🎐- いつも
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「ねえねえさくら、一緒に寝起きドッキリしよ」
ライブを終えた翌朝。
東京へ帰る支度を整えたホテルの廊下に、にやにやと楽しげな顔で現れたのは天と唯衣だった。
朝のまだけだるい空気を切り裂くように、二人の声は妙に弾んでいる。
確かに、そろそろ起きていない人がいれば本気で新幹線に間に合わなくなる時間帯だ。
「ドッキリかどうかはさておき、起こしに行った方がいいね」
私がそう言うと、二人は待ってましたとばかりに笑みを深め、いたずらっ子の顔で先を歩き出した。
インターフォンを鳴らしては「おはよー!」と叫び、既に起きているメンバーに肩透かしを食らっては肩を落とす。
最初は楽しそうにしていた二人も、ほとんどの部屋からすぐ反応が返ってくるものだから「つまんな〜い」「なんでみんな起きてるん?!」とぶつぶつ文句を言い出す。
――まあ、時間を考えれば当然だ。
あと三時間足らずで新幹線に乗らなければならないのだから。
けれど、その中でひとつだけ応答のない部屋があった。
夏鈴の部屋。
「ふふ、チャンスやん」
「やっと面白いのきた」
二人の表情がまたしてもにやにやに戻る。
マネージャーさんから預かった合鍵を取り出す姿に、私は胸の奥で小さく苦笑した。
夏鈴――私の恋人。
それはまだ誰にも明かしていない秘密。
だから同じ部屋で夜を過ごすことはない。
けれど昨夜は、つい長々とメッセージを交わしてしまった。
眠るのが遅くなった彼女が今も布団の中にいるのは、想像に難くなかった。
仕方ない、と少し呆れながらも、私も二人の後に続く。
合鍵で開けられた部屋は、カーテンが引かれたままの薄暗い空間だった。
静まり返った空気の中、ベッドの上で眠る夏鈴の姿が目に飛び込んでくる。
布団にくるまれて小さく丸まった彼女は、まるで赤ん坊のように無防備で、そしてひどく愛おしかった。
頬にかかる髪、穏やかな寝息。
昨日までのステージでの凛とした姿とは全く違う。
胸の奥からじんわりと熱がこみ上げてきて、ただじっと眺めてしまう。
「……なに、そんなに見つめてんの」
背後から天の突っ込みが飛んできて、思わず肩をびくりと震わせる。
そうだ、ここは二人きりじゃない。
私は小さく咳払いをして誤魔化した。
「起こそうか」
声をかけると、二人は待ってましたとばかりに勢いよく動いた。
唯衣がカーテンをざっと開き、眩しい光が差し込む。
天は布団を一気に剥ぎ取る。
「夏鈴、おはよう」
私はそっと呼びかけた。
まぶたがゆっくりと開き、彼女の視線が私を捕らえる。
その瞬間、眠りの余韻に濡れた瞳が甘く揺れた。
「……さくら。もうちょっと一緒に寝よ」
かすれた声が落ちて、次の瞬間、彼女の腕が私をぐいっと引き寄せた。
布団の中に引きずり込まれ、まるでコアラに抱きつかれたように全身を包まれる。
心臓が跳ね、頬が熱くなる。
天と唯衣は目を丸くして固まっている。
だが次第に顔が崩れ、想定外の展開ににやにやと笑みを浮かべはじめた。
一方の私は、顔を伏せるしかできない。
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。
「ちょっと夏鈴、寝ぼけてないで離して」
必死に腕から抜け出そうとするが、彼女の抱きしめる力は意外なほど強い。
「なに、いつもは許してくれるのに。なんで今日はダメなの」
――いつも。
その言葉が落ちた瞬間、時間が止まった気がした。
私の心臓が跳ねる音と、天と唯衣が息を呑む音だけがやけに鮮明に響く。
