+暗黒城+
マネーラと
マオは例の鍵に関するモノをひたすら探していた。
城の中で見つけたものでひたすら鍵を合わせてみるものの
何一つ合わず、それをひたすら繰り返している状態だ。
「はぁあ~!ねえ、なんか見つけたあー?」
「ないね…」
二人は城内で書物が多く保管されている書庫にいた。
しばらく使われていないのか、綺麗とは言い難いその部屋には
収納されている本から乱雑に外に積まれている本、
そして黒い部屋でよく目立つ埃が所々舞っていた。
彼女達はそこで本棚から抜き、確認して戻し、
積まれた本を上から取り、確認して隣に積み上げる。
それの繰り返しだ。
「というか…本の中に鍵穴とかある?」
「中っていうか~あるじゃない?鍵付きの日記帳とかさ!」
「なるほど…」
マオは取った本のページをひたすらめくっていたが
よく見ればマネーラは表紙を見ては戻しを繰り返している。
それを見た
マオは納得したように頷くと
手元の本を本棚に戻し、別の本を探す。
「…ん?」
すると何か感じ、動きを止めた。
曖昧なその感覚が伝わった視線の先にある本。
一般的な書物と比べて質感が目立つそれを手に取ってみれば
鍵穴はないものの題名も作者名もない真っ白な本だった。
しかも表紙の感触はやはり紙というよりかは
それよりも硬い、石の様な感触だった。
鍵穴探しの事をすっかり忘れ、そのまま異質な表紙を開く。
ただ最初の数ページは白紙だったが
何度か開けば左右のページを大胆に使った絵が現れた。
「…ハート」
可愛らしい絵本のような絵柄。
最初に出てきたのは柔らかい白のハートだった。
本のノド部分を中心にし対称的に描かれたハートで
片方のページが上部分から少しだけ剝がれかけている。
それはまるでハートの上から
ひびが入っているような表現にも見えるだろう。
破れないようにそのページを優しく押さえつつ、
下に書かれていた文字らしきものに目線を移した。
「なあに読んでるのっ?」
彼女の様子を見たのかマネーラも横から覗き込む。
可愛い絵柄に「あら!」と声を漏らすも
下にある文字で一気に険しくなる。
「なにコレ。何語?」
「それが…わたしにもわからないの」
「ふぅん…こんな不思議な本もあるって…
伯爵様ったらほんっと~ス・テ・キ♡」
両手を頬にあてうっとりした様子に
マオは不思議そうに見つめる。
「な、なんで伯爵様が出てくるの?」
「だってココは世界を再築するために集めた
色んな情報の集大成なのよ!」
「そう…?でもそれを今無断で漁っちゃってるけどいいのかな」
「ま~ソレもただの噂話だし!きっといーのよ!
アウトならなっちゃんが飛んでくるだろうしね」
「直接聞いたわけじゃないんだ…」
「でも実際に使ってたとしたらかなり貴重よ?
アタシたちも伯爵様に付いて行けるよう、
得られるものは回収しておかないと!ってね~」
得られるものは回収する。
どこかで聞いたことのあるフレーズに苦笑を浮かべる。
そういったマネーラは手に持っていた本を掲げながら
マオの元から離れていった。
彼女の絵本を解読できない事を自覚して
自分の持ち場へと戻ろうとしているのであろう。
マオも離れていくマネーラを見送ると再び絵本に視線を向ける。
読めない文章は諦めるもどことなく惹かれていた衝動は消えておらず、
そのままページを開く。
「…?」
ハートの絵柄から数ページめくると
先程と同じように二枚分使った大きな絵が現れる。
そこにはハートの時の様に一つの絵柄ではなく
複数の絵柄が描かれていた。
一番目立ったのは巨人のようなヒトの絵。
それが小さな人達の中に混じっているが、
どちらかといえば人の波に流されている方が近い表現かもしれない。
そんな彼らの頭上には黄色の光の玉が飛んでいる描写。
しかし誰もその光の存在に気付いていない。
そして相変わらず読めない文章もあった。
「なんの物語なんだろう…」
ページは途切れ途切れかつ、読めない文章。
しかし統一性のある絵柄が続いて現れるこの本は
何かしらのメッセージであることは
マオの中で少し感じていた。
ページを開き、また白の無地が現れたと落胆する。
そしてまたページを開こうと右側のページを見た。
「…なに、これ」
そこに文字はなければ絵も描かれていない
ただページの中央に穴があったのだ。
後ろのページを抉る様に現れた穴はハートの形を模っており
そのハートの上部には半円の管が繋がっている。
どういうものなのかは不明だが、
明らかに何かをはめ込むような形だ。
—ガタン
「あっ!あーー!!
