+男子トイレ+
「…」
マリオは依然個室の壁に耳を当てている状態だ。
そこからは女性達の声が響いており
よく聞くと怒鳴りあっているように聞こえる。
「
…騙されてはいけません。その者を…」
「
…私が本物のサンデール…!」
「サン…サンデール?!」
そしてサンデールと言う言葉を聞くとピクっと反応する。
籠って聞こえてしまうのもあるだろうが
マリオからではどちらも同じ声にしか聞こえない。
そして咄嗟に男子トイレから飛び出ると
緊急事態という事もあり女子トイレに入ろうとした。
「開かない…?なんでだ!?」
押しても引いてもノブを回してもびくともしない。
体当たりから蹴りを入れてみるも
勿論動くわけでもなければ内側からも何の反応もない。
ガラスも頑丈でヒビすらも入る様子はなかった。
そんなガラスの奥を覗く。
覗き防止用のすりガラスのため勿論はっきりは見えないものの
そこからトイレには見る事はないだろう鮮やかな光が見える。
赤、黄色、緑などのイルミネーションの様な物。
そして機械的な声と
神菜が怒鳴る声。
だが実際中で何が起こっているのかは一切わからない。
「何が起きてるんだ…!?」
神菜が叫んだりサンデールの声が聞こえたりはするが
悲鳴や暴れる音は一切聞こえない為
あの二人に危害は加えられていないと信じ、
中の状況を把握しようと扉に耳を当てる。
「
…では趣味の質問です…」
「質問…?」
黙々の様子を聞いていると、
何やら内部ではサンデールに対して質問をしているらしい。
しかしその質問に答えるサンデールの声が二つあり、
マリオは余計に混乱していた。
そしていくつかの質問あと、結論を出したのか
神菜が声を張って叫んでいた。
「
左のサンデールが本物だっ!!」
「
正解~~っ!!」
「
おっしゃあああああ!!」
「…いけた、のか?」
結局何故質問をしていたのか、
最終的に
神菜が喜んだ声をあげているのか
一部始終聞こえる範囲は聞いていたがほぼ理解できていない。
すると騒がしかった声が止むと
中からドタドタとこちらへ走る足音が聞こえて来る
それがだんだんと大きくなっていき、
「がッ!!?ッたぁ……!」
言葉にならない痛みが扉に当てていた片耳から頭全体に走る。
その痛みに耐えられなくなり、
そのまま床に転がり込んでしまった。
するとその扉を開いた人物だろうか、
扉をまたバンッと乱暴に閉めると
中にいる
神菜達に向かってなにやら叫び始めた。
「私は陰から一生懸命応援してます!!
フレ!フレ!チャチャチャ!頑張って下さ~いっ!」
「おまっ…!」
痛みに耐えながら体を持ち上げる。
その視線の先には見覚えのある女性がいた。
「あんた…サンデールかっ?!」
「あらぁン?貴方は…彼女達といた勇者ではないですか!
何をこんな所でぐうたら寝転がっているのですか!!」
「あんたが転ばせたんだろうがっ!」
「ハっ!そんなことより彼女達を応援しないと…!」
そして憤慨するマリオに背を向けると、
中にいるであろう
神菜達に向かって応援を再開する。
そしてマリオも立ち上がるとひりひりと痛む耳をおさえた。
「っ…おい、中に入れてくれ」
「ダメですわっ!これは女の戦い…
貴方はそこで私の応援の応援でもしていなさいっ!」
「お前が寝転がるなって言ってんだろ!
