土管を滑り落ちていき、途中で上昇する体感に変わる。
既にマリオは外に出たのだろうか、
上を見上げると暗闇の奥から光が覗く。
「っと!…ってあれ?」
雲のひとつない青空、辺り一面の灼熱の砂、体力を奪う熱風。
マリオ達は地上であるコダーイ砂漠に戻ってきたのだ。
遺跡の心地よかった空気感が一切なくなり
常温に留まっていた体温が再び上昇する。
「地上っつったらまあ、そうなるわな」
「うわ~~もう見たくなかったのに…」
トラウマ程ではないものの、
苦痛を与える光景に
神菜は一気に脱力する。
周囲はやはり変わらずの砂の山と岩。
テトラやクリボーの生き物の気配は一切感じられない。
強烈な日光を遮る建造物もヤシの木もない。
仕掛けや目印などもない、ただの砂漠だった。
流石のマリオも拍子抜けの様子を見せるも
手がかりのかけら一つでもないかと、
項垂れる
神菜を置いて歩きだした。
[
けいこーく!]
「!」
「うわっ!?」
その時、突如機械のような声が響き渡る。
その声の主を探そうと見渡すも、マリオ達一行しかいない。
すると丁度マリオが進んでいた場所から低く唸るような音が聞こえる。
警戒態勢を取りながら後ずさりすれば、
その場所で爆発したように砂が大きく舞った。
「ヒイ!?なになになに!?」
過去一番激しい砂埃と耳を塞ぐほどの轟音と共に
彼等の目の前に黒い影が外へ飛び出す。
それは太陽を隠す程の大きさで、
その存在によってマリオ達は日陰の中に隠れた。
マリオはその物体を捉える為に帽子を押さえながら目で追い、
神菜も圧倒されながら彼と同じように見上げる。
思わず出た声も自分の声も聞こえない程の
轟音によってかき消されていた。
「ドッ…ドラゴン…!?」
《わーー!ふぁんたすてぃっく!!》
咆哮を上げた際に見えた黄色の鋭い牙に
えんじ色を基調とした長い全身。
そしてその胴体に伝う点灯する黄色い模様と頭部にアンテナ。
それはドラゴンを模した巨大な機械生物だった。
全身を出した後にも砂を豪快に吹き飛ばし
機械音に近い咆哮をあげるとマリオ達の方を睨みつけた。
[侵入者よ、命が惜しくば今すぐここを立ち去るがよい!!
さもなくば宝の守護者たる我がお主達を
ギッタンギッタンのペチャンコにして…]
「守護者…?」
そうマリオが怪訝な表情で呟けば
目の前の機械生物の視線が彼に向けられ、
何かに気付いたのか一瞬言葉を詰まらせた。
[ムムム!?赤い服に青いつなぎそしてフサフサのヒゲ!
…お主の姿…まさか…?
ちょっと待て!今メモリーを検索する!]
マリオが答える隙もなく機械生物は一人で喋り続ける。
すると何かを起動したのか、数回まばたきをすると
彼らを追っていた鋭い瞳孔からシステム的な模様へと変化した。
その模様はぐるぐると回転し、
機械生物からも高音の電子音が響く。
「……」
「け、検索…?」
マリオと
神菜は
それをただ見つめている事しかできない
[……データベースニ 1ケンノ ガイトウジンブツ アリ]
そう呟いたのち、再びまばたきをすればあの鋭い瞳孔へ戻る。
そして再びマリオの方を見るがその表情は先程と違い
眉尻を下げたようなどこか申し訳なさそうな表情だった。
[間違いない!貴方は勇者様っ!!]
