+男子トイレ+
「…」
室内の構造はよくある公共のトイレそのものだ。
ヨーロピアンな館からの無機質な空間というギャップはあるものの
これと言って不自然なものは特に見当たらない。
入って目の前に映る手洗い場の鏡を見つめる。
あまり使われていないのか水垢の様な汚れは見当たらず、
代わりに細かい埃が少々鏡全体に張り付いている状態だ。
それを拭った下には鮮明に自身が映った。
迷いの地下ルームと呼ばれる地下空間に
このようなトイレがあること自体謎ではあるものの
鏡から視線をそらし、小便器の方を見る。
「…さすがにな」
この小ささで隠れられる場所なんてあるだろかと思いながらも
三つ並ぶ便器の周辺、念のため中も覗き見るも
やはり人のいる気配はない。
想定通りの状態に日事と呟くと個室の方へ向かう。
そこも三つ用意されており、身を隠すなら丁度いい広さだ。
「ノワール伯爵の刺客がアレだっただから…
まあ最悪こっちに逃げ込む事もあるか」
一つ目の扉を開く。
だがそこには人らしき影は全くなく、壁になにかが書かれていた。
"ノコッペ愛してる、トゲッチの次に愛してる…カーくん"
「……」
何事もなかったのかのように静かに扉を閉める。
鼻で一息つくと隣にある二つ目の扉を開いた。
そこも人影らしきものは見つからず、
また壁に当たり前のように落書きがされていた。
"トイレに流していいのはトイレットペーパーと嫌な思い出だけ"
「…思い出の"気持ち"、だけな…」
本人の中でなにか心当たりがあったのか
複雑そうに落書きに頷きながらもそのまま静かに閉める。
そして一番奥にあった最後の扉を開くが、
やはりそこにも人影はおらず、落書きだけがあった。
"落書きするな!"
"↑"
"お前がするな!←お前もするな!"
「…ハァ~」
コメントも浮かばずただため息しか出なかった。
そのまま便器の蓋をおろし、腰かけると
肩肘を太股に乗せ、前屈みの状態で頭を支える。
「…てことは、アッチだな」
静かに呟き立ち上がろうとする。
しかし丁度背後の壁の奥から何やら騒がしい声が聞こえる。
空調の音も鳴らない静かな空間故に響くその声。
よくよく考えればこの壁の向こうは
神菜達が向かった女子トイレだ。
「…?」
ふと耳を当て、不穏な様子だったら飛び出そうとしたものの
どこか様子のおかしいその騒ぎ声をより観察するため
じっと息をひそめて壁に耳を密着させた。
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+女子トイレ+
女子トイレも男子トイレと変わらずよくある無機質な内装だ。
違うと言えば男子用の小便器が設置されておらず
個室のトイレが追加されている状態。
しかしその状況は説明せずとも
その形が常識として育った
神菜とピーチは気にする訳もなく。
「にしてもなぜにトイレ…」
「本当にいたらどうする?」
「いやぁ~…まあ個室の中とかならわかるけど」
そしてこちらは二人いるという事もあり
分担して手際よく扉を開き、内部を調べる。
しかし個室の隅や天井など
幻影で見たサンデールの派手な配色の女性は見当たらない。
「ん?この香り…」
そして
神菜が六つあるうちの手前から四つ目の扉を開くと
彼女の感じた事のある香りがふわりと漂った。
トイレの芳香剤の匂いではない、香水のような甘い香り。
その香りの記憶をよみがえらせようとした時だった。
「…へ?」
突然目の前の蓋の開いた便器の中に溜まる水が揺れ始める。
同時にガタガタと便器自体も小刻みに揺れ出し
異変に気付いたピーチも
神菜に合流する。
—バシャアアン
「ヘァッ!?」
「ンああぁんっ♡♡」
待ってましたと言わんばかりのタイミングで水しぶきが上がる。
飛び散る水と共になまめかしい声の主が勢いよく舞い上がり
その拍子に便器の蓋がパタリと倒れた。
飛び上がった主はゆっくりと降下し、その蓋の上に着地する。
優雅でダイナミックな登場を表現した彼女は
