+タイルタイルツリー+
待ち受けていたディメーン達をなんとか追い払い
その場で少し休憩していたマリオ達。
ディメ~ン空間の影響でちゃんと確認できていなかったが
そこは明らかに先程までよりも高い場所で
遠く見えていた枝に生い茂る葉がすぐ目の前にあったのだ。
そしてふとその場から眺めて見えた地上は
思わず足元がすくみそうなほどの距離感になっている。
「マジでさっきと真逆だなあ…」
「陸に海に…空ってところか」
「ま、まさかまたアイキャンフライとかじゃないよね!?」
「さあな」
慎重になるべきなのはそうなのだが
意識しすぎると余計に動けない。
そう感じた
神菜は薄らと見える地上を
なるべく見るようにはせず
葉っぱの間からのぞく枝を手すりのように扱って
自分と立つ足場と上の方向へと集中ながら登る。
「うわっ…風つよ…」
「おお…!ワガハイの城よりも高いぞ!」
一行を囲んでいた新緑が青空となり、
彼らの足元にはその新緑が風によって揺れている。
まるでタワーの頂点に登ったような感覚だろう。
しかし命綱も何もない中での強風は心臓に悪い。
風の抵抗を受けないように
姿勢を低くしながら辺りを観察すれば
何かに気付いたマリオがゆっくりと立ち上がる。
「赤い…?何だアレ」
目に見えない風に混じって見える赤い物体。
彼らが感じる風の流れに沿うように
揺らめくソレは一つだけではなく
分散して一定方向へと流れていたのだ。
マリオの頭上に見えたソレをよく見れば
まるで水に溶かした赤インクのようで。
「…ああ!【大きな木の真っ赤な風】!!」
《アッチの方向に何かあるどえーす!》
マリオがそう声を上げたとほぼ同時に
トるナゲールも何か見つけたのか大きく声をあげる。
カレの装飾のハンドサインの方向を見てみれば
緑色の土管がぽつんとそびえ立っていたのだ。
その土管の下はよく見えないが
明らかに彼らが徒歩で立ち入れなさそうな森の中で。
ただその土管のある場所はかなり距離があり、
ピーチのパラソルでも
トるナゲールの力でも届かないのがわかる。
「…そうか、この赤い風に乗って土管まで行くってことだ!」
「なるほ…え!?やっぱりアイキャンフライって事!?」
「しかしあの風に乗れる確証はあるのか?」
「さあ…イチかバチかってところだな…!」
マリオだけが強風の中立ち上がり、
流れてくる赤い風が丁度いい高さに来るまで待ち構える。
そして新たな赤い風が彼の目の前に来た時、
神菜達が見守る中、
風の流れと共に勢いよく飛びあがった。
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+カメレゴン城+
例の赤い風に乗れることを確認した一行は
その流れに身を任せ土管の奥へと辿り着く。
高低差の激しい環境と伯爵の手下との対峙もあってか
神菜はかなり疲弊している様子だ。
しかし視界から自然達が消えていき、
森の出口であろう広い場所からは
何やら白い建造物が覗いて見えた。
「アレは…」
森を抜けた先には確かに白い建造物がそびえ立っていた。
目線の先には頭を動かして見上げる程の高さのある巨大な城。
その城を護るように蔦が少し絡みついた高い城壁が並んでおり
玄関であろう扉は赤色の目立つ配色をしていた。
それはまるで童話に出てくる様な城にも見える。
「こがカメレゴンとかいうやつの城か…
ふん!大層な所にすみおって!!」
「アンナは大丈夫かしら?心配だわ…」
「ああ…そうだな」
「こんな城に住んでるやつだ…
ワガハイと同じ様なやつに違いない!」
「いやぁ~…それはないと思うけど」
その発言からして彼にも立派な根城があるのだろう。
見た事のない
神菜はただ
そのスケール感を想像するだけだが、
実際にこの白い城の主の存在を知っているのもあり
一人憤慨するクッパをよそに冷静に突っ込んでいた。
そしてマリオが歩きだすとそれに続いて
神菜達も後を追い、
赤い玄関扉に近付くと
神菜がその隣に並ぶプレートを見つける。
