+館の地下+
「ハアッ…なにあれ!?もうホラーだよ…!」
「彼女は…一体…」
あの衝撃的な光景を見た部屋から少し逃げ回り
ようやく落ち着いたフロアで息を整える。
マリオは安定して冷静さを保っていたが
神菜はひたすらに怯え、ピーチも黙り込む。
そして一番最初に休息を終えたマリオが
部屋に設置されているプレートに近付き、埃を払った。
《ルーム08どえーす!
キえマースのカウントばりのぶっ飛びどえーす》
《ルン?》
「途中の部屋もまともに見れなかったからな…
ここからどうしたもんか…」
このルーム08と呼ばれるフロアには
先程入ってきた扉を含め4つあった。
彼らがいる場所とその頭上に足場付きの扉。
その構造と全く同じものが部屋の奥にもあり
出入りをするとすれば3つの選択肢がある状態だ。
すると考え込んでいたピーチがふと思い付く。
「…丁度三つあるから、一人ずつ分かれるのはどう?」
「え?」
「ピーチ姫は一人で大丈夫か?」
「言うと思った。
私なら大丈夫よ!いつも過保護にされたら困るわ」
「あ…ああ」
するとクスッと笑みを浮かべ、
どこか凛々しい表情で胸をはる。
きっとマネーラを前にした時、
マリオと並んで
神菜も彼女を守ろうと
前に出ていたのをピーチはちゃんと見ていたのだろう。
困惑しながらも頷けば
そのままピーチが歩きだし、下にある扉へと近付く。
「じゃあ私はこっち行くよ!」
それを聞いていた
神菜も近くのブロックによじ登り
ピーチが入ろうとする扉の頭上にある
足場付きの扉へと走り出した。
「…まあ、バラけた方がアレは撒けるか」
頭をガシガシと掻きながら無理やり納得させると
マリオも残った扉へと近付こうとする。
すると部屋の誰もいない空間から
カサカサと不快な音が僅かに聞こえた。
一同はその場で身構え、警戒態勢を取ると
空間の一部がじんわりと歪む。
「マネネェ~ン…」
「っ!」
「きた!」
想定通り、そこから変形したマネーラが現れたのだ。
そして未だにプレートの前に立っていたマリオを見つけると
マネーを飛び出させ彼に攻撃をし始める。
それを素早く避けるとブロックを使い
行こうとていた扉へと近付く。
「気をつけてよ!」
「わかってる!」
そして三人同時に扉を開き、逃げ込むように中へと入った。
「チッ…絶対逃がさないんだから…!」
誰もいなくなった空間でマネーラも吐き捨てる。
そして移動魔法でその場から消え、後を追った。
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《
神菜~大丈夫?》
「うん…うん、大丈夫」
閉じた扉にもたれかかり息を整える。
落ち着いてきた頃合いを見て早速入ったフロアを見渡し、
足場の下にある一階部分を見下ろした。
「あ!ピーチ!」
「あら!ここは繋がっていたのね」
そこにはピーチも辿り着いており
こちらに気付くと
神菜も彼女の元へ降りる。
偶然にも三人同時に入ったうち、
この二人の扉は同じ部屋に繋がっていたのだ。
合流し、お互い安堵の笑みを向け合うと
今までのフロアでもやってきたようにプレートを確認した。
「ルーム07…戻ってるわね」
「少しでも間違うと迷っちゃいそう…あ、」
そう呟きながら改めて今の位置から周囲を見渡せば
何かを見つけたのか、近くにある足場をよじ登り
彼女が入ってきた扉の隣にある足場へ移動する。
そこには扉も何もなく
ただ不自然に足場が設置されているだけだ。
ピーチもその様子を見ながら彼女の後を追う。
「どうしたの?」
「いや…なんかあるかなーって思ったら、
ここにひび割れっぽいのが」
「ひび割れ…?」
神菜が片手を壁に触れる。
そこは本来であれば扉があってもおかしくない場所だが
触れた箇所には一本の歪な縦線が地面から伸びていたのだ。
一部分に触れてみると脆くなっているのか