「……いつもって何?」
「二人って、そういう?」
にやにや顔が一層悪戯っぽくなる。
私は頭を抱えたくなる気持ちを押し殺し、夏鈴の頭を軽く叩いた。
ようやく彼女はぱちぱちと瞬きをして、状況を理解し始める。
だが、もう遅い。
二人は完全にいじるモードに突入していた。
「お熱いですね〜」
「朝からラブラブ、ごちそうさまです」
私は無視を決め込み、まだ眠そうな夏鈴を急いで支度させる。
手伝いながら、心臓の鼓動はなかなか落ち着かなかった。
ようやく準備が整い、部屋を出ようとしたとき。
「夏鈴のせいでバレたじゃん」
小言のように呟くと、彼女は意外にも素直に「ごめん」と答え、私の頭を優しく撫でた。
その仕草に胸が温かくなる。
叱るつもりだったのに、結局それ以上言えなくなってしまう。
すると、さっきまで散々冷やかしてきた天と唯衣が、ふいに真剣な声で言った。
「二人の幸せ、応援しとるよ」
振り返ると、二人の目は穏やかで優しかった。
その温もりに思わず胸がいっぱいになって、私は二人を抱きしめた。
「二人とも大好き。同期、大好き」
言葉が自然にこぼれ、二人が照れ笑いを浮かべながら頭を撫でてくれる。
胸の奥がじんわりと満たされていく。
ここが、私の大切な居場所なんだと改めて思う。
けれどその心地よい時間は、唐突なチョップによって中断された。
「ちょっと、二人にくっつきすぎ。浮気だよ」
痛みよりも、その声色にこもった拗ねた響きに、思わず笑ってしまう。
彼女の嫉妬がくすぐったくて愛しくて、私は夏鈴も一緒にぎゅっと抱き寄せた。
――同期は大好き。けれど夏鈴のことは、それ以上に、特別。
胸の中でそっと呟く。
だけど今日は、あえて言わない。寝ぼけて私を困らせた罰として。
彼女が不思議そうに首を傾げる横顔を見つめながら、私は心の中で笑みをこぼした。
ライブを終えた翌朝。
東京へ帰る支度を整えたホテルの廊下に、にやにやと楽しげな顔で現れたのは天と唯衣だった。
朝のまだけだるい空気を切り裂くように、二人の声は妙に弾んでいる。
確かに、そろそろ起きていない人がいれば本気で新幹線に間に合わなくなる時間帯だ。
「ドッキリかどうかはさておき、起こしに行った方がいいね」
私がそう言うと、二人は待ってましたとばかりに笑みを深め、いたずらっ子の顔で先を歩き出した。
インターフォンを鳴らしては「おはよー!」と叫び、既に起きているメンバーに肩透かしを食らっては肩を落とす。
最初は楽しそうにしていた二人も、ほとんどの部屋からすぐ反応が返ってくるものだから「つまんな〜い」「なんでみんな起きてるん?!」とぶつぶつ文句を言い出す。
――まあ、時間を考えれば当然だ。
あと三時間足らずで新幹線に乗らなければならないのだから。
けれど、その中でひとつだけ応答のない部屋があった。
夏鈴の部屋。
「ふふ、チャンスやん」
「やっと面白いのきた」
二人の表情がまたしてもにやにやに戻る。
マネージャーさんから預かった合鍵を取り出す姿に、私は胸の奥で小さく苦笑した。
夏鈴――私の恋人。
それはまだ誰にも明かしていない秘密。
だから同じ部屋で夜を過ごすことはない。
けれど昨夜は、つい長々とメッセージを交わしてしまった。
眠るのが遅くなった彼女が今も布団の中にいるのは、想像に難くなかった。
仕方ない、と少し呆れながらも、私も二人の後に続く。
合鍵で開けられた部屋は、カーテンが引かれたままの薄暗い空間だった。
静まり返った空気の中、ベッドの上で眠る夏鈴の姿が目に飛び込んでくる。
布団にくるまれて小さく丸まった彼女は、まるで赤ん坊のように無防備で、そしてひどく愛おしかった。
