🍀 -朝露
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朝。カーテンの隙間から細い光が差し込んで、部屋の中をやわらかく照らしている。
まだ完全には明るくなりきらないその時間が、妙に心地いい。
わたしは目を閉じたまま、もうとっくに目が覚めていた。
でも、あえて動かない。
隣にいる唯衣ちゃんの気配だけが、やけに鮮明に感じられる。
寝息はもう聞こえない。きっと向こうも起きている。
少しして、ベッドがきしっと小さく鳴った。
その音だけで、意識がそっちに引っ張られる。
「……さくら」
近い。
耳にかかるくらいの距離で名前を呼ばれて、思わず反応しそうになる。
でも、今日はなんとなく意地を張って、そのまま無視してみる。
「起きてや」
さっきよりちゃんとした声。
少しだけ優しさが混じっている気がする。
それでも動かない。
わざと呼吸もゆっくりにして、まだ寝ているふりを続ける。
数秒、間があく。
その静けさが、逆にくすぐったい。
「……起きへんの?」
少し困ったような声。
ほんの少しだけ、寂しさも混ざっている気がして、胸の奥がちくっとする。
でも、もう少しだけ様子を見たくて、そのままでいる。
すると、布団がそっとめくられた。
ひんやりした朝の空気が頬に触れて、思わずぴくっと反応しそうになるのを必死にこらえる。
「……なあ」
今度は、ほとんど耳元。
息がかかるくらいの距離で囁かれて、さすがに緊張する。
唯衣ちゃんが小さく息を吐く音が、やけに近くて、やけに意識に残る。
それから、ほんの少しだけ間があって——
「……じゃあ」
ぼそっとした、小さな声。
「……起きたら、ちゅーしてあげる」
一瞬、時間が止まる。
あまりにも小さくて、でもはっきりと聞こえてしまったその言葉。
聞き間違いかと思うくらいなのに、ちゃんと意味が頭に入ってくる。
わたしは一秒だけ我慢した。
でも、無理だった。
ガバッと起き上がる。
「起きた」
「は!?」
唯衣ちゃんが本気で驚いた顔をする。
目を見開いて、完全に予想外だったって顔。
「今のほんと?」
「……なにが」
「ちゅーしてあげるってやつ」
「言ってへん」
「言ってた」
「言ってへん」
目が泳いでる。
視線が合わない。
顔も、じわじわと赤くなっていく。
わかりやすすぎて、思わず笑いそうになる。
わたしは少し身を乗り出す。
「聞こえたよ?」
「……寝てたやろ」
「寝てない」
「最悪」
小さく呟いて、唯衣ちゃんが顔をそらす。
耳まで赤い。
その仕草があまりにもかわいくて、こらえきれずに少し笑ってしまう。
「約束だよね?」
「約束してへんわ」
「してた」
「してへんって」
言いながらも、声に強さがない。
完全には否定しきれてないのがわかる。
わたしはさらに少し距離を詰める。
「一回だけでいいから」
「……」
唯衣ちゃんが黙る。
視線はそらしたまま。
でも、逃げる様子はない。
数秒そのままの時間が流れて、やがて小さくため息をつく。
「……一回だけ」
「ほんとに?」
「ほんまに一回だけ」
「やった」
唯衣ちゃんはまだ顔をそらしたまま。
でも、さっきより少しだけこっちに近い。
その距離が、妙にくすぐったい。
わたしはゆっくり顔を近づける。
「唯衣ちゃん」
「……なに」
「こっち向いて」
「やだ」
「なんで」
「恥ずかしい」
「言ったのそっちじゃん」
「……それは」
言い返せなくなって、言葉が止まる。
少しの沈黙。
そのあと、観念したみたいにゆっくりと顔を戻す。
目が合う。
一瞬、どちらも固まる。
空気が止まったみたいに、何も動かない。
「……するん?」
「するって言ったのそっち」
「……」
覚悟を決めたように、唯衣ちゃんの顔がほんの少し近づく。
でも、途中で止まる。
あと少しの距離が埋まらない。
その中途半端な距離が、妙に愛おしくて。
わたしは小さく笑って、そのまま自分から寄る。
ちゅ。
ほんの一瞬、触れるだけ。
でも、それだけで十分だった。
すぐに離れる。
「……」
唯衣ちゃんは完全に固まっている。
顔が一気に真っ赤になって、言葉も出てこない。
「もらった」
「……今の、ずるいやろ」
「なんで」