ポロリと壁のかけらも崩れ落ちる。
「あら…じゃあ、こういう時は、」
「そう!ボム助!」
《ビビ~ン!破壊の電波が呼んでいるビン!》
どうやらピーチの後ろについて来ていたらしい
ボムドッカんを掴みあげると、
ひび割れのある壁の近くに置く。
チリチリと導火線が発動したのを確認すると
その場から少し離れ、足場の端まで下がろうとした。
「
神菜!大丈夫よ」
「え?」
するとピーチが
神菜の腕を引き、自分の側へ引き寄せる。
そのままパラソルを開けばその場でしゃがみ込み、
それを盾のように扱い身を隠した。
「っ……おお!」
その姿勢になった瞬間、目の前に爆音と風が流れる。
相変わらずの大きな爆発音に慣れないのか体が反応するも
目の前のパラソルでガードされていたおかげか
若干その衝撃が軽減されていた。
そしてパラソルを閉じると
壁に空いた穴よりもピーチの持つパラソルに視線が向いた。
「ね?大丈夫って言ったでしょ?」
「何という万能パラソル…」
コツンと地面に立てるパラソルを見たのち、
爆発によって現れた穴の奥を覗き込む為壁に近付く。
「お!あったりい!」
ただのくぼみではなく、照明などは一切ないものの
人一人分は入れそうな道らしき空間があるのはわかった。
その隠れた道へと少しだけ足を踏み入れて覗き込めば
暗闇と同化するように扉らしき影も見つける。
以前までの経験で蓄積された彼女の直感は的中していた。
少し心に余裕が出来たのか、喜びの感情を露わにする。
背後で見守っていたピーチも彼女のその様子を
微笑ましく眺めていた。
「…?」
しかしそんな事を思っていると、何か嫌な気配を感じ取る。
気付いたピーチが静かに振り向けば
確かにそこには嫌な気配の主が存在していた。
「マネェ…みぃつけたぁ♡」
「ッ!
神菜っ!!早く奥の方へ!」
「え!?」
歪な笑みを向けるマネーラがいたのだ。
フロアの一階に辿り着いていたのか、
丁度浮いた頭部が二階部分まで丁度届いており
マネーラの生首がぎょろりと覗かせている状態だった。
それはまるでパニックホラー映画のような光景だ。
驚いたピーチを見るなり、マネーラはまたニヤリと笑う。
脚を器用に扱いピーチ達のいる二階へとよじ登ろうとすれば
ピーチも壁の中へいる
神菜の背中を押し
壁の奥の方へ急いで移動しようとした。
「させなぁいっ!!」
しかしマネーラの速度も負けておらず
二階へ到達した彼女の脚がピーチの背中に向けられ
そのまま貫こうと一気に突き出した。
「ッ!!」
「きゃあっ!」
鋭い脚は空を切り、壁と地面の間付近に突き刺さる。
気付けば二人はそのまま地面に倒れており
ピーチが
神菜が並んで横たわる体勢になっていた。
しかしよく見れば
神菜の腕がピーチの胴体へ巻き付いており
どちらかといえば彼女がピーチを引き寄せて共に倒れた、
という方が正しいような状態だろう。
その咄嗟の行動を起こした
神菜が先に立ち上がると
マネーラの動向を確認するために視線を穴の外へ向ける。
案の定、マネーラはその深く突き刺さった脚で
見事に身動きが取れなくなっており
抜き取ろうと身をよじらせている状態だった。
「ピーチ!扉があるからそこに逃げよう!」
その隙を見て倒れるピーチと抱き起すと
共に奥へと走っていく。
「
神菜っ…!」
「いきなりごめん!怪我してない?」
「私は大丈夫っ…」
扉に手をかけようとした時、ふと穴の方へ視線を向ければ
丁度脚を抜き取ってこちらを覗き込むマネーラが映る。
今の彼女の状態に瞳はないものの、
一瞬合ったような気がした不気味な視線から逃げるよう
急いでその扉の先へと進もうとした。
しかし中に入ると何か違和感を感じる。
それはまるで浮遊しているような。
「……ってうわっちょっま!」
そこには案の定足の踏み場所はなく