ていうかなんだ、応援の応援って…」
なかなか強情で扉の前から退く気配は一切感じされない。
終わるまで入れてくれなさそうだと悟ったのか
耳を抑えながらその場に座り込んだ。
「…まあ。今のあいつなら、大丈夫だろ」
そう呟くとため息をつき、
期待と心配の眼差しを扉に向ける事しかできなかった。
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+女子トイレ+
その頃トイレの中では外のような余裕は一切なく
神菜達と異形化したマネーラが睨み合っていた。
「ねえアンナ…」
《何?》
「こんな狭いとこで戦える?」
《…この状態から、外に出られると思う?》
「…ですよねー」
神菜達は解答席のあった場所から移動していない。
個室のある奥の方で、扉は反対側だ。
しかも今はマネーラが立ち塞がり、
そのすりガラス越しにはサンデールがぼやけて見えている。
一瞬赤いシルエットも見えていたが
来ないという事はきっと入れない状態なのだろう。
つまり勝敗が決まるまでこの空間から出られない状況だ。
ピーチが傘を構え、
神菜がアンナの力を使おうとする。
するとマネーラがそれをさせまいと
頭部から複数のマネーを出現させ彼女達に放った。
「危ないっ!」
飛び出たマネーをピーチが傘でガードすると
そのマネーを
神菜がトるナゲールを使って手にとった。
「そんな事をしても無駄…
アタシには無敵守りの力があるもの!!」
その声色には優越感に満ちており
口元の笑みが更に歪むと再び二人に襲いかかろうとする。
すると突如、閉ざされた扉の方から
煌びやかな桃色の光が空間に大きく広がった。
「まぶしっ…!」
「きゃっ!?何よ…ッ!!」
その光に視界が一瞬眩しくなり、思わず片瞼を閉じる。
マネーラにも影響が出ていたのか
長い脚がガクッと崩れ体勢が乱れる。
《
神菜…!》
その隙を見てアンナが合図を出す。
神菜が頷けばマネーを持つ手を思いきり振りかぶり、
手に持っていたマネーをマネーラに投げつけた。
「いたっ!…え?嘘…!?」
「おっ?」
ダメージを受けたマネーラはその場で揺れながら動揺する。
神菜も彼女を見つめ、警戒しながら様子を見ていた。
「な、何故無敵なアタシがタメージを受けてしまうの!?
アタシはノワール伯爵様の力で守られているはずなのに!?」
「フレ!フレ!チャチャチャ!
これはただの応援ではありません。
これは【魔法の応援パワー】!
貴方を守っていた謎の力は既に封じられているのです」
「さっきの光がそうなのね…!」
トイレの外という安全圏という事もあり
扉の向こうから生き生きとした声が中へと響く。
得られたその守りの力がどれ程なのかは定かではない。
しかしマネーラはの様子を見る限り、
末裔ほどの力でもない限り引き剝がす事の出来ない
かなり強力な魔力だったのだろう。
「そ…そういえばアタシの体を包む力が
いつの間にか消えている…」
「やっぱ末裔様ってすごいねえ…それに比べて…」
にや、と煽る様に挑発をかけると、
聞こえていたマネーラの表情がまた険しくなる。
俯かせた状態でプルプルと怒りに震わせ
常時笑っている口元が怒りの表情にも見えるぐらいだ。
もうマーネの時のような可愛さは
微塵たりとも見せる様子はない。
「きぃぃいっ!!あんたたちなんか無敵守りがなくたってぇ~~!!」
そして六本の蜘蛛の脚を地面に突き立て体が高く浮くと
タイルの床が蠢くようにガタガタと揺れ、
神菜達の体勢が崩される。
「うわっ…!」
体勢を整えるために体の向きが不安定になりながらも
なんとかマネーラの方へ視線を向けるも
彼女は自身から伸びる脚で固定されており
床の歪みに影響されない状態でニタリを笑っていた。
その直後だった。
そんなマネーラの背後から、
無数のマネーのトゲ部分が彼女の脚元から
横一列埋め尽くすよう飛び出してきたのだ。
タイルとマネーの音が擦れ合い、不快な音を立てながら
目にも留まらぬ早さでトゲの波が打ち寄せてくる。
勿論、不安定な状態の
神菜とピーチの元にだ。
「
神菜っ!なるべく膝を曲げてジャンプよ!」
「へッ!?」
しかしピーチがとっさの判断で
神菜を抱き抱えると
個室の中に逃げ込み便器の上に登った。
だが勿論迫りくるトゲは便器の上を越えてきており
床の横一面を覆っている為、個室の中にもトゲは覗かせている。
その位置から高くジャンプをして
パラソルを使いトゲの大群をなんとか避ける事に成功した。
このパラソルの耐えられる最大重量は謎だが
ピーチが普段使う時よりは若干早めに降下していった。
「あっ…ありがと!ピーチ!」
「どういたしまして」
そう呟きながらマネーラを見ると
