+コダーイ砂漠+
マリオ達は無事に伯爵の手先であるドドンタスを打ち倒した。
旅で初めての強敵に少々苦戦したものの
神菜にとっては初めての大がかりな共闘だったのだ。
出会ったばかりのトるナゲールとも一段と距離が近くなる。
しかし開かれた道に先は依然変わらず砂しか現れず
そんな状況下で二つの分かれ道が彼らを試していた。
「あああ~ねえ~~~」
「あーあーうるさいうるさい」
「砂漠広すぎない?ねえ…」
ただでさえ暑い気候が強まる太陽の光によってさらに厚くなる。
この大地で生まれ育ったであろう生き物たちは平然とうろついているが
砂漠を巡回する伯爵の刺客らしき敵達も疲弊しているように見えた。
そして愚痴を吐く
神菜にマリオは呆れた様子で流す。
「二手…」
「いちいち戻ってるのもキツイな…
俺はこっち行くから、お前はそっち頼んだ」
「はぁい」
先程までの威勢はどこへ行ったのやら。
暑さと戦闘で消耗したのか気の抜けた声で返事をする。
返してくれるだけマシだと感じつつ、
背を向けると分かれた道の片方へ進んでいった。
それをじっと見送った
神菜は一度瞼を閉じ、深呼吸をする。
ゆっくりと瞼を開き、両腕を伸ばして体の筋肉をほぐした。
「…よし、トナ!行こう!」
《いえーす!》
トるナゲールは安定して
神菜の隣に残っていた。
そしてそのままマリオと違う方向に進む。
「…あ」
すると彼女の視界にある生物が入った。
二つの玉が連結したようなフォルムの水色のプリプリとした胴体から
つるっとしたフォルムの白い頭をのぞかせている姿。
「なにあれ!」
アイスチェリリンがいたのだ。
ふわふわと浮遊状態で動き回っており、その揺れで水色の玉が揺れる。
どことなく魅力を感じるシルエットに
神菜は釘付けになっていた。
「ン~~アンナがいれば…調べられるんだけどなあ」
《でもなんだかぷりぷり~っと
ひやひや~っとしてそうどえーす》
「そのまんまだな…」
遠くの場所から眺めていても
刺客たちや野蛮な野生動物とは違い
何も気にしていない様子でただその場所をうろつき続ける。
見た目の行動に害はないと感じた
神菜は
ただ通り過ぎるついでという事で
興味本位で少しだけ接近を試みていた。
—ブッ
「うわっ!!」
すると案の定アクションを起こし、浴びた。
接近した
神菜に対しアイスチェリリンはビクリと反応すると
立派な水色の胴体の向きを変え、
その胴体から
神菜に冷気を噴射したのだ。
彼女から見ればただ突然冷気を浴びせられた状況であるが
これを傍から見ればお尻から吹き出るガスを
浴びているようなもので。
もちろん理解できていない
神菜はただ驚き硬直する。
《
神菜っ!大丈夫~!?》
急に動かなくなった彼女にトるナゲールが問いかけるも反応せず。
しかし少しずつアイスチェリリンに向かって歩み出すと
そのまま水色のぷりんとした胴体を両手で鷲掴みにした。
「き…」
《
神菜?》
「きもちい~~~~!!!」
そう叫ぶと鷲掴みしたアイスチェリリンを勢いよく抱きしめる。
もちろん抱きしめられたアイスチェリリンも、
トるナゲールも驚愕の表情を浮かべた。
神菜は抱きしめたまま更に頬ずりまでし始める。
…さすがに白い頭部にだったが。
「も~~本当に暑くてさぁ…いやあ~いいわあ…」
「…」
《す、すごい異文化コミュニケーション……!!
