+サンデールの館+
廊下に移動したのち、マリオが次元ワザで壁を調べると
何かを見つけたのか、10秒も経たないうちに戻ってくる。
そしていつものように合図をかけ、
全員が繋がりを作れば次元ワザを発動した。
「…おおっ!」
壁だった部分がぺらりとめくれ、いわゆる隠し部屋を見つけたのだ。
その暗い部屋には一つのブロックだけが設置されており
それを叩くと中から一本の線が真上にのびていく。
伸びるそれがまるで梯子のように変形すれば
マリオを先頭にピーチ、
神菜と梯子を伝い上へ登る。
「っと…」
するとそこにどうやって辿り着いたのか
一人のやせ細った囚人がふらりと佇んでいた。
後ろ姿でもその囚人の様子が変なのが分かる。
「あの…」
「クンクン…この先にマネーの匂いがするぜ…
しかも半端な格じゃねえ」
目を見開き、血走った眼球でただ先を見つめる。
まるで飢えたような瞳にピーチが言葉を失えば
マリオが彼女を後ろに移動させ、ゴホンと咳ばらいする。
その声で我に返ったのかビクリと反応し、
何度か瞬きをするとマリオの方を向いた。
「おっおう…どうしたヒゲ…と美女達よ」
「…マネーの匂いってのは、この先に何かあるのか?」
その風貌に動じずマリオが問いただせば
目の前の囚人は悔しそうに見つめていた方向へ目線を移す。
「ああ。でも途中にあるビリビリする奴が邪魔で
これ以上近付けねえんだ」
「ビリビリ?」
よく見れば彼の目の前の地面に一本の横線が張られている。
神菜もその場所ギリギリまで移動し、奥を見れば
そこには複雑な形をした電流があるのがわかった。
赤外線のセンサーのようなものではなく、
先程の発電センターの地面に走るスパークの様な電流。
立ち入りさせないよう壁のように設置されていたのだ。
「うわ~…これは…確かに」
《この壁は、すり抜けるには…》
マリオが黙った次元ワザを使うも
変化がなかったのかすぐに戻ってくるなり首を横に振る。
すると囚人がふと思い出したように声を上げた。
「こんなときに話に聞いた"ペラペラフェアリン"
ってのがいりゃあなあ…と思うぜ」
「ペラペラ…フェアリン?」
「ああ。そいつを使うとペラペラになれて、
じっと動かずにいたら何でも素通り出来るんだってよ!
この館の何処かに隠されてるって噂なんだが…」
"フェアリン"という単語に
その場にいた囚人以外の全員がピクリと反応する。
それもそうだ。
現に彼らには既に個性的なフェアリンが傍にいるのだ。
トるナゲールとボムドッカんも覚えがあるのか
ぱちぱちとまばたきをしながら見つめ合っていた。
…………………
「この館にもフェアリンはいるみたいね」
「ボム助が電波感じる~…とか言ってたのはこれの事?」
《ん~?ん~~~~~~!》
「こりゃ違うな」
《ビビン!?まだ何も言ってないビン!
ちゃんとふわ~っと感じてたビンビン!》
「ふわ~かあ」
《…マネーも欲しいけど、
そのフェアリンを探した方が早いかも…》
「そうね」
囚人からの話を聞き、手段がない事を確認すると終わると
彼をおいて先程の廊下に戻ってきていた。
そして三階部分の探索を終えて再び二階へとたどり着くと
現在立っているウォールクロックのある場所から
丁度隠し通路があった場所の真下にあたる所へと飛び移る。
そこには一つの扉と、隠し部屋のありそうな壁があった。
「まず…こっちね」
「うし!入ろう!」
そうしてまず部屋の中を確認するために扉を開く。
そこも先程の様な休憩室のような特に何もない静かな部屋で
囚人が数人、監視員が一つのブロックを見張る様に立っていた。
マリオが近くの囚人に話を聞こうとし、
それを見た
神菜も部屋をぐるりと見渡す。
そして今までの経験でブロックを見ると無意識に体が動き、
叩こうとせずともそれへと接近すると
近くで見張っていた監視員が彼女の足元に鞭をうった。
「おわっ!!」
「ここは疲れた奴等のために
疲れの吹っ飛ぶありがたーいキノコをくれてやる所だ。
このブロックを叩けば怪し…
じゃなくてジューシーなキノコが出て来るぞ」
「今なんて言いかけた?」
すると再び地面へと鞭を打ち、
神菜を睨む。
その鞭の音で体をビクつかせるも退く様子はない。
目の前の監視員はゴホンと大きく咳払いをした。
「ただぁし一回10マネー。
誰でも可愛いけりゃあただで貰えると思うなよ?