頬にかかる髪、穏やかな寝息。
昨日までのステージでの凛とした姿とは全く違う。
胸の奥からじんわりと熱がこみ上げてきて、ただじっと眺めてしまう。
「……なに、そんなに見つめてんの」
背後から天の突っ込みが飛んできて、思わず肩をびくりと震わせる。
そうだ、ここは二人きりじゃない。
私は小さく咳払いをして誤魔化した。
「起こそうか」
声をかけると、二人は待ってましたとばかりに勢いよく動いた。
唯衣がカーテンをざっと開き、眩しい光が差し込む。
天は布団を一気に剥ぎ取る。
「夏鈴、おはよう」
私はそっと呼びかけた。
まぶたがゆっくりと開き、彼女の視線が私を捕らえる。
その瞬間、眠りの余韻に濡れた瞳が甘く揺れた。
「……さくら。もうちょっと一緒に寝よ」
かすれた声が落ちて、次の瞬間、彼女の腕が私をぐいっと引き寄せた。
布団の中に引きずり込まれ、まるでコアラに抱きつかれたように全身を包まれる。
心臓が跳ね、頬が熱くなる。
天と唯衣は目を丸くして固まっている。
だが次第に顔が崩れ、想定外の展開ににやにやと笑みを浮かべはじめた。
一方の私は、顔を伏せるしかできない。
耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。
「ちょっと夏鈴、寝ぼけてないで離して」
必死に腕から抜け出そうとするが、彼女の抱きしめる力は意外なほど強い。
「なに、いつもは許してくれるのに。なんで今日はダメなの」
――いつも。
その言葉が落ちた瞬間、時間が止まった気がした。
私の心臓が跳ねる音と、天と唯衣が息を呑む音だけがやけに鮮明に響く。
「……いつもって何?」
「二人って、そういう?」
にやにや顔が一層悪戯っぽくなる。
私は頭を抱えたくなる気持ちを押し殺し、夏鈴の頭を軽く叩いた。
ようやく彼女はぱちぱちと瞬きをして、状況を理解し始める。
だが、もう遅い。
二人は完全にいじるモードに突入していた。
「お熱いですね〜」
「朝からラブラブ、ごちそうさまです」
私は無視を決め込み、まだ眠そうな夏鈴を急いで支度させる。
手伝いながら、心臓の鼓動はなかなか落ち着かなかった。
ようやく準備が整い、部屋を出ようとしたとき。
「夏鈴のせいでバレたじゃん」
小言のように呟くと、彼女は意外にも素直に「ごめん」と答え、私の頭を優しく撫でた。
その仕草に胸が温かくなる。
叱るつもりだったのに、結局それ以上言えなくなってしまう。
すると、さっきまで散々冷やかしてきた天と唯衣が、ふいに真剣な声で言った。
「二人の幸せ、応援しとるよ」
振り返ると、二人の目は穏やかで優しかった。
その温もりに思わず胸がいっぱいになって、私は二人を抱きしめた。
「二人とも大好き。同期、大好き」
言葉が自然にこぼれ、二人が照れ笑いを浮かべながら頭を撫でてくれる。
胸の奥がじんわりと満たされていく。
ここが、私の大切な居場所なんだと改めて思う。
けれどその心地よい時間は、唐突なチョップによって中断された。
「ちょっと、二人にくっつきすぎ。浮気だよ」
痛みよりも、その声色にこもった拗ねた響きに、思わず笑ってしまう。
彼女の嫉妬がくすぐったくて愛しくて、私は夏鈴も一緒にぎゅっと抱き寄せた。
――同期は大好き。けれど夏鈴のことは、それ以上に、特別。
胸の中でそっと呟く。
だけど今日は、あえて言わない。寝ぼけて私を困らせた罰として。
彼女が不思議そうに首を傾げる横顔を見つめながら、私は心の中で笑みをこぼした。
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