+コダーイ村+
「あ」
「お」
扉を開くと見慣れた人物。
お互い扉の目の前に立っていたのか、
向き合う形で声が漏れる。
しかし目の前のマリオの表情は驚きから安堵のため息をついた。
「
神菜…いないと思ったら。こんなとこで何して」
「ねえ見て!なんかさ…フェアリン見つけちゃった!」
しかし彼女のテンションはどこか高く、歓喜の声色をしていた。
よく見れば
神菜の横には
アンナの様にふわふわと浮くフェアリンがいたのだ。
装飾を含めた全身を見れば、それはまるで手の様な…
《いえーす!ボクチンフェアリン、トるナゲールどえーす!》
「…ああああっ!"手のような形のフェアリン"!!」
《ぎゃっ!?急になになに!びっくりどえーす…》
手のような形のフェアリンと呼ばれた
トるナゲールを指さし声を上げれば
本人のトるナゲールはどこか迷惑そうな表情で
神菜の後ろに隠れる。
アンナが一番最初なのもあってか、
同じフェアリンとは思えないほどお気楽な雰囲気に
多少落ち着いたマリオもしばらく凝視していた。
「手のような形のフェアリン…って?」
《この村の村長と話をした…
彼が言うには、ヨゲンではこの村でカレを仲間にする…と》
「デアールさんと同じ…古代の民っていう?」
「ああ。そのフェアリンが居ないと勇者だって認めないとさ」
その様子はどこか面倒くさそうで。
一体村長がどのような態度をしていたのかは不明だが
どうやらこのフェアリンが先に進むためのキーだったようだ。
「じゃあ早く地上に戻ろう!」
「お、おう」
今まで後を追っていた
神菜が率先して動く姿に
マリオは少々困惑した様子で返事をする。
何がどうしてそこまで
自信に満ちている状態になっているのか。
勇者しか扱えないフェアリンを随従させているのかと
不明な点はこちらにも多くあるものの
どこか頼りがいのある後ろ姿に、
マリオはそのまま付いていく事にした。
「あ!そういえば!」
「ん?」
「マリオ達どうやってここまでこれたの?あの動く岩が…」
「あぁ~次元ワザでササーっと」
「…」
「どこでもとにかく次元ワザ。
あいつが言ってた心得、なかなか役に立ってるぞ」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
次元ワザを使えば楽に通れたあの苦労した道を軽々と抜け
マリオが話した村長、ミハールの家の前まで戻ってきた。
礼儀としてコンコンと扉を叩くも返事は帰ってこない。
扉に耳を当てれば、中から話し声が聞こえた。
「村長さーん!」
「…誰かと対応中か?」
「うぅーん。こっちも急ぎだし…
一回入ったことあるなら挨拶しておけば大丈夫…のはず!」
そう答えると
神菜は改めて大きくノックをする。
そして大声で「失礼しま~す」と発すると、扉を開けた。
「での…うおっとっと!ノックぐらいせんか!!」
「しました!声もかけましたー!」
「こ…こりゃ失敬…というか、お主は何者じゃ…!?」
神菜とは初対面、
そんな反応になるのも仕方がないだろう。
しかしそこにはミハールしかおらず
話し相手らしき人物はいない。
ふと片腕を曲げていたミハールの手元を見れば、
照明の反射できらりと光った。
「ガ、ガラケー…?」
「がらけー?」
「あ、えーと。携帯の名前というか…通称というか…」
「携帯ねえ。変なところハイテク文化が混じってるんだな」
山を登る際の箱のリフトの件もあってか
彼らはそこまで驚く様子は見せず。
しかし
神菜はその携帯のフォルムに
記憶の一片なのか、ただ単にそんな雰囲気を感じただけか。
ほんの少し懐かしさを感じていた。
しかしマリオ達のいきなり訪問でも繋げていたのか
背を向けたまま話し続けており、
別れの言葉を伝えると携帯のボタンを押す。
ピ、と電子音が響き液晶画面を確認すると懐になおした。
「ごほん…おや、よく見ると
先程の旅のお方と可愛らしい
女子…」
「おっと?」
「村長さん、これの事だろ?手の形をしたフェアリン」
思わず声が漏れた
神菜に被せるよう、
マリオはトるナゲールをミハールの目の前に移動させた。
《どえーす!》
「おお!いやいや流石は勇者、
勿論ワシは最初からわかっていたでハル」
「…」
「では村を通れるよう、
村外れにいる門番にちょいと話をつけてくるでハル」
そういうと、懐から先程の携帯電話を取り出し
ピ、と一回押すとそれで毛でつながったのか
電話の呼び出し音が鳴っているのがこちらにも聞こえた。
「ワンタッチだ…」
「便利そうだな」
しばらくコールが繰り返されるも
なんとか繋がったのかミハールの口が動き出す。
「もしもしグリンでハルか?ワシだ、村長でハル。
…え?ソンチョーデハルって誰かって?
