霧のように視界を霞ませる紫のもや、白い明かりを放つ黒い灯。
その闇に溶け込むよう大きな城がぽつんと聳え立っていた。
暗黒城。
城の主であり黒のヨゲン書の持ち主である
ノワール伯爵が主となっているその城には
直属の部下である五人衆がいた。
冷静沈着な伯爵の側近、ナスタシア
驚異的な剛腕を持つ武人、ドドンタス
何にでも変身するモノマネ師、マネーラ
ミステリアスな魅惑の道化師、ディメーン
そして
謎に包まれた糸使い、
マオ+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
黒い空間にアクセントをつけるような白い輪郭線たち。
そんなたった2色で染まっている暗黒城内。
のけ反って見上げるほどの高さのあるその最上階の奥には
伯爵と直属の部下である五人衆、
ザ・伯爵ズが集まる大広間がある。
そこは変わらず壁床天井全てが黒に染まっており
唯一のアクセントであろう花のような模様が
壁にいくつか散らばらされていた。
白い輪郭で構成された黒の高い塔がいくつかあり、
その一番高い塔にはその黒とは正反対の白い人物がいた。
その人物こそこの城の主であり、暗黒の穴を開いた者であり、
黒のヨゲン書を持つノワール伯爵だ。
モノクルと白いシルクハットと衣服を纏い、
青いひし形の水晶の杖を持つ。
怪しげな表情を浮かべるも、
それは伯爵と言う名に相応しい風貌をしていた。
その隣の塔には、小柄な側近ナスタシアがいる。
強気なツリ目を象徴させる形状の眼鏡をかけ、
唯一露出する口元は常に無表情を貫いているだろう。
そしてその二人を見上げる三つの塔とヒトたち。
立派な茶色いひげと眉が特徴なドドンタス。
紫と黄色が特徴のピエロの姿のディメーン。
赤髪の少女の
マオがいた。
ノワールは開いていた黒のヨゲン書を閉じる。
静かな空間にその閉じる音はとてもよく聞こえた。
「ワルワルワ~~~ル!
ついに次元のあなが開いたでワ~ル!
すべては黒のヨゲン書通り。
これで世界が終わるのも時間の問題でワ~ル」
「おめでとうございます伯爵様!
これでセカイが滅んだら…
次はいよいよ争いのないカンペキで
美しいセカイを伯爵様の手で生み出す番です!!」
ノワールの声に乗るように
ドドンタスが気合の入ったような声で叫ぶ。
それはまるで上司の合いの手を打つ部下のようだろう。
勿論彼の声もノワールの声量以上に響いている。
「カンペキで美しいセカイね…
んっふっふ…楽しみだねえ?
マオ」
「あ…うん」
ディメーンの隣に塔に立って見上げていた
マオが小さく頷く。
彼はドドンタスのノリや
そのノワールの反応を面白げに眺めており
マオはちらりと目線を交互に移し、
様子を窺っている。
「
おくれてすまーん!!」
すると聞き覚えのある大きな声が響き、
上からどんっ、と勢いよく残っていた塔に降りてきた。
「やや!!ドドンッとオレ様が既にいる!?
どどどどどういう事だ!?」
その人影はドドンタス。
既にノワールに合いの手を入れていたドドンタスを含め、
何故か二人になっていたのだ。
勿論双子でもなんでもなく、
後からきたドドンタスは先着のドドンタスを見て驚愕する。
驚いたドドンタスはその動揺から塔から落ちかけると
その姿を見た先着のドドンタスは
顔に似合わない妖しさのある笑みを浮かべた。
「マネマネマネ…来るのが遅いですわ、ドドンタス!」
すると先着のドドンタスの周囲から現れた紫の煙が姿を隠し
煙が晴れたと思えば、今度はその中からノワールが現れた。
それは塔の頂点に立つノワール伯爵と瓜二つの姿で。
「相変わらず頭の中味は筋肉ばかりで、
時間もろくに管理できないでしょうけど」
「なにおう~っ!お前!マネーラだなっ!!
