+トワイランド+
「イケイケ~~~!!」
《ふぁんたすてぃっく!!》
その歓声が響く理由は目線の先にある。
進んでいた途中、マリオがブロックを壊すと
光り輝く星型のパネルが転がってきたのだ。
しかし見覚えがあるのか、それを迷いなく取れな
周囲に設置されていた風車と同じ程のサイズに巨大化したのだ。
しかも先程
神菜が出現させたピクセル調の人形のように
彼もそのピクセル調のフォルムに変化していた。
そして現在に至る。
目の前にいた雑魚敵、ブロックですらも軽々と蹴り飛ばし
神菜とピーチ達はその後をひたすら追っていたのだ。
そして真っ新になった土地をひたすら走り続けると、
効果が切れたのか、目の前の巨大マリオから煙が舞うと
いつものニンゲンの形をしたマリオが戻ってきた。
「…アンナ?」
順調に進んでいた矢先、
先導していたはずのアンナがピタリと止まる。
気付かずに進んでいたマリオと
神菜も
そのピーチの声に反応し振り向いた。
アンナは草花に囲まれていた土管を見つめていたのだ。
土管という事もあり、マリオがそこへ近寄る。
《何か…感じる。ピュアハートではないけど…》
「ふむ、」
慣れた様子で土管を確認し、
神菜とピーチの方に向きなおして頷けば
彼女達も察したように彼の後を追い、土管の中へ入った。
そこは見慣れた土管から続く地下空間だった。
しかしそれだけで、一行が潜ってきた土管しかない。
「何かしら、この部屋…」
「ん~…あ!」
ピーチが小さく唸った時、思い付いた
神菜が声をあげ、
後ろについてきていたアンナに手招きをする。
そして
神菜と近距離になった時、
アンナに向かって手をかざし、ゆらりと世界が変わった。
《段々と身についてきたわね…》
「ここまで来たらちゃんと学んでるって!」
快活な笑みを浮かべ、その場を軸に空間全体に輪をかざす。
床、壁など、何もアクションが起こらずにいる中
最後に天井付近にかざした時、アンナが反応した。
「何かあった?」
《見えない、青スイッチよ…》
「見えない?」
《…少し特殊で、実体化できない物体ね。
だから、その辺りを叩くことで触れる事ができる…》
「なるほど?」
そしてアンナの力を解除し、世界が動き出せば
マリオが彼女の一連の動きに気付いたのか、顔を動かす。
「何かあったか?」
「この上!スイッチがあるから、ジャンプしてみて」
「上…?」
神菜がスイッチがあった天井の下付近に移動する。
そして頭上を指をさして彼にそう伝えると
少し首を傾げつつも彼女の言った所に
ブロックを壊すときと同じ構えでジャンプした。
「…おおっ!」
「まあ!すごいわね」
するとそれが仕掛けだったのか、
土管のある向かい側に
今度は床から土管がズズッと出現した。
ピーチは思わず歓喜の声を上げる。
「やけに厳重だな…」
「てことは…絶対何かあるじゃん!」
どこか気持ちが躍っているような声色で
神菜が答えれば、
そのまま彼女が先に土管の中に潜っていってしまう。
今までのマリオだったらそんな先走る彼女の行動に
毎回ひやひやさせられながら見守っていたが
その逞しさの成長に感心と呆れとで笑いを零す。
「—~!—」
《…何か、聞こえるけど》
「まあ、大丈夫だろ」
土管を伝って
神菜の声が響く。
その先の空間で何かが起きているのだろうが、
マリオはマイペースに土管へ近付き潜り込み
ピーチも「あらあら」と笑みを浮かべながら後を追った。
………………
「はあはあ…どうよ…!」
マリオ達が辿りいたときにはその騒ぎは収束していた。
そこには同じ地下空間のままだが
その中央に大きな宝箱があったのだ。
神菜はそれにもたれかかるようにマリオ達を待っていた。
若干呼吸に乱れが見えるようだが。
「それは?」
「いや~なんかうじゃうじゃ分裂する変な生き物いてさあ…
トナの力でポイポイって!」
《そしたらコレが出てきたどえーす!
