+カメレゴン城+
マリオ達は依然として場内を探索している。
クッパが見つけた扉の先には床一面トゲのある部屋で、
トゲの隙間に足を入れても
バランスが取れずに刺さってしまうような
一歩間違えればハチの巣確定な危険な仕組みだったのだ。
結果的に現状では何をやっても手段が見つからなかったため
仕方なくピーチが見つけた方の扉の先に移動している。
そちらにはトゲがなかったものの、
警備係なのだろう再び現れた
ドカニャンとバクニャンを避けつつ
何とか進んでいる状態だった。
そして廊下の側面ではなく正面にある扉の先へと進むと
突如発生した突風が彼らを襲った。
「っ…外だ…」
その扉の先に見えたのは爽やかな青空。
開いた瞬間だけ強風が発生したものの
屋外へと体を出せば穏やかな心地好い風が揺らいでいた。
「ここは…バルコニーかしら?」
「いや、別の塔へと移るための橋だろう」
胸壁に手をかけながら下を見下ろせば
大樹の高さほどではないものの、
確かにこの城に辿り着くまでにもぐっていた森が見える。
そしてクッパが言っていた通り長くのびる橋が目の前にあるが、
壊されたのか劣化か、中央辺りで崩れ落ちており
橋として機能できない状態であった。
しかしその欠けた橋の先には
彼らが先程まで滞在していた塔と同じものが建っている。
「しかしまあ、なかなか厄介な警備ロボットだな…」
その橋には勿論何もない訳がなく。
パトニャンの色違いに羽が装着されたフライニャンが
ふわふわと巡回していたのだ。
そして彼らが出てきた塔の近くには
見覚えのある青いスイッチもあるが
かなり高い場所に設置されており、
ジャンプでは届きそうにない。
「それぐらい警備体制が充実している事なんだろうけど…」
「オタクって守らなきゃいけないもの多そうだからなあ」
「あ~…それは何となくわかるかも」
警戒しながら橋の方へ近付けば
やはり気付いたフライニャンの口から鋭い牙を見せ
勢いよくこちらに向かって突進してくる。
「もおっ!鬱陶しい!」
対象が違えど、このような浮遊する敵の対処法は習得済みだ。
避けても突進してくるフライニャンを
トるナゲールの力で捕獲するなり
炎を吹き出そうとするクッパの方へと放り投げようとする。
「クッパ!
神菜!待ってくれ」
「ん?」
「なんだ!」
「このスイッチにそれを当てられないか?」
しかしマリオの声でその動きが止められ、
クッパは案の定機嫌の悪そうな声色で反応する。
マリオが指さす方には例の青いスイッチがあり、
普段のマリオのジャンプや背の高さもあるピーチやクッパでも
届きそうにないのは明らかだ。
それを見た
神菜が体の向きを
クッパから青スイッチの方へ変え、
手にあるフライニャンを青スイッチに向かって思い切り投げた。
そしてそれが命中し、スイッチが弾けるように起動すると
橋の欠けた所に白く長い橋が音を立て、
まるで建設したてのように綺麗に橋が復活したのだ。
「よし、行くぞ!」
長い橋が全て架かれたのを確認すると、
その先にある塔に向かって走り出した。
………………
その塔の中に入ると部屋の雰囲気が一転する。
先程までの城内の白を基調とした雰囲気ではなく
どこかクラシック感のある
また違う上品な内装になっていたのだ。
そこは小さな空間の奥にはやはり例のメイドロボットがいて。
「今度は何さ…」
メイドニャンよりも少しだけサイズが大きくなった
緑を基調としたカラーリングに赤フチの眼鏡。
そしてマリオ達がそのロボット、ガードニャンに近付くと
気付いたガードニャンがこちらへと目線を向けた。
[コノ先ハ ゴシュジンサマノ プライベートルームデス。
念ノタメ 本物ノゴシュジンサマカ ドウカヲ
確認サセテ イタダキマス]
「念のためって…」
[イマカラ オ出シスル ゴシュジンサマニ カンスル
シツモンニ 【イエス】カ【ノー】デ オコタエクダサイ]
「相変わらずこういうの多いなあ」
ぼやく
神菜をよそにマリオが合意の頷きを見せると
ガードニャンは何かを読み込んでいるのか
機械音を響かせると彼と向き合った。
[【アニメソングがスキだ!】]
「アニメ…ソン…」
「イエスイエス!」
アニメソングという単語を知らないのか
この状況で何故か迷ってるマリオを見るなり
身を乗り出した
神菜が咄嗟に答える。
[【美味しい物を食べるよりも、漫画やグッズを買う方が幸せ】]
「あのオタクの考える事なんだからさ…」
「あー…イエス?」
「そうそう!!」
そう答えながら横目で
神菜を見れば
納得したように小刻みに頷いていた。
[【フィギュアを集めはじめると
コンプリートせずにはいられない】]
「…イエス」
[デハ サイゴニ パスワードヲ 入力シテクダサイ]
するとガードニャンの腹部であろう場所の蓋がパカッと開き
その下から数字の並んだデジタルロックが現れる。
しかしマリオ達はパスワードらしき数字は
この城で一度も見ていない。
「パ、パスワード…?」
「そんなもの見た記憶はないぞ!」
「そうよね…」
ふと浮遊するフェアリン達へと視線を向けてみるが
比較的真面目系のトるナゲールとボムドッカんもわからないのか
丸で首をかしげるように体を動かし、
その反応で察したピーチが小さくため息をつく。
全員がそう止まってしまう状況を見てか、
マリオが一人勝手に何かを入力する。
[!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!]