こりゃっ!村長のミハールでハル!!」
「……」
「何やら自分こそが勇者だと名乗るヒゲ男と
可憐な
女子が現れちゃったので、
そやつらを通してやってほしいのでハル」
「ヒゲ…」
「よく服の色じゃなくてヒゲ扱いされるんだよな」
「まあ確かに立派だけども」
「…ああわかったわかった。
あのことは秘密にしておいてやるから
さっさとヒゲと
女子を通してやるでハル」
何度か頷き話がついたのか、
通話終了のボタンを押し携帯を懐へ戻す。
ゴホンと咳払いをするとマリオ達に近付いた。
「あとは門番のグリンに話をすれば
村を通れるようにしてくれるでハル。
これで遥かな昔により
この村に与えられた勤めが果たされたでハル」
「この先にピュアハートがあるのか?」
「いや。村を抜けた先には砂漠があり、
そのどこかにご先祖様が作った遺跡があるはずでハル。
「砂漠…」
「お主達が求める宝は恐らく、そこにあるはずでハ~ル」
のどかな草原から荒々しい山登り、その次は砂漠ときた。
欠けた記憶の状態で砂漠という大地を
歩いたことがあるかは不明だが
想像するだけでも過酷な状態になることは想定できるだろう。
その感想が顔に出ていたのか、
マリオが
神菜の背中をパシッと叩く。
《有力な情報を、ありがとう…》
アンナがそう伝えひらりと家の外へ向かうのを合図に
マリオ達も一言別れの挨拶を交わすと続いて外に出た。
一人になったミハールはソファに座ると
凛々しかった表情が緩み、子供のような無邪気な笑みを見せる。
「しかし、ワシが生きている間に本物の勇者に会えるとは…
チョーカンゲキでハ~ル!
従兄弟のア・ゲールに自慢してやるでハル!」
しかし彼から返ってきた言葉に
ショックを受けたらしいミハールが
悔しそうな声をあげながら
地団駄を踏んでいたとかいなかったとか。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「門番っていうから…あの土管か」
「レドってやつと同じ仕組みだろうな」
村長の家からさらに先を進んでいくと
村の出口であり砂漠からの入り口に辿り着く。
村に入る前に切り離されていた崖と同じように
そこも谷底を覗ける状態だ。
そして手前には見慣れた土管があり、
隣の山に建物のシルエットが見えた。
「うっし!今度は私がいく!」
「大丈夫か?」
「コレがいるから大丈夫!
次元ワザが必要だったら戻ってくるけど」
《コレじゃないどえーす!!》
プリプリと怒っているのだろうか、
神菜は軽く流すと
そのまま土管に手をかけ、飛び込もうとする。
《待って。前の時と同じ事があるかもしれない…ワタシも》
「あ、コレがあるから調べものは大丈夫!」
腕をかかげ、白い腕輪をマリオ達に見せる。
赤いハートが太陽光で綺麗に輝いていた。
「それって…」
「よくわからないけど、そういう事!
