+ラインラインロード+
赤い扉を抜けた先。
辺りには木々が並び、草原の地上には花が咲く。
程よい風が吹きピクニック日和な晴天の空を見上げれば
その穏やかさに似つかわしくない小さく穴が空いていた。
先頭にいたアンナがふわりとその場を飛び回る。
そして一定の方向を向くと
ぴくりと何かに反応しその場に留まった。
《ピュアハートの存在を感じる…。でもまだここからは遠い…》
「確かに道のりは長そ~ですねえ…」
目の前には先が見えないほどの長い一本道がある。
その道中には緑の土管が生え、
どういう原理かいくつかのブロックが浮いている。
蝶が喋るという時点で既に摩訶不思議だったが、
この世界はまだまだそれ以上の不思議が残っていそうだと、
神菜は遠い目でその遠くを眺めていた。
そしてなぜか消えている扉があった場所、
そこからアンナの向く先に背後と周辺を見渡し、
ゆらりとこちらへ向き直ったアンナは説明を続ける。
《デアールは【次元センニン】と呼ばれるア・ゲールに会って、
次元ワザを授けてもらえと言っていた。
まずはア・ゲールを探しましょう…》
「ああ。
神菜!行くぞ!」
「はいはーい!」
マリオが始まりの一歩への声をあげ、
いざ先へと前に進もうとした。
《もう一つ…》
「ん?」
しかし通り過ぎようとしたアンナに呼び止められ、
二人はそのまま彼女の方へ振り返った。
《ここから先何か知りたい事があったらワタシの力を使って…。
色々なものを調べられるわ…》
「へぇ!どう使うの?」
《…ごめんなさい、これは勇者しか使えないの》
変わらない抑揚で、しかしどこか申し訳なさそうに
アンナが答えれば
神菜は納得した様子で肩を落とす。
勇者の言葉に反応したマリオがアンナに近付き、
触れるギリギリの位置まで手を向ければ僅かに眩い光が放つ。
その直後、彼女の綺麗な蝶の羽がばらばらになるも
それは衝撃的なものではなく虹色の三角のかけらが
キラキラと光る魔法陣の様にマリオの手を輪を囲んでいた。
「…は?」
すると同時に世界がぐらりと揺らめく。
不審に思ったマリオが思わず周囲を見渡せば、
その違和感に困惑の表情を見せた。
全てが停止していたのだ。
風で揺れる花や草、目の前にいる
神菜も
マネキンのように直前のポーズのままぴたりと動かない。
《大丈夫…さあ、使ってみて》
静止した世界でアンナの声だけが響く。
言われた通りにマリオは手を
神菜の前に向け、
そして虹の輪が
神菜を囲めば、また一瞬眩く光った。
《
神菜。普通の女の子…
ハザマタウンに落ちて来てから記憶がない…
…かなり体が弱っている。原因は…わからない》
「弱ってる?」
最後に言った言葉に疑問符を浮かべながら呟く。
アンナが黙ったを合図に手を戻せば
輪はまた眩く光り、蝶の形に戻った。
すると止まっていた世界が再び動き始め
目の前の
神菜は何も感じていなかったのか、
肩を落とした状態のままの様子だ。
「弱ってそうには見えないけど…」
「弱ってる?」
《ええ。貴方の体、外見的にというよりは…内面的な…
誰かに…生命力を盗まれた。とか》
「ぬ、盗む…!?」
アンナ自身もよくわからない現象なのだろう。
考えつつも曖昧な言葉を並べるが、
神菜はただ驚愕していた。
「生命力って盗めるのか?」
《わからない…でもまるで穴を掘ったように、
ごっそりと失っている》
「それって…大体どれぐらいかわかる?」
「お前…自分の事なのにわからないのか?」
「だってこんなにピンピンしてるってーのに!」
思わず声を荒げてしまう。
生命力が少ないだなんて言葉、
人生で受ける事があるのだろうか。
神菜自身は彼女がそう言うように変わりない。
疲労感も体の痛みも何もないのだ。
《…誰かに一度、攻撃されたら終わるわね》
「いッ…!?」
「おいおい…」
終わる。
彼女の言う終わるとは、
たった一撃の衝撃で死んでしまう体というのか。
ハザマタウンで話していた時の
デアールからの接触では何も起きなかった。
アンナの言う通り、相手の攻撃的な接触によって
"終わる"のだろう。
—ドスンっ
「…あっ!?おい!」
どう対策しようと悩もうとした直後、
その際に進む道の方角を背にしてしまっていたのが運の尽きか、
まるでタイミングを狙ったかのように
唐突に彼女の腰付近に衝撃が走った。
そのままぐらりと世界が揺れ、
フェードアウトするように視界が暗くなっていく。
「ヤイヤイヤイ!にっくきヒゲとその子分め!
