🧸- 交差点
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潮の匂いがする。
この町の夏は、いつも少し湿っている。
海が近いからだろうか。制服のシャツが、肌にぺたっと張り付く感じがする。
放課後の帰り道。
校門を出て、海へ続く坂道を下りると、大きな交差点がある。
私は信号の前で立ち止まっていた。
赤信号。
向こう側の歩道に、見慣れた姿が見えた。
——保乃。
胸の奥が、どくんと鳴る。
白いシャツの袖を少しまくって、髪をポニーテールに結んでいる。
潮風に揺れて、黒い髪がきらきら光っていた。
その隣にいるのは——
「……あ」
私は小さく息を呑んだ。
保乃の彼氏。
同じ学年の、サッカー部の男子。
二人は何か話して笑っている。
「ほんと?そうなん?!」
保乃が笑う。
その笑い方を、私はよく知っている。
ちょっと目を細めて、肩を揺らして笑う癖。
——その顔、私にも向けてよ。
思ってしまった瞬間、胸がぎゅっと痛んだ。
だめだ。
そんなこと思っちゃだめ。
私は目を逸らす。
だけどその瞬間。
ぱっと視線が合った。
保乃と。
時間が止まったみたいだった。
「……」
言葉が出ない。
信号が青に変わる。
ピッ、ピッ、ピッ、と電子音が鳴り始める。
誰かが笑う声がした。
自転車が通り過ぎる。
だけど私は——
まだ動けないでいた。
「おーい!」
保乃が手を振る。
「なにしてんの!渡らへんの?」
「……あ、うん」
足がやっと動く。
横断歩道を歩く。
白線がやけに眩しい。
近づくほど、心臓の音が大きくなる。
「ぼーっとしてたでやろ」
保乃が言った。
「また考え事?」
「……まあね」
笑ってごまかす。
彼氏のほうが軽く会釈してきた。
「どうも」
「……どうも」
気まずい。
私と保乃は親友。
でも彼氏とは話すほどの関係じゃない。
「じゃ、俺こっちだから」
彼が言った。
「うん、またね!」
保乃が手を振る。
彼は坂道を上っていった。
その背中を見送りながら、胸の奥がざわつく。
——あの子。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
消えてしまえばいいのに、って思った。
「……」
最低だ。
私は目を伏せる。
「ねえ」
保乃が横から顔を覗き込む。
「ほんとに大丈夫?」
「え?」
「顔、変だよ」
「変ってなに」
「なんか苦しそう」
ドキッとした。
「そんなことないよ」
「ほんと?」
「うん」
嘘。全部嘘。
もしこの気持ちが、形になってしまったら。
たぶん私は壊れる。
保乃を好きだって気持ちが、体の中で渦巻いている。
もしそれが目に見えるものだったら、きっと私の小さな体なんか突き破って、空を覆って、世界を黒くしてしまう。
「そういえばさ」
保乃が歩きながら言う。
「今日、海行かへん?」
「海?」
「うん。暑いし」
海は、学校から十分くらい歩いたところにある。
防波堤と、小さな砂浜。
「アイス買ってさ、座ろうよ」
「……いいよ」
断れるわけがない。
好きだから。
隣を歩く。
潮風が吹く。
保乃の髪がふわっと揺れて、シャンプーの匂いがした。
「ねえ」
「なに?」
「もしさ」
保乃が空を見上げる。
「私たち出会ってなかったら、どうなってたと思う?」
突然の質問だった。
「……どうだろ」
私は少し考える。
もし。
もし保乃が、今と違う顔で。
もっと違う声で。
別の場所で出会っていたら。
私はこんなに苦しい思いをしなくて済んだのかな。
——いや。
きっと違う。
「たぶん」
私は言った。
「どこかでまた会ってるよ」
「え?」