魔法の力だろうか、そのまま纏う水気を全て払うと
驚いて後ずさりした
神菜と付きそうピーチを見下ろした。
「ああン♡よくぞ見つけてくれました!私こそ本物のサンデール」
「は、はえ…」
「明るい日の光の様に
全ての命を輝かせることが私の高貴な努め…」
神菜の顔は引きつっている。
それも仕方のない事だろう。
どれだけ重要な存在であれど
この環境下のおかげで全てを台無しにしているからだ。
しかし当の本人はお構いなしに風貌に見合った笑みを浮かべ
ゆっくりと便器から降りると
神菜の元へ近寄る。
だが相殺されてしまったのだろうか。
最初の甘い匂いはせず、かといって激臭がする訳でもない状態だった。
「貴方が…本物のサンデール…?」
「はい。私達だけではあのマネーラとか言う者には
太刀打ちできませんでした。
だからマネーラにピュアハートを奪われないよう、
このかぐわしい場所に隠れていたのです」
「か、かぐわしい…?」
《…さすがのあの彼女も便器の中までは想定していないでしょう》
「それはそうだけど…」
「しかし貴方達がいれば話は別ですわ。
今度はこちらがマネーラを追い詰める番です。
貴方達と私の力を合わせ、この臭い仕打ちのお返しをしましょう!」
臭い場所を選んだ本人が何を言うのかと、
思った
神菜だったがなんとかせき止める。
そしてサンデールは
神菜達に背を向け、
そのまま扉の方に向かい、トイレの外に出ようとする。
しかしひらひらと飛んでいたアンナが
残された二人より先に飛び出した。
《…待って、サンデール》
「はぁい?」
「…ッ!!サンデールさん!」
そのアンナの声でサンデールが振り向いた直後だった。
彼女の予感が的中したのか、不気味な影がにじみ出る。
「そうはいきませんわ…」
「マネーラっ!」
「マネマネマネマネマネマネマネ
マネマネマネマネマネマネマネ!!」
影の正体はあの異形姿のマネーラであった。
サンデールもその異変に気付いたが既に遅く、
マネーラは不気味な声を上げながらサンデールに近付くと
二人の間から眩しい光が部屋を包み込んだ。
「なっ…に…!」
目つぶしと言わんばかりの光量に
その場にいる全員の視界の情報が遮断される。
腕で庇った目元からちらりと周囲を確認すれば
あの眩い光は消えており、いつものトイレの背景が見えていた。
腕をどかし瞼を開けば
目の前でとんでもない事が起こっていた。
「…え!?」
《厄介な事になったわね…》
そこにはサンデールが二人いたのだ。
もちろん容姿から衣服から全てが鏡映し。
しかし反転している訳でもなく、一卵性の双子のようだ。
その二人も眩さに瞼を閉じていたのか
開くとお互いに驚いた様子で睨み合っていた。
「また私の真似をっ!貴方達っ!
早くこの者を攻撃して化けの皮を剥いでおやりなさい!!」
「何を言うのです。貴方こそ偽物ではありませんかっ!
騙されてはいけません。その者を攻撃するのです」
やはり風貌・声は全く同じだ。
しかし中身が自我が出てしまうのか、微かに口調が違っている。
片方のサンデールは慌ただしい様子で
もう片方のサンデールはどこか落ち着いているようだった。
「私が本物のサンデールです!」
「私こそ本物のサンデールです!!」
ような気がしたが、
喋り続けているとそこまで大差のないようにも見えてきていた。
ただヒトはパニックになると正常な判断をできない事もある。
普段はお淑やかでも、パニックで落ち着きのない状態になど。
改めてソレも思えば、どちらでもあり得る状況だ。
「よく見るのです、この私の美しさこそ本物の証です」
「あ、えーっと…」
「いいえ、この気品漂う振る舞いこそサンデールである何よりの証拠!」
「えー…」
《…》
流石のピーチとアンナも混乱している。
すると片方のサンデールの言葉に腹をたたせたのか、
もう片方のサンデールが再び睨み合う。
「キィーっ!偽物のくせにーーっ!!」