なんだか懐かしい匂いがするどえーす!!》
「懐かしい…?」
宝箱の上でトるナゲールがぴょんぴょんと跳ねている。
その様子を不思議そうに眺めていたが
宝箱の中身を既に知っているかのように
神菜だけはすました表情のまま宝箱に向き合った。
「まあまあ、とりあえずご対面って事で…!」
そしてそのまま宝箱の鍵を解除し
ゆっくりと蓋を開いた。
「…?」
しかし何も起きない。
予想を外したのか
神菜は首を傾げ
その宝箱の中を覗き込もうとした。
《
ビビビ~~ン!》
「うわっ!」
「うおっ」
その時、聞き覚えのある独特な音色が響く。
それと同時に何か飛び出してきた。
「まあ!」
「お…?」
「ほらやっぱり!」
それはアンナとトるナゲールと似た雰囲気を持った生物。
爆弾を模した1頭身の体で、
小さな羽をパタパタと羽ばたかせていた。
周囲を見渡し、一番近くにいた
神菜に視線を向ける。
《キミいい電波出してるね、実に破壊向きの電波だビン!》
「は…破壊!?」
《こんないい電波を出せるようになるなんて…
1500年の間にニンゲンも変わったビン!
ボクに是非是非調べさせて欲しいビン!》
「は、はい?」
《今から尋ねる質問に"はい"か"イエス"で答えるビン!》
「あの」
《いいビン?じゃあいくっきゃないビビビ~~ン!》
声をかける隙も与えられないマシンガントークに
神菜は既についていけてない様子だった。
「フェアリンか…」
「アンナや、トナちゃん?と同じコって事よね」
《…ええ》
ほぼ蚊帳の外状態のマリオ達はただ見守る事しかできない。
呆れた様子のまま、そのまま質問タイムに突入した。
《サンタクロースは誰からプレゼントを貰うのか
心配になって眠れない?》
「サンタのプレゼン」
《どっち!!?》
「アーーー!!はい!!」
彼女が答えればその反応か、
浮遊している胴体を更に跳ねさせる。
《テスト前になるとなぜか部屋が片付いていく?》
「テスト前…そんな時に片付くか…?」
《はい?!イエス?!!》
「ンン~~~!!はいはい!」
しかし答えるべき答えは結局のところどちらも肯定だ。
思わず質問内容に真面目に考える姿を見せれば
何故か目の前の爆弾の瞳は怒りだす。
神菜は半ばヤケクソも交え答えていた。
《今更「お友達でいましょう?」なんて言われても
もうあの頃に戻れない帰れない》
「えぇ…は、はい」
《何故こんなおかしな質問を次々されているか
よくわかってない?》
「はい」
《テレビの通信販売は言葉のマジックだと思う》
「あ~確かにねえ…」
《どっち!?》
「ハーイっ!!」
《シャツを裏返しに着てしまったが
面倒なのでそのまま出掛けた事がある》
「いや気付いたら…いや、はい」
「…あるな」
「フフっ」
その質問の声は勿論蚊帳の外にも聞こえている。
一応聞いていたマリオも答えるような声量ではないものの
少し考えた末に思わず声に出していた。
《寝る時はもっと起きていたいが
起きる時はもっと寝ていたいと思う》
「わかるな~はい」
《もういい加減この質問にうんざりして》
「はい~」
彼女の体の記憶では「はい」の方が馴染んでいたのだろう。
イエスとは答えずほぼ無心で応えていたが
それはそれでゲシュタルト崩壊を起こしそうな状態だ。
するとそれを最後に聞きたい事が終わったのか、
神菜から距離を取り、頭上付近に移動した。
《来てる来てるビンビン来てる~~~~~~~!!
君の電波に痺れリロン!!
決めたビン!ボクの力…君に託すビビンビ~ン!》
「はい~…」
すると爆弾フェアリンが
神菜の周りをぐるぐると回り
キラキラと小さな光を舞わせ彼女の頭上で止まった。
そんな見覚えのある光景を疲れた様子で見上げていた。
《未来は破壊の先にあるビン!