こっちも生活がかかってるんでね」
「課金制キノコって事ですか…」
「どうした?いらないのか?」
「キノコなら結構!ちゃんとお店で買った正規品があるので!」
「フン!冷やかしなら失せな!」
しかし
神菜は唇を尖らせつつも余裕の表情で
苛立ちを見せる監視員から離れ、部屋を改めて探り始める。
「……」
鞭の音で気付きそれを遠目で眺めていたマリオの姿は、
まるで旺盛な子供を見守る保護者のようで。
彼の様子に気付いたピーチは微笑ましくなりながらも話し掛けた。
「マリオ?聞いてる?」
「あ?ああ」
その声でふと我に返り、視界をピーチの方へ戻せば
丁度彼が話しかけていた囚人が不機嫌そうに様子を伺っていた。
「ああ悪い、なんだっけ?」
「…この先輩が、100マネーを渡したら
良いこと教えてやるってんだよ」
「ああ…マネーはあいつが持ってるから
先に聞かせてくれないか?」
「…」
「…わかったよ」
やはり先程まで途中で聞いていなかったのもあり
疑わしい表情で彼の顔を睨みつける。
そりゃそうか、とため息をついたマリオは
そのまま
神菜の所へと近付いた。
「ちょっと失礼」
「うわっ」
リュックの蓋を開き、収めていたマネーを取り出す。
その手元に100個あるかはわからない。
しかしそれ以上はあるだろうマネーを
とりあえず両手いっぱいに取り出すと先程の囚人に渡した。
「そうこなくっちゃな」
「で?良いことって?」
「秘密のパスワード」
先程のマリオの行動で何かを察したのか
丁度
神菜もこちらに近付いて来ており
ピーチもその言葉を聞くためにより傍に密着する。
その囚人は周りに聞こえないよう三人を自分の周りに囲わせた。
「いいか?よく聞けよ?」
「おう」
「秘密のパスワードは、"5963"だ」
「5・9・6・3…5963…」
頭に刻み込む様に復唱しつつ
ピーチは首を傾げる。
「そのパスワードは何処で使うのかしら?」
「ケッ…話したら秘密じゃなくなるだろ?
まあ覚えときゃあ何かに使えるかもな」
「…そう、ありがとう」
そして囚人に軽く頭を下げたのち
この部屋で他に何もない事を確認すると廊下に出る事にした。
「パスワードって言えば…」
「ああ。でもとりあえず、壁だ」
神菜が指を天井に指せば彼は頷くも
最初のヒントも試すべきだと、先に壁の方へ向かう。
そして
神菜達が繋がっている事を確認し次元ワザを使えば
予想通り、先程三階で起きた時と同じように
薄暗い隠し部屋が現れたのだ。
その中央には見覚えのある大きな宝箱。
その場にいる全員が頷いた。
「案外早く見つかるもんだな」
「よし!ペラペラ!こい!」
次元ワザを解き、
神菜が率先して宝箱の蓋をゆっくりと開く。
《
…知ってル?》
まだ開き切っていない蓋の中から独特な声が小さく聞こえる。
そしてチラリと小さな光を散らせると、
目にも留まらぬ速さで素早く飛び出てきた。
《
しってルンル~~ン☆》
「で、出た!」
三分割された逆三角形の胴体に同じ三角形の小さな羽。
その口調ぶりに、また面倒臭そうな性格だろうか。
宝箱の上から降り、
神菜達の正面に移動する。
《ねえしってル?しってル?》
「へ?」
《時々目を閉じたままにして…
目を開けたら世界が無くなってるかもって、
真剣に想像すると…
すっごくスリリングルグ~ル!!》
「は、はあ…」
神菜がその言葉に相槌を打てば、
その声に反応するように彼女の方を向く。
《
むむむ…! 僕の鋭い見立てによれば、
君は勇者でおじゃルンルン?ようこそおいでやす~!》
「え?いや、私」
《でも残念なお知らせルン!
君にはスリリング分が足りないルン
スリリング分が足りない人に、僕の力は貸せないルン》
「はあ…」
《よし!今から君にスリリング分を
10秒でチャージしてあげルンルン!》
「あら!結構早いわね」
《いいルン?じゃあいっくルンル~~~~ン!!!》
何故か嬉しそうに反応するピーチをちらりと見つつ
目の前のフェアリンは大きく息を吸う。
もう既に彼女以外の表情は呆れが現れているだろう。
《い~~~~~~~~~~~~ち!
に~~~~~~~~~~~~い!
よ~~~~~~~~~~~~ん!》
「あれ?」
《きゅ~~~~~~~~~~~~う!
ろ~~~~~~~~~~~~く!
さ~~~~~~~~~~~~ん!
ご~~~~~~~~~~~~お!
な~~~~~~~~~~~~な!》
飽きてきたのか労働で溜まった疲労のせいか
マリオは小さく欠伸をし、うとうととうたた寝モードに入る。
神菜の声も届かないフェアリンは
意味があるのかわからないカウントを続け、
一度声を止めると再び大きく息を吸う。
《
じゅ~~~う!!》
「うおっ」
予想以上のボリュームに足元を崩しかける。
その様子に誰も気付く事なく、
フェアリンはクルリと回ると宝箱の上に移動した。
《チャージ完了ルン☆
これで君もスリリングルグル免許皆伝!!