そしてゆっくりとその頭部を地上へ近付けるよう下げた。
彼らより大きい全身ではこれが精一杯なのだろう。
[失礼致しました。我はこの地におさめられた
ピュアハートを守る、ズンババという者。
ヨゲンに謳われた勇者様が来られるのを
ずっとお待ちしておりました]
その姿から敵意は完全に消えており
マリオもそれを感じ取ったのか警戒態勢を解く。
それを見た
神菜も様子を伺いながらマリオに近付けば
案の定ズンババは彼女に反応し、顔を上げる。
「うわっ!」
[勇者様、その後ろのお方は…]
「俺の仲間だ。悪い奴じゃない」
[そうでしたか。度重なるご無礼、大変申し訳ございません]
「い、いえ~…」
マリオの言葉でズンババは改めて頭を下げる。
神菜は思わずその礼儀に釣られて一緒に軽く頭を下げた。
[どうぞ、ここをお通り下さい。ピュアハートはすぐ先です]
そして地中に埋まる胴体を少しだけ伸ばすと
丁度ズンババの頭部の影が
ある場所に向かって思い切り息を吸う。
その行動で察したマリオが自身を庇うように口元を腕で抑え
後ろにいた
神菜の目の前に立つように移動すれば
その直後、ズンババがため込んだ息を思い切り吐き出した。
「っ…!」
真正面から受ける突風に飛ばされないよう踏ん張る。
その風が止み瞼を開いてみれば
砂しかなかった場所に石造りの下り階段が現れていた。
よく見てみればその入り口は薄い電子の模様が張られている。
何かしらの結界が張られている状態だったのだ。
そしてズンババがその結界を解こうとした時だった。
「んっふっふ…そうはいかないよー!」
聞いた事のない声色が静かな砂漠に響く。
さすがの
神菜も素早く反応し、周囲を見渡した。
[なにヤツ!?]
ズンババも同様に声の主を探すも何も見つからない。
だがその正体は時間をかける事なく、自ら現れた。
「初めましてヒゲヒゲ君!ボンジュ~ル」
ズンババの正面に現れたその声の主。
紫と黄色、黒の配色をしたピエロの様なヒト。
仮面のような表情は笑みを浮かべ、空に浮遊している。
そして声を荒げるズンババを背に、
地上にいるマリオ達を見下ろした。
「僕はノワール伯爵に仕える華麗なる魅惑の道化師、ディメーン。
是非、お見知りおきを…」
まるで紳士の挨拶のように腕を曲げ、軽くお辞儀をする。
勿論、ノワール伯爵という単語が聞こえたのもあり、
声をかけられたマリオの表情は険しかった。
《ディメーン…伯爵の…手下…》
ディメーンの登場に羽を休めていたアンナが飛び出す。
初めて目にするノワール伯爵の手下というのもあり
その声は鋭く、彼をじっと見上げていた。
しかし当の本人は気にする様子は見せず、
ただマリオの背後に立つ
神菜の姿に気付くと
一瞬表情が変わる。
ただ地上より離れた位置にいるのもあり、
その変化に誰も気付かない。
真顔になった表情を隠すよう、再びにたりと笑った。
「やあ~シャノワ~ルちゃんじゃないか!また会ったねぇ」
「しゃ…!?」
「お前…?」
「いやいや!あんなの知らないって!」
ディメーンの発言にマリオが
神菜を凝視するも
彼女からすればまったく身に覚えのない人物だった。
記憶がないので当たり前ではあるのだが。
全力で拒否を示せば、その反応を見てディメーンは笑う。
「あんなのってひどい言われようだな~」
「アンタの事知ってたらそんな目立つ姿ちゃんと覚えてるよ!」
「んっふっふ…まあどうでもいいんだけどさ」
「おい!!」
「このまますんなり目的を達成したらつまんないだろ~?
もうちょっと楽しんで行きなよ!」
声を張る
神菜を受け流すように話を進める、
片腕を前に差し出せば、
手に貯めていたのであろう魔法が出現する。
そして勢いよく振り向くと、それを目の前のマリオ達ではなく
背後で睨みつけていたズンババの頭に付いている
ツノの先に向けて放った。
[
ビガガガガーっ!!!]