中に入ると床へ落ちるようになっていた。
それは先程なんとか回避した扉の構造であったが
今の彼女にそれを考える余裕なんてある訳がない。
気付いた時はもう遅く、そのまま床へたたき付けられた。
「いっ…たあ!」
《大丈夫~?》
「もお踏んだり蹴ったりだよ…」
着地を失敗し尻餅をつく。
ピーチはパラソルでゆっくり下ってきており
その道中で何かを見つけたのか声を上げた。
「あら…?マリオ!」
「あ?…あっ!」
そこには二匹のバクーと格闘するマリオがいたのだ。
その表情はもう必死の状態で、
彼女達に気付くと大きく手招きのジェスチャーを振った。
「おい!ボム!!来い!」
《ビビ~ン?》
「呑気に返事する前に!仕事!!」
相当危ない状態なのか、怒鳴り付けるように叫ぶ。
ボムドッカんは相変わらずフェアリン特有のマイペースさで
ゆるゆるとマリオの所へ飛んでいく。
ボムドッカんの体を掴み、バクーの口が開くと
その中に狙いを定めて爆弾を投げ入れた。
そして爆発と共に弾けるように消えると
神菜達もマリオの所へ駆け寄った。
「何がどうしてそんな必死になってたのさ」
「こいつらが邪魔でブロックを出せなかったんだ…ハァ…」
彼の元に付いて来ていたフェアリンは
アンナを除けばキえマースだけだった。
バクーの対処法にボムドッカんが有効なのは知っていたのもあり
カレがいないと不利な状況なのはすぐに理解したものの
ただあのキえマースを見て、何となく哀れみの瞳のまま静かに頷いた。
そして妨害者が消えた事で出せるようになったらしい回転ブロックを
次元ワザとジャンプを使って出現させる。
それを踏み台として登り、飛び上がれば
彼女達がさっき入ってきた所の向かいにある足場に辿り着く。
対になる場所に設置されていた足場だ。
そこに設置されていた扉の所へ行く。
「そういやさっきマネーラに見つかってさ…
多分まだ近くにいるよ」
「厄介だな…さっさとサンデールを見つけよう」
思っていたよりも早かった合流で全員が揃うと
そのままマリオを先頭に新たな扉の先へと進んだ。
…………………
「…お」
「さっきまでの部屋と、少し変わったわね」
内装の雰囲気は迷いの地下ルームと変わらないものの、
天井から奥行きまで広さが倍以上になっていた。
一声大声を出してみればその広さゆえに反響もする。
しかしブロックや壁に設置されている足場的なものはなく、
扉が一つ、足場もない上部の壁に張り付いているだけだった。
《近い…ピュアハートはすぐ近くにあるわ…》
「お!正解ルート?」
《きっとそう…》
「でも…何かいるわね」
先程のマネーラの件もあってか
気配の察知に敏感になったピーチがぎゅっとパラソルを握る。
マリオと
神菜も彼女の視線の先を見つめた。
「…」
実際そこには何もないのだが
目を凝らして凝視してみればうっすらとなにかが映る。
大きな丸い体で、目元を隠すポーズをしているソレ。
ちら、ちら、とたまに手を少しだけ避けこちらを見るも
こちらが見ているとわかると咄嗟に目元を隠す。
幻覚を見ているような光景であろうが
明らかにマリオ達の視線に反応しているようだった。
「なんか…可愛いかも?」
「あ~テレサだな…相変わらずまる見えだな」
「この世界にもいるのね」
「テレサ…」
「ん~…うし、トナ。来い」
《ん~ん?》
するとマリオがトるナゲールに合図を送ると前へ進む。
するりとその透ける物体を通り過ぎると突然立ち止まり、
その影が見えた方に背中を向けたまま停止する。
するとマリオを追っていたテレサが背を向けた彼を見るなり、
くるりと体の向きを変えるとジワリと実体を露わにした。
にたりと笑みを浮かべながら両手を広げ、接近する。
「おりゃっと!」
「ケッ!ケケッ!」
が、マリオの動きの方がそのテレサより素早く
トるナゲールの力を使ってその実体を掴みあげてしまった。
