🍚- おんなじ
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収録が終わったあとの楽屋は、いつもより少し静かに感じた。
「さくら、どちたの〜?」 「怒ってるの〜?」
ゆづと璃花が左右から声をかけてくる。
ふたりの声音は、まるで迷子の子犬に話しかけるみたいに甘やかで、ちょっとだけ気持ちが緩む。
「怒ってないよ。落ち込んでるだけ」
そう言うと、璃花が「かわいい顔にシワがよってる〜」と眉間を指でグリグリしてきた。
抵抗する気にもなれず、されるがままになる。
落ち込むときって、理屈じゃない。
美羽は、ずっと選抜メンバー。
私はといえば、選抜とBACKSを行ったり来たり。
その違いが、いつも胸の奥をじんわり痛くさせる。
この前の番組では、美羽が“坂道ドリームチーム”として、他のグループの選抜メンバーと並んでパフォーマンスを披露していた。
私はそのステージをテレビの画面越しに見つめるしかなかった。
すごくかっこよかった。綺麗で、堂々としてて、美羽らしくて。
でも、それだけじゃなかった。
一緒に踊っていた他のメンバーたちは、実力も華やかさも備えた人ばかり。
私が勝手に比べて勝手に自信をなくしていく。
美羽はあんな人たちと仲良くなったら、そっちの方が楽しいって思っちゃうかも。
そんなことを考え出すと止まらなくなって、胸の奥がひんやり冷たくなる。
「……はあ」
大きくため息をつくと、璃花とゆづが私の頭を左右から撫でてくれた。
優しくて、安心して、甘えたくなってしまう。
「さくら、どしたの笑」
軽やかな声が飛んできて、振り向くと美青が笑いながらこっちを見ていた。
「美羽ちゃんが坂道選抜で優ちゃんたちと仲良くしてるから、さくらちゃんが拗ねてるんだよ〜」
璃花がからかうように言うと、美青がさらに追い討ちをかけてくる。
「そういえば美羽、彩ちゃんのことかわいいってめっちゃ言ってたよ?笑」
……その言葉に、心臓が一瞬だけ跳ねた。
普段なら「美青〜!」と笑ってツッコめるのに、今日は無理だった。
顔が熱くなって、私はゆづに思いっきり抱きついた。
「ほらぁ!美青がいじわる言うから、さくらがコアラみたいになっちゃったでしょ!」
ゆづが美青を叱り、美青は笑いながら「ごめんごめん」と頭を撫でてくれる。
その優しさも、今日は少しだけ沁みた。
でも――
突然、ふたりがピタッと私から離れた。
璃花は妙にニヤついて、視線の先を見つめている。
「……さくら」
背後から聞こえてきたのは、聞き慣れた、少し低めの声。
振り向くと、そこに美羽が立っていた。
表情はどこか不機嫌で、けれど寂しげで。
「さくら、みんなと距離近くない?」
そう言って、目を伏せながら私の袖を小さく握る。
その指先が少しだけ震えているのが分かった。
可愛い。
守りたい。
そう思った瞬間、言葉が自然とこぼれた。
「ごめんね」
けれど、美羽の顔はまだ晴れない。
「……口だけの謝罪はいらない」
少し拗ねたような声。そう言いながらも、袖はギュッと握ったまま離さない。
「さっきはちょっと慰めてもらってただけ。ほら、お姉さんズ優しいし」
正直にそう伝えると、美羽はまっすぐに私を見つめた。
その瞳が深くて、呑み込まれそうになる。
「何を慰めてもらってたの? 私じゃなくて、なんでふたりに? てか美青はなに?」
矢継ぎ早の質問に言葉が詰まる。
説明すべきなのに、恥ずかしくてうまく言葉にできない。
「……えっと……」
言いかけたところで、美羽が私のほっぺにキスをした。
「彼女に言えないことって、なに?」
普段あまりそういうことを言わない美羽が、「彼女」なんて言葉を使う。
胸がきゅっとなって、私はすべてを白状してしまった。
「美羽みたいな人と一緒にいるの、私なんかでいいのかなって。不安で……」
自分でも、情けない言い訳だなと思う。
でも、それが本音だった。
すると美羽が、隣の席から私の膝の上にすとんと乗ってきて、そのまま抱きしめてくる。
「なにそれ。私が好きなのは、さくらなのに」