「んっふっふ…これでよし」
「おッ…おい!何をした!!」
ズンババから乱れた電子音と共に悲鳴を上げる。
全身から電流があふれ出し、
危険な状態になっているのが一目でわかった。
しかしディメーンはマリオの声すらもその笑みだけで応え、
言葉を発さないまま挙動のおかしくなるズンババに再び背を向けた。
「じゃあまたね、ヒゲヒゲ君とシャノワ~ルちゃん。
ボン・ボヤ~ジュ!」
そして初めの時のように会釈をすると、
魔法の力でその場から消え去った。
悲鳴は落ち着き静まり返ったその場所には
瞳の挙動が怪しいズンババと
ディメーンに翻弄されたマリオ達が残った。
《彼は一体何を…》
アンナがその言葉を呟いた瞬間だった。
[ピーーーーーーーーーーーーー!!!]
「!?」
「なっ、何!?」
突如、狂った様に甲高い雄叫びをあげる。
しかしそれは雄叫びというよりは鳴り響くシステムエラー音の方が近い。
それを発しそして落ち着いたと思った矢先、
再び不快な電子音が響き渡る。
[不正ナ 操作ヲ 行ッタタメ
ぷろぐらむヲ 再起動シマス]
ズンババはただ無機質な声で言葉を並べ始めたのだ。
[しすてむでーたガ 見ツカリマセン
でぃすくの B面ヲ せっとシテクダサイ
でぃすくガ 見ツカリマセン どらいぶノ
フタガ 開イテイナイカ 確認シテクダサイ
あくせすえらー!最適ナ ぷろぐらむヲ
探シテイマス めもりーかーど ヲ抜キ差シ シテクダサイ
ぷろぐらむカラ 応答ガ アリマセン
しすてむガ 非常事態カ でいじーでいじーニナッテイマス
あぷりけーしょんえらーガ 発生シマシタ
しすてむヲ 再起動シマス
ふぁいるノ せーぶニ 失敗シマシタ
でーたガ 失ワレタ可能性ガアリマス
…こーでっくヲ 検索シテイマス 検索ノ 結果
【404 ぺーじ のっとふぁうんど 】ガ 一件 見ツカリマシタ
…でふこん1 発動 総員 速ヤカニ 待避シテクダサイ]
「ヤバイヤバイヤバイって…!!」
その音声は紛れもなく不安にさせるものそのもので
身構えるマリオの背中に隠れているものの
神菜の心臓はドクドクと波打つ不安に襲われていた。
こうしてズンババは映し出された
プログラムを読み上げていき、それが落ち着くや否や
その大きな首を大きく傾け、元に戻した。
[
ズバババーン!!]
「ッ…!」
[ナンダオ前ラ!?ココハオ前ラノヨウナ
汚タネエひげとガキノクルトコロジャネーー!!!
キエウセロー!!!]
そして焦点が定まらない瞳のまま咆哮をあげると
砂のなかにズルズルと戻っていく。
「
神菜…っ!」
「わ、わかってる…!」
潜っていくズンババの隙をみて彼女の方へ振り向く。
ここに至るまでの経験を思い出させるように合図を送るも、
今の
神菜はただ頷く事しかできなかった。
そして地面が激しく揺れると
より勢い付いた速度でズンババが飛び出せば
視界を遮る程の砂埃がマリオ達を襲う。
しかし今度はその場で飛ばされないように踏ん張りつつも
落ち着いた隙を見つけ
神菜の腕を引きズンババから急いで離れた。
ズンババが飛び立っただろう上空を見上げれば
地上では隠れていた胴長が全身が露わになっており、
快晴空を浮遊している。
「でっか…!!」
《
神菜、大丈夫?》
「だ、大丈夫のはず…!」
《トるナゲールはマリオの所に…》
《いえーすっ!》
遠くにいる事で小さく見えているものの
実際に目の前で見たサイズ感を思い出しつつ眺めてみれば
守護者に相応しい巨大な肉体を持っているのがわかるだろう。
アンナの冷静な指示にトるナゲールもマリオの方へ向かえば
そのままズンババの姿を確認するために彼女から離れる。
神菜もそれを見送るとアンナの存在を確認すと
彼女も役割を果たすために行動を起こした。
アンナの力を使い、世界が停止する。
浮遊するズンババの真下にいる事もあり、
そのまま頭上へ輪を向けるもアンナは輝く事なく反応すらしなかった。
《ダメ…距離が遠すぎて分析できない…》