クッパ様の代わりにオイラが成敗してくれるぅ!」
「あれ…この、感覚…」
途中マリオが支えたのだろうか。
支えられたのか硬い地面に打ち付けられる事はなく
しかし急激にだるさが全身に広がり、
知らない声を遠くで聞きながらそのままゆっくりと瞼を閉じた。
………
…ものの、その数分後に瞼は開かれた。
ハザマタウンでもあった眠りから目覚めたような感覚に
ふぁ~と呑気にあくびをすれば
目の前にいたマリオは安堵した様子で大きく息を吐いた。
「…え?え?」
「アンナの言う事は本当らしいな…」
《…
神菜。今さっき、
貴方に向かって敵が体当たりしてきたの》
「敵?な、なんで?」
困惑する彼女を横目に、ある一定方向を向く。
神菜もそちらへ視線を向けると、
何やら茶色の物体が転がっていた。
「アレは俺の世界から来た奴らだ。
俺に因縁のあるやつの部下ってところか…」
「なに、あれ…キノコ?」
「アレは…いや、俺と一緒にいたせいだ。ごめん」
「いや…油断した私も悪かったから。大丈夫だけど…」
キノコらしき物体には
胴体らしき部分から小さい足が生えている。
しかし気絶しているのか、息をしていないのか。
どちらにせよビクともせずそこに転がっていた。
マリオはあの物体の存在を知っていたのか、
呆れたようにため息をつくも
神菜が無事に立ち上がるのを見つつ、
何かを考えるように物体を見下ろしながら
自身のヒゲを撫でていた。
《…という事よ、
神菜。
貴方は前に出過ぎない方が良い》
「そう~ですね…」
軽い衝撃だったものの、
一瞬で意識を失う感覚を身をもって味わった彼女は
力強く頷く。
「お前が来るって言うから、守りはするが…」
「大丈夫!!とりあえずちゃんとマリオの後ろにいるし、
デアールさんが言ってた仙人サマに
腕輪の事も聞いておきたいからさ」
そう伝えながら右手首に装着する白い腕輪を見せるも
マリオは首を傾げた。
「腕輪?」
「私の傍に落ちてたらしいから、関係ないのかなって」
「あ~なるほどな…」
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
こうして話がまとまり、旅の進行を再開したマリオ一行。
途中で出会った例の茶色の物体、クリボーを蹴ったり避けたり。
そこらのブロックをマリオが壊し、コインを回収する。
メダルというよりは
厚みのある小判ほどのサイズ感のソレは
マリオも知っている形状のものだったのか
見つけたら拾っておけと
神菜に伝えるなり
そのまま
神菜の背負うイッパイサックに詰め込まれる。
「ちなみにあの茶色の…って名前あるの?」
「クリボーだ」
「く、クリ?」
「だたのザコだ。気にすんな」
《…ええ。ザコ、だわ》
「えぇ…」
マリオが説明をし、
ついでと言わんばかりにアンナの能力を使用する。
そのうえでアンナもマリオと同じ答えを導き、
神菜は呆然とした。
彼女はそのザコに一撃食らって
お陀仏レベルの体力値という事だからだ。
「…ん?」
順調に進んでいくも、目の前にあるものが立ち塞がる。
何かを囲うように積まれるブロック。
ジャンプをしても届くような高さではなく、
衝撃を与えようとしても先程までのブロックとは違い
かたい質感なのが拳をぶつけた音でよくわかる。
「あ~ハンマーがあればな…」
「ハンマー?」
「俺の旅の必需品だ。でも忘れてきたからさ」
正面の道を塞ぐことはせずとも
明らかに不自然に配置されるブロックをぺちぺちと叩く。
しかしそのブロックの先にある道をちらりと覗いてみれば
煙突から煙が出ている一軒家があるのが見えた。
「あの家…誰かいないかな?」
《…きっとあれが、ア・ゲールの家》
「お~思ってたより近いな」
《最初の目的は彼に会う事。先にそちらへ行きましょう…》
ブロックをひらりとかわし、アンナが例の家の方へと飛び立つ。
それを見たマリオと
神菜も急ぐように後を追った。
遠くでも目立っていたその家はやはり近付くと大きく。
ポストや窓の高さを見る限り、
マリオ達よりは大柄なのがわかった。
そしてその住人に合わせているだろう大きな扉をノックする。
「…」
「…留守?」
《いえ、感じるわ》
「それじゃあ邪魔するか」
「そんな軽くでいいんだ…」
そしてマリオが扉に手をかけてみれば
鍵をかけていなかったのかすんなりと開く。
まるで慣れた様子で
返事のない部屋に入るマリオに付いていくアンナ、
それを見てきょろきょろと見渡しながら
神菜も家に足を踏み入れた。
№5 次元ワザを求めて
■