「…あっ!その声!聞き覚えある!」
「テレサを知っているの?」
「知ってる…気がするし、この館で聞いたというか…」
そんな抵抗する声に
神菜が何やら反応を示していたが
マリオは構わずその捕らえたテレサを片手に歩きだす。
その方向は今さっき開いたばかりの扉の方向で、
扉を開くなりそのまま外へ無理やり押し付け、テレサを放り投げた。
そして扉を閉めると両手を払い、
一仕事終えたようにすっきりした様子になっていた。
「テレサなら通り抜けてきそうな気もするけど…」
「まあ、次来たらちゃんと成仏させるから大丈夫だ」
握りこぶしから親指を立て、
テレサがいるであろう扉の向こう側を指させば
ピーチは安心したような、しかし呆れたように笑みを浮かべた。
そしてマリオとピーチの視線が部屋の奥に向けたと同時に
いつの間にか探索していた
神菜がこちらに戻ってくる
「何かあったか?」
「あの扉ぐらいかなあ」
「扉?」
すると彼女が部屋の奥の壁を指をさす
確かに足場のない扉が不自然な形で設置されており
その壁に近付けば、何かがあった跡が残されていた。
劣化による色の変化か、何かの焼け跡か。
黒く変色したシルエットが届かない扉の方へと続いている。
「んん~…あ!わかった!」
そのシルエットの正体を考えながら眺めていれば
神菜が何かを思いついたのか、
声をあげるなり、腕輪のある手で彼女の能力を発動させると
例の跡が残っている壁の方へと向けた。
するとその跡が大きく光り、
視界が一瞬真っ白になる。
「…きた!」
「…まあ!」
その光がやむと、跡のあった位置と同じ所に
木造のスケルトン階段が現れていたのだ。
勿論例の扉の所に届いており、足場も発現している。
《きっとこの先に…》
そしてそのまま階段をのぼり、扉の前まで近付く。
この先にも迷路の様な通路がないことを願いながら扉を開けた。
「…ん?」
その願いは思ったよりも早く叶ったが
目の前に映る光景は予想外のだった。
「ト…トイレ…?」
どういう構造をしてここにトイレがあるのかというのは
言っていても仕方がないという事で誰も追求はしない。
しかし目の前には見慣れた青と赤の人型シルエットのシンボル。
商業施設などの屋外の施設で見かける例のアレだ。
「でも扉はここしかないわ。
私達は女子トイレを調べるから、マリオは男子トイレね」
「ああ」
そのシンボルを一目見れば行きつく場所は必然と決まる。
マリオが男子トイレ、
神菜とピーチが女子トイレの方へ近付くと
アンナや他のフェアリン達が
神菜の所へと続いて行った。
中へ入る前にその行動に気付いてしまったマリオは
何か言い足そうに女性陣を見つめた。
「どうした~?」
「一人でもこっちに来るっていう発想はなかったのか?」
その視線の先はその女性陣というよりは
彼女達の背後で浮遊するフェアリン達だった。
神菜とピーチが振り向けば、各々リアクションを見せる。
「アンナは女の子だからこっちでしょ?」
《ボクチンは
神菜の相棒だからどえーす!》
《レディーたちを助けられるのはボクの力ぐらいだビン!》
《もしかして入っちゃイケない禁断の地に踏み入れている…!?
なんというスリリングルグル~~!!》
「オーケーわかった。俺一人で良い」
彼女達とマリオの普段の戦法的に考えて
そこから残るフェアリンを察知したのか彼の回答はすぐに出た。
ピーチはその迅速な話の流れに思わず笑いを零している。
「わかった。気を付けてね、マリオ」
「そっちもな」
そう言葉を交わすと
二人同時に扉を開け、トイレの中へと入って行く。
呆然とその光景を見ていた
神菜も
遅れないようにピーチの後を追った。
№28 絡みあう迷路
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