さあ壊すっきゃない…破壊電波の赴くままにビ~ン!》
そんなこんなで
爆弾フェアリン【ボムドッカん】が仲間になった。
「…ンンッ」
その騒ぎが収まった静寂にマリオの咳払いが響く。
神菜が見上げていた視線を彼に移せば
頭上のボムドッカんもそちらの方に体の向きを変える。
《ビンビン!ニンゲンがまだいるビン!?
仕方ない…改めてキミたちにも質も》
「おおおっと大丈夫だ!そいつが答えたのが全部だから!」
《?じゃあ…いっか~》
「ええと…お名前を聞いてもいいかしら?」
《ボムドッカんだビビンビ~ン!》
ぴょんぴょんとその場で跳ねる。
同種族だからもあるが、やはりトるナゲールとノリが似ており
アンナの雰囲気や落ち着きようがより引き立つ。
そんな彼女はピーチのティアラにとまったまま
巻き込まれないように静かにたたずんでいた。
「確かトナちゃんは掴みたい対象に投げたらいいけど、
ボムちゃんはどうやって力を使えばいいのかしら?」
《ボム!?ボムちゃん!?!》
「あら、ごめんなさい。不快だったかしら…?」
《ンンンン~~~ビビビ~~~ン!!!
電波ビリビリ!!不思議な感覚だビン~っ》
「よ、喜んでるのかしら…」
トナとは
神菜が名付けたあだ名だ。
それを真似るように、ボムドッカんを短く呼べば
どう対応していいかわからない反応にたじろぐ。
神菜を見てみるも、彼女の表情は無に近く
穏やかな笑みを浮かべながら静かに頷いていた。
《黒い君はそのお飾りのしてる方で、
ヒゲとピンクの君はボクを掴んで地面に置くと使えるビン!
超簡単だビン!》
「あ~なるほど?」
その言葉で理解したのか、マリオはふと周囲を見渡す。
壁を見たとき、何かを見つけたのかじっと確認すると
さっそくボムドッカんを鷲掴みにした。
すると先程まで生き生きとしていたカレの瞼が閉じ
フェアリンの形状を全て消し去った爆弾の形に変化する。
そんな変化に見守っていた
神菜は声を上げ
何かを見つけた壁の方に向かうマリオの背中を見る。
その背中越しの壁をよく確認してみると
壁のレンガ模様に馴染むようにヒビが下部から広がっていた。
掴んだボムドッカんをそのヒビ付近に設置すれば
どこから現れたのか爆弾の頭に付いている導線に
チリチリと火花が散らし始め、カウントダウンが始まる。
—ドカァアンッ!
「ウワっ!?」
それを見た彼らは各々防御態勢を取った。
その瞬間大きな音が鳴り響き
ボムドッカんの丸い体が弾け飛んだ。
その小さな体とは裏腹に爆発の煙が彼らを纏い、
一瞬だけ視界が真っ白になる。
「ゴホッ…おお」
ピーチと並んでかばい合うように衝撃に耐え、
白い煙が消えると目の前には大きく砕かれた壁が現れる。
そして弾けたはずのボムドッカんが
何事もなかったように目の前で浮遊していた。
「まあ!凄い威力ね」
《当たり前だビン!ボクの破壊電波は
誰にも阻止できないビ~~ン!》
陽気に浮遊するボムドッカんを横目に
マリオはその割れた壁の奥を覗けば
破壊された壁からポロポロと欠片が崩れた。
「ひび割れのある所で使える…って事?」
「俺の経験上ではな」
「ひびがないと無理なのか…」
《ボクの力にも限界はあるビン!横暴だビン!》
「でも今まで持ってなかった手段なんでしょう?
きっととても力になってくれるわよ」
飛び跳ねている動きはそのままだが表情は変わっており、
プリプリと不機嫌そうな感情を表現していた。
能力の限界があるというのはトるナゲールと同じようだ。
マリオはそこから手に入れたらしいカードを持っている。
触れても弾けないそのカードの用途は不明なものの、
そこには見覚えのあるヒトがいた。
「これ…」
自ら撮ったのか、そのヒトの目線がこちらと合う状況の写真で
何とも言えないすまし顔がそこに映っていた。
№20 爆弾フェアリン
「デアールに持って帰ってやったら?」
「あ~いいかもね!」
興味なさそうにそのカードを眺めた後
背負っていたリュックの奥底にソレを詰め込んだ。
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