+暗黒城+
書庫での出来事の後なんやかんや散らばった本を何とか片付け
多少の埃などは目立つが
マオとマネーラが来る前よりは綺麗になった。
相変わらずディメーンは椅子に座って眺めていただけだったが。
全てが落ち着き、ディメーンが書庫から離れようとした際、
マオが「あっ」と声を漏らし立ち上がった。
「ねえ!ディメーン」
「ん~?」
「ディメーンはこれの存在、知らない?」
マネーラが机に突っ伏し、
その隣にいた
マオがディメーンに何かを見せた。
懐から取り出したのは赤色に輝く不思議な鍵。
「なに~?それ」
「その様子からしてアンタも知らなさそうね」
「ドドンタスが見つけたらしいんだけど、
使い道がわからなくて…」
先程の本の時の様に出された鍵をじっくりと見つめる。
何も語らずその鍵を観察するも、ゆっくりと彼女から離れる。
「ごめんねぇ。何も知らないや」
「そのわりには食い入るように見てたじゃないの」
「だって綺麗じゃな~い?コレ。そりゃ見ちゃうでしょ」
「ディメーンでもわからないのか…」
どこか意気消沈した
マオはふう、と息を吐く。
目の前のそんな彼女の様子を少し見つめるも、
小さく相槌を打ちにこりと笑った。
「鍵、鍵ね…僕の方でも色々探ってみるよ」
「本当?」
「んっふっふ♪勿論だとも」
彼の陽気な様子に
マオも
思わずつられて笑みを浮かべる。
そして彼女達に背を向けるとふわりとその場で浮遊した。
「くれぐれも無茶はせずにね~?」
片手をふわりと揺らせば、
彼の得意の魔法でその場から消え去った。
「……」
それを机に突っ伏しながらマネーラはじっと見つめている。
マオも彼を見送り振り返ると、
そんなマネーラに声をかけた。
「…マネーラって、妙にディメーンにキツかったっけ?」
「はあ?ふつーよ!ふ・つ・う!」
「ふうん…ふふっ」
彼女の態度がどうであれ、
あの二人の絡みは今や恒例行事だ。
マオは痴話ゲンカの様に見えているのか微笑まし気で
マネーラは案の定不機嫌な様子のままだ。
「イケメン…かはわからないけど。あの雰囲気なら
マネーラすごい好きそうだな~って、思ってた」
「え、」
「そんな事ないの?」
しかしマネーラの表情が強張る。
何か変な事を聞いてしまったのか
マオの口角も若干下がり
そんなお互いの反応に気まずくなったマネーラが口を開いた。
「そりゃあまあ…最初はカッコイイと思ったわよ?
ミステリアスな感じとか!」
「うんうん」
「…でもねぇ…」
「でも?」
話を進めていくうちにマネーラの顔が青ざめていく。
その様子を見た
マオもじっと見つめ、
ゴクリと唾を飲む。
「…ヒャッ!?」
「わッ!?」
しかしその会話はすぐに止まってしまった。
目の前のマネーラが悲鳴を上げ、
連動して
マオも声を上げる。
そして悲鳴の原因を確認しようと自身の背後に振り向けば
そこには先程いなくなったはずのディメーンが
笑顔でこちらを見ていた。
「なななんんで戻ってきてるのよ!!」
「僕の噂話が聞こえちゃってさあ~
そしたらまだいるんだもん」
「脅かさないでよ…!」
狙ったかのようなタイミングに
マネーラは再び不機嫌になってしまった。
しかし現れた彼は何故かその場から離れようとしない。
「な、何か忘れ物?」
「ううん。出かける前の寄り道」
「どんだけ道草食ってるのよ!さっさと行きなさいよ!」
「ねぇ~さっきの話の続きしてよ?
でも…って、なに~?」
マネーラの話を聞いているのかいないのか、
食い入るように割り込む。
距離を詰める事はなく、
しかし詰め寄るような圧を感じさせる声に
余計な話題を振ってしまったと
マオは後悔するも時すでに遅し。
ディメーンの視線は彼女ではなく
マネーラにロックオンしていた。
「あの…気味悪い魔法とか使って変な事企んでるんでしょ!」
「魔法~?」
バチバチと火花が飛び散りそうな会話に
発端であろう
マオは何も言えず、
二人をただ交互に見ている。
先程の穏やかな空気はどこへ行ったのやら。
気まずさで思考をぐるぐると回転させると、
首をかしげていたディメーンがふと
マオの方を向く。
「…あ~アレかな?でも
マオはもう知ってるよね?」
「えっ?」
「ホラ、アレアレ」
そう伝えると両手でジェスチャーを見せた。
内側に向けた手のひらと指先を全て揃え、
横へ移動させて広げる動き。
察した彼女は頷けば、マネーラは青ざめた。
「ちょっ…!?なにもひどいことされてない!?」
「何も…うん。されてない、けど」
「本当に…?」
「うん」
同調するどころか困惑した
マオの反応に
マネーラは疑心の表情を見せつつディメーンの方を向く。
しかし向けられた本人は普段通りの様子で。
マオはマネーラとディメーンを交互に見つめていた。
「ひどい事~なんて、それこそひどいなぁ。ねえ?」
「え?」
「だって…!」
「あ。そうだそうだ。ここに寄る用事、思い出したよ~」
そしてマネーラの言葉を遮るようにひらりと片手を掲げる。
そのまま伸ばした人差し指で円を描くよう揺らした。
「さっきの読めなかった文字。もしかしたらなんだけど」
過去の言語…古代の文字、かも?ってさ~」
「こ、古代の文字ぃ…?どう読むのよ?」
「んっふっふ♪残念だけどそこは覚えてなくてさあ
でもいいヒントにはなったんじゃない?」
にこやかに伝えるもその言葉にはっきりとした答えはなく
マネーラは大きくため息をつくも、
マオは小さく頷いていた。
そして手元にある石板の本をじっと見つめる。
「古代…誰が知ってるだろう」
「そういうのってなっちゃんとか、
それこそ伯爵様とか知ってそうよね…」
「確かに!」
「でもみんな勇者対策や魔王の手下の処理で大忙しだよねえ」
「ンン…そうだけど…」
マオとマネーラは書庫の椅子に座り
ディメーンはその近くの机に腰掛ける。
各々思考を巡らせるために沈黙になるも
彼女たちの視線は最終的にディメーンの方に集まり
向けられた本人もそれに気付くと、
先程の
マオの様に二人を交互に目線を送り、
苦笑を浮かべた。
「え?なに~?」
「本当に忙しいの?アンタ」
「う~ん。暇だったけど、
そろそろ忙しくなるかもってところかな?」
「意味わかんないんだけど…」
それは会話を進めている最中でも持っていた疑問だった。
本人は慌てる様子も見せず、机から垂れる足を揺らす。
しかし「ん~」と声を漏らしながら書庫の天井を眺めると
そのままふわりと机から離れ、普段の宙に浮く状態に戻る。
「…でもまあ、さすがに行こうかなぁ。
今ぐらいなら、ドドンタ君も決着着いただろうし」
「え…?」
「んっふっふ!
僕からのありがた~いヒントで情報収集頑張ってねえ」
最後の言葉に
マオは反応するも彼は気に留める事なく
その言葉を合図に今度こそ魔法でその場から立ち去った。
残された二人は再び沈黙になる。
「ドドンタスの、決着…?」
どこか不安な気配を感じた
マオはそう復唱する。
そして居なくなった何もない机をじっと見つめていた。
№11 vsドドンタス
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