+ラインラインマウンテン+
多少のハプニングはあったものの
何とかラインラインロードの示す道を辿り続けると
肌に伝わる空気に変化が現れてきていた。
髪が緩やかになびくほどの丁度よい風速。
歩く地面も草原から土が覗き始め
先へ進むほど緑と植物も減り、茶色い岩や石が目立ち始める。
「ねえ…これってさ」
「ん?」
「山?に向かってたりする…?」
それは歩み続ける本人が良く理解していた。
明らかに歩きにくい感触に変わってきており
比較的平面だった角度も上がったり下がったりと
疲労が蓄積されそうなデコボコのある感覚になっていたからだ。
唯一体を癒しているのかどうかもわからない風だけが吹き続け
視界を遮らない程度にマリオ達の体を優しく撫でていた。
先頭を進むマリオに話しかけるも
彼も目の前で何かを見つけたのか言葉を返さずその場に止まる。
ふうと一息をついて
神菜も足を止めると
マリオが見つけたものを後ろから覗き込んだ。
「【ココから先、ラインラインマウンテン】…だそうだ」
「オォ~…」
神菜の予感は的中していた。
マリオもそれが刻まれていた
杭で刺さるタイプの看板に肘をかける。
歩いてきた背後をよく見てみれば下り坂の光景になっており
先程まであった若々しい緑は一切見当たらない。
彼女も急激に溜まった疲労の原因がそれでわかり
少し盛り上がった石のある場所に腰掛けた。
各々がひと段落付いている時、
アンナは休息をとるような動きは見せず
彼らがいる周辺をぐるぐると飛び回っていた。
《山の向こうからピュアハートの反応が感じる…》
「向こうって…だいぶ歩いたと思うけど、まだ遠いの?」
《えぇ、まだまだ…もっと向こう》
「そう簡単に手に入るもんじゃないってか」
空を見上げてみると
依然としてゴマ粒のような黒いあなが青空を侵食しており
錯覚か実際に起こっているのか、
少しずつ開いているようにも見えた。
「おーいマーリオー!!」
「んあ?」
太陽の日差しにも負けないその黒を見上げていると
神菜の声が響く。
ふと我に戻ると
神菜達は休息を終えたのか
マリオのいる看板の場所から先へ進んでいる状態だった。
生命力抜かれてたんだよな?と
改めて彼女の身体に疑問を抱くも
その回復力に感心しながらマリオも
神菜の後を追った。
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「えーと、なんだっけ…あれ」
「なんだ?」
「ノ…そうだ!ノコノコ!アレもいるんだね」
「確かにそう…あ?」
神菜の指差した先には
何体かの敵が周辺を巡回していた。
緑や赤の甲羅を背負い、サングラスをかけたノコノコで
デコボコの地面を歩くものから翼の生えたパタパタもいる。
当たり前のようにマリオも返事をするも
その会話の違和感に思わず素っ頓狂な声を漏らした。
「お前…ノコノコの事は知ってるのか?」
「…アっ。本当だ!なんで!?」
「俺が知るかって!」
しかし彼女の反応は焦りではなく驚きだった。
知らないを装っている訳ではない、本当に知らなかい反応。
対応のし辛い反応を返され、マリオはただ困惑するのみで。
しかし比較的静かだった山中ではより声が響くのか、
巡回していたノコノコ達が一斉に振り向き、
彼らの眼中に入ってしまう。
「ヒィ!?」
例えるならば街中を歩いていた通行人、または動物たちが
同じタイミングで一斉に見つめてくる現象に近いだろう。
そして地上にいた全員がほぼ同時に背負っていた甲羅にこもり
コマのようにその場で勢いよく回転し始める。
「ねえコレちょっとヤバめ?」
「俺を盾にする前にさっさと逃げろ!!」
「どっどこに!?」
「なんかこう~~…アイツらを遮れる所!」
回転する複数の甲羅達は今にも弾き飛んできそうだ。
咄嗟にマリオの背後で身を隠そうとするも咄嗟に腕を引かれ、
マリオから距離を取った位置へ
神菜を突き放した。
「うわっ!」
しかしその直後、
勢いが最大値になった甲羅達が一気に飛び出してくる。
狙いを定めていたのか、突き放された
神菜ではなく
単独になったマリオの方へ全ての甲羅が突き進むも
安定の身体能力を生かし、なんとか甲羅の突進を回避した。
甲羅達はお互いぶつかり合い、
各々が分散するようにはじけ飛ぶ。
その勢いは収まる事無く、障壁にぶつかるまで止まらない。
勿論そこでいう障壁とは
岩壁やランダムに転がっている岩だけではなかった。
「アッ!?っとわぁッ」
回避したはずの
神菜の元へも
甲羅が飛んできていたのだ。
マリオ程の身体能力ではないものの、
本能的に体を動かし逃げ回る。
遠くにいるマリオも蹴飛ばしたり踏みつぶしたりと
分散する甲羅を対処しようと試みており、
神菜もそれを横目で見つつも
逃げる事に専念しすぎて一足先に本来進む道の先へと
意図せず進んでいる状態になっていた。
「へっへっへ、一人で登山なんて危ないゼ。お嬢ちゃん!」
「わッ!?」
勿論彼らの様な敵はその先にもいるもので。
通り過ぎたはずのパタパタが先回りし
神菜の目の前にいたのだ。
そして宙に浮いたまま甲羅に潜れば同様に回転をし始める。
確実に嫌な予感しかしなかった。
—ブゥンッ
「あッぶな…!」
地上の勢いとは違い、風を切る重い音がより鮮明に響き
咄嗟に回避すれば甲羅は土にめり込む勢いで地面に落ちた。
先程のクリボーを吹き飛ばした時の様にはじき返したいものの
土が抉れるほどの硬さのあるものをどうやって対処するか…。
「イチかバチか…っ!」
「オイっ!
