+ラインラインマウンテン+
先に進めば案の定待機していたノコノコ達に立ち塞がれるも
流石に慣れた
神菜と
安定した動きのマリオによって薙ぎ払われる。
始めは辛く感じた箱のリフトにも慣れてきたのか
徐々に楽しさが勝り、荒々しい山道の旅路も順調に進んでいた。
「…っとああ!!?」
「マリオ!!」
先頭を歩くマリオがガクンと体勢を崩すも
咄嗟に
神菜の差し出した腕に掴まれる。
彼の踏み外した片脚は宙に浮きかけており、
もう片方の脚で踏ん張った拍子で
ぽろぽろと土と石が下へ転げ落ちる。
山道の段差と思った先を見下ろせば
道なんてものは一切見えないこげ茶の山々。
目の前の光景と彼女のその一瞬の判断の行動と
様々な驚きはありつつも
彼はそのまま地上に引き戻され、事なきを得た。
「っ…悪い」
「びっくりしたなあ、もう」
《…マリオ》
「ん?」
そしてその崖から視線を上げ、進もうとしていた先を見る。
そこには集落であろう、
この山道では一切見かけなかったシルエットが見えた。
そしてひらりとアンナが舞うと
その落ちかけた崖の傍に刺さっていた看板にとまり、
二人はそこに注目した。
「【現在通行禁止!橋の管理人 レド】」
「禁止ぃ!?どうやって行けっていうの?」
目前に迫っていたオアシスを前に思わず声を上げる。
しかしマリオはただ冷静に周囲を見渡すと、
何かを見つけたのかその看板の後ろに見える
そびえ立つ山を目を凝らして見つめた。
「…なるほどな」
「え?」
《…なるほどね》
「え??」
神菜は置き去り状態のまま
マリオとアンナが口を揃える。
すると先程の辿った道を戻り、
そこに不自然に覗かせていた土管に近付く。
多少ボロついていつつも
明らかに管理されているのがわかる状態。
気にせず無視していたそれに
マリオはそのまま上半身を突っ込んだ。
その最中、
神菜も二人が目で追っていた山を眺めており
遠くで霞むシルエットだが、
マリオ達が納得した理由を静かに理解し頷いた。
そこに同じように土管と家らしき建物が
そこにぽつんとあったのだ。
「やっぱり開通してるヤツだ。ここから行けるな」
すると土管に入る事無く
神菜の方へ振り向く。
近付く気配に気付いた彼女はきょとんと彼を見た。
「一応何が起きるかわからないからな。
お前は一旦ここで待機しててくれ」
「えっ大丈夫?」
「ま~厄介な奴らもいないし…
管理人がちゃんと居れば交渉するだけだしさ」
そう看板を指さし、
その流れで山の向こうにある家に指先を向ける。
「確かに」と彼女は素直にそのまま頷いた。
それを確認したマリオは土管に飛び乗り、
足から飛び込むように中へ潜った。
アンナもマリオに続いて土管の中に入る。
そうして一人取り残された
神菜は
土管にもたれる形でしゃがみ込み、
リュックを背中から手前に移動させると一息ついた。
しゃがみ込んだ体勢のまま、なんとなく空を見上げる。
見れば青い空にどこか特徴的な雲がふわふわと浮いており
ただ静かに穏やかな山の風を運んでいた。
そして違和感と言わんばかりの次元のあな。
ハザマタウンで見かけたときと殆ど同じ大きさの黒粒が
当たり前の様に青空の真ん中に鎮座している。
あんなちっぽけなものが世界を覆い、滅びる。
「セカイが歪み…追放された…」
無意識にそんな言葉を並べる。
覚えていたわけではない。ただ無意識に頭に浮かんだ言葉。
ハザマタウンで目覚める前に映し出された光。夢。幻。
「…あの事、デアールさんに伝えそびれちゃったけど。
帰ったとき覚えてたら言っとくかあ」
そんなことも思いつつ、
リュックの中にあるキノコ缶を手にとる。
マリオが旅に出る際に調達していたアイテムの一つだ。
無駄な消費はいけないと、口にしていたし思っていたが
純粋にどんな中身をしているのかの
興味心が勝ってしまっていたのだ。
「瓶ならなんとなくわかるけどさあ、
缶ってなんだろ。非常食…」
缶詰の蓋に手をかけたその時。
—
ガッシャァアアン!「よおぉっ!!?」
心臓が飛び出す程の大きな音と揺れる大地。
情けない声をあげその場で土管にへばりつく。
コロコロと転がるキノコ缶を眺めていると
へばりついていた土管からも振動が伝わってきている。
「な…何…!?」