「出会い方が違っても」
胸が痛い。
「たぶん、また友達になってる」
本当は。
友達じゃなくていい。
好きだよって言いたい。
でも言えない。
言ったら全部壊れるから。
だから私は——
そっと心に蓋をする。
硝子の蓋。
透けて見えるのに、絶対に開けられない。
「なにそれ」
保乃が笑う。
「運命ってやつ?」
「かもね」
「じゃあさ」
保乃が私の肩を軽くぶついた。
「一生友達やん」
その言葉が、胸に刺さる。
「……うん」
私は笑う。
笑うしかない。
海が見えてきた。
青くて、眩しくて、逃げ場なんてどこにもないみたいな夏だった。
砂浜はまだ熱を持っていた。
靴を脱いで歩くと、足の裏がじんわり温かい。
海は夕方の色に変わりかけていて、光が水面で細かく揺れていた。
「うわー、やっぱ海いいわ」
保乃が両腕を広げる。
制服のスカートが潮風でふわっと揺れた。
「ほら、アイス」
コンビニで買ったソーダアイスを渡すと、保乃は嬉しそうに受け取った。
「ありがと」
防波堤に二人で座る。
遠くでカモメが鳴いた。
「今日さ」
保乃がアイスをかじりながら言う。
「数学のテストやばくなかった?」
「普通じゃない?」
「うそやろ、あの最後の問題意味わからへんかったんやけど」
「私は解けた」
「えっ、ずる!」
保乃が私の肩を軽く叩く。
その距離が、近い。
近すぎる。
触れたところが熱くなる。
「ねえ、教えてや」
「今?」
「今」
「いや無理でしょ」
「えー」
保乃が頬を膨らませる。
それを見て、思わず笑ってしまう。
こういう時間が、好き。
何でもない会話。
隣にいるだけの時間。
……でも。
「そういえばさ」
保乃が言った。
「今日、**がさ」
胸が小さく跳ねる。
**。
保乃の彼氏。
「部活終わったら電話しよって言ってきて」
「へえ」
平然を装う。
「最近さ、めっちゃ甘いんよなー。」
保乃は少し照れたように笑った。
「なんかさー、帰り道でも手繋ごうとしてくるし」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥がぎゅっと縮む。
息が、少し苦しい。
「いいじゃん」
私は笑う。
「仲良しで」
「そうかな」
保乃はアイスを見つめながら言った。
「でもさ」
「うん?」
「なんか変な感じなんだよね」
「変?」
「うん」
少し考えてから、保乃は言う。
「嫌じゃないんだけど」
「……うん」
「でも、ドキドキはあんまりしない」
私は黙った。
波の音が聞こえる。
ざあ、ざあ、と一定のリズム。
「なんかさ」
保乃が続ける。
「好きって何なんだろうって思う」
その言葉に、胸が揺れた。
もし。
もし今。
「じゃあ別れれば?」
って言ったらどうなるんだろう。
そんな考えが一瞬浮かぶ。
最低だ。
私は視線を海に向ける。
「好きなんじゃないの?」
「うーん」
保乃は首を傾げる。
「好きは好きだと思うんやけど」
少し黙ってから、ぽつりと続けた。
「でもさ」
「なに」
「一番一緒にいて楽しいのは」
私のほうを見て笑った。
「やっぱりさくらなんだよね」
心臓が止まりそうになった。
「……」
言葉が出ない。
「だってさ」
保乃は笑いながら言う。
「もう何年の付き合いだと思ってんの」
「……中学からだから」
「やろ?」
「うん」
私は笑う。
笑いながら、胸の奥が壊れそうだった。
そんなこと言わないで。
期待してしまうから。
「ねえ」
保乃が私を見た。
「もしさ」
「うん」
「私が男だったらどうする?」
「……ん?」
「だからさ」
「もし私が男だったら、付き合ってくれる?」
冗談みたいな声だった。
軽い質問。