ということでアンナはマリオの事よろしくね!」
「よろしくって…」
まるで立場が逆転したかのような発言に思わず呟くも
彼女は構わず土管の中へ潜っていった。
取り残されたアンナはその場から動かず、
神菜が入っていった土管の穴を見つめる。
「アンナ?」
《あの腕輪…彼女…何の力を持っているの?》
「さあ。あの時アンナの力も使ってたし、
フェアリンも付いていくし…」
《…ピュアハートを手に入れたら、
一度デアールに聞きましょう》
…………
長い長い滑り台を滑るように落ちていく。
すると徐々に空間が広くなるのに
気付けば体にかかる重力にも変化が現れた。
それに身を任せると
体の向きが落下の体勢から上昇の向きに変わる。
「よっ…と!」
眩い太陽光に瞼を細めさせながら土管から飛び出す。
土管が上向きだったから自然と体勢が変わったのだろう。
綺麗に地面に着地すると、目の前に大きな一軒家が出迎えた。
「…んん、」
その時、何か背中に違和感を持つ。
もぞもぞと何かが動き回る感触。
思わず体が硬直するもその動き回る正体がバッと飛び出した。
《ぷはあ~!
いやぁ誰かに引っ付いて行くのも悪くないどえーす!》
「わざわざ潜り込む必要あった…?」
トるナゲールが苦しそうな表情で胴体を動かす。
安心のため息をつくも、
若干残る違和感に背中に手をまわしていた。
「えーと、確か名前は…」
《トるナゲール!どえーす!》
「長いな…じゃあ、トナって呼んでもいい?」
《ハッ!なんだかいい短さと響き…ッ!いえーすどえーす!》
それはまるで懐いて付いてくる小動物のようだった。
1500年も眠っていればこういうヒトとの交流も
貴重かつ嬉しいものなのだろう。
名付けた
神菜も嬉しさで笑みを浮かべながら
目の前の扉をノックをした。
「こんにちはー。グリンさーん!」
いつものように扉に耳をあてるも何も返ってこない。
よく確認してみればその扉は
村にあったようなボロついた状態ではなく
重厚感のある綺麗に整えられた扉。
聞こえていない可能性もあるその厚みに、
彼女は構わず中に入る事にした。
室内はほぼ内装から家具までほぼ緑で染められていたが
目にいい配色というのもあり妙に心も落ち着かせる色だ。
一階には誰もおらず、奥で見つけた階段を上ってみれば
全身緑の服装をしたヒトが
ベッドの上に届く窓から外を覗いていた。
さすがにその足音には気付いたのか、
神菜の姿を見るとベッドから降り近付いてきた。
「お!村長から話は聞いたよ。
…ということはお前が伝説の勇者ってことか!?」
「まあ~そんなとこかな?」
隣に浮遊するトるナゲールをちらりと横目で見れば
相変わらずのつぶらな瞳で
神菜も笑いが漏れる。
そんな反応にトるナゲールは思わずハテナを浮かべるも、
目の前のグリンは興奮した様子を見せた。
どこかの誰かに似たような立派な髭を鼻息で揺らし
神菜の全身をなめるように見つめる。
「スゲーぜ!こんなかわいこちゃんが勇者様なんてよ!
任せな!このグリンが村の先へ行けるように
橋を架けてやろう!!」
「あはは~…よろしくおねがいします」
これがマリオだったらどんな反応をしていたのだろうか。
そんな無駄な事を考えているとグリンが彼女から離れていき
壁に設置されていた緑色のレバーを作動させた。
—ゴゴゴ…
「おっ…」
地面が低く唸る音がする。
同時に2階建ての家というのもあり、若干の揺れに身構えるも
揺れが収まったと同時にグリンは
神菜の方に振り返った。
「ところで一つ、聞いてもいいか?」
「なに?」
「お前は緑色と赤色、どっちがカッコイイ色だと思う?