こちらを見下ろしながらで舌打ちをした。
すると別の方法を試そうとしているのか
長い脚で地面、壁を伝い天井へと張り付く。
それはまさに蜘蛛のような動きだ。
「鬱陶しいヤツら…!」
そんな逆さまの状態でマネーを出現させるなり、
地上にいる
神菜達に向かってマネーを投げつけた。
地上から狙いを定めて放つマネーとは違い
天井から真っすぐの軌道で地上へ飛んでいくため
明らかにそのマネーの速度が倍増していた。
その為、避けようとした
神菜だったが
速度に対応できずシャツの左袖に掠れて床に突き刺さった。
そのまま姿勢を低くするとゴロリと転がり壁にぶつかる。
「
神菜っ!」
今まで汚れだけが重なっていた袖の端に切り込みが入る。
前の世界では殴打などの衝撃が多かったが
殆どがマリオによってカバーされて軽傷で済むことが多かった。
しかし今目の前にいるマネーラの武器は全て鋭利なものだ。
吐き出すマネーに硬い地面も貫通させる太い脚。
運が悪い事は重なるもので、
そんな戦法をこの狭い場所で向けられてる時点で
神菜達の方が圧倒的に不利な状況だった。
当たれば痣ができる程度で済む話ではない。
切り傷、または貫通するかもしれない可能性がある。
改めて感じた危険な状況に一気に心拍数が上がった。
うずくまる
神菜を確認して気が緩んだのか
マネーラの標的がピーチの方へ向けられた。
「…ッ!」
しかし
神菜はその隙を見逃すわけもなく。
なんとかトるナゲールの力を使い、
近くの床に落ちていたマネーを掴みあげると
天井に張り付いているマネーラに投げつけた。
「!?いったァ…!」
ピーチに視線を向けていたため頭に直撃し、
張り付いたままぐらりと体勢が崩れる。
「ヒィ…ッ」
すると崩れた状態からゆらりと揺れると
六本あった蜘蛛の足が一本ポキッと折れ、床に落ちた。
丁度
神菜の真正面に落ちてきたという事もあり
思わず悲鳴が漏れた。
「脚が…」
「マネマネ…
足が一本無くなったところで変わりないわよ!!」
今度はそんな
神菜の隙を見て
天井から覆いかぶさるように襲い掛かった
「んぐッ…!!」
「
神菜…っ!」
この見た目通りに蜘蛛という性質が勝っているのか、
この環境下で順応しつつあるのか。
どちらにせよマネーラの動きに俊敏さが増していた。
ピーチを巻き添えにしないよう避けようとする
神菜は
そんなマネーラの脚によって再び体勢を崩され
ボールをけ飛ばすように彼女を再び壁の方へ叩きつけた。
彼女自身が転がりぶつかった衝撃とはけた違いの痛み。
リュックのある背中ではなく
右肩からダイレクトに人体へ与えられた衝撃に
神菜が声に出ない悲鳴をあげ、静かになった。
《
神菜~~っ!》
トるナゲールもなんとかマネーラを避けながら
倒れる
神菜の元へ移動する。
ピーチはただその場で呆然とその姿を見つめていた。
「これで…一人…こざかしいのよ」
俯せに倒れ、びくともしない
神菜を見て
吐き捨てると改めてピーチの方を向く。
彼女もその視線に気付くなりすぐさま我に返った。
「次は貴方よ…お・ひ・め・さ・まァ!」
そう叫ぶとまた大量のマネーを出現させ、
ピーチにマネーの弾丸を発射させる。
彼女もパラソルでマネーを跳ね返すも
その量と勢いで自然と段々と後ろに後ずさる。
そしてそれを見たアンナが静かに話しかける。
《大丈夫よピーチ…気を失っているだけ。
彼女は簡単には死なない…》
「そう…ッだけど…!トナちゃん!」
パラソルで身を隠しながら
神菜の元へ行ってしまったトるナゲールを呼ぶ。
その状況にトるナゲールも急いでピーチの元へ戻り
マネーを拾うとマネーの雨が同時に止む。
そしてマネーラに攻撃するため、狙いを定めようとするも
マネーを手にしたその行動で察知したのか、
脚を器用に素早く天井に上がろうとした。
「あんたの行動何かとっくに…あらぁ?」
何度か上にはい上がろうと力を込めるが
片方の脚がなかなか持ち上がらない。
ちらとピーチの方を見るが、
彼女はまだ投げる構えをとったままだ。
しかし緊迫の様子だったはずのピーチが小さく笑う。
嫌な予感を感じ取った彼女は
そのまま違和感のある自身の脚の下を恐る恐る見下ろした。
「…はぁッ!?」
「どーも、こざかしい者でッ…す!!」
そこには気を失ったはずの
神菜が
俯せた体のままこちらを見上げていたのだ。
しかも彼女の両手の先には
見覚えのある細長い黒い足が数本束ねられている。
その目で状況を確認してしまえば、
感じていなかった引っ張られる感覚が徐々に全身に行き渡る。
つまりマネーラの体が持ち上がらなかったのは
このせいだったのだ。
「やッ!離しなさいよッ!!」
「離せと言われて離す奴がいるかっての!