「貴方こそ私を真似るなんて図々しいにも程がありますっ!!」
「キィーっ!!」
「キィィーっ!!!」
平手打ち、グーパンチ、引っ張り合い、掴み合い。
見るだけでも疲れる上に奇声も加わったヒステリックな喧嘩に
神菜は指で耳の穴を軽く塞いだ。
しかし早くもお互いに力尽きたのか、
各々相手を掴みながら二人揃って肩を大きく動かし息をする。
「…ねえ、本物いると思う?」
《なんでそう思うの~?》
「ア・ゲールさんとかもまあ大概だったけどさ…
なんかこう…末裔のイメージが…」
《…見た所、彼女は彼らより若そうだから…
感覚的にもまだ未熟という事じゃないかしら》
「あ~…」
呆れながらその二人を見つめていると
片方のサンデールがこちらを向いた。
完全に蚊帳の外で観戦側だった二人はビクリと反応する。
「これでは埒があきませんわ…
あの方々にどちらが本物か見極めてもらいましょう」
「ええ、望む所ですわ…
この方々なら本物の私をわかってくれるはずです」
「オホホホホホホホホホホホ…
貴方が吠え面をかくのが目に浮かびますわ」
「オホホホホホホホホホホホ…
それはこちらの台詞ですわ」
するとあの流れで仲良くなったか、
息を合わせると二人揃ってこちらを向く。
しかしその表情はとても険しい。
嫌な予感を察知した
神菜は思わず後退り、
ピーチに密着するほどの距離まで近付いた。
「「
さあ、いきますわよっ!!」」
サンデール達が揃って合図をかけた直後、
女子トイレ全体に小さな揺れが発生する。
「うわぁっ!」
「今度はなに…!?」
最初は天井がくるりと回転し
地味な蛍光灯から強烈なスポットライトに変化する。
ガシャン、と派手な照明も壁の一部分が開き降下し、
トイレの個室や鏡の縁などにも煌びやかな電飾が輝いていた。
同じように天井や床にはスピーカーも発現しており
テンポのいい軽快なBGMが流れている。
そうやって内装が変化すると同時、
勿論
神菜の居る場所にも変化は起きていて。
丁度
神菜とピーチ達がいる場所には
注目をかっさらう程の派手なセットに赤い台座。
サンデール達も同じようにセットの上に座っているが
神菜達と違い各々個別で用意されているのだ。
そしてそんな二手に分かれた状態の間に
天井からズズズとブラウン管テレビがゆっくりと現れる。
帽子と蝶ネクタイのような装飾をし、
画面には顔らしきものが映されている。
「第66回、どっちが本物のサンデールでショー!!」
「ど…えっ!?」
《
神菜~!凄いキラキラしてるどえーっす!》
それはまさにクイズ番組のセットのようなものだったのだ。
神菜のいる場所が解答者の座る席で、
サンデール達はゲスト席という所だろうか。
「これから貴方達は二人のサンデールに5つの質問をします。
二人のサンデールの答えを聞いて、
どちらが本物のサンデールか当ててください。
ただし、間違えるとエライ目に会うかもしれませんので
慎重に答えてください」
《エライ目!!?ン~~爽快に答えるべきか!ギリギリを狙うか!
どれを選んでもスリリングルグル~!》
「あんたは黙ってなさい…」
「それでは最初の質問どうぞ!」
司会者が
神菜達にそう伝えると
彼女の目の間にある台座からモニターが現れた。
そこには確かに10個の質問の選択ボタンが映し出されている。
「誕生日、食べ物、男性のタイプ…」
「出会い系のソレみたいなんだけど…」
「であいけい…?まあ、とりあえず。慎重にね?」
そしてピーチがモニターをじーっと眺める。
現れたのがそのモニターだけという事は
操作するにはボタンやペンなどはなく、
直接触れて選択するタッチパネル式という事だ。
その為、誤って触れてしまわないよう慎重に考えていると
キえマースが丁度彼女達の視界の目の前に現れる。
そしてそのままモニターに自身の下部であろう
三角形の尖った部分でそのままモニターに触れた。
「ちょっ!何を勝手に選んで!!」
《これはスリリング体験のチャンスだルン!