金色に輝くソレを凝視するなり、何やら苦い表情になった。
「【カッコイイカメレゴン様と、
カワイイ女の子以外立入禁止!!】
…だってさ」
「ハァ?」
その文字の"立入禁止"の所だけ無駄に赤く強調されており
カメレゴンのあの性格がより際立った文章だった。
マリオが立ち扉に手をかけるも
鍵がかかっているのかガチャガチャと
音がなるだけでビクともしない。
「戸締りは万全だな…」
「どうしましょう…鍵なんてどこにも…」
期待を込めて鍵が落ちてないか辺りを探すも
そんな大切な物を無造作に放置されている訳がなく。
「…ん?」
全員が分かれて手がかりを探している中、
マリオが玄関前にあった中庭の隅にとあるものを見つける。
それは城と同じ材質をしたのレンガが詰まれたもの。
柔らかい草と花が揺れる中庭にポツンとある違和感に
マリオはそれに近付き、次元ワザを発動した。
……
「うーん…ないなあ…」
神菜はやはり何も見つけられておらず
しゃがんだまま上体の筋肉を伸ばす。
そして玄関扉の方へもう一度歩み寄れば
その向かいから走ってくるマリオの姿が映る。
「鍵見つけたぞ!」
「えっ!」
その声で遠くにいたピーチとクッパも気付き、集合する。
マリオの手の中にはピクセル調の黄色い鍵があった。
確かに赤い扉の装飾の色と
同じ色調のそれを鍵穴に差し込んでみれば
引っ掛かる事なくスムーズに入り、ガチャリと鳴った。
そのままクッパが扉に手をかけてみればギイと音を立て開く。
「これは~…大丈夫そう、かな?」
横にあったプレートの警告文を思い出しつつも
扉を開けても特に異変が起きない事を確認すれば
一行はそのまま城の中へと入っていった。
…………………
「おお~!」
「なかなか立派な城ではないか…」
綺麗に掃除されたエントランスホールに
照明の壁掛けキャンドルの火がゆらめく。
あの城の主の姿を想像していたせいもあってか、
想定外の正統派な城内の内装に思わず声をあげる。
クッパも関心するようにそのディティールを眺めていると
来客に気付いた何者かがゆっくりとこちらへ歩み寄った。
[オカエリナサイマセ、ゴシュジンサマ]
「…ん?」
彼らの元へ歩み寄ってきた存在。
それは少し大きめのスイカぐらいの大きさをしたロボットで
愛らしい表情と頭部に猫耳とヘッドドレス、
そしてエプロンの様な装飾と背中にはゼンマイがついており、
これを回して動いてるのだろう。
機械感はぬぐえないもののまるでメイドのような口調を並べ
マリオ達の前に立つと小さい体ながらお辞儀をした。
「む…?」
「メ、メイド…」
クッパを除いた三人の表情が少々強張る。
過去のサンデールの館にいたマーネを連想させたのだろう、
しかし目の前のネコミミロボットのメイドニャンは
あの彼女のような感情の抑揚はなく
ロボットならではであろう無感情の声色で淡々と発音していた。
そんな挨拶を済ませ彼らに背を向けると
廊下の奥の方へと戻ってしまった。
「はあ…」
「でもなんだか可愛らしくなかったかしら?
微笑ましく見てしまいそうだわ」
「でも本当のご主人様って…コレじゃん」
彼女の記憶にあるカメレゴンの特徴を示す。
両手の指で輪っかを作りそれを目元にあてると
ピーチは思わず苦笑してしまった。
しかしその行動でメイドニャンに攻撃性がない事が確認できた。
ほんの僅かだが安堵の気持ちで息を吐くと、
さっそく城内の探索に向かう事にした。
……………
エントランスホールを抜け城内の廊下に出る。
更にシャンデリアやツボの装飾が増え
内装に豪華さがより増している。
だがその分先程のメイドニャンが沢山稼働しており、
廊下で掃除をしているのか、各々自分の仕事を進めている。
よく見ると全員の顔つきが
若干違っているようにも見えるだろう。
「ネコミミ…メイドかあ」
「形はどうであれアイツが作った奴ならまあ…
そういう才能はあったんだろうよ」
そしてまた1体、マリオ達に気付き目の前に移動すると
エントランスホールのメイドニャンと
