体がふわふわ浮いている。
まるで夢の中のような、そんな感覚がする。
でもなんだか気持ちが悪い。
目を覚ましたい。
でも瞼が開かない。
「 」(何…?)
「セ を 」(…声?私に話しかけてる?)
「セカイ けて」「セカイをたすけて」
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真っ黒の広い場所。
ぽつぽつと白と黒の小さな明かりが灯される。
人気が全くなく、無音で静まり返っており、
そこに長い黒髪の少女、
神菜が倒れていた。
…というよりは規則正しい寝息を立てながら寝ていた方が正確だろうか。
「んっ…んん…」
目を覚ますと重い上半身を持ち上げ、大きく欠伸をした。
「いたた…ってなんで床で寝てんの私?てかここどこ!?」
思わず声を荒げるも、返事らしい返事は返ってこず
神菜の声が虚しく響いただけだった。
「…これ、夢…?」
小さくため息をつくと立ち上がり、辺りを見回す。
ぼわぼわと灯る明かりで辛うじて姿は照らされるも
音もなく人影も声もない真っ黒な空間。
そこは殺風景というよりかはどこか不気味さを感じさせる光景だ。
「…にしては、はっきりとしすぎな気もするけど」
変化も見つからないただただ黒い場所。
スニーカーの小さな足音だけが部屋に響き
方角もわからずただ壁を見つけるために目の前を歩く。
手を伸ばしてみても空気に触れるだけで。
「はああ…」
神菜は改めて見渡すと、もう一度大きく息を吸い上げた。
「
誰かいませんかあぁ!!!」
……
ただ
神菜の声だけが木霊する。
空しく響く自分の声が止むと、ガクンと首を重く下げた。
―しゅん
項垂れたその背後に、そんな小さい音がした。
衣擦れや足音ではない、不思議な音。
「!!」
気づいた
神菜はその音がした方向を向き、じっとそのまま見つめる。
これを逃せばもう二度と脱出口を見つけられないかもしれない。
本能的にそう感じていたからだ。
「…」
誰でもいいけどせめて会話のできる人よ…。
そう願いを込めひたすら凝視し続けると遠くから足音が聞こえ始める。
そして暗闇から出てきたのは
一人は赤い髪にサファリジャケットを着た小柄な少女で、
もう一人は黄色と紫との不気味なピエロだった。
しかもそのピエロは浮遊しており、体のパーツも異次元なものだ。
「お、おぉ…」
内心では誰でもいいとは願ったものの、
その謎人選に言葉を失い無意識にあんぐりと口が開けてしまう。
「ボンジュ~ル!初めまして、シャノワ~ルちゃん♪」
「しゃ、のわ…?」
そしてそれは人間と同じように言葉を放つ。
非現実的な光景と現実的な現象の入り混じる空間に
頭が追い付いていない
神菜はただ戸惑っていた。
「あ…あの!」
「んん?」
「ここってどこですか?
なんか知らない内にここにいたんだけど…」
「さあ。僕たちも迷い込んじゃってさあ」
「そう…ですか」
その言葉に希望が消えたと感じてしまったのか心臓が冷える感覚が走る。
脱力したままふと、ちらと隣の赤髪少女を見てみれば
彼女はピエロとは違い、
神菜と同じ人間の姿をしていた。
赤髪とサファリジャケット。
まるで何かの作品のコスプレのような姿をしているが
コスプレ衣装の様なチープさは見当たらず、むしろ使い込まれた状態だ。
「…」
「ん?」
神菜がじっと見ていたからなのか、
少女も少し警戒心を持ちながら
神菜の方を見上げる。
そこから覗くのは透き通った銀色の目。
コスプレのカラーコンタクトにしてはクオリティが高すぎる馴染み具合。
見た事のない虹彩に、思わずまばたきを何度も繰り返してしまった。
「…」
しかしそれによって気まずくなり改めてピエロの方を見る。
その口元は相変わらずニッコリとしており、
少女に目線を戻せば
神菜の全身をまじまじと見つめている。
どうあがいても変わらない気まず過ぎる時間に
何度目かわからないため息をついた。
「…えーと、」
「…」
「ここの出口を探したいんですけど…」
今度はピエロとその少女に向けて言葉を投げかける。
しかし少女はその言葉に反応し見上げるも、
ちらりと隣のピエロに助けを求めるかのよう目線を送っていた。
しかしピエロは首をかしげるだけで二人の様子を見ている。
「……」
しびれを切らした
神菜はこの他に誰かいないか、
何かないか辺りを見渡すが
彼女を観察していたピエロがやっと口を開いた。
「んふふ~相当お悩みのようだから、
さすがに助けてあげるよ」
「え?」
「実は迷い込んじゃったって、嘘なんだよね~」
「はあ?」
「怪しい人には警戒心張っておかないとさ。
観察させてもらったよ」
唐突に明かされた言葉に思考が止まり言葉が出ないまま眉をひそめる。
どう見ても怪しいのはお前の方だが…と、
出そうになった言葉をのど元ギリギリでせき止めた。
「ほら、おいでよ」
浮遊したまま
神菜を横切ると
くるりと振り向き、誘うように腕のジェスチャーを見せる。
少女をちらりと見るも動く気配はない。
この二人の間に挟まる形からは逃れられないようだ。
とりあえずこの場所から出る事が第一優先だった
神菜は
とりあえずピエロの方へ足を運び、共に歩き出した。
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「…なに?」
その言葉が出たのは、目の前のピエロが突如進行を停止したからだ。
神菜の言葉に答えるように振り向くも
その表情は先ほどより増した不気味な笑み。
「あんまり長居しちゃうと、僕達も怒られちゃうの。
思い出してさぁ」
そう言うと、右手を
神菜の目の前に差し出す。
理解のできない動作に怪訝な様子を見せるも
そのまま手のひらを上に向け、親指と中指を合わせた。
―ぱちん
その弾けるが鳴った瞬間、
全身がぞわりと何かが走り膝の力が抜ける。
意図しない反応で崩れる足元に抵抗するも抗うことはできず。
やがて視界も更に暗くなり、
残る意識で目の前のピエロの手を掴もうとするも
掠めた感触が伝わったところで完全に暗転してしまった。
№1 目覚めた先は、
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