音のした方を向けば、
先程までなかった木造の橋が架かっていた。
山の中でよく見かけるようなシンプル構造な飛橋だ。
先程の地揺れと轟音はこの橋が架かった音だったのだ。
「ういしょっと」
するとへばりついていた土管からマリオ達が戻ってくる。
神菜の姿に一瞬ギョッと驚きつつも、
目の前の橋を見るなり表情が一気に安堵した様子に戻った。
「おお!かかってるかかってる」
「ちゃんと管理人さんいたんだ」
「ああ。どうやら通り抜け禁止の村らしくてさ。
だから橋を架けずに監視していた…らしい」
「訳アリ村ってこと?」
《ピュアハートではない何かを感じる…きっとソレ…》
「ふうん…」
橋の向こうの集落を見つめる。
あの地揺れと轟音だ。
さすがのあの村の住人も反応していたのだろう、
先程まで見えなかったヒト影がぞろぞろと増えている。
それらを確認し、合流したマリオ達もかかった橋を渡った。
……
大きなヤシの木に並んだ樽。
どこか歴史を感じさせる石造りの家が並び
家と家と繋ぐように縄が吊るされ、洗濯物が揺れる。
綺麗に整備されたハザマタウンと比べれば、
発展があまり進んでいないような印象だった。
山道よりは整えられた土の地面を歩けば
住民たちは怪訝な様子でマリオ達を出迎える。
「通り抜け禁止って事だから、
まあそういう反応になるわな」
「歓迎されてない訳では…ない?」
《…》
刺激を与えないよう慎重に歩み続けると、
一人の村人が三人の前に立ちはだかった。
「なぁ、アンタたちこの村に入れたってことは…
ひょっとして、勇者なのか?!」
…というよりは、目を輝かせながら話しかけてきたのだ。
神菜はマリオに視線を送り、
彼もアンナと目配せをすればマリオは軽く頷いた。
するとその村人はより目を輝かせ、咳払いをすると胸を張った。
「ならアンタらにこの村に伝わる
【勇者の三つの心得】を教えてやるよ!」
「おお!それはありがたい!」
「いいか、よく聞けよ?」
その自信に満ち溢れる姿に
神菜は思わずノリ気に反応する。
マリオはとりあえず、な様子でその住人を見つめる。
「1!困った時は 次元ワザ!
2!怪しいところも 次元ワザ!
3!どこでもとにかく 次元ワザ!」
「…」
《…》
「…」
「・・これが【勇者の三つの心得】さ。よ~く、覚えときなよ!」
小さな風が三人と村人の間を通る音がする。
しかし村人は満足したのか清々しい表情で人差し指を立てると
軽い足取りで彼等から姿を消した。
「…要するに、次元ワザを使えってことでしょ?」
「まあ、そういう事だな」
「ヒントになるかと思ったのにぃ~」
立ち去る村人を眺めながら
マリオは呆れたように息を吐いた。
しかしアンナは何かを感じたのかひらりと周囲を飛ぶ。
《立ち入り…勇者の存在を知る村…》
「アンナ?」
《ピュアハートの反応はもっと先だけど、
ここからでも何か感じる》
「確かに名乗ってない俺たちを
勇者だって騒いでたのもいたしな…」
《ここで情報を集めるのも一つの手…》
「なるほど!」
改めて周囲を見渡せば、先ほどの住人以外のヒトたちも
マリオ達が勇者のご一行とわかったのか
そわそわとこちらを見ている。
「手あたり次第聞きこむか」
「りょーかい!」
そうしてマリオとアンナ、
神菜の二手に分かれ村を散策し始めた。
道中の行動といいやはり
こういう冒険自体に慣れているのだろう
テンポよく外を歩く住人たちに声をかけ続けており
神菜もどこかその姿に関心を向けながらも足を動かす。
「んじゃ、私はご在宅中の方に突撃~ってとこかな」
そしてマリオと分かれた場所からすぐ近くにあった建物に近付き
木製の扉をコンコンと二回叩いた。
扉に耳を当て、「はぁい」と声が聞こえたのを合図に
ゆっくり扉を開く。
「…お、珍しい服だな!君がさっき村に来た勇者?」
「の、仲間ってところかな?今のところ」
「今のところ…?」
出迎えた住人はその言葉に首を傾げつつも
明らかにこの住人達と違う容姿をする彼女を見て
曖昧な答えに関わらず思わずうんうんと頷く。
「それで、そんなお仲間さんが何か用かい?」
「情報収集って感じです。ピュアハートとか…」
「ピュア…?そういうのは村長が知ってそうだけど
オレの知ってる話でも聞いてかないか?
