ…カ…カ…カ…」
「か…?」
すると突然俯いた状態でプルプルとその場で震え出しす。
怯えているのか否か、どういう感情かは不明だが
汗がだらだらと吹き出し、頭を抱えて天を仰いだ。
「
カワイコチャンキター!!」
「ヒイッ!?」
仰いだまま頭をブンブンと数回振り回し
動揺した姿をさらけ出す。
所々飛んでくるのを避けながら
思わず
神菜が後ずさるものの
彼女の視線はまだアンナの姿を探していた。
「どどど…どうしよう…!?
リアルな女の子が僕の部屋に!現れるなんて~!!!」
「はあ…?」
「ここここここここここここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここここここ興奮して
ううううううまく喋れないんだな!」
動揺から混乱の様子に変わり
カメレゴンの視線は色んな方へ泳ぐ。
体は依然として震えたままで、
やはり彼女と目線を合わせようとしない。
「こ…こうなったら!」
すると懐に持ち歩いていたノートパソコンを取り出すと
カチャカチャと素早いタイピングで何かを起動させる。
「ちょっ!だから人の話を聞」
「起動せよ!【ドキドキ♡おしゃべりモード】!!!」
「はあっ!?」
彼女も結局なにも話を進められないまま
カメレゴンの都合に合わせられ謎の戦い?が始まった。
№43 vsカメレゴンに向けて
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