正直に答えてくれ!」
突拍子もない質問に
神菜は返事をした表情のまま固まった。
緑か赤か。
木製の家具を除けば殆どが緑に染まった室内。
門番の彼は緑の衣装に染まっており、
その色に囚われる宿命付けられたようにグリンという名前。
《…もしかして選択肢の中に好きな色がないとか?》
「う~ん…まあ。でもこれって試されてるのかなってさ…」
《でも正直にって言ってたどえーす》
「なんだよねえ」
黙ってしまった彼女にトるナゲールが耳打ちをする。
グリンは勇者が眼前にいるのもあってか上機嫌のままだ。
そして
神菜は大きく頷く。
「正直にだよね?私はどっちも好きかな~…?』
自然と話したのにどこか強張った表情になっていそうな感覚。
しかし彼女の本心を理解していないのか
思った答えが出なかったのか、
グリンは不機嫌な表情を浮かべると
タコの様に顔を真っ赤にしていた。
「なにぃ~!どっちも好き~だって~!?」
「ヒィ!?な、なんでよ!?正直に」
「中途半端なやつはこっから出て行きやがれっ!!」
思わずトるナゲールを手にしようと腕を動かすも
それを塞ぐようにグリンが先に行動を起こした。
「はっ!?」
持っていた槍を
神菜の制服に引っ掛けたのだ。
貫かないように柄の刃ではない
反対側だったのが救いだったもの
そのまま彼女を捕らえた槍を振り回し
天井に向けて思いっきり投げた。
その威力はまるで大砲で人間を飛ばす様な勢いだ。
その勢いで天井は砕け丸い穴が生まれる。
神菜は何故か空高く投げ飛ばされたのだ。
「
なんでええええーーーーっっ!?」
叫び声と共に空を舞い、そのまま落下する感覚が伝わる。
こんな下らない事ですべてが終わってしまうのか…
―ボフッ
「うおっ…と」
しかし衝撃は受けたものの、
着地は痛みがない優しいものだった。
「まっ…まりお~~~っ!」
「お、おい…お前何かしたのか?」
「何もしてないって!
質問されて、正直に答えてって言ったから答えたのに…」
「はあ…」
「とりあえず、ありがとう…」
彼女が落ちた場所は、運よくマリオ達がいた所だったのだ。
グリンのあの横暴さの中にあった申し訳程度の配慮なのか
飛び出したと同時に叫んだ彼女の声が届いたのか。
待機していたマリオも橋が架かった事で
さすがに気付いたのだろう。
「で!橋は?」
「…まあ、架かったって言っていいのか…」
「え?」
降ろしてもらい、乱れた服を整えながらマリオの見る方を向く。
そこには確かに何かが架かっている。
しかしレドの時の様に橋があります、という形ではなく
橋の装飾や落下防止の高欄はちゃんとついているものの
肝心の床版はまさかの張られていない状態だったのだ。
それはまさにハリボテと言わんばかりの橋のようなもの。
勿論無視してジャンプで届くような距離ではない。
空中での移動ができる
アンナやトるナゲールだけなら通れるであろう。
「さっさと解雇しろあんな管理人…」
《まあまあ、落ち着くどえーす》
一つ間違えばセクハラと言えそうな視線を送られた挙句、
彼の思い通りの答えじゃなかっただけで
この仕打ちを受けているのだ。
思わず怒りが膨れ上がるも、拳を握りしめて何とか抑えた。
《…どこでもとにかく次元ワザ》
《ほえ?》
ふと、ずっと静かに見守っていたアンナが囁く。
聞き覚えのある言葉にマリオと
神菜がぴくりと反応し
「ああ!」と声をハモらせてお互い目を合わせた。
「そうか!マリオ、別次元に行けば歩く場所あるかも!」
「そうきたか…!」
それを合図にアンナはマリオの頭に止まり、
トるナゲールは
神菜の肩に止まり、
神菜はマリオのオーバーオールの肩ひもを握った。
次元ワザで全員が移動する時のいつもの姿だ。
すると発動していたのか、
目の前のハリボテの床版の空間が歪む。
紙がめくれるようにぺらりと空間が動けば
何もなかった場所に立派な緑の床版が現れた。
「来た!」
「よし、走るぞ!」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
「ァ…ハクションッ!」
「うおっ!大丈夫?」
「ンン…」
見渡す限りに砂、勿論足元にも砂、髪や服にも砂。