「こっちがするって言ったのに」
「でもしていいってことでしょ」
「そういう意味やあらへん……」
声が小さい。
どんどんしぼんでいく。
わたしはもう一歩近づく。
「じゃあ、唯衣ちゃんもしていいよ」
「……いい」
「なんで」
「もうしたし」
「それ私がしたやつじゃん」
「……」
また言い返せなくなって黙る。
そのまま数秒。
指先が少しだけ動いて、わたしの袖をつかむ。
「……一回だけやから」
小さくそう言って、今度は唯衣ちゃんが顔を上げる。
さっきよりちゃんと、まっすぐこっちを見ている。
ゆっくり近づいてくる。
少し迷いながら、それでもちゃんと距離を詰めてくる。
そして——
ちゅ。
さっきより、ほんの少しだけ長い。
触れている時間が、わずかに伸びる。
離れたあと、すぐに目を逸らす。
「……終わり」
「え、早い」
「終わり」
「もう一回」
「嫌」
即答。
でも、袖をつかんだ手は離れない。
むしろ少しだけ力が入る。
それが嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。
「明日もこれで起こして」
「……普通に起こすから」
「じゃあ起きない」
「起きて」
「ちゅーしてくれたら起きる」
「せん」
「じゃあ起きない」
「……めんどくさい」
小さくぼやく。
でも、手はそのまま。
離れる気はない。
「なあ」
「なに」
「朝からさくらはずるい」
「なにが」
「……なんでもない」
そう言いながら、ほんの少しだけ近づいてくる。
さっきより自然に。
さっきより、迷いが少なくて。
結局、もう一回だけ。
軽く触れる。
でも今度は、さっきよりも少しだけ甘くて、やわらかい。
離れたあと、唯衣ちゃんが小さく言う。
「……これでほんまに最後」
「はいはい」
「ほんまに」
「うん」
そう答えながら、わたしは笑う。
恥ずかしがりなのに、ちゃんと来てくれるところとか。
言葉では否定するくせに、離れないところとか。
そういう全部が、たまらなく愛おしいと思った。
朝のやわらかい光の中で、唯衣ちゃんの横顔はまだ少し赤くて。
そのまま、しばらく手を離さずにいた。
まだ完全には明るくなりきらないその時間が、妙に心地いい。
わたしは目を閉じたまま、もうとっくに目が覚めていた。
でも、あえて動かない。
隣にいる唯衣ちゃんの気配だけが、やけに鮮明に感じられる。
寝息はもう聞こえない。きっと向こうも起きている。
少しして、ベッドがきしっと小さく鳴った。
その音だけで、意識がそっちに引っ張られる。
「……さくら」
近い。
耳にかかるくらいの距離で名前を呼ばれて、思わず反応しそうになる。
でも、今日はなんとなく意地を張って、そのまま無視してみる。
「起きてや」
さっきよりちゃんとした声。
少しだけ優しさが混じっている気がする。
それでも動かない。
わざと呼吸もゆっくりにして、まだ寝ているふりを続ける。
数秒、間があく。
その静けさが、逆にくすぐったい。
「……起きへんの?」
少し困ったような声。
ほんの少しだけ、寂しさも混ざっている気がして、胸の奥がちくっとする。
でも、もう少しだけ様子を見たくて、そのままでいる。
すると、布団がそっとめくられた。
ひんやりした朝の空気が頬に触れて、思わずぴくっと反応しそうになるのを必死にこらえる。
「……なあ」
今度は、ほとんど耳元。
息がかかるくらいの距離で囁かれて、さすがに緊張する。
唯衣ちゃんが小さく息を吐く音が、やけに近くて、やけに意識に残る。
それから、ほんの少しだけ間があって——
「……じゃあ」
ぼそっとした、小さな声。
「……起きたら、ちゅーしてあげる」
一瞬、時間が止まる。
あまりにも小さくて、でもはっきりと聞こえてしまったその言葉。
聞き間違いかと思うくらいなのに、ちゃんと意味が頭に入ってくる。
わたしは一秒だけ我慢した。
でも、無理だった。
ガバッと起き上がる。
「起きた」
「は!?」
唯衣ちゃんが本気で驚いた顔をする。
目を見開いて、完全に予想外だったって顔。
「今のほんと?」
「……なにが」
「ちゅーしてあげるってやつ」
「言ってへん」
「言ってた」
「言ってへん」
目が泳いでる。
視線が合わない。