でも。
私には、重すぎる。
もし私が男だったら。
きっと私は。迷わず好きになっていた。
いや。
今でも好きだ。
性別なんて関係ないくらい。
「……どうやろ」
保乃は目を逸らす。
「考えたことない」
「えー」
なんとか笑う。
「ちょっとは悩んでよ」
「なんでよ」
「私けっこういい彼氏になると思うんだけど」
「自分で言う?」
「言う」
また笑う。
その笑顔を見ていると、胸の奥の何かが溢れそうになる。
だめだ。
これ以上。
これ以上、心に君が溢れたら。
息ができなくなる。
私はそっと心の中で蓋を閉める。
硝子の蓋。
透明で、壊れそうで、でも必死に押さえつける。
この気持ちは見せちゃだめ。
見せたらきっと、全部終わる。
「ねえ」
保乃が立ち上がった。
「ちょっと海入ろ」
「え、制服だよ」
「平気平気」
保乃は靴を脱いで、波打ち際まで走っていく。
「冷たっ!」
笑い声が海に響く。
「ほら来なよ!」
私は少し迷ってから、立ち上がる。
砂が足の指の間に入る。
波が寄せてくる。
ひんやりした水が足首に触れた。
「どう?」
保乃が笑う。
「気持ちいいやろ?」
「……まあね」
夕日が海に落ちていく。
オレンジ色の光が、水面を染めている。
その中に立つ保乃は、やけに綺麗で。
眩しくて。
私は思う。
もし。
もしこの気持ちを、目で見える形にしてしまったら。
きっと、私の小さな体を突き破って。
空を覆って。
保乃を隠してしまう。
それくらい、大きくなってしまっているから。
「ねえ!」
保乃が水を蹴った。
ばしゃっと私にかかる。
「ちょっ」
「はは!」
笑う声。
私はその顔を見て、どうしようもなく思う。
好きだ。
言えないけど。
ずっと。
ずっと前から。
好きなんだ。
だから私は、もう一度だけ、心の蓋を閉めた。
硝子の蓋を。
静かに。
この町の夏は、いつも少し湿っている。
海が近いからだろうか。制服のシャツが、肌にぺたっと張り付く感じがする。
放課後の帰り道。
校門を出て、海へ続く坂道を下りると、大きな交差点がある。
私は信号の前で立ち止まっていた。
赤信号。
向こう側の歩道に、見慣れた姿が見えた。
——保乃。
胸の奥が、どくんと鳴る。
白いシャツの袖を少しまくって、髪をポニーテールに結んでいる。
潮風に揺れて、黒い髪がきらきら光っていた。
その隣にいるのは——
「……あ」
私は小さく息を呑んだ。
保乃の彼氏。
同じ学年の、サッカー部の男子。
二人は何か話して笑っている。
「ほんと?そうなん?!」
保乃が笑う。
その笑い方を、私はよく知っている。
ちょっと目を細めて、肩を揺らして笑う癖。
——その顔、私にも向けてよ。
思ってしまった瞬間、胸がぎゅっと痛んだ。
だめだ。
そんなこと思っちゃだめ。
私は目を逸らす。
だけどその瞬間。
ぱっと視線が合った。
保乃と。
時間が止まったみたいだった。
「……」
言葉が出ない。
信号が青に変わる。
ピッ、ピッ、ピッ、と電子音が鳴り始める。
誰かが笑う声がした。
自転車が通り過ぎる。
だけど私は——
まだ動けないでいた。
「おーい!」
保乃が手を振る。
「なにしてんの!渡らへんの?」
「……あ、うん」
足がやっと動く。
横断歩道を歩く。
白線がやけに眩しい。
近づくほど、心臓の音が大きくなる。
「ぼーっとしてたでやろ」
保乃が言った。
「また考え事?」
「……まあね」
笑ってごまかす。
彼氏のほうが軽く会釈してきた。
「どうも」
「……どうも」
気まずい。
私と保乃は親友。
でも彼氏とは話すほどの関係じゃない。
「じゃ、俺こっちだから」
彼が言った。
「うん、またね!」