「ええっ!?」
静止し比較的余裕のある世界に留まっているものの
本来の目的であるアンナの分析ができない事には意味がない。
何度か角度を変えてみるも、
アンナの言う通りなのか一切反応しなかった。
そして仕方なくアンナの力を解除したその瞬間だった。
浮遊していたズンババの動きが急に激しくなり進行方向が変わる。
マリオ達の方へ向かって飛び出せば、丁度その真上を通過したのだ。
「うわっ…!」
まるで駅のホームで電車が通過する時の風が
何倍も強くなったような感覚で。
しかしこれで確実にズンババとの距離は近くなった。
ズンババの全身が通過し空高く舞い上がろうとした瞬間、
再び
神菜がアンナの力を使い輪を当てると
アンナは反応できたのか輪が光り出した。
《ズンババ。ピュアハートの守り神…とても巨大な体を持つ。
空中を自在に飛ぶことができ、大きな口で襲って来る。
恐らくは頭の上にあるアンテナの様なツノが弱点…
そこにダメージを与えれるはず…》
「ツノ…」
それはズンババを真正面で見た際に頭部に伸びていた、
そしてディメーンに狂わされた原因のあのツノの事だろう。
輪を外し元の姿に戻るとズンババが動き出す。
「マリオっ!頭のツノにダメージ与えれるっ!!」
「ツノ…?どうやって!!」
「え…どうやって!?」
弱点は見つけたが、その手段がなかった。
確かに常に上空を飛ぶズンババに届く事も出来ず
トるナゲールの力を使おうとしても
さすがに掴める対象の限度はあるのだろう。
希望をもってトるナゲールを見るが
勢いよく頭を横に振った事で更に眉をしかめた。
《…
神菜!危ない…!》
「えっ…!?」
すると地面が突然揺れ始める。
目を話した時にズンババが移動していたのか、
今度は上空ではなく泳ぐように砂の中に埋もれており
大きな顎で砂を食いながら鋭い牙を見せ、
二人に襲って来ていたのだ。
「あっぶねえ…!」
再び砂埃で視界が塞がれる。
あの知的な対応が嘘だったかのように
暴れるズンババに怯みかけるも
それを見ていた
神菜が思いついたように声を上げた。
「マリオ!さっきの時ズンババが通った時、
登れそうじゃなかった!?」
「のぼ…ああ!成る程!」
彼女の思い付きでも、
経験豊富なマリオにはすぐに理解できた。
狂ったシステムにもルーティーンがあるのだろうか
ズンババが彼らの頭上を通過し、上空に上ると砂の中に潜る。
そして再び距離の近くなった状態で襲ってくるタイミングで
距離を取っていたマリオが走り出し、そのまま飛び乗った。
「これでなんとか…!」
アンナと一人で残された
神菜は改めて感じる
彼の脅威な身体能力に驚きながらも、無事を願って空を見上げた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
《うひょー!高ーい!》
「楽しんでる場合か!」
その上空の光景にトるナゲールは興奮していた。
ドドンタスの時でもあったが、今回はそれ以上だ。
全く同じ反応だが状況は全く違う。
マリオは風の抵抗を受けないよう腰を低く下げ、
胴体に張り付くように体勢を整えると先程までいた地上を見下ろす。
黄色い砂地にきっと
神菜であろう
黒い人影がぽつんと見える。
しかしその大きさを見る限り、
ここから落ちると洒落にならないのも確実だ。
すると丁度目の前に見えている胴体の一部がパカッっと開く。
そこからズンババと同じ配色の小さなメカ、
キョロルがぞろぞろと湧き出る。
「アレ…しか、ないよな」
彼女はツノにダメージを与えられると言っていた。
しかしあのサイズ感からすると、ツノの高さもかなりある。
この最悪な状況でジャンプなんて事は迂闊にできない。
そしてトるナゲールの力を使い、キョロルを掴みあげる。
敵の認識されているのか、
突進してくるキョロル達をなんとか避けると
掴んでいたキョロルをアンテナに向けて投げ飛ばした。
[ガピーーーーーーーーーーーー!!]