「まさかビンゴっ!?」
すると全部入力し終わったのちに
ガードニャンの瞳が大きく見開いた。
しかしそのまま通常の大きさに戻るが
それ以上のリアクションを見せる事はなく。
[アナタハ ゴシュジンサマデハ アリマセンネ!
タダチニ 排除シマス!!]
「はっ…!?」
マリオからすれば想定内の展開だったのだろう、
頭を抱えるように項垂れながらガードニャンから離れ
何が来るかと警戒しながら戦闘態勢になる。
驚いた
神菜達も釣られて体勢を整えるも
目の前から何かが起こる訳でもなく。
ただ異変はマリオ達の立っている足元で起きていた。
「くそっ…」
「まァっ…!!」
ぽろぽろと崩れる様に床が消えていく。
ピクセルのブロック状で崩れる床を避けようとするも
入ってきた扉は頑丈に閉じられ開く事なく。
足掻きも無駄に終わり、
そのまま彼らは床の底へと落ちていった。
…………………
「ったぁ~…っ!」
「何だかここ最近、落とし穴と縁があるわね…」
ピーチはい安定してパラソルで降下する中、
他の三人は受け身を取ったり床にへばり付いていたりと様々だ。
何度この光景を見たのだろうか、
城内雰囲気を保った安心と信頼の地下空間を見渡せば
目の前にドンドンと暴れる黒い鉄球が吠えていた。
「ワンワンではないか!!」
「…にしては歓迎されてないようだが」
「グヌヌ…あのカメレゴンとやらのワンワンという事か?」
「より共通点が増えるねえ」
「あんな者と一緒にするなと何度言えば!!」
「落ち着いて…」
ワンワンと呼ばれた鉄球の存在を知っていたクッパだったが
目の前のソレは懐く様子もなくひたすらに威嚇している。
この地下空間の番犬と言ったところだろう。
そのワンワンの背後には白と赤のブロックと緑色の配管、
それを見る彼らの背後には大きな赤いスイッチがあった。
「どう見てもこれよね」
そう呟いたピーチが赤いスイッチの上に乗る。
ゆっくりと沈むものの、重さが足りないのか
丁度中間辺りの深さでぴたりと止まってしまった。
何かが作動する音も響かず、地下空間に変化はない。
「重さが足りないのかしら?」
「重さ…あ!!」
すると何かを思い出した
神菜が
鎖に繋がれるワンワンにぶつからないよう避けると
トるナゲールの力を使い例のブロックを引き寄せる。
彼女には見覚えがあったのだ。
そしてトるナゲールもうんうんと頷いている。
「確かこのブロック、普通に持とうとすると結構重いんだよ」
「重い…のはよくあるが」
「なんていうかね…もう接着剤でくっつけたのかってぐらい!」
手にしたブロックを手に
スイッチの上に立つピーチ足元へ置くと、
その足されたブロックの重みも加わり、より下へ沈んだ。
「…お!土管が出てきたぞ!」
揺れなどの大きな反応はなかったものの
ワンワンの奥にあった緑の配管が上へと伸び、
床下に眠っていた土管の入口が目の前に現れたのだ。
「うし、気を取り直して行くぞ!」
「おーう!」
………………
飛び出すワンワンの攻撃を避けながら土管へと潜り込むが、
辿り着いた場所は先程よりも更に暗い地下で
目の前には見覚えのある一面のトゲの床があった。
「これって…」
揺れる扉の片方の先にあったトゲの部屋と同じ構造だったのだ。
違う所といえばそのトゲの上に
分厚い天井があるといったところか。
その天井の上にも登れそうな空間は見えるものの
普通のジャンプでは到底届きそうにない。
「うおっ!またか!」
するとその背後から機械音とサイレンが響く。
振り向いた底には赤いパトランプを回すパトニャンで、
1体ではなく複数いるソレらがマリオ達を捉えるなり
牙を見せながら勢いよく走ってきていたのだ。
「マリオと
神菜は先に何があるのか調べてきて!
