+暗黒城+
ディメーンが去った後、
ドドンタスと二人きりとなった
マオであったが
結局それ以上の情報共有は出来ず、
そのまま解散する事になった。
ドドンタスに関しては
勇者との再戦の為にトレーニングに励むと言い
プライベートフロアで別れた後一人となった
マオは一息つく。
「ディメーンは用事でいないし…マネーラも出てるし」
本来であれば
マオも積極的に立候補すべきなのだろう。
しかし今の彼女にドドンタスやマネーラのように
力を最大限に使って戦う事が出来るのか未知数なのだ。
それは彼女自身も自覚している。
強いのか弱いのか、それすらもわからない。
自身の記憶がない事と影響しているのか
ディメーンと出会い、暗黒城に来るまでは
数分歩く事すら困難なぐらいの体をしていたのだ。
「…」
自身の手を握りしめ、開く。
ただこの城で生活していくうちに少しずつ力はついていた。
長時間走ったり体を動かしたり
他の伯爵ズと比べると多少体力は劣るものの
ナスタシアのサポートをできるぐらいには動けるのだ。
そして彼女自身手ぶらという訳ではない。
魔法は一切使えないものの
、鋼線という特殊な武器を扱えるのだ。
とはいえ、それが武器だったのかすら怪しいが。
その状態を伝えた記憶はないものの
ディメーンが伝えたのか、その容態を見て把握したのか
ノワールは彼女に討伐指示を与えた事はなかった。
「確か…まだ見てない所あったよね」
ふとプライベートフロアから降りる階段を見つめる。
それは彼女の中で二つの意味のある言葉だった。
一つは例の謎の本と鍵。
ドドンタスが拾ってきた南京錠は
既に本の中に収められてしまっているが
収まるという事は何か関連のあるものという事は確実で、
鍵に関してはマネーラの帰還待ちの状態だ。
そして実際鍵はこの城で2つ見つけている。
もう一つはナスタシアが進行している魔王の部下の処理。
彼女のサポートとして
マオも同行していたが
それほど数が多いのか下の階付近を徹底的に探っていたのだ。
その二つの条件を合わせると
共通して探索していないフロアがあるという事だ。
現状、ナスタシアからは自由行動を与えられている。
「よし!単独行動も慣れておかないと…!」
意気込むように握りこぶしを作り、力強く頷けば
そのまま軽快な足取りで階段を降りて行った。
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「グエェっ!」
案の定、そこには魔王の部下達がうろついていた。
しかしその相手もクリボーという事で運がよかったのか
特に苦戦する事もなく彼らを縛り上げ、気絶させる。
「ッはあ…」
しかしナスタシアや彼女によって従順になった部下達はいない。
何れは目を覚まして逃げてしまう事も考えて
予備であろう使用していない糸を取り出し縛り付ける。
そして一瞬ためらったものの、仕方がないと納得させ
縛り付けたクリボー達の糸を
壁に設置されている照明にひっかけた。
気絶しているから暴れず静寂になっているだけなのだが
その光景はまさに見せしめのソレにも見えなくもない。
「う、うーん…」
わかっていはいたものの、
マオは複雑な心境で見つめた。
クリボーは他の部下達と比べれば頭身がかなり小さい。
そしてその頭身の小ささを利用して
体全てを使って体当たりや突進をしてくるのだ。
その為、地に足がついていなければ自由を奪えると考えたが
数もあってかなかなか強い絵面になっていたのだ。
「でもまあ…ナスタシアか他の部下達見かけたら
伝えたら大丈夫かな…?」
吊るされた状態でもクリボー達は目覚める事なく。
彼女はそれを確認すると廊下を歩き出す。
ちなみに、彼女の収穫はその部下達だけだった。
鍵や南京錠のようなものや
本にまつわる古代のモノも何も見つからず。
見つけた扉の中をくぐれば逃げのびていた部下達が隠れており
それを鎮め、こうしてまた歩いている。
「やっぱり…外に出た方が見つかるのかな」
オレンジの鍵を取り出し握りしめる。
思い返せばこの鍵も自分で見つけたというよりも
"誰かが置いた"の方が近い状態だった。
誰かがその鍵を見つけ、何故か彼女の元へ置いたような。
「ドドンタスも同じ感じだったのかな…」
鍵を懐に収め、一息つく。
―ダァンッ!