「弱点わかればこっちのモン…っとわあ!?」
ツノに直撃しズンババが小さく悲鳴をあげた。
しかしその直後、ズンババの胴体が激しく動き
緩やかに動いていた胴体が速度を増して動き出す。
同時に角度もだんだんと傾き始め、そのまま体勢を崩してしまう。
立ち上がる事も抵抗ができない状態で風に滑るように流され
ズンババの尻尾に掴むことすらできないまま空へ投げ出された。
……………
―ドシィン!
「うわっ!?」
神菜の目の前に重い物が落ちる。
しかしその正体を一部始終見ていた彼女は知っている訳で。
てっきりいつものように
受け身を取って帰ってくると思っていたが
想定外の砂埃と落ちる速度に彼女の表情は強張っていた。
「マリオ!?」
舞った砂埃が消えると、マリオが倒れていた。
息はしているが、声をかけても返事が帰ってこない。
あの高さから地面に叩き付けられたせいもあってか、
さすがのマリオも気絶してしまったのだ。
「嘘でしょ…!?」
《
神菜!横を見て!》
そして言われるままに横を向けば
そこには大きく口を開けて襲い掛かるズンババがいた。
「くっそ…っ!!」
そこからもう無我夢中であった。
咄嗟にトるナゲールの力で倒れるマリオを抱え避けるように走り出す。
そしてその勢いのままマリオ抱えたまま自身の体を地面に放り投げた。
地面に倒れた二人は砂を被る。
痛みを和らげる時間などない。
マリオが未だに目覚めないのを見て絶望するも、
咄嗟に立ち上がりズンババの存在を確認しようと周囲を見渡す。
するとトるナゲールが
神菜の前に来ると
ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
《
神菜!ボクチンがサポートするからズンババに乗って!》
「や~っぱそうなるよねえ…」
《マリオは私が見ているわ…だから一刻も早く!》
「了解!」
そしてズンババが
神菜達の頭上を通過すると
パターンを知っている彼女はこの後の行動のために体勢を整える。
ドドンタスの時も自身より巨大なヒトと戦っていたが
今回はそれを大きく上回るレベルのスケールだ。
一撃食らってばんそうこう一枚で済む話ではない。
重さは感じないものの、
念のためにリュックを下ろしマリオの傍に置く。
そしてズンババが再び砂を泳ぎ始めた瞬間
マリオの見よう見まねで彼女も
ズンババに向かって走り、飛び乗った。
…………
「のっれたけど…高!!」
胴体にしがみつきながらふと下を見下ろす。
その高さは尋常ではなく、
道中に体験した箱のリフトと比にならない程で。
マリオはこの高さから落ちたのだ。
これが観光船であればどれだけ感動したのだろうか。
《あのメカを使ってアンテナに当てて!》
硬直する
神菜にトるナゲールが声を張る。
トるナゲールが指示するその先には
既に湧き出ていたキョロル達がぞろぞろと徘徊しており
神菜に気付くと一直線に向かってきている。
「これでツノを…!」
トるナゲールの力でキョロルを掴みあげると
ツノのある頭部へと近付く。
「…ッ!」
本来はこんな対立をするような相手ではなかった。
しかし制御の効かない今となってはこうするしかない。
一度躊躇ってしまうも、この状況を打破するために
勢いをつけてキョロルをツノへぶつけた。
[ギュピーーーーーーーーーーーー!!]
するとズンババが甲高い悲鳴をあげる。
思わず体が反応するが、
悲鳴を上げてもなお変化のない事を確認すると
再びキョロルを掴み、ツノへ投げ飛ばし続けた。
「ってわあっ!?」
すると激しく動き、バランスを崩し尻餅をつく。
その体勢のままするすると胴体を滑るように流され
比較的平坦だった角度から徐々に傾き始め、より立ち上がれなくなる。
《マリオはこれで滑って落ちちゃった!