同じように軽く頭を下げる。
そしてマリオ、
神菜、ピーチの間をくぐり
何故かクッパの前に移動した。
[オカエリナサイマセ ゴシュジンサマ
アスハ【プリプリプリンセス 10カン】ノ発売日デス。
オワスレニナリマセヌヨウ]
「ぷ…ぷりぷりとは?」
「聞かなくていいと思うよ~…」
こういう世界には疎いのだろう、
クッパは話の理解が出来ないらしい。
しかし用件を伝えて一仕事終えたのか
くるりと体の向きを変えると元の場所へと戻っていく。
そして今度はまた別のメイドニャンが現れると
やはりクッパの目の前まで駆け寄ってくる。
[オカエリナサイマセ ゴシュジンサマ
ロクガシタ 番組ノCMカットハ
スベテ カンリョウ イタシマシタ]
「な、なんなのだ!さっきから!」
そう彼女も用件を言うなり、
作業していただろう場所へと戻っていく。
マリオとピーチも理解しているかは定かではないものの
何となく理解できてしまっていた
神菜は眉をしかめていて。
しかし一番の被害者(?)は
執拗に話しかけられているクッパだろう。
気味が悪そうにメイドニャンを睨みつつも
どこか疲れたようにため息をついていた。
「…あら、この扉はやけに大きいわね」
「扉…?」
比較的安全地帯なのだろう、その長い廊下を歩いていると
ピーチが道中何かを見つけ足を止める。
彼女の視線の先には壁や装飾ではなく
下部に二つの鍵穴、その上部に
猫の可愛らしい顔が描かれた壁だった。
ピーチが扉と思ったのは鍵穴を見つけたからであろう。
念のため何かないかと触れたりと確認をしていれば
見つけたピーチがその鍵穴を凝視し、前屈みになる。
「姫?」
「何か…聞こえない?」
「何かって…」
《しかもなんだかピカピカ光ってるビン!
でも破壊電波は一切感じないビン…》
《チェキチェケラ!眩い閃光、震える鼓動!
高鳴る胸で思いが弾ける!フラッシュストリィ~ム!》
「はあ…?」
確かにその鍵穴を見つめていると一定間隔に一瞬白くなり、
言われてみればフラッシュのような現象が起こっている。
そして
神菜が二つあるうちの左側の鍵穴に近付くと
中を覗き込むように前屈みになった。
「…わッ!?」
「どうしたのだ!?」
「いる!いたよ!」
すると覗いて一秒もたたない内に彼女が大きく反応したのだ。
怪訝な表情で彼女を見たマリオも恐る恐る鍵穴を覗く。
…………………
そこには見覚えのあるあの巨体が映っていた。
というよりは、そこにいたのだ。
頬を染め口角を上げて何かを構えており、
彼の視線の先にあるだろう何かに対して
楽しそうに、恍惚な眼差しを向けていたのだ。
「フフフフフフ…
このカメラは心臓部にスーパーCCDを使ってるんだな…
キ…キミの透き通るようなボティを色鮮やかに
記録する事が出来るのさ…」
そして先程鍵穴から見えた白いフラッシュが瞬く。
同時にパシャリとカメラのシャッター音が響いていた。
…………………
「…確かに、いたな」
数秒様子を見ていたマリオも鍵穴から離れるが
不快の表情を見せており、帽子を深くかぶりツバで顔を隠す。
それと同時にピーチももう一つの鍵穴を覗いていたのか、
同じタイミングで姿勢を戻し
困惑とした様子でマリオと
神菜の方へ向きなおす。
「アンナもいるわ!やっぱりここに閉じ込められていたのね…」
「ああ…それがわかっただけでも安心…できるかねえ」
ピーチが覗いた鍵穴からも
カメレゴンの声が聞こえていたのだろう。
察して表情を曇らせながらその鍵穴の方を視線を向ければ
まだ確認していなかったクッパがその鍵穴の奥を覗いていた。
「…」
「あの蝶が言っていたアンナって子!」
「ワガハイは…アヤツと勘違いされていたという事か?」
「え?」
あの一瞬の出来事だったから鮮明な記憶はないものの
確かに体のサイズ感は大柄な方で、
どちらかと言えばクッパと近い方だった。
魔王のプライドがどう響いているか不明だが
未だに静かに様子を伺う彼を気まずく眺める。
「確かに気味の悪いヤツだ!