さあ僕と一緒にスリリングル体験にレッツゴールン!》
そして
神菜の元へ近付くと小さな光を散らし、
ぐるぐると回ると彼女の頭上で止まる
そんなこんなで
ペラペラフェアリン【キえマース】が仲間になった。
《しってル?しってルしってルンルン?》
「ん~と…」
《かくれんぼってとってもスリリングル》
『キえマース、だから…キマ!』
《…なんだルン》
さっさと進めたい
神菜が間に入れば
先程とは違う低いテンションでキえマースは反応する。
「キマはどういう所で力を使えばいいの?」
《君はそのお飾りの方で、まあ僕に触ったら
ペラペラグリリ~ン使えルンル~ン》
話を遮られた事でテンションが下がったからか
どこか気だるげのまま適当な説明を並べる。
それに苦笑していれば
トるナゲールとボムドッカんがカレに近付いた。
《最初はしんどいかもしれないけど、慣れたら楽しいビン!》
《うんうん!楽しいどえーす!》
1500年ぶりの交流もあってか
フェアリン同士励まし合っているようだ。
お前が言うな、と。
神菜はあえて心の中でツッコミを入れた。
…………………
そして無事囚人の言っていたフェアリンを見つけ、
隠し部屋から出るとパスワードのあった扉の前まで戻る。
「パスワードって言うと、もうここしかないよね」
そして何度も復唱し覚えていた数字をマリオに伝えると
その順番で設置されたボタンを押していく。
「5、9、6…3。と」
「これってご・く・ろー・さん?」
「…まあ!本当ね!」
―ポーン
[パスワード認証。どうぞ御入り下さい]
そう機械音声が流れると設置されたランプが赤から緑に変わり、
扉からガチャと鍵が開く音がした。
「よし、行くぞ」
全員の様子を確認し、部屋の中に入る。
そこも先程の発電ルームと同じように多少むさ苦しい空気が伝う。
しかしそこは換気扇ではなくエアコンが設置されており
涼しい風が程よく流れていたのだ。
そしてそこには人一人が入れる大きさの回し車があり
その中に囚人がひたすら走り続けている。
ケージに入れられたハムスターのようだ。
しかし劣悪ではない室温設定というのもあり
ブロックの発電ルームより遥かに良いだろう。
「ダダダ~ッシュッ!
回せ回せ回し尽くせ!心を込めて回し続けろ~っ!!
マーネ様は暗いのがピーマンよりも御嫌いだっ!
もっと電気を~~~~~~~っ!!」
同じように部屋の奥から監視員の大きな活が響いた。
その声で居場所を確認すると監視員の元へ行く。
「おう、ここはVIP用発電ルームだ。
車を回して発電すればその分だけマネーを得ることが出来る。
しかも一般用の発電ルームに比べて、
稼げるマネーがすんごくアップしている」
「いいじゃん!」
「賎しいマネーの亡者よ、お前もここで働きたいか?」
「10000マネー稼ぐには丁度いいな…
亡者ではないが稼がせてもらう」
すると鞭で地面を強くバチンと打ち付けると
一つだけ空きのあった黄色い回し車に鞭を指した。
「よ~し、マーネ様のために心を込めて!気持ちを込めて!
ついでになんでこんなことを…
という憤りを込めて車を回すのだ!」
「お、おう!」
「いい返事だ。さあ一人ずつ中に入るがいい!」
すると車のパカリと下半分が開く。
そのまま最初にマリオが中へ入ると自動的に回し車の扉が閉まった。
そして歩き始めると少しずつ回りはじめ
その勢いのまま走り出せば
隣にあるメーターがMAXになり、電流が流れ出した。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
…そして数分。
最初は軽快に走り込んでいたが
やはり時間も経てば足を動かすスピードも遅くなっていき
段々と体の動きも重くなっていく。
そして最後には足を止めその場に座り込んだ。
「どうした!それでおしまいか?」
「はあ…はあ…ああ、疲れた…」
「お前の走りっぷりはなかなか見事であった!
マネーオリンピック強化選手に推薦しておこう」
「オリンピック…?」
「お前がガバチョと発電したマネーを
ガバチョと受け取るがいい」
扉が開かれるとよれよれの足で床に降り、息を整える。
帽子を再びうちわ代わりにしながら監視員の元へ戻れば
心配そうに見ていたピーチが彼の元へ駆け寄った。
「ほれ!12570マネーだ」
「一万越えだ!」
隣にいた
神菜も思わず声を上げる。
大量のマネーを両腕いっぱい受け取れば
予想を越えた数だったのか、マリオも驚きの表情だった。
「とりあえず、10000たまった…が」
「なんちゅう多さだ…」
神菜の側にマネーを置くと
彼女もリュックを下ろし、中にマネーを詰め込んでいく。
そして全て詰め込むと蓋を閉じ背負う。
あのトゲトゲとしたマネーの束から
取得したアイテムもここに詰め込んでいる訳だが、
このリュックの外面は影響が出ないのか
依然としてつるりとしたフォルムのままだ。
ここはさすが古代の民の末裔という所か。
「うし…じゃあ、例の10000マネーの所に行くか」
そして体力が回復したらしいマリオが筋肉をほぐすよう腕を高く伸ばす。
他に回し車を回す囚人達を見上げながら
マリオ達はVIPルームを後にした。
№25 ペラペラフェアリン
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