砂の混じった熱風が勇者一行を襲う。
あのハリボテの橋を渡った後、
次元ワザを解き先へ進んでいると一つの看板が現れたのだ。
それはラインラインマウンテンに入った時と同じもので
来た道に向けたものにコダーイ村、
進む道に向けたものにはコダーイ砂漠と書いていたのだ。
勿論その看板が立っているのは
ラインラインマウンテンのど真ん中。
まさかここまで砂に溢れる砂漠な場所に辿り着くとはと
冒険に疎い
神菜は想定していなかったのだ。
山道を下っていけば荒い土から細かい砂に変わっていき
ごつごつした岩の山がなだらかな砂の山に置き換わっていく。
心地よい風は熱風になり、登山とは違う新しい疲労が
環境に慣れていない
神菜を襲っていた。
《ミハールはこの砂漠のどこかに遺跡があると言っていた…。
そこにピュアハートがある可能性が高いわ…。
さあ行きましょう》
「おう」
「りょっ…りょうかい」
一行は砂の地面を歩く。
砂漠に辿り着いた当初はどこを踏んでも足が埋もれる程の砂。
砂浜を歩くようなまとわりつく砂の重さに耐えつつ
再び先頭を歩くマリオにただ必死についていくしかなかった。
雲は一つもなくなっており真っ青な晴れ模様。
しかしこの暑さで鮮やかな晴天が憎くなるほどだ。
柔らかい砂の少ない硬めな地面の場所までたどり着けば
マリオと
神菜はヤシの木の下で
汗ばむ皮膚をぬぐって一息をつく。
「暑いよお…」
「この暑さの耐性はない感じか?」
「この状態を…見てください…」
草原で軽快に進み、山道で前向きになった記憶なんて
すっ飛ぶほどの過酷具合だった。
水分補給を試みたいところだったが
悲しいことに飲料のアイテムがない。
とりあえずヤシの木の下で各々休憩を取っていると
ふと
神菜の視界に動く何かが映った。
四足歩行をしているピンク色の可愛らしい生き物。
あのクリボーやノコノコとは雰囲気が全く違う事に気付き、
この世界特有の生き物なのはすぐに理解できた。
しかも
神菜と目線が合っても襲ってくることはなく
ビクッと驚く反応を見せながら
ただうろうろと歩いているだけだ。
それを見ていたマリオがその生き物へ手を差し出せば
キラリとアンナが光り、出現した輪をかざした。
《テトラ。
地面をスタコラと歩く敵…それ以外注意する事はないわ…》
アンナの解析した説明が終わると元の蝶の姿に戻る。
マリオが
神菜にその説明を軽く伝えると
彼女は影の下からテトラと呼ばれた生き物を眺めた。
「いやぁ、あんな可愛い生き物もいるんだねえ」
「みたいだな。さすがに俺も初めて見るが…」
「ああいうのは手出さなくてもいいよね?」
「まあ…危害がなければ、無視していいが」
《そんな時こそボクチンの出番どえーす!》
「あははっ!その時は助けてもらお~かな?」
暑さを忘れさせるような和やかな会話にマリオも微笑む。
アンナもどんな表情をしているのかはわからないものの
彼の肩で止まって休めている羽の動きを見る限り、
穏やかな様子にも見える。
そして多少の疲れを癒せたのか、
神菜が立ち上がった時。
―ドシンッ!
「ブフッ!!」
《
神菜ーーッ!!》
神菜の顔面になにかが激しくぶつかった。
彼女自身はもちろん
周囲にいたマリオ達にも聞こえるほど衝撃音で。
トるナゲールが叫ぶも空しくそのままバタンと後ろから倒れた。
「っなんだ!?」
彼女を襲ったソレはマリオにも襲い掛かる。
流石の彼でもギリギリで避けると遠くの空へ舞い上がるが
追尾性質があるのか、
再びこちらに標的を定め襲い掛かってきた。
そして先程の会話を思い出したのか
マリオは隙を見て咄嗟にアンナの力を使った。
「なんだ…ありゃあ…!?」
世界が揺らぎ、静止する。
目の前のソレも見事に空中で停止しており、
その停止状態を好機とみなした彼はその物体を凝視する。
青い顔に黒い目玉、モンスターであろう生首のみの姿で
紫の衝撃波のような炎のようなものを纏わせていた。
そしてソレを分析するためにアンナの輪を向ける。
《デスデス。空中を飛び回る頭だけの怪物…
しばらくするとどこかへ行ってしまうから
無理に倒そうとせずにやり過ごすのも手…》
「でも今の状況じゃあ…やっとくか」
倒れる