ここはクッパと何か探してみるから!」
「ぬっ?う、うむ!」
「頼んだ!
するとピーチがボムドッカんを片手にパラソルを構える。
爆弾と化したボムドッカんを上へと投げると
パラソルを振りかざし、
爆弾をパトニャンの方へと飛ばしていたのだ。
爆発の衝撃で何体かは停止したものの
やはり数が多く煙の中から新たなパトニャンが突進してくる。
それに応戦するようにクッパが炎を吹き出すのを見て
マリオは改めてトゲのある方向へと向きなおした。
「この天井さ…登れそうじゃない?」
「という事は、だ」
確認のためにマリオが一人で次元ワザを使えば
分厚い天井とトゲの間付近に回転ブロックが出現する。
きっとマリオが別次元で作動させたのだろう、
帰ってきた彼と共にそのブロックを伝って
天井裏へと入り込んだ。
「…待って!何かある」
本来の天井スレスレの道を進んでいると
途中で壁にメモらしき文章を見つけ、声をかける。
「【カメレゴンの覚え書き】…?」
「これってあれじゃない?さっきのパスワードとかのやつ!」
「…確かに、この四文字はありえるな」
そこに書かれていたのはとある数字だったのだ。
どこかひっかかる文字数に目を付け
頭に刻むように何度か復唱しながら更に奥へと進んでいく。
そして一番奥に辿り着いた場所は天井裏から降りるらしくで、
そのまま飛び下りて地面に足をつける。
行き止まりであろう、
壁に沿うように配置された巨大なスイッチと
その左側の壁には遠くからでもわかる太い鉄柵。
鉄柵の方へと近付けば
何やら見覚えのある雰囲気を持ったモノがそこにいた。
《
ヘイユー!》
「…あっ!!」
勿論、マリオ達に気付くとあの独特な声色が響く。
立方体を展開したような全身にパタパタと揺れる羽。
特徴的なビジュアルに
神菜は思わず鉄柵に張り付いた。
《ユー達は親切な人?もしそうなら助けてプリーズ!
もし違っても助けろプリーズ!》
「こいつは…」
「フェアリンだ!」
《ユー達!ぐちぐち言ってないでさっさと助けろプリーズ!》
カレにとっては相当長い時間閉じ込められていたのか、
どこか苛立ちを含む声色でマリオ達に声かければ
マリオは思わず眉をしかめていた。
「助けろっていってもさあ…」
「どうせこれだろ」
マリオの視線の先には先程確認した巨大な青のスイッチ。
その流れのままスイッチにパンチや蹴りの衝撃を与えるも
ビクともせず、何の変化も発生しない。
先程の重りのスイッチの事を思い出し上に乗ってみるが
もちろん何も起きない。
「重さじゃないのか…」
「んー…あっ!えーとね…」
《チェキ、チェキ、チェケラッチョ…》
「へびードンだったから…ドン!」
「ド…」
相変わらずの妙なネーミングに呆れた様子を見せるも
神菜はへびードンを呼びながら手を振る。
《ドンチェケラッチョ!素敵な響き!セクスィムーブ!発動し》
「重さじゃないなら!一撃での重さって事!」
何かを言おうとしていたへびードンをスルーしつつ、
神菜が力を発動させると
足を使ってスイッチを思い切り踏み付ける。
正解だったのかスイッチが弾けるように消えると
例のフェアリンを閉じ込めていた鉄柵が解放されていった。
《
アイムフリー! ようやく出られた助かった、
サンキューメルシーベリマッチョ!
檻に閉じ込められるなんて大昔のあの時以来だよ…
二度と嫌だねゴメンだね!》
「そんな過去が…」
《お礼に今度はユー達を助ける!ミーの力貸したげる!》
牢屋から飛び出したフェアリンが軽快に駆け寄れば
当たり前のように
神菜の頭上を一度ぐるぐる回る。
が、何かを感じ取ったのか途中でピタリと停止した。
いつもの流れを待っていた
神菜も思わず見上げる。
「…ん?」
《でもでも待って、ウェイトプリース。
フィーリングが合うか合わないか確かめてみても遅くない》
「フィーリング…?」
蚊帳の外状態のマリオが面倒臭そうだと呟けば
そのフェアリンは一度降下し、
神菜達の目線に移動した。
《ユー達はカメレゴンに会ったでしょ?