選ばずにはいられないルル~ン!》
「こらァっ!!ピーチ!!こいつ掴んでて!!」
「え、ええ…」
無邪気にはしゃぐキえマースをそのまま捕らえ
監視役としてピーチに引き渡すも情報が流れてしまった後だ。
司会者からコホンと咳払いが聞こえ、
神菜も振り向く。
「えぇ~と…これはちょっぴりセクシーな質問です」
「セクシー…?そんなのあったっけ…」
「お風呂に入ってまず洗う所はどこ?」
神菜の表情が露骨に苛立ちの顔になる。
眉をしかめながらキえマースを睨みつけるも
質問を聞くためにサンデール達の方へと向きなおした。
「自慢の前髪ですわ」
「自慢のお風呂場ですわ」
「…ハァ」
「ふむふなるほど…それでは次の質問をどうぞ!」
モニターに触れないよう台座に肘を置き、頭を抱える。
何故本物のサンデールも反論せず真面目に答えてしまうのか
腑に落ちない事は多々あるものの
次の質問の選択の為にモニターを改めて確認する。
「そうね…この、真ん中のはどうかしら」
「これ?確かに本人の趣味が出るかも…」
両手がふさがっているピーチの代わりに
神菜が彼女の選んだ質問を選択する。
質問する内容を選ぶと、司会者が反応した。
「それでは趣味の質問です。貴方が最近ハマっているものは?」
サンデール達はお互いに何かを思い出すように悩みだす。
「そうですわね…最近は水晶玉のカタログを眺める事ですわ」
「最近は知人とドラマ"ドスコイの国から"の再放送を見ることですわ」
「ほほうそうですか。さあ、次の質問をどうぞ!」
確かに想像通りにかなり回答の内容に幅が現れた。
キえマースが選択した質問の回答より
神菜の反応は良く、頷きながら考える。
「水晶…ねえ。水晶どっかで見なかったっけ?」
「確か…エントランスよ。青い水晶があったわ」
《ドスコイの国からってなんだビン?今のニンゲンたちの流行?》
「いや…知らないけど…そんなの見るかあ?」
「その人のイメージにない内容のものを見ている事…って、
たまにあるから、可能性は…」
「マリオが少女漫画を読んでる、みたいな?」
「…まあ、そんな感じかしら」
すると黙っていたアンナがひらりとモニターへ近付く。
彼女の事だから
神菜達は止めずに見守っていると
そのままゆっくりと質問の一つの上へと降りた。
「お、これは注目したい質問です!」
「おお?」
「貴方のチャ~~ムポインツは?」
サンデール達が各々自身の体を確認し答える。
「耳たぶの形ですわ。
いい形してるねってマニアックな方に褒められますわ」
「性格がいいところですわ。
いい性格してるねって色んな方からよく言われますわ」
「ふむ…難しいなあ」
《この質問だとはっきり分かれると思ったのだけれど…》
「どちらも気を抜いていないようね」
そして再びスクリーンを眺める。
やはり趣味の質問のように
意見が真っ二つに分かれそうな質問を探すのは難しい。
「まあ…案外深く考えず単純に選んでみたりね」
「これは可愛い質問です。貴方の好きな動物は?」
内容的にはこれといって尖った部分もなく
無難なよくある質問だ。
「ちっちゃな"こぐま"ですわ。」
「ちっちゃな"こあくま"」
「こ…あくま…?」
「こあくま、ね」
聞き間違いか、はたまたそういう名前の動物なのか。
神菜は思わず復唱するも、やはり違和感しかない。
ピーチの反応も彼女と同じ様子だった。
「な~んかやっぱ怪しい…」
《次が最後の質問…それで決まるから慎重に》
「うん…」
そして再びモニターへ視線を移すと真剣に見つめる。
最初の時よりは時間はかかったものの
決心したのか小さく頷くと静かに選択肢を選んだ。
「これはトラウマが蘇る質問です。貴方の小さい頃のアダ名は?」
「てるてる☆ボーズですわ」
「 ゲジゲジ☆マンボですわ」
《…》
「ウゥ~~ン…」
すると全ての質問を終えたからか、
モニターから熱が消え、黒い画面になる。
解答席に座る彼女達の視線は自然と前に向けられた。
「ほほう、そうですか」
司会者は答えを隠しているという身でもあるため
変わらない表情で反応し、
神菜の方を向く。
「これで5つの質問を聞き終えました。
さあ、どちらが本物のサンデールなのか!?当ててください!!」