保乃が手を振る。
彼は坂道を上っていった。
その背中を見送りながら、胸の奥がざわつく。
——あの子。
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
消えてしまえばいいのに、って思った。
「……」
最低だ。
私は目を伏せる。
「ねえ」
保乃が横から顔を覗き込む。
「ほんとに大丈夫?」
「え?」
「顔、変だよ」
「変ってなに」
「なんか苦しそう」
ドキッとした。
「そんなことないよ」
「ほんと?」
「うん」
嘘。全部嘘。
もしこの気持ちが、形になってしまったら。
たぶん私は壊れる。
保乃を好きだって気持ちが、体の中で渦巻いている。
もしそれが目に見えるものだったら、きっと私の小さな体なんか突き破って、空を覆って、世界を黒くしてしまう。
「そういえばさ」
保乃が歩きながら言う。
「今日、海行かへん?」
「海?」
「うん。暑いし」
海は、学校から十分くらい歩いたところにある。
防波堤と、小さな砂浜。
「アイス買ってさ、座ろうよ」
「……いいよ」
断れるわけがない。
好きだから。
隣を歩く。
潮風が吹く。
保乃の髪がふわっと揺れて、シャンプーの匂いがした。
「ねえ」
「なに?」
「もしさ」
保乃が空を見上げる。
「私たち出会ってなかったら、どうなってたと思う?」
突然の質問だった。
「……どうだろ」
私は少し考える。
もし。
もし保乃が、今と違う顔で。
もっと違う声で。
別の場所で出会っていたら。
私はこんなに苦しい思いをしなくて済んだのかな。
——いや。
きっと違う。
「たぶん」
私は言った。
「どこかでまた会ってるよ」
「え?」
「出会い方が違っても」
胸が痛い。
「たぶん、また友達になってる」
本当は。
友達じゃなくていい。
好きだよって言いたい。
でも言えない。
言ったら全部壊れるから。
だから私は——
そっと心に蓋をする。
硝子の蓋。
透けて見えるのに、絶対に開けられない。
「なにそれ」
保乃が笑う。
「運命ってやつ?」
「かもね」
「じゃあさ」
保乃が私の肩を軽くぶついた。
「一生友達やん」
その言葉が、胸に刺さる。
「……うん」
私は笑う。
笑うしかない。
海が見えてきた。
青くて、眩しくて、逃げ場なんてどこにもないみたいな夏だった。
砂浜はまだ熱を持っていた。
靴を脱いで歩くと、足の裏がじんわり温かい。
海は夕方の色に変わりかけていて、光が水面で細かく揺れていた。
「うわー、やっぱ海いいわ」
保乃が両腕を広げる。
制服のスカートが潮風でふわっと揺れた。
「ほら、アイス」
コンビニで買ったソーダアイスを渡すと、保乃は嬉しそうに受け取った。
「ありがと」
防波堤に二人で座る。
遠くでカモメが鳴いた。
「今日さ」
保乃がアイスをかじりながら言う。
「数学のテストやばくなかった?」
「普通じゃない?」
「うそやろ、あの最後の問題意味わからへんかったんやけど」
「私は解けた」
「えっ、ずる!」
保乃が私の肩を軽く叩く。
その距離が、近い。
近すぎる。
触れたところが熱くなる。
「ねえ、教えてや」
「今?」
「今」
「いや無理でしょ」
「えー」
保乃が頬を膨らませる。
それを見て、思わず笑ってしまう。
こういう時間が、好き。
何でもない会話。
隣にいるだけの時間。
……でも。
「そういえばさ」
保乃が言った。
「今日、**がさ」
胸が小さく跳ねる。
**。
保乃の彼氏。
「部活終わったら電話しよって言ってきて」
「へえ」
平然を装う。
「最近さ、めっちゃ甘いんよなー。」
保乃は少し照れたように笑った。