神菜!!」
当たり前だが考えている余裕はそこまで与えられなかった。
体を戻したパタパタはその場で空中へ戻ると
神菜を捉え再び甲羅状態になり、
回転を始め彼女にめがけて飛び出す。
遠くで対処していたマリオが
先に進んでいた彼女に気付き声上げるも
当の本人は逃げるどころか
パタパタと向き合っている状態だった。
「フルスイングでもッ食らえーーーーッ!!」
地面にめり込んだ時とは違う鈍い音が響く。
そんな彼女の手には何かを持ちつつも
リュックの時の様な大雑把な動きではなく、
足を一定の幅に広げた姿はまさに野球の打者の構えそのもので。
甲羅に命中はしつつも
クリボーの時の様に綺麗に飛んでいくことはなかった。
その代わりにパタパタもコントロールが効かなくなったのか
ボールの様に地面に何度もバウンドしゴロゴロと転がる。
「フニャ…アガッ!?」
「よう。休むにはまだ早いぜっ!」
転げた先には赤い帽子に立派な髭。
甲羅の中から覗いたその姿に悲鳴を上げるもすでに遅く
マリオはその甲羅から生える片翼を鷲掴みすると
ぶんぶんと振り回した。
そしてそのままの勢いで宙へ放り投げれば、
そこから山の下へと落ちて行くのが遠くからでも見える。
神菜も山に隠れて見えなるなるまでじっと眺めていた。
「む、無慈悲~…」
「アイツらの甲羅は頑丈だ。
ちぃと刺激の強めな強制下山って事で」
やっと落ち着きを取り戻したマリオは
腕の筋肉をほぐすよう肩を動かす。
そしてその状態のまま
神菜の元へ近付くも、
彼女も安心しきったのか、その場に崩れるように座り込んだ。
《よく咄嗟にできたわね…》
「なんとかねー…コレのおかげ!」
彼女の手には太さのある枯れ木の枝だった。
辺りをよく見れば活気のない草と共に
朽ちた木々も所々に散乱しているも、
その枝は他のものより比較的綺麗な状態で
あのフォームに似合う太さは確かにあった。
だがあの硬さのあるものを殴ったのもあって
バッドの代用にしていた枝は折れかけている。
枝を手放した手をよく見れば、若干痺れの影響か震えていた。
「とはいえ、無理に立ち向かう必要はないんだが…」
「今回はちょーっと危なかったけど、
せっかく貰った恩もあるし…
できる限り経験や力はつけておきたくて」
グッと痺れを抑えるように握りこぶしを作る。
マリオはポリポリと軽く頭を掻くも、
一息ついて彼女を見下ろす。
「でも逃げる事も大事だぞ?迂闊に動いて倒れられたら困る」
「それはごもっとも…」
マリオの答えに苦笑を浮かべるしかなかった
神菜だったが
彼の様子はラインラインロードの時とは違い
どこか落ち着いている。
そして座り込んだままの彼女に向けて手を指し伸ばせば
それに応えるように手を握ると引かれる勢いで立ち上がった。
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先程の出来事で待機させられていた仲間達に
彼らの内容が伝達されたのか
山にいるノコノコというノコノコ全てが
積極的に彼らを妨害し始めた。
「おりゃっ!!」
「うらっ!」
しかしそんな襲って来るノコノコ達を順調に倒していく。
基本的に甲羅が武器なのであろう、
マリオ達を感知するとすぐさま甲羅に籠る。
一定のパターンを見出した
神菜は
マリオのマネをするように
タイミングを見て踏んで動きを止めたり、
サッカーのように蹴飛ばして山の下へと落としていた。
《…》
アンナはただ彼らの行動を観察している。
マリオは安定して強い能力を発揮しているが
彼女の興味は
神菜の方へ向けられていた。
与えられた術とマリオのテクニック。
ア・ゲールの言霊も軽く影響されていそうだが
それらもあって短時間で彼女の動きも成長し続けていた。
「マリオー!そらっ!!」
「おっ…と!」
神菜から蹴飛ばされてきた甲羅を受け止めると
今度はノコノコ達に向けて蹴飛ばし、
ボーリングの様に倒していく。
しかしそもそもの体力値が
マリオより劣っている
神菜からは
流石に疲労の表情が現れ始め、呼吸も荒くなってきていた。
敵が居なくなったのを確認すると中腰になり呼吸を整える。
《強くなることは大事。でももう少し落ち着いて》
「あっはは~…気合入れすぎちゃったかな」
「にしても、結構戦ったよな。
最初よりは強くなったって実感はあるだろ」
「うーん…わかんないけど、感覚は掴んできたよね」
自身の手を握りゆっくりと開き、
流れる血潮がジワリと滲む感覚が伝わる。
ア・ゲールから貰った術もそろそろ効果が現れる頃だろうが
実際ではよく実感がしにくいような、
よくわからない感覚だった。
「とりあえず回復アイテムでも食べとけ」
「いや、ダメージ喰らった訳じゃないからいいよ!