ボクチンも~~!!》
今この空間にツッコミ役というものは存在しない。
彼女の様子を見てかトるナゲールも釣られて
アイスチェリリンに急接近する。
抱きしめられている本人はただただ困惑しており
水色の玉からプス、プスと冷気が小出しに発射し続けていた。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
マリオとアンナは刺客のクリボー達を薙ぎ払いながら順調に進んでいた。
砂山で境界線が曖昧な状況から道らしき道を探し出し進んだ場所、
目を凝らしてみればその先に石像らしき物があるのがわかった。
「…ありゃあ、」
それはマリオにとっては一度見た事のある石像だった。
砂漠に辿り着いた当初、赤いヤシの木のヒントを得たときに見た石像。
何かの生き物を模ったその石像の胴体の方に目を向ければ
そこにはやはり文字が刻まれてあった。
「砂漠の耳寄り情報…【青い石の上に乗ろうよ。そして…」
《…どうしたの?》
読み上げていたマリオの声が途中で止み、アンナが反応する。
すると今見ていた角度から石像の側面の方に顔を向け、
そこから石像の周りをぐるっと移動し、元の位置へ戻った。
《何か…見つからない?》
「いや、ココの横を見ろって書いてたけど…
ちょっと待ってな」
アンナがマリオと同じようにぐるりと確認するも
文字が刻まれている場所以外の側面には
何一つ刻まれていなかった。
しかしマリオは何かを察したのか、
その場で次元ワザを使いぺらりとその場から消える。
そこから数秒後、無事に戻ってくるも
その表情はどこか険しく、頭を悩ませながら唸っていた。
《何か見つかった?》
「【青い石の上で、協力するといい事がある】…だと」
《協力…?》
「協力も何も、青い石ってのがな…」
その通り青い石はこの周囲を見渡しても青い物自体がそもそもない。
石像の周辺をくまなく調べるもそれらしいものは出てこなかった。
《二手に分かれた…
神菜の方にその青い石があるかも》
「確かにな…行ってみるか」
この周辺にはヒントを示す石像しかない事を改めて確認すると
マリオとアンナは来た道を戻っていった。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
神菜はいまだにアイスチェリリンを抱きかかえていた。
そのおかげか彼女はどこか晴れやかな表情をしており
大粒流していた汗はかなり軽減されている状態だった。
多少快適になったそのスタイルのまま暑い砂漠を歩き続けると
今まで見た事のない物体が少しずつ増えてきていた。
真っすぐだったり、傾いたりと砂に突き刺さる石の柱。
しかし長年放置されているのか、
風化し続けているのか所々崩れている。
それが綺麗に向かい合うように並べられており、
向かい合う石柱との間は誰かが通るのだろう。
道らしきスペースがあるものの
ここ最近誰も近付いていないのか整備もされていないのか
砂のしたから石畳が覗くものの、殆ど埋もれている状態だった。
《なんだかワクワクするどえーす》
「絶対何かがあっ…たね…」
それは目を凝らさずとも見える物体だった。
砂と空と岩しかないこの空間ではよく目立つ、大きな岩壁。
岩壁というよりは何かの建造物の一部なのだろう
石畳も綺麗に残ってある。
その石畳の階段を上った先に見えるのは装飾の一つだろうか、
ドラゴンに見えなくもない生物の顔の石像がそこにあったのだ。
誰にも触れられていないのか、所々に野花が咲いている。
そしてその手前には不自然なほど鮮やかな青い石がある。
厚みのある円盤をしており、人が立てるほどの範囲もあった。
「…?」
《何もおきないどえーす》
なんとなくでその石の上に乗ってみるものの
神菜では軽すぎるのかそもそも違うのかびくともしない。
石の上に乗ったままアイスチェリリンを抱きしめ考える。
《…あ!》
目の前の石像を睨みつけていた時、
背後にいたトるナゲールが声を上げる。
カレの方を振り向き、その方に
神菜も顔を動かせば
そこには走ってきたのか、少し息を切らせたマリオがいた。
しかし
神菜が抱きしめる物体に気付いたのか、
思わず二度見してはいるが。
「マリオ!そっちになんかあった?」
「あったっていうか、お前…」
「え?」
《…貴方、よくそれを抱きかかえていられるわね》
「あ~コレ?冷たいのが気持ちよくてさあ」
アンナやマリオからすると
そこらでふらふらしていた謎の野生動物を拾い上げて
顔を摺り寄せて愛でている光景に近いのだろう。
「そいつは仲間じゃない。置いてこい」
「ええ~…」
《きっとこの先がミハールが言っていた遺跡…
その中ならこの暑さは遮られて、マシになるはずよ》
二人に詰められ
神菜は抱きしめるアイスチェリリンを見下ろす。
アイスチェリリンに彼らの言葉が通じたのかただの偶然か。
その瞬間腕から逃げ出そうと大きく暴れ出す。
「うおっ!?わっわっ!!」
ずっと溜めていたのか、あの冷気をまるで爆発させるように噴射させ
その勢いで水色の胴体がプルンと揺れながら彼女の腕から飛び出した。
その逃げ出した衝撃というよりも、
神菜が最初に浴びた時よりも増大した冷気の量に驚き
逃げていくアイスチェリリンを掴もうとはせず
その姿を冷気と共に見つめる事しかできなかった。
「ケホッ…ほらな…」
「さ、寒い…!