顔も、じわじわと赤くなっていく。
わかりやすすぎて、思わず笑いそうになる。
わたしは少し身を乗り出す。
「聞こえたよ?」
「……寝てたやろ」
「寝てない」
「最悪」
小さく呟いて、唯衣ちゃんが顔をそらす。
耳まで赤い。
その仕草があまりにもかわいくて、こらえきれずに少し笑ってしまう。
「約束だよね?」
「約束してへんわ」
「してた」
「してへんって」
言いながらも、声に強さがない。
完全には否定しきれてないのがわかる。
わたしはさらに少し距離を詰める。
「一回だけでいいから」
「……」
唯衣ちゃんが黙る。
視線はそらしたまま。
でも、逃げる様子はない。
数秒そのままの時間が流れて、やがて小さくため息をつく。
「……一回だけ」
「ほんとに?」
「ほんまに一回だけ」
「やった」
唯衣ちゃんはまだ顔をそらしたまま。
でも、さっきより少しだけこっちに近い。
その距離が、妙にくすぐったい。
わたしはゆっくり顔を近づける。
「唯衣ちゃん」
「……なに」
「こっち向いて」
「やだ」
「なんで」
「恥ずかしい」
「言ったのそっちじゃん」
「……それは」
言い返せなくなって、言葉が止まる。
少しの沈黙。
そのあと、観念したみたいにゆっくりと顔を戻す。
目が合う。
一瞬、どちらも固まる。
空気が止まったみたいに、何も動かない。
「……するん?」
「するって言ったのそっち」
「……」
覚悟を決めたように、唯衣ちゃんの顔がほんの少し近づく。
でも、途中で止まる。
あと少しの距離が埋まらない。
その中途半端な距離が、妙に愛おしくて。
わたしは小さく笑って、そのまま自分から寄る。
ちゅ。
ほんの一瞬、触れるだけ。
でも、それだけで十分だった。
すぐに離れる。
「……」
唯衣ちゃんは完全に固まっている。
顔が一気に真っ赤になって、言葉も出てこない。
「もらった」
「……今の、ずるいやろ」
「なんで」
「こっちがするって言ったのに」
「でもしていいってことでしょ」
「そういう意味やあらへん……」
声が小さい。
どんどんしぼんでいく。
わたしはもう一歩近づく。
「じゃあ、唯衣ちゃんもしていいよ」
「……いい」
「なんで」
「もうしたし」
「それ私がしたやつじゃん」
「……」
また言い返せなくなって黙る。
そのまま数秒。
指先が少しだけ動いて、わたしの袖をつかむ。
「……一回だけやから」
小さくそう言って、今度は唯衣ちゃんが顔を上げる。
さっきよりちゃんと、まっすぐこっちを見ている。
ゆっくり近づいてくる。
少し迷いながら、それでもちゃんと距離を詰めてくる。
そして——
ちゅ。
さっきより、ほんの少しだけ長い。
触れている時間が、わずかに伸びる。
離れたあと、すぐに目を逸らす。
「……終わり」
「え、早い」
「終わり」
「もう一回」
「嫌」
即答。
でも、袖をつかんだ手は離れない。
むしろ少しだけ力が入る。
それが嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。
「明日もこれで起こして」
「……普通に起こすから」
「じゃあ起きない」
「起きて」
「ちゅーしてくれたら起きる」
「せん」
「じゃあ起きない」
「……めんどくさい」
小さくぼやく。
でも、手はそのまま。
離れる気はない。
「なあ」
「なに」
「朝からさくらはずるい」
「なにが」
「……なんでもない」
そう言いながら、ほんの少しだけ近づいてくる。
さっきより自然に。
さっきより、迷いが少なくて。
結局、もう一回だけ。
軽く触れる。
でも今度は、さっきよりも少しだけ甘くて、やわらかい。
離れたあと、唯衣ちゃんが小さく言う。
「……これでほんまに最後」
「はいはい」
「ほんまに」
「うん」
そう答えながら、わたしは笑う。
恥ずかしがりなのに、ちゃんと来てくれるところとか。
言葉では否定するくせに、離れないところとか。
そういう全部が、たまらなく愛おしいと思った。
朝のやわらかい光の中で、唯衣ちゃんの横顔はまだ少し赤くて。
そのまま、しばらく手を離さずにいた。
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