ちょっとした手がかりが掴めるかもよ?」
「そうだねえ…あればあるほどいいかも!どんな話?」
本題から外れそうな気もしたが
勇者と関わりのありそうな村の住人の話だ。
第一住人の件もあったが、
念のため聞くことにした
神菜が頷けば
目の前の彼は近くの椅子を彼女の前に移動させ、座らせた。
「大昔、この辺りは進んだ文明を持った民族がいたんだ。
オレ達はその民族を【古代の民】と呼んでいる。
この村も彼等が作ったらしい」
「古代の民…」
その単語は聞いたことがあった。
自己紹介の際にデアールが名乗った際に並べていた言葉だ。
つまりデアール、ア・ゲールと
関わりのある者がこの村の長という訳だ。
「村長が言うにはこの村には彼等が残した
秘密の通路や隠し部屋があるそうだ」
「へえ…!」
「だからよく探してみなよ…
すぐ隣に秘密の通路が口を開けてるかもしれないぜ!」
「ちなみに貴方が知ってる気になる場所ってあったりする?」
彼の喋るテンションに合わせ
神菜も身を乗り出す。
その質問に考える様子を見せると
閃いたのか人差し指を立てた。
「ウチの隣、誰も住んでなくて
村の備蓄とか色々置いてる倉庫なんだけど
この前誰かが変なの見つけたって言ってたっけな…」
「変なの?」
「部屋の奥にあったらしいけど、
ため込んだ荷物の奥にあるからさあ…
結局忘れてみんな放置してんだよね」
「なるほど…じゃあ、そこ一回見てみてもいい?」
「置いてるもの盗まなきゃ、良いと思うぜ」
「オーケー!盗人になるつもりはないから!」
そう伝えると椅子から立ち上がりガッツポーズを見せる。
見上げて笑う住人に対して軽く礼を言うと、
そのまま家を飛びだした。
そして彼の言っていたすぐ隣の家の建物の扉を開け中に入る。
「うわっ…」
そこは確かに樽や木箱などが積み重ねられており
乱雑であったり丁寧であったりと
取り出した形跡も残っている。
住人達の性格が出ている状態だ。
照明の電源も見つからない薄暗い部屋を見渡せば
ふと赤と青の板材が交互に組まれた
パーテーションが視界に入った。
「あれ……あ!」
いくつか並べられた板材は
そういうデザインなのか所々隙間があり
その隙間から同じように積まれた荷物が見える。
その色褪せた荷物の中に鮮やかな緑がちらりと見えたのだ。
なんとか荷物を崩さず壊さずよじ登り、
入口の隣にあったパーテーションの向こう側へ移動する。
土管があっただろう場所の荷物をなんとかどかせば
そこから緑色の入口がきらりと覗いた。
「…よし」
一度マリオに報告すべきか、
足を突っ込もうとしてピタリと停止する。
しかし彼女の中で村という安全地帯にいるという認識もあり
万が一あれば戻ってくればよいだろうと自分を納得させると
思い切って両足から飛び込むように土管へ入っていった。
途中で悲鳴が聞こえたのは気のせいだろう。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「ったあ…」
それはまるで滑り台から落ちた感覚だった。
暗い視界が明るくなったと同時に
閉所から解放され、尻餅をついたのだ。
打ち付けたお尻を撫でながら
たどり着いた空間を確認しようとするが、
―ドシンドシンッ
「うあっいたっ!いたたっ!」
リズミカルな地震が起こり、そのたびに体が浮く。
響く音と揺れに困惑しながらも必死に立ち上がれば
その目の前の光景に口を大きく開けた。
尖った岩がこびり付き厳つい顔が刻まれた大きな岩、
ドッスンがリズミカルに地面に叩きつけていたのだ。
よく見れば複数存在し、揺れの原因が判明する。
窓や明かりが一切入ってこない密室の地下。
響く音はこの環境の影響であろう。
そしてドッスンの周囲に隙間は一切なく、
この道を通り抜くしか道はない。
「いやぁ~でも………」
こんなもので踏み潰されると跡形もなくなるのは確実だ。
だがその動きが一定の速度を保ち
規則的に動いている事が唯一幸運な状況だ。
自信をつけてきた
神菜でも恐怖心は勿論ある。
一度土管に振り返るも、もう一度ドッスンの居る方向を向く。
ふと、手首に装着していた腕輪を見た。
「…!」
ほんの一瞬。幻覚かもしれないぐらいの光が目に入る。
赤く揺れるハートから放たれたように見えたのだ。
「…いけるいける。大丈夫…!」
偶然かどうかもわからないその光に何かを感じとったのか。
神菜は拳を握りしめ、