あんなに噴射されるなんて思わないじゃん!」
「暑いのはわかるが、
よくわからないヤツに下手に愛着持とうとするな」
「うう…はあい」
先程まで暑がっていたはずのに今や鳥肌の立つ腕をさすっている。
その姿をマリオは呆れた様子で眺めつつ
彼女の今立っていた場所を確認すると
彼も彼女の隣に並ぶように石に乗った。
「なに?」
「これが青い石だろ?"協力"の意味がわからんが…」
「協りょ…おわっ!?」
その時、その場の地面全体が突如震えだせば
バランスを崩し石の上から落ちずともその場に尻餅をつく。
耐えていたマリオは辺りを見渡しており
目の前にあったドラゴンの顔の石像に目をやれば、
その揺れの原因が動き出した。
―ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
「く、口が…!」
地面の底から響く音と共に
石像に被っていた砂がサラサラと落ち、
そして徐々にドラゴンの上顎が上に登っていく。
完全に開いた口の中から見えたのは出入り口らしき影。
よく見ればちゃんと奥行きがあり、地下へ降りる階段が見えた。
不安で満ちていた全員の表情が明るくなれば
マリオに手を借りて立ち上がっていた
神菜が率先して走り出した。
…………
そこは先程の砂漠とは違い、
明かりを持っていないせいでとても暗い。
しかしあの灼熱と比べると少し涼しさがあり、
あの砂に捕まらない歩行のおかげで
蓄積する疲労の量が格段に減った。
空間の照明は壁に燈されている松明だけであり、
最初はその視界がガラリと変わった別世界に目を凝らしていたが
徐々に順応してきているのかその暗さに慣れてきていた。
確かにここがミハールの言っていた遺跡だろう。
調べるように少し距離をとり飛んでいたアンナが反応した。
《感じる…ピュアハートは近くに…》
「本当!?」
《でも…それとは別の強い力も感じる…
私達を待っているのはピュアハートだけじゃないみたい…》
「強い力って、まさかまたあの大男みたいなのが?」
《わからないわ…》
相当地下に向かっているのか、
変わらない景色を見ながら長い階段を降りる。
アンナの不安そうな声色に気付いた
神菜が振り向が
その松明に照らされた表情はどこか明るさがあった。
「ココまでたどり着けてるんだからきっと見つけられるよ!
私はまあまだわかんないけど…ホラ、心強い勇者様もいるじゃん?」
《
神菜…》
「アンナのピュアハートの察知能力も
ちゃんと正解の道進んでるし、何が起きても大丈夫!」
「…まあ、そうだな。勇者候補もこう言ってるし」
神菜の言葉に同調するようにマリオも笑みを浮かべる。
アンナもそのテンションに肩の荷が少しおりたのか
羽の動きが緩やかになり、
神菜の頭の上に静かに乗った。
《…ええ、そうね》
「よしっ!じゃあいざ!!次は遺跡探索だ!」
意気込むように声を上げれば空間に響き渡る。
ゆっくり降りていた状態から駆け足で降りて行った。
砂漠と遺跡の違いだけでココまで差が出るものか。
それもあるがきっと目標が近付いた事も理由の一つだろう。
ちゃっかりアンナも連れていったその後姿を
マリオは苦笑を浮かべて追いかけていった。
№13 龍の入口
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