無駄な消費であとが苦しくなるの嫌だし」
マリオがリュックを漁るために
神菜の背後に回ろうとするも
彼女は元気な様子を見せるよう背筋を伸ばし、
気合いを入れる両頬をぺちんと叩く。
「よしっ!もう大丈夫だ!いこう!」
ノコノコ達を追い払った山道は
ただデコボコを主張させているのみで。
あの案内板はあれどそもそもヒトが
頻繁に通る道でもないのだろう。
大きな岩や険しい段差を避け、
足の負担を減らすように平坦なルートを辿っていく。
元気なのか空元気なのか。
それすらも悟らせないような明るさにマリオも思わず眺める。
そしてその後姿が小さくならないうちに後を追った。
「…なにコレ?」
目の前に現れたソレ。
長方形の透明で大きな箱が
ゆっくりと回転を繰り返していたのだ。
見上げれば同じように回転する箱がいくつか並んでおり
それぞれが交差するように配置され、
それらが岩壁の向こうへと続いていた。
「さあ…」
《…危険なモノではなさそうだけど》
「でもここから以外で行ける場所ないもんね…」
マリオ達が立つ場所は山中にあった盛り上がった岩場の上。
その先は大きな岩壁が立ち塞がり、左右は崖の下へ一直線。
必然的にそこへたどり着けば、例の箱があったという事だ。
しかもその目の前の箱に触れる位置にこれ見よがしに
赤い枠線と両足跡が揃えて刻まれている。
「どう見ても"乗れ"って事だよねえ」
荒々しい自然の中に突如現れた謎テクノロジーに呆然とするも
マリオは慣れている光景なのか彼女程驚く様子は見せず。
そのまま赤い枠線の中へ立てば、
ゆっくりと回転していた箱がマリオに接触しようとしていた。
「おっぉぉ……」
しかし激しい衝撃音はせず、
箱はマリオを取り込みゆっくりと回転する。
その箱動きに合わせて彼の体の向きも回転し、
交差する場所まで行けば別の箱へ移動し、
回転、移動、回転、移動…。
それらを繰り返し、
マリオは遠くの山の上まで一気に移動していた。
「なんちゅー技術よコレ…」
《…》
「まあ、これで向こうに行けるって訳ね!」
彼からしたらどうって事はなかったものの
若干怖気ついていた
神菜にとっては良い毒味係で。
安全を確認できた彼女も赤枠内に立ち、
箱が回って来るのを待つ。
そしてアンナも離れないように
神菜の頭に乗る。
「来た来た…!」
そして箱が
神菜に向かってくる。
やはり衝撃は襲ってこず、
その代わりに聞こえていた環境音に変化が現れた。
耳を塞いだ時のような閉塞感が伝わり、
それが一瞬で晴れると風の音などが一切消えたのだ。
まるで窓も空気の出所もない
狭い空間に閉じ込められたような感覚。
そして体の中にある臓器がふわっと浮く感覚に襲われた。
「おっ……!」
ゆっくりと世界が回転する。
下を向くと真っ青な空と黒い穴が見え、上を向くと荒々しい山。
マリオはこの光景を見て声を漏らしていたのだろう。
《…大丈夫?》
「す、すごいけど…」
穏やかな速度とはいえ慣れていない
神菜は口元を押さえた。
足は浮かないのに浮遊感にひたすら踊らされる。
遊園地でも体験しないだろう感覚に、
感動的なのは一瞬で終わっていた。
「ぶはっ…」
「おう、よく耐えたな」
無事にマリオの待つ岩壁の上に到着するも
着地点から体勢を崩した彼女は
彼に手を貸してもらい立ち上がる。
「これが経験の差って事か…」
「アレはそうそう見ない仕掛けだからな。仕方ない」
そんな事を言い合いながらも気持ちを整え、足を動かした。
№8 ドタバタハイキング
「あれ、なんか慣れてきた」
「慣れってすごいな」
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