「わッ!?」
その時だった。
廊下を歩いていると突然近くの壁の方から激しい音が響く。
咄嗟にその方向を向けば、そこには扉があった。
しかもその音は一度だけではなく
一定間隔で数回鳴り響き、同時に扉の形が歪んでいく。
それはまるで飛び出そうと何かをぶつけているようで。
明らかに今までの隠れてい部下達とは違う反応に
マオはその場から距離を取り、身構える。
「むうんッ!!」
そして歪みきった扉が弾け飛び、
同時に大きな物体が飛び出した。
ゴロゴロと転がり壁にぶつかる。
それはノコノコと比べ物にならないぐらいの大きな甲羅で
緑の背甲部には立派なトゲが並んでいた。
「え…?」
その姿は
マオも見覚えがあった。
ソレはふるりと尻尾を動かし、こちらへと振り向く。
凛々しい眉毛に鋭い眼光で彼女を見下ろす。
大広間でマネーラが模していたあの魔王の形そのものだった。
「ム、なんだ貴様は!」
その表情にはどこか苛立ちを纏っている。
例の結婚式場に出ていない彼女という事もあり
お互いこれがファーストコンタクトだ。
どう考えても部下達とは違うそのオーラに
マオは尻込み、言葉を詰まらせる。
しかし目線だけは外さず、身長に身構えていた。
「貴方…」
「はっ!?ピーチ姫!我が妻はどこへやった!?」
「つ、つま?」
「貴様もあのノワール伯爵とやらの手下か!?
ならばピーチ姫の居場所も知っているだろう!」
勿論、一部始終を知らない
マオはただ混乱するのみで。
目の前の魔王はそんな彼女の様子を見て
更に苛立ちを見せるとズカズカと重い足音を立てて接近する。
「ピーチ、姫は…」
「知っているのか!?」
魔王の言うピーチ姫とは
あの時、ナスタシアが追い詰めて消えた彼女の事だろう。
すると接近した魔王の影によって視界が暗くなる。
その大きさはドドンタスと同じぐらいではるものの
彼から感じるような安心感のあるものではなかった。
見上げれば鋭い牙と太く伸びている爪やツノ。
確実にヒトからかけ離れたその威圧感のある容貌に
浅い呼吸を繰り返してしまい彼女は言葉が出なかった。
目の前の魔王はそんな彼女を怪訝な表情で見下ろす。
ピクリと眉をしかめながら顔を近付けた時だった。
「ン!?グォっ!!」
「っ!」
視界に映る魔王の姿が小さくなる。
魔王自身が小さくなっている訳ではなく
まるで後ろから誰かに引っ張られているような動きで。
そしてそのまま紫の渦の中に消えて行ってしまった。
「…っはあ…」
緊張が解けたように中腰になると俯いて呼吸を整える。
そしてそのまま魔王が消えていった方向へ視線を向けた。
「あ…伯爵、さま」
紫の渦が消えると、その奥から白い影が現れた。
杖の持つ手でマントを払い、帽子の位置を微調整してから
佇む
マオの元へ近付いてくる。
「こんな所で一体何をしていたでワ~ル?」
「城内で…異変がないか、巡回をしていました」
「ほう。それはご苦労でワ~ル」
「あの、さっきの…魔王は?」
「やつは既に役目を果たした…のだが、
あの雑兵共とまだ城に残っていたとはな」
魔王が消えた場所を眺めながら呆れたように吐き捨てる。
そこには彼が壊した扉の破片と
扉が無くなり出入りが自由になった部屋がある。
部屋の中から何者も出てこず物音もないという事は
その魔王だけが閉じ込められていたのだろう。
「じゃあ…魔王も部下達のように…」
「あやつにナスタシアの超催眠術は効かないだろう。
それならば城に置いておくのは危険すぎるでワ~ル」
「なる…ほど」
マオの言いたい事を知っていたかのように
彼女の言葉に被せる様に伝えれば
納得したように頷き、声を小さくした。
「…あれは、」
するとノワールの声が
マオではなく、
彼女の奥の方に向けて廊下に響く。
マオも彼の視線に釣られて振り向けば
そこには例の吊るされたクリボーが視界に映った。
黒い内装で映えるそのただ静かにぶら下がる茶色い個体に
マオは困ったように眉を下げていた。
「あー…あの、例の部下の…あ!でもちゃんと生きてます!」
「ほう」
「その…ナスタシアいないし、
目が覚めたら逃げられちゃうかもって…思って」
勿論彼女の言う言葉は本心だ。
決して趣味などであの宙吊り状態にしている訳ではない。
必死に言葉を選んで伝えようとしている姿に
ノワールは鼻で笑うように顔をそらした。
「上出来でワ~ル。ナスタシアにはヨから伝えておこう」
「あ…はい!ありがとうございます」
「いずれはお前にも活躍してもらう。
それまでは城内に残る雑兵達を懲らしめるのだ」
「はい…!」
見た事のないノワールの反応に呆然とするも
その言葉に一気に彼女の表情が明るくなる。
マオ自身、この城に身を置くきっかけもディメーンの為
ノワールがどう評価していたのか正直把握していなかった。
しかしそんな彼から賞賛の言葉をもらい、
彼女の心に少し余裕が生まれ、笑みが浮かぶ。
その様子を見たのか否か、
マオが返事をしたのを確認したのち
魔法によって彼女の元から去っていった。
№23 必要なモノ
「よしっ…!」
一人になったものの、リーダーからの言葉はとても心強く
意気込んだ様子で両手を合わせると
魔王が居なくなった空室の部屋の中の探索を始めた。
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