いまっ!ピーチ!!」
彼女の手から逃れようとするものの、
両手から両腕でまるでしがみ付くように捕えられ
力尽きていたとは思えない程の力でビクともしない。
そして
神菜の声に応え、
ピーチが力を込めてマネーを投げた。
―ボキ、
「きゃあああああああッ!!!!」
その衝撃で、
神菜の腕に捕えられていた数本の脚が
嫌な音を立て、一気にマネーラ切り離されてしまった。
「大量大量…っと!」
そしてその足を床の隅へ放り投げると
服の埃と両手を払いながら立ち上がった。
残りの足の数が2本になってしまったマネーラは
ぐらりと体を震わせ、勢いよく
神菜の方を振り向く。
「…このッ…!!」
「おっと!」
そのままの勢いで
神菜に向け
勢いよくマネーを発射させるも、軽く避けられてしまう。
脚を大量に失ったマネーラの機動力はかなり低下し、
本体を支える力も失われているようだった。
転がる様にくぐり抜けピーチの所へ戻ると、
神菜もトるナゲールの力を使いマネーを拾う。
彼女なりには素早く反応したのだろう。
一気に引き抜かれた衝撃もあってか
振り向く動きすらも先程の機敏さは失っている。
「いい加減に……しなさいッ!!」
投手のフォームを真似て
より速度の出そうな構えを取ると
ふらつくマネーラに向け勢いよくマネーを投げつけた。
―ボキッ
きっと投げたマネーで今日一番勢いがあっただろう。
ストレートに直撃したマネーラは悲鳴も上げず
残っていた脚が床に突き刺さったまま全て折れてしまった。
そして支えの失ったマネーラは
そのままボトリと真下に崩れ落ちた。
「マネマネマネ…そんな…
アタシがやられるなんてありえ…ない…」
あの脚が失っただけの異形の姿のままだった彼女だったが
全身から小規模の爆発が発動し
彼女の体が黒い煙の中に埋もれる。
神菜とピーチは息を切らしながらも警戒態勢を取るも
その煙から現れたのは異形に変化する前のマネーラで
やはり敗れた後という事もあってか
最初の時の余裕はさ感じられない姿だった。
「まだ足掻く気?」
その言葉を聞くなり、キッと涙目で彼女達を睨む。
しかし再び変化を起こそうとする事はなく
ふらついた状態のまま数歩後ずさったのち
ふわりとその場から宙に浮いた。
「悔しいけどここは一旦ひくべきね…
この次はこうは行かないわ…覚えときなさいよーだ!」
宙に浮いたまま
神菜達を見下ろし
その涙を誤魔化すかのように、舌を出し悔しそうに叫ぶ。
そして彼女の魔法によって立ち去って行ってしまった。
「…ふう」
「
神菜…大丈夫?」
静かになった部屋に小さく安堵の息をつく。
両膝に手を置いて項垂れていると
ピーチが心配そうな様子で彼女の背中に手を置いた。
「ん?ああ…なんとかね!
こういう時こそ、荷物係でよかった~ってね!」
自身の背中に背負うリュックを指差し笑みを浮かべる。
実は彼女が地に伏せた後、気を失ってはおらず
僅かに残った意識の中でトるナゲールに指示を出していたのだ。
荷物の中からきんきゅうキノコを摂取し、
トるナゲールが離れた後にこっそりとマネーラの元へ接近。
それらは彼女の注目がピーチに向けられた事で
全て順調に進んでいたわけだ。
勿論、ピーチ自身も身を護るために必死だったため
神菜が裏で動いていた事全ては把握していない。
しかしその元気そうな様子を見て安堵すると
釣られるように笑みを浮かべながら肩の力を抜いた。
「よくぞマネーラをやっつけてくれました。
貴方がたのおかげでピュアハートは守られました」
「
神菜!ピーチ姫!」
すると固く閉ざされていた扉から
安心した様子のサンデールと慌てた様子のマリオが現れる。
マリオに関しては重要人物であるはずのサンデールを押しのけ
二人の元へ必死の形相で駆け寄る。
しかしそんな彼の様子に二人はきょとんとした様子だ。
「どうしたのマリオ?そんなに慌てて…」
「そりゃあ…大丈夫だと思ったら
中から悲鳴が聞こえるわ叫ぶ声が聞こえるわで…」
「じゃあ早く助けに来てよ!