気合を入れるように両太ももをパチンと叩く。
そして落ちるドッスンの動きを確認しつつ体勢を整えると
勢いよく地面を蹴って走り出した。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「かッ…はあっ…はあ…」
結果的にはなんとか通り抜く事は成功した。
ただ呼吸をする事も忘れる程の勢いで走り抜けた影響か
その先で見つけた別の部屋に繋がる扉の前でへたり込んだ。
そこまで目立ってはいないものの、
尖った岩とかすった形跡も残っていた。
呼吸を整え、バクバクと脈打っていた心臓が
規則正しく落ち着いていく。
なんとか体を動かせるほどになれば、ゆっくりと立ち上がり
傍の扉と向かってきたドッスンの方を見た。
どうやって帰ろうか。
後先考えずに突っ走ってしまった結果だった。
何か収穫があれどなけれども、
最後は再びこの道を辿らなければいけない。
深くため息をつくも仕方がないと、
そのまま先に進むことを選んだ。
「…これは、」
そこは何もない密室だった。
先程の地下空間とは違い音も響かないごく普通の部屋。
そして先程入ってきた扉の近くの壁には
不自然なスペースがあり、よく観察してみると
何かの跡らしきものがうっすらと見える。
腕輪のある手を持ち上げようとするもふと思い出す。
あの時はアンナがいて発揮された現象だった。
神菜の動きが止まる。
ならばドッスンを走り抜ける際に見えた光はなんだったのか。
ここに導くための光であるなら
この場は試す事しか選択肢はない。
幻覚ではないと祈りながらゆっくりと壁へ手をかざす。
その時だった。
腕輪に暖かい光が包み込む。
「…!!」
それが更に大きく輝き、白で視界を隠す。
それが消えると、目の前には壁ではなく扉が現れたのだ。
「できた…」
勇者でしか扱えないアンナの力。
それど同等の能力を
神菜単体で発動できたのだ。
やはり何かがある。
この旅も、何か関係があるに違いない。
彼女の中の疑問が少しずつ
確信に変わっていく感覚が伝わっていく。
腕輪と一緒に手首を握りしめ、その先へ進んだ。
―ガッシャアン!!
「おわぁっ!?」
中を覗き、ドッスンの様な障害がいないとわかると
ゆっくりと中へ入り、扉を閉める。
それと同時に金属の大きな音が響き、
扉の前に鉄柵が降り落ちてきたのだ。
まるで牢獄の鉄柵のようで、勿論ビクともしない。
「と…閉じ込められた…!?」
ガシャンと揺れるだけの鉄柵から手を離し周囲を見渡す。
先程と同様、殺風景なごく普通の空間であったが
部屋の奥には大きな宝箱と何やらブロックの様な白い物体、
空間の上部の隅に青いハテナボックスがある。
天井ピッタリに張り付いており
まさにこれらを使って脱出せよと言わんばかりの主張だった。
ブロックの様な白い物体は
まさにそのブロックそのものであったものの
道中でマリオが壊せるような脆いものでもなければ
木箱の様に動かせるものでもない。
まるで地面に固定されているように
これもビクともしなかったのだ。
勿論蹴っても変化はない。
ふと、背後にある大きな宝箱に注目を変えた。
「脱出アイテムボックスってところかな…?」
すがるものはこれしか残っていない。
とはいえ慎重に、警戒しながら宝箱の蓋に手をかけた。
《
ふぁんたすてぃっく!》
「うわっ!?」
誰かの声が響いた。
しかしその声は鮮明ではなく、こもった様な音質。
彼女は宝箱を凝視する。
カチャ、鍵のない蓋をゆっくりと開くと
そこから不思議な声と共に変な物体が飛び出した。
四角いフォルムに五つの丸い装飾を頭部に付けた生き物。
小さな体で浮遊する、まるで妖精の様な雰囲気だった。
その姿を見た
神菜の脳裏にふと、ある姿がよぎった。
「あ…あれ、アンナと…」
《ぷはあ~
ここから出られたってことはやっと勇者が現れたんだね》
その妖精は大きく息を吐くと勝手に喋り出す。
その声質もまるでアンナと同じものだった。
《1500年前に古代の民にここで眠りにつかされた時は
大丈夫かなぁと思ったけど…
こうやって無事勇者が来たってことは、
あの人達のヨゲンも満更じゃあなかったんどえーす》
寝起きの体のストレッチをするように、
小さな体でぐいっとねじれさせる動きを見せた。
呆然と見つめていた
神菜はハッと我に返る。
「君って…えーと、アレ。フェ…フ…」
《フェアリン~?》
「そう!!それ!」
《いえーす!