あんなヤツと間違われるなど不愉快にもほどがある!」
「あ~…」
「しかし…写真を撮ってから何やら機械を操作しているぞ」
「機械?」
クッパの肩を叩きその場から離れてもらうと
再び
神菜が覗き込む。
確かに撮影していたアンナから距離を取り
自分のデスクのある場所に
設置されているモニターと向き合っている。
そして作業を終えたのかデスクから離れると
アンナの元へと再び戻り、再び写真撮影が始まったのだ。
「また写真撮影始まったよ」
「アンナはかごの中に閉じ込められていたわ」
「あくまで触れずに写真におさめてる…だけか?」
「今の所は…」
「ある意味、今の方が安全…と思っていいのかしら」
「それは何とも」
そのパターンを見る限り
どうやらアンナに触れようとする気配はなさそうだった。
あくまで、そう感じただけだが。
「そんな事をウダウダと言っている暇があるなら
さっさとこの扉を突破すれば良いだろう!」
「でもこの鍵穴見る限り二つないと無理だよね」
「急ぎつつもしらみつぶし、だな」
外から見るなりこのカメレゴン城はかなり広く、
部屋数もそれなりに多いだろう。
それを地図もなく探すのは時間がかかる。
しかしそうこう言っていられる状況ではないのも現実だ。
全員の意見が一致し頷くと
早速目の前の廊下を渡り、階段を使って別の階へと移動する。
「っと…ん?」
そんな階段をのぼった先にメイドニャンよりも大型のロボット、
ドカニャンがずっしりと廊下の中央に佇んでいる。
足を止めるマリオに
神菜も反応し
その視線の先にあるドカニャンを見つめれば
そのまま可愛らしい顔に描かれる口が大きく開かれた。
「っ!?」
「えっ!?」
同時にマリオ達の表情が一変する。
ドカニャンから警告音だろうサイレンが響き渡ると
その口の中から覗く大砲から何かを発射し始めた。
―ドカン!!
「ばっ爆弾か…!?」
「ヒイッ!」
飛び出したのはメイドニャンと
同じサイズ感の白い容姿のロボットで
そのまま着地して歩き出すモノもいれば、
マリオ達と近距離になったモノは目の前で爆発する。
どちらにせよ、共通してそのロボット、バクニャンは
頭から火花を散らせ自爆行為を仕向けてきていたのだ。
《ワアア~~!爆弾はそんな雑に扱っちゃダメビ~~ン!》
「どうでもいい!!早く奥に逃げろ!」
大元のドカニャンに対抗しようとしても
あまりにも多いバクニャンを避けるのも
対処するのも厳しい状態だ。
なんとか爆破の衝撃を避けながら
ドカニャンの視界に映らない場所まで駆け出した。
………………
道中にまた新たに現れた
ロボットのパトニャンも何とか対処しつつ
彼らはひたすらに場内を探索していた。
開ける扉の先を見たり、怪しい場所を確認したり。
しかし何も収穫がないまま足を動かしていると
クッパが何かを見つけ、その場に立ち止まり見上げる。
そこはあのカメレゴンが興味を持たなさそうな
芸術的な絵画が飾られており
そんな絵画の間に何かが揺れていたのだ。
「…扉があるぞ!」
「どこに?」
「あそこだ!」
クッパが指をさした場所はほぼ天井に近い場所で。
そこには引っ掛かったようにゆらゆらと揺れる扉があったのだ。
ただ揺れる扉の下の壁には何もなく、ただの壁だ。
不可思議な状況に凝視していれば
既に先に進んでいた
神菜も何かを見つける。
「【廊下はしずかに、揺らさないように】…だって」
「揺らさないように…?」
廊下は走らない、その言葉は理解できる。
だが後半の揺らさないようにとは一体なんのことだろうか。
そして現に目の前に揺れる扉がぶら下がっている。
「揺らさない……あ!」
彼女の言葉の復唱していると何かに気付いたのか、
マリオがへびードンをわしずかみにすると
丁度揺れる扉の真下へと戻る。
《押すなと言ったら押しちゃう本能!
ゆらゆら本能、大炸裂!》
「そういう事だ!」
その場へびードンの力を使う。
衝撃でガタンと一瞬廊下全体が揺れると、
揺れていた扉もストンと目の前に落ちてきた。
どういう原理かは不明だが目の前に倒れてくる事もなく
空白だった壁にぴったりと扉がはまる。
「ええ…」
「これでちゃんと扉が繋がってたら…」
困惑する
神菜をよそにその落ちてきた扉に手をかければ
ちゃんとノブが動き、扉の奥に部屋がある事を確認する。
そしてピーチも揺れる扉がもう一つある事を伝えると
そちらも同じようにヒップドロップで扉を落とし、復活させた。
「よし…」
「主も変ならお城も変だなあ…」
色んな意味で疲労が重なる現象に頭を掻きながらも
現れた扉の先へと進んでみる事にした。
№40 オタクキャッスル
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