われらが伯爵様のお姿を
軽々しくまねするんじゃないっ!!!」
ノワールに変身したマネーラと呼ばれたヒトが笑えば
声色も全く同じその言動に頭に来たのか、
ドドンタスは激しく地団駄を踏む。
歯を見せる形で歯ぎしりし睨むも、嘲笑う様子は変わらず。
「ワルワルワ~ル
マネーラよ…相変わらず見事な変身でワ~ル」
しかし模倣された本物のノワールが何も気にせず
ただそれに対して褒めの言葉を投げれば
今度はどこか嬉しそうに笑みを零し、
再び煙を舞わせ変身した。
その姿はボリュームのある金髪に桃色のドレスで、
まるでお姫様のような人間の姿だった。
「マネーラはね、ホントは伯爵様がいればそれでいいのよ…
それがワタシのリ・ソ・ウ♥」
「マネーラのホントのホントの理想は
【イケメンハーレムでリッチでウハウハ】なセカイを
作ることだけどねえ…」
「ま、マネーラ…」
きゃっと顔を掌で覆い、
照れ隠しのようにくねくねと体を動かす。
しかし黙って眺めていたディメーンが言葉を投げかけるなり、
むっと頬を膨らませる表情を見せるとまた煙を放った。
その姿は先ほどとは真逆で、
黄色の角とトゲのある大きな甲羅に
口元から牙ものぞく厳つい顔をした大柄で屈強な姿が現れた。
「ディ、ディメーン…お前どこでそれをっ!!」
「ん~?」
姿に似つかわしい厳つい声でディメーンに問いかける。
しかし当の本人はとぼけた様子で首を傾げ、煽る様子を見せた。
「ワルワルワル…どんな願いでも構わないでワ~ルぞ!」
すると静かに聞いていたノワールが人声を上げる。
その一声によって彼らの騒ぎが一瞬で静まり、
全員がノワールの方へ見つめる体勢になった。
「セカイが滅んだ暁にはお前達の思う
理想のセカイをヨが作り出してやるでワルワル!
黒のヨゲン書通りにすれば、世界は生まれ変わるのでワ~ル」
「そのことでご報告があります」
小柄なナスタシアは、
隣の塔にいつつも見上げる姿勢で今日初めて口を開いた。
騒ぐ部下達に感化されず
落ち着いた様子で丁寧な口調で話す。
「どうやら何者かが次元の扉をひらいたようです。
おそらくヨゲンにある【勇者】に間違いありません。
何か手をうたれた方がよろしいかと」
「ワル?本当かナスタシアよ。
なるほど…お邪魔虫が現れたでワ~ルか」
驚いた表情を見せつつもすぐにいつもの表情に戻る。
少し考える様子を見せ沈黙になるも
それをすぐに打ち切った者がいた。
「
伯爵様! ナスタシアの報告にあった勇者とやらは、
要するに伯爵様の敵ということでありますか?
ならばこのドドンタス!ドドンと許しておけません!!
是非とも勇者を成敗させて下さい!!」
その人物はやはりドドンタスであった
通常運転な大きな声で訴えかければ、
屈強な男性に変化していたマネーラも耳を塞ぐ。
意見も聞かず、ドドンタスはひたすら大きな声を響かせると
ノワールは思わず口角を上げ、迷いなく答えた。
「よかろう!ドドンタスよ。
そのナンチャッテ勇者を
さくっと始末してくるでワ~ル!」
「おまかせください!伯爵様!!
このドドンタス、命に代えましても!!」
上部にいるノワールに向かって深く頭を下げると、
置いてけぼりだった三人の方に向きなおす。
「マネーラ!ディメーン!
マオよ!
オレ様のかっちょいい姿をしかと見るがいい!!」
胸をパシンっと叩き、そう宣言するなり
勢いよく塔から飛び降り、大広間から去っていった。
マオは苦笑を浮かべ、
マネーラは生返事をしている。
「う~んそうだなあ…
じゃあ僕もちょっと出かけてこようかな…と」
そう呟き指を鳴らそうとすると、
いつの間にか変化を解いていたマネーラが
マオの座る塔に軽々と飛び乗ってきた。
その姿は今までの変身姿とは違い
黒の細い手足、緑の肌とツインテール風の髪飾りを付けた
可愛らしい少女のような姿になっていた。
「
マオはアタシとお・留・守・番♪
いいわよね?」
マネーラはディメーンに微笑むも、目は笑っていない。
むしろ睨んでいるという方が正確だろうか。
じ、とその彼女の態度を見つつ、
そしてくすりと笑った。
「はいはい。じゃあ、二人仲良く留守番よろしくねえ」
そう答えるなりぱちんと指を鳴らせば
魔法の力によって彼女達の前から消え去った。
「あ…えと…マネーラ」
「じゃあ伯爵様♥アタシたちも戻ってますので~♪」
そうノワールに伝えると、
マネーラも
マオを抱きしめる状態になる。
そのまま彼女も魔法の力で大広間から立ち去った。
「ワルワルワ~ル…勇者よ…
ヨをとめられるものならとめてみるがいい…
セカイが滅びる前にな…」
ナスタシアと二人だけになったノワールは静かに呟く。
シルクハットのツバやマントの襟で殆ど隠れつつも
その下では確かに歪んだ表情で笑っていた。
「伯爵様…」
ナスタシアは見えずとも感じるその声色に対し、
一瞬悲しそうに俯く。
しかし小さく咳払いをすると眼鏡の角度を調整し
背筋を伸ばし業務体制に切り替える。
「ワタクシも失礼します。
あのクッパの部下達の処理が終わってませんので」
「ワル…ご苦労でワ~ル」
「では…」
ナスタシアも軽快に塔から飛び降り、大広間を後にする。
「ワルワル…」
大賑わいだった大広間が
ノワールのみになった事で一気に静まり、
思わず漏らした小さい笑い声がその空間に響いた
№3 暗黒のお城
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