「なんかさー、帰り道でも手繋ごうとしてくるし」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥がぎゅっと縮む。
息が、少し苦しい。
「いいじゃん」
私は笑う。
「仲良しで」
「そうかな」
保乃はアイスを見つめながら言った。
「でもさ」
「うん?」
「なんか変な感じなんだよね」
「変?」
「うん」
少し考えてから、保乃は言う。
「嫌じゃないんだけど」
「……うん」
「でも、ドキドキはあんまりしない」
私は黙った。
波の音が聞こえる。
ざあ、ざあ、と一定のリズム。
「なんかさ」
保乃が続ける。
「好きって何なんだろうって思う」
その言葉に、胸が揺れた。
もし。
もし今。
「じゃあ別れれば?」
って言ったらどうなるんだろう。
そんな考えが一瞬浮かぶ。
最低だ。
私は視線を海に向ける。
「好きなんじゃないの?」
「うーん」
保乃は首を傾げる。
「好きは好きだと思うんやけど」
少し黙ってから、ぽつりと続けた。
「でもさ」
「なに」
「一番一緒にいて楽しいのは」
私のほうを見て笑った。
「やっぱりさくらなんだよね」
心臓が止まりそうになった。
「……」
言葉が出ない。
「だってさ」
保乃は笑いながら言う。
「もう何年の付き合いだと思ってんの」
「……中学からだから」
「やろ?」
「うん」
私は笑う。
笑いながら、胸の奥が壊れそうだった。
そんなこと言わないで。
期待してしまうから。
「ねえ」
保乃が私を見た。
「もしさ」
「うん」
「私が男だったらどうする?」
「……ん?」
「だからさ」
「もし私が男だったら、付き合ってくれる?」
冗談みたいな声だった。
軽い質問。
でも。
私には、重すぎる。
もし私が男だったら。
きっと私は。迷わず好きになっていた。
いや。
今でも好きだ。
性別なんて関係ないくらい。
「……どうやろ」
保乃は目を逸らす。
「考えたことない」
「えー」
なんとか笑う。
「ちょっとは悩んでよ」
「なんでよ」
「私けっこういい彼氏になると思うんだけど」
「自分で言う?」
「言う」
また笑う。
その笑顔を見ていると、胸の奥の何かが溢れそうになる。
だめだ。
これ以上。
これ以上、心に君が溢れたら。
息ができなくなる。
私はそっと心の中で蓋を閉める。
硝子の蓋。
透明で、壊れそうで、でも必死に押さえつける。
この気持ちは見せちゃだめ。
見せたらきっと、全部終わる。
「ねえ」
保乃が立ち上がった。
「ちょっと海入ろ」
「え、制服だよ」
「平気平気」
保乃は靴を脱いで、波打ち際まで走っていく。
「冷たっ!」
笑い声が海に響く。
「ほら来なよ!」
私は少し迷ってから、立ち上がる。
砂が足の指の間に入る。
波が寄せてくる。
ひんやりした水が足首に触れた。
「どう?」
保乃が笑う。
「気持ちいいやろ?」
「……まあね」
夕日が海に落ちていく。
オレンジ色の光が、水面を染めている。
その中に立つ保乃は、やけに綺麗で。
眩しくて。
私は思う。
もし。
もしこの気持ちを、目で見える形にしてしまったら。
きっと、私の小さな体を突き破って。
空を覆って。
保乃を隠してしまう。
それくらい、大きくなってしまっているから。
「ねえ!」
保乃が水を蹴った。
ばしゃっと私にかかる。
「ちょっ」
「はは!」
笑う声。
私はその顔を見て、どうしようもなく思う。
好きだ。
言えないけど。
ずっと。
ずっと前から。
好きなんだ。
だから私は、もう一度だけ、心の蓋を閉めた。
硝子の蓋を。
静かに。
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