神菜は頑張って頭に飛び乗るどえーす!!》
「えええっ!マリオが失敗したのをやるの!?」
《早く!目の前っ!!》
後ろを振り向けば先程まで目の前にあった
ズンババの顔がそこにあったのだ。
座り込んだ状態のまま角度を顔のある方へ向きなおし、じっと耐える。
そして角度が垂直に近付いた時、
両足に力を込めるとその胴体を壁に見立てて蹴り、
勢いをつけて飛び出した。
「っぬああッ!!」
意気込んだ声を上げながらも効果があったのか、
なんとか頭部に着地を成功し、ゴロリと転がる様に受け身を取った。
そして素早くキョロルを掴みあげ
早く終われと言わんばかりにより力を込めてツノにぶつける。
[
ズババーン!!]
「ッ!?」
するとズンババが今までとは違う大きな悲鳴をあげた。
電子音ではなく、声の悲鳴だった。
思わず
神菜はズンババの目のある位置まで移動すると
自我が戻ったのか、苦しそうな表情で彼女を見つめた。
[グガガ…ハッ!今まで我は何…を…!]
「ズンババ!」
[勇者…様がた、失礼…を致し…ました…
どうか、世界を…お救い…くだ、さ……]
掠れた声が途切れそうになる。
聞き取ろうと耳を澄ました瞬間、
突然背後から爆発音と共に大きな揺れが起きた。
「っ…えっ!?」
後ろを振り返ってたそこには
胴体の代わりにむき出しになった骨だけがあった。
運よく頭に乗っていたのもあって巻き込まれなかったが、
爆発し骨だけになったそれすらもぽろぽろと地上へ崩れ落ちていく。
そして勢いよく頭を左右に振りしがみつく
神菜を振り落とすと
ズンババは残った頭部も全て爆破させ、空の上で消えていなくなった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「っと」
振り落とされたものの痛みを伴う衝撃はなかった。
意識を取り戻したのか地上ではリュックを背負ったマリオが待っており
神菜が落ちてくる場所を捉え、なんとか受け止めたからだ。
マリオは安堵した様子を見せるが
神菜の顔はどこか暗さを帯びている。
「どうした?」
「…こうなるはずじゃなかったんだけどな」
「…」
「あのディメーンとかいう胡散臭いヤツ!!
次会ったらボコボコにしてやる…!!」
「…そうだな」
神菜を下ろせば、
傷はなかったのかちゃんと地面を立っていたものの
握りこぶしを見せながら怒りの表情を露わにする。
しかしその様子の二人の間に、アンナがひらりと入り込んだ。
《…
神菜。彼を、ディメーンを知っているの?》
「え?」
《彼が言っていたから…》
また会ったね。
彼は確かにそう言っていた。
だが
神菜はハザマタウンに来るまでの記憶が一切ない。
勿論彼の言っていたことは何一つ理解していなかった。
そんな
神菜の様子を見て、アンナは彼女の肩にゆっくりとまった。
《…ごめんなさい。わからないわよね》
「うん…でもアイツ見るとイライラというかなんというか…
嫌な感じしかしないから多分仲間でも何でもないよ!」
「仲間、ねえ」
「ホラ!コレ!これ扱えるのが証拠って感じでしょ!」
《ぐえ~~力強いよお~》
傍にいたトるナゲールを思わず鷲掴みにすれば、
奇妙な悲鳴を上げる。
マリオとアンナは思わず笑みを零せば
それをみた
神菜も安心したように肩の力を抜く。
「とりあえず…コレ置いて行ったおかげで助かった」
そう伝えると背負っていたリュックを下ろし、
神菜に渡す。
彼女が背負ったのを見ると、
そのままズンババが示していた階段へと近付いた。
ズンババが消滅したことによってか結界は既に切れており
出入りが自由にできる状態になっている。
「さて、ゴールはもう目の前だ。行くぞ!」
「…おう!」
《ええ…》
《どえーす!》
マリオの声に合わせて全員が返事をすると
そのまま階段に足を踏み入れた。
№15 vsズンババ
「ありがとう、ズンババ」
最後尾にいた彼女は階段の手前で振り向く。
日光でキラリと輝く機械のパーツをじっと見つめた後、
そう呟き、マリオ達の後を追った。
■