もう~~今回は本当に死ぬかと思った…」
「アレが扉の前で…!!でも…まあ、無事でよかった」
サンデールを指さし事情を話そうとしたが
マネーラはおらず、彼女の脚が散らばるこの状況から見て
説明するのは野暮だと、諦めて安堵の笑みを見せる。
神菜とピーチも彼に釣られるよう笑うと
それを見守っていたサンデールがこちらへ近付いてきた。
「…さて、貴方方にピュアハートを渡すことが、
この館に住む者にかせられた1500年に渡る長き努め。
今ようやくその努めを果たすことが出来そうです」
「ええ」
「…しかし、その前に貴方がたに
伝えなければならない事があります」
そして数秒瞼を閉じ、一度小さく頷くと瞼を開く。
騒動での暴れ具合が嘘のようなお淑やかさを纏い
鋭くマリオ達を見つめた。
「白のヨゲン書の事は既に知っていますね」
「ああ」
「そのヨゲン書に従い、
私達は先祖代々ここでピュアハートを守ってきました。
しかし実はそこに書かれていないヨゲンが
ここには伝えられているのです」
《書かれていない…?》
アンナが反応する。
マリオ達がやってくるまでにデアールと
白のヨゲン書の解読を手伝っていた事があっての反応だろう。
「【混沌のラブパワーにより引き出された暗黒を打ち払うべく、
遠き世界より4人の勇者あらわる。
4人の勇者集いしとき、輝く希望の光が絶望の壁を打ち破る】
…それが、この館に伝わるヨゲンです」
《4人の、勇者…》
初めて聞く話にアンナは呆然とする
ヨゲン書の内容を深く知らないマリオ達は首をかしげていたが
その中で
神菜が「あ、」と声を漏らす。
「その4人の中の2人って、マリオとピーチじゃない?」
「あら、
神菜もじゃないの?」
「いや…デアールさんが言ってたんだけど、
ヨゲン書にはマリオの事ぐらいしか書いてなかったみたいで、
私の事はまだ何もわかってない状態なんだよね」
「でも…貴方は勇者が操るフェアリンを使いこなしている。
4人のうちの一人は貴方では?」
「うーん…今の所は仮、ですかね。イレギュラーな助っ人的な…?」
ふと腕輪を見つめながら考える。
サンデールもその視線に釣られて腕輪を見つめ
同じように凝視するもそのまま目線を上げた。
「…それでは、貴方がたはあと2人の勇者を探さなければなりません。
そしてその2人とは恐らく
貴方がたのよく知っている人物であるはずです」
「…知っている人物」
「わかった」
彼らが頷くと小さく微笑む。
そして懐から隠し持っていた目的のモノを取り出した。
眩い黄色に光り輝くピュアハート。
それをマリオ達の方へ掲げるとまた一段と光り輝き、
サンデールの正面にいたピーチの手元へ渡った。
「では、私の最後の努めを果たしましょう…
さあ!このピュアハートを受け取りなさい!!」
両手を広げるとピュアハートがその手の上で浮遊する。
目がくらみそうな眩さもあるのに
どこか落ち着くような、そして勇気の出る色。
「やったね!」
「えぇ…とても綺麗で、温かい…」
《さあ、ハザマタウンへ戻りましょう…
デアールが待っているわ》
全員が頷くとピーチがピュアハートを頭の上に掲げる。
そして部屋全体が真っ白に染まると、
光の先に一つの橙色の扉が見えた。
その見た事のある光景に
神菜は笑顔で走り出し
困惑するピーチにマリオが笑みを浮かべて頷けば
そのまま先に向かった彼女を追って扉へと走り出した。
№30 勇者
-第二章END-
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