ユー達はアイツをどう思う?初めの印象を教えてプリーズ!》
「第一印象ってこと?んー…」
「緑…いやあの眼鏡かな、グルグルの」
「ああ確かに!漫画みたいな眼鏡の」
マリオの答えにうんうんと頷けば
目の前のフェアリンも同調するように頷く。
《ふんふんなるほど…あと他に気付いたことは?》
「カメラもあったけど…可愛いもの好きなとこかなあ」
「例のメイドロボとか、まさにそういうのだったな」
《ふんふんなるほどそれもそう…じゃあ一言でまとめると?》
「モンスター…だな」
「色んな意味でね」
思い出しつつ少々苦い表情を浮かべながらも応えきると
フェアリンはふんふんと頷き、再び
神菜の頭上へとのぼる。
《つまりユー達はカメレゴンを…
グルグルメガネで可愛いもの好きな
モンスターだと思う訳ね?》
「まあ…そうだな」
《スゴーイ!ミーの印象とぴったしカンカン!
フィーリングー!バッチグー!》
「お?」
《フィーリングがあれば心も弾む!
どんな危険も乗り越えられそう!》
すると
神菜の頭上で
どこか嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねる。
その反応を見る限りお気に召したのだろう。
リズミカルに話すと光をキラキラとなびかせながら
改めて
神菜の周りをくるくる回り、
頭上でピタリと止まった。
《一人で越えれぬデンジャーゾーンも、
二人で越えられるノッテこー!
さあさあビュビュっとかっ飛んじゃおう!》
「お…おーう!」
こうして乗り物フェアリン【ノッテこー】が仲間になった。
そんなノッテこーのノリに釣られ
思わず腕をあげた
神菜だったが
マリオの視線に気付くなりさっと腕を元に戻す。
「じゃあノッテこーだから…ノッテでいいかな?」
《んむぅ~?》
「ノッテはどういうフェアリン?
どんな感じに力を使えばいいの?」
そう問い掛ければノッテこーがふわふわと移動し、
先程マリオ達が避けて辿ってきたトゲの手前で立ち止まる。
《こういうデンジャーゾーンでは
何か足場がないと渡れないでしょ?》
「ああ」
《こういう所でミーの出番!ミーの力を使うとなんと!
ミーの体が乗り物に変化する!一度やってみてプリーズ!》
「乗り物!?なんでもあるなあ…」
その答えを聞くなり、
早速
神菜がノッテこーの力を使う。
するとノッテこーの体が一瞬で組み立てられ、
一つの薄い箱の様な形に変化した。
元の体より若干サイズアップした胴体の横には羽が動いており
更にその姿をよく観察してみれば
ノッテこーは地面から浮遊している状態で
透明の箱の中にカレの表情が見えていたのだ。
「おぉ!しかも浮いてるし!」
「これに乗ればトゲを回避できる、と」
《イエス!2人までしか乗れないから気をつけてね》
その姿に関心を向けていれば、
マリオが目の前のトゲの奥に何かを見つける
そこには心配そうに見つめるピーチがこちらを覗いており
勿論背後にはクッパもいる。
どうやらパトニャンの対処は済んだようだ。
「おっけ!じゃあマリオ乗るよ!」
「おう!」
マリオを前方に、
神菜はその後ろに乗れば
ノッテこーが動き出し、トゲの上を通っていく。
浮遊しているという事もあり、ガタガタと揺れる事もなく
スムーズに進む感覚に思わず声を漏らす。
そして先程の場所まで戻れば
心配そうに見つめていたピーチが迎えてくれた。
「マリオ!
神菜!」
「ピーチ!新しいフェアリン見つけたよー!っと」
トゲの方に落ちない様に移動すれば
ピーチにノッテこーを見せる。
薄い箱の状態から再び展開され、元のフェアリンの姿に戻る。
「まあ!こんな所にもフェアリンがいたのね」
「これれはまた便利そうではないか!」
クッパも先程の力を目撃していたのか
興味津々にノッテこーを見る。
するとお互いに無事な事を確認し安心したマリオは一息つくと
改めて現状を確認する為、口を開いた。
№41 乗り物フェアリン
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