神菜を横目で確認すると
勢いをつけてヤシの木から離れる。
近くにあった岩に登り持ち前の脚力で高くジャンプすれば
余裕でデスデスの上に被さる位置に飛び上がっていた。
そのまま足を上げ下へ叩きつけるよう回し蹴りを喰らわせた。
彼の重い蹴り技と元々の重量もあってか
重い音と共に落下する。
地面とぶつかった拍子に弾ける様に消えると
同時に毒々しい色の
気味が悪いキノコもコロンと転がり落ちた。
恐る恐る拾い上げるも、触る時点で害はなさそうだが。
「はあ…」
「ぁいたたた…もう~~~今度はなに!?」
「お、生きてる」
その最中で意識を取り戻していたのか、
神菜はゆっくりと立ち上がった。
キングオブザコに並ぶ生命力だったはずの彼女が
あの一撃を食らっても自力で立ち上がった姿を見て
軽い口調で反応しつつも、
彼女の見えないところで短く息を吐いた。
《大丈夫どえーす?頭すっごい強く打ってたけど…》
「う~んまあ…ちょっとずきずきするけど、大丈夫!」
ボサボサになった髪を整えると元気な様子を見せると、
それに安心したトるナゲールは
神菜の肩にぽんと乗った。
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
それから勇者一行は順調に進んでいた。
襲ってこない生き物は無視し、襲ってくる生き物は対処する。
見逃すという手が増えただけでやる事はずっと同じだ。
途中に異様に目立つ赤いヤシの木を1本見つけたものの
その暑さで思考回路が鈍っていたのか、
赤いだけで特に何も見つからず。
手がかりがゼロのもあってキリがないと、
そのまま通り過ぎて進んでいた。
流砂に流されかけたり、
新たな未知の生き物に音波で混乱させられたり…
様々な現象にぶつかりながらなんとか進むも
彼の前に大きな壁が立ち塞がった。
「うっわ…」
それは大きな壁という名のアリジゴクだった。
その大きさを見る限り落ちたら戻ってこれなさそうなもので。
しかし回り込めるような道は見当たらず、
実質行き止まりのようなものだった。
《さっき見かけた大きな岩、なんだか怪しかったわ…》
「岩?そんなのゴロゴロしてたけど…」
《…こっちよ》
やはり暑さで見落としがあったのだろうか。
ひらりと舞うアンナをマリオも追いかけようとする。
疲労と諸々で落胆する
神菜の腕を引き、
共にアンナの元へ急いで追いかけた。
…………
「赤いヤシの木まで戻ってきたけど…」
「木の下で10回ジャンプ、いいことある…だとさ」
《いいこと!そろそろ起こってほしいどえーす!》
アンナの言っていた大きな岩。
勿論普通に確認するだけだとただの大きな岩だったものの
マリオが次元ワザを使えば
有力なヒントを持って帰ってきたのだ。
そして彼の言う通り過ぎていた赤いヤシの木の下まで戻ると
マリオと
神菜は向き合う形でヤシの木の下に立った。
「よし…10回だから、交互で5回ずつでいけるか?」
「オッケー!」
飛ぶ用意が出来ると、トるナゲールとアンナが離れる。
「1っ」
「2ぃっ!」
「3」
「4っ!」
「5っ」
軽々とやり慣れたスタイルで飛ぶマリオと
両足で勢いよく飛び、着地し、飛びを繰り返す
神菜。
身体能力の差がよくわかるジャンプを繰り返す中、
ふとアンナと横並びにいたトるナゲールが口を開く。
《ねえねえ。君って最近生まれたコ?》
《え…?》
《いやあ~っ見たことないコだったからさあ~》
《ワ…ワタシは…》
トるナゲールの反応とは違い
何故かアンナは珍しく、
言葉に詰まるような反応を示していた。
「10ぅっ!」
しかしその答えを絞り出そうとしたタイミング。
丁度
神菜が10回目のジャンプを終え着地した瞬間、
近くにあった高い砂の山が音を立てて崩れていく。
そんな砂山の下に岩も隠れていたのか、
ゴリゴリと動く音も響かせ
左右に割れると隠れていた道が現れた。
「こ、コレ…割れるんだ」
「やっと先が見えてきたな」
謎の仕組みに首を傾げつつも
勇者一行はその現れた道を進んでいった。
№10 砂をまとって
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