場を盛り上げる様に勢いのある声色を放つ。
しかし彼女達の表情は依然苦しそうなままだ。
「ってもなあ…」
《趣味の質問の時…エントランスロビーに
水晶玉を置いていた話…あったわよね》
「ええ」
《そう考えると水晶のカタログを見ている…と
言っていた方が本物だと思うわ…》
「やっぱり?」
「さっきのアダ名の質問…
確かにサンデールの髪型はてるてる坊主に見えるし…」
「うんうん…」
「さっきの動物の答えも片方は動物の名前ですらなかったわ」
《なら、答えはもう明白ね…》
そしてサンデールのいる方を向く。
二人共同じ顔でお互い睨み合っていたが
神菜に気付くとこちらを向きながら笑みを浮かべる。
お互いに自然な笑みというよりは必死に作っているようだ。
「えーと、こっちの…私達から見て左のサンデール!」
指をさしながら大きな声で答えると、
司会者の表情がにやりと笑う。
「本当にそちらでいいですか?よく考えて下さいよ」
「そ…そういわれると…」
クイズ番組では定番であろう発表の焦らしだ。
ストレートに受け取てしまい萎縮するも
彼女の隣にいたトるナゲールが何かを見つけたのか
サンデール達の方へ凝らすように目を細める。
《どうしたビン?》
《むぅ~、手前のサンデールの回りに何か飛んでるどえーす》
「何か…?」
それを聞いた
神菜達も手前のサンデールを見つめる。
するとサンデールが顔を伏せ、ぽっと顔を赤らめた。
「あぁン♡そんなに見つめられたら…♡」
「あれ…もしかして…」
《…トイレに隠れていた程だから、おかしくはないけど…》
注目したサンデールは気付いていないのか
その周囲にはハエらしき羽虫が浮遊していたのだ。
ここまでくると呆れから関心に変わる。
末裔といえど、何もかもの度胸が据わりすぎているのだ。
そして彼女達の結論が出たのか、全員が頷く。
そして先程とは違う自信に満ちた表情で
神菜がビシッと左側のサンデールに指をさした。
『
左のサンデールが本物だっ!!』
清々しい姿と表情にピーチは思わず拍手を送った。
そして司会者はその力強い回答に焦らし行為をする様子はない。
「さあ、果たしてそちらが本物のサンデールなのか…
運命の瞬間です…」
「…」
「頼む頼む頼む…!」
スピーカーから流れるBGMが止み、ドラムロールが響く。
神菜達も正解を確信していたものの
両手を合わせただ祈り続けていた。
そしてシンバルの音が大きく響くと、しん、静まった。
全員が息をのむ。
「
正解~~っ!!」
「おっしゃあああああ!!」
結果が流れると同時に彼女達の頭上から紙吹雪が舞い落ちる。
神菜がガッツポーズを大きくとると
ピーチも安心したように胸を撫で下ろしていた。
本物と言われたサンデールが高笑いをあげながら立ち上がり
偽物と判断されたサンデールは俯いて座ったまま震える。
「オホホホホホホホホホホホ…流石ですわね。
私が見込んだ通りですわ」
「そんな…完璧に真似たつもりでしたのに…」
「ハエが助けてくれたわね」
ピーチがそう言葉を発すると、
偽物のサンデール、もといマネーラがピクリと反応する。
すると更に顔を沈め不気味な声をあげた。
「…こうなったら破れかぶれですわ、
貴方達全員サクっとあの世に送って差し上げましょう!」
そして派手なセット達が出てきた時の様に収納され、
無機質ないつものトイレの状態に戻ると
マネーラも紫の煙で体を覆い元の姿に戻る。
隙を見せず再びマネーラの首がメキメキとうごめき
例の異形の姿になるや否や
真横にいたサンデールが慌てた様子で咄嗟に走り出し
そのままの勢いで素早く外に出ていってしまった。
「私は陰から一生懸命応援してます!!
フレ!フレ!チャチャチャ!頑張って下さ~いっ!」
「ちょっ!勝手な!!」
「きぃぃ…逃げ足の速い女ですわね…
まあいいわ、貴方達から先に始末してあげましょう」
その言葉を聞くと
神菜達も戦闘体勢をとる。
そしてにやりと笑うと奇声の様な声をあげた。
「
マネーーー!!」
№29 vsマネーラ
トイレの中で女達の戦いが始まった。
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