マオ~~~っ!」
「えっ?」
その時、どこか慌てた様子のマネーラが呼ぶ声が響く。
しかしその声は積まれた本の向こうからで、
その本は彼女の背後にあるものだ。
見上げた時にはまるでジェンガの様にゆらりと揺れていて。
マオの上に勢いよく本達が降り注いできた。
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「これはまあ、派手にやったねぇ」
大量の本の海に沈んだ
マオを救出しようとする際
その音で聞きつけたのかただ単に寄り道をしてきたのか。
通りかかったディメーンが現れ、
荒れた本を一緒に片付けてくれた。
…というよりは、適当に拾っては椅子に座って読み始め、
殆ど救出活動をするマネーラの様子を見ているだけだったが。
どうしてこんな状況になったのか。
マネーラが動く際に積み上げられた本にぶつかり、
その勢いで山が崩れ、目の前にいた
マオを
見事に飲み込んでしまったのだ。
ただの事故ではあったが
マネーラが慌てていたのはそういう事だ。
「こんな誰も使ってない部屋、
いきなり探索しだしてどうしたのさ」
「あんたには関係ないでしょーよ!」
「んっふっふ…仲間外れかい?悲しいなぁ~」
表情は変わらずともわざとらしく声のトーンを変えて反応する。
マネーラはぎょっとした表情で睨み
救出された
マオは苦笑を浮かべていた。
「ちょっとした調べものだよ。ほら、やっと計画が進行したから…」
「なるほどねぇ…ヨゲン通りとはいえ勇者も現れちゃったしね。
こういうのに邪魔立てが入ると雲行きが怪しくなりやすいんだよな~」
「伯爵様が練り練りに練って練りまくった計画を否定する気ィ?」
「違うよ~僕はスマートにこなしたいタイプだからさ。
勇者ってホント面倒だな~って」
「あはは…確かにね」
椅子に座ったまま読んでいた本を途中で閉じ机に置く。
そして隣の椅子に座っていた
マオの方に目線を移せば
彼女の手元にある本に気付きじっと見つめた。
「ねえ。それなぁに?」
「コレ…?わたしにもわからないんだけど、文字が読めなくて」
「文字?異国の言語って事かな。見せてよ」
「
マオの収穫物なんだから盗まないでよね!?」
「わかってるって~」
手のひらを上に向け、
マオに催促するようクイッと動かす。
彼女とディメーンの間にいたマネーラが威嚇をするも
どうせ読めないとわかっている
マオはディメーンに本を手渡した。
静かに見守る中、彼はその場から消える様子もなく
渡された本の表紙と裏表紙をじっくりの観察している。
やはりディメーンからしても異質な素材なのだろうか。
表情は変わらないものの、その流れのまま表紙を開く。
「…おや」
…はずだった。
傍から見ても本当に力を入れているように見える。
しかしその表紙は頑なに開こうとはせず、
ビクともしなかった。
「…わざとやってる?」
「そんな訳…ん~なんだろ。コレ」
強力な魔法を操るようなディメーンでも不可思議な現象に
マネーラは思わずその本をひったくって
同じように表紙に手をかけた。
「…ハッ!?ン~~~ぐぐぐぐ……」
その一回で異常に気付いたのか、
ディメーンの時よりも力んだ様子で表紙に手をかけようとする。
しかしマネーラの力でも石の表紙は開かない。
「はあはあ…なによコレ!」
「でも
マオは普通に開けたんだよね?」
「う、うん…」
そう頷けば疲労で力が抜けたマネーラから
今度はディメーンが本を引き抜くとその流れで何も言わず
目の前にいる
マオの方へ本を差し出した。
ニコニコと笑うような仮面はどこか期待に満ちている。
「…ほら、開いた」
「えぇ!?なんでぇ…」
「…」
やはり彼女が手をかけるとすんなり開く。
普通の表紙を持ち上げるように指の力だけで触れば白い見返しが覗いた。
そしてペラペラとめくり、あの絵柄のあるページまで動かすと
マネーラとディメーンも食いつくように本を見下ろした。
「これ!」
「ふぅん……」
「何が書いてるか、わかる?」
「……いやぁ。さすがの僕もお手上げかなあ」
「もぉなによそれ!」
彼のだんまりに食い入るように見つめていたマネーラが肩を落とす。
マオも小さくため息をつけば、ディメーンは彼女達から離れた。
「でも
マオだけが開けるって不思議だねぇ」
「本当にねぇ。伯爵様どこでこんな本手に入れたのかしら…」
「え、ソレ伯爵の私物なの?」
「ってゆー噂を聞いただけ!ていうか何アンタ伯爵様の事を雑に!」
「じゃないなら
マオが持っておきなよ」
「わ、わたしが?」
相変わらずぶつかり合う二人を
眺めていた
マオが反応した。
開いていた表紙を閉じ、石素材の表紙を撫でる。
「君にしか開けないんだったら他の誰かが持ってても意味ないしさ~」
「それは…そうだけど」
「必要そうだったら保管して、なさそうだったら捨てればいいんだよ」
「まあ、それはそうね」
「最悪武器として使えそうじゃな~い?こう、ガッて♪」
片腕を持ち上げ、何かを持つような状態のまま勢いよく振り下ろす。
それはこの表紙と裏表紙の硬さを理解したうえでの助言であろう。
冗談か否かもわからない言葉に、
マオは愛想笑いをするしかなかった。
№7 動き始める鼓動
「ところでアンタどっか行くって言ってたじゃない。
なのになんでまだ城にいるのよ」
「準備だよ~お出かけには必要でしょ?
あ、マネーラは手ぶらでいくんだ~?」
「いちいち癇に障るヤツぅ…!!」
「まあまあ…」
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