ボクチンはフェアリン、トるナゲールどえーす!》
何とも言えない独特な口調はさておき
丸い装飾が感情表現の役割をしているのか、
大きく開くように装飾が広がるとニコリと瞳も笑みを浮かべた。
可愛らしい姿に
神菜も思わず釣られて口角が上がる。
《ボクチンは勇者に力を貸すために
ずっとここでまってたんどえーす。
ボクチンを見つけたからには責任を取ってもらうどえーす。
一緒につれてけぷりーず!!》
彼女の返事を待つことなく、
トるナゲールは
神菜の周りをぐるぐると回る。
キラキラと小さな光が舞わせ、ぱっと頭上で止まった。
《そういえば、君の名前はなんどえーす?》
「私?
神菜っていうの」
《いえーす!
神菜!よろしくどえーす!》
こうしてなげフェアリン【トるナゲール】が
一方的に仲間になった。
彼女の頭上からひょいっと移動し
目線と同じ位置でふわふわと浮遊し始めた。
同じ種族なのもあってか、アンナを彷彿とさせる光景だ。
《ボクチンたちフェアリンは人の役にたつのが好きな妖精。
君の…そのお飾りしてる方でボクチンを使えば
特別な力が使えるどえーす!》
「お飾…これか」
トるナゲールが装飾で指差した先には
神菜の持つ腕輪。
古代から眠らされていたというフェアリンが言うのだ。
腕輪を見つめていれば、
トるナゲールはぴょんぴょんと跳ねる。
《ちなみにボクチンはそのブロックみたいなのや敵を掴まえて、
投げることができるんだよん!》
『へえ…じゃあこれで、あそこに当てればいいんだね』
《いえーす!それが君の試練どえーす!
ボクチンの力を上手く使って、
この部屋から出てみるぷりーず!》
一通り伝える事を終えたのか、
トるナゲールは
神菜の正面から
ブロックのある場所まで移動する。
「よっし。いくぞぉ…」
気合を入れると腕輪のある手をトるナゲールに向ける。
引き寄せられたトるナゲールを白いブロックに投げれば
それを軽々と持ち上げ、
神菜の手に帰ってきた。
あのビクともしなかったブロックを
持ち上げて戻ってきたのだ。
一瞬手にすれば体ごと地面に落ちるのかと思いきや
実際は空っぽの箱を持ってるような感覚になっていた。
「すご…っ!軽すぎる…」
《さあ!それをあのブロックに当ててみるどえーす!》
「オッケー!」
極端に軽くなったそのブロックを両手で握り、
青いブロックに狙いを定める。
そしてそのまま野球投手のような構えを取ると、
勢いよく投げ飛ばした。
―ポンッ
見事命中し、青いハテナブロックは
軽い音と共に弾けるように消える。
すると扉を塞ぐ鉄柵が音を立てながら外れ、
無事に自由に出入りができる状態に戻った。
《いいかんじー!
これからもこの調子でボクチンの力を使うどえーす!
さあごー・あへーっど!!》
トるナゲールは喜びの舞を披露している。
神菜はそのノリに多少付いていけていないものの
喜ぶ気持ちは同じだったのか、ハイタッチを求めてみれば
トるナゲールは喜んで彼女に応えていた。
№9 投げフェアリン
―ガチャ
■