顔を少し上げて、上目遣いで見つめながら、そんな愛おしいことを言ってくる。
「……私も、好き」
抱き締め返したその瞬間、楽屋の空気がざわついた。
視線を向ければ、璃花とゆづ、美青だけじゃない。
他の同期の子たちまでこちらを見ていて、ゆづが言った。
「はいはい、家でやってくださ〜い」
さすがに恥ずかしくて、私は美羽の手を引き、早足で楽屋をあとにした。
家に帰り、玄関で靴を脱いでいるとふと思い出してしまった。
「……そういえば、美羽。彩ちゃんのことかわいいって言ってたって本当?」
聞いた途端、美羽はちょっとだけ間を置いて、「うん……まあ、可愛いよね」なんて、どこか気まずそうに言う。
「なにそれ。かわいいもかっこいいも、美羽の一番は私であってほしいのに」
思わず口をついた言葉は、少しだけ重たかったかもしれない。
でも、美羽は立ち止まって振り返り答えた。
「……誰かと比べ物にならないくらい、さくらが特別だから」
たったその一言で、今日の不安も全部、溶けてしまいそうだった。
そっけなく歩き出す背中。
でも、その耳が真っ赤になってるの、私はちゃんと見てるからね。
――これからも、ずっとそばにいて。
「さくら、どちたの〜?」 「怒ってるの〜?」
ゆづと璃花が左右から声をかけてくる。
ふたりの声音は、まるで迷子の子犬に話しかけるみたいに甘やかで、ちょっとだけ気持ちが緩む。
「怒ってないよ。落ち込んでるだけ」
そう言うと、璃花が「かわいい顔にシワがよってる〜」と眉間を指でグリグリしてきた。
抵抗する気にもなれず、されるがままになる。
落ち込むときって、理屈じゃない。
美羽は、ずっと選抜メンバー。
私はといえば、選抜とBACKSを行ったり来たり。
その違いが、いつも胸の奥をじんわり痛くさせる。
この前の番組では、美羽が“坂道ドリームチーム”として、他のグループの選抜メンバーと並んでパフォーマンスを披露していた。
私はそのステージをテレビの画面越しに見つめるしかなかった。
すごくかっこよかった。綺麗で、堂々としてて、美羽らしくて。
でも、それだけじゃなかった。
一緒に踊っていた他のメンバーたちは、実力も華やかさも備えた人ばかり。
私が勝手に比べて勝手に自信をなくしていく。
美羽はあんな人たちと仲良くなったら、そっちの方が楽しいって思っちゃうかも。
そんなことを考え出すと止まらなくなって、胸の奥がひんやり冷たくなる。
「……はあ」
大きくため息をつくと、璃花とゆづが私の頭を左右から撫でてくれた。
優しくて、安心して、甘えたくなってしまう。
「さくら、どしたの笑」
軽やかな声が飛んできて、振り向くと美青が笑いながらこっちを見ていた。
「美羽ちゃんが坂道選抜で優ちゃんたちと仲良くしてるから、さくらちゃんが拗ねてるんだよ〜」
璃花がからかうように言うと、美青がさらに追い討ちをかけてくる。
「そういえば美羽、彩ちゃんのことかわいいってめっちゃ言ってたよ?笑」
……その言葉に、心臓が一瞬だけ跳ねた。
普段なら「美青〜!」と笑ってツッコめるのに、今日は無理だった。
顔が熱くなって、私はゆづに思いっきり抱きついた。
「ほらぁ!美青がいじわる言うから、さくらがコアラみたいになっちゃったでしょ!」
ゆづが美青を叱り、美青は笑いながら「ごめんごめん」と頭を撫でてくれる。
その優しさも、今日は少しだけ沁みた。
でも――
突然、ふたりがピタッと私から離れた。
璃花は妙にニヤついて、視線の先を見つめている。
「……さくら」
背後から聞こえてきたのは、聞き慣れた、少し低めの声。
振り向くと、そこに美羽が立っていた。
表情はどこか不機嫌で、けれど寂しげで。
「さくら、みんなと距離近くない?」
そう言って、目を伏せながら私の袖を小さく握る。
その指先が少しだけ震えているのが分かった。
可愛い。
守りたい。
そう思った瞬間、言葉が自然とこぼれた。
「ごめんね」
けれど、美羽の顔はまだ晴れない。
「……口だけの謝罪はいらない」
少し拗ねたような声。そう言いながらも、袖はギュッと握ったまま離さない。
「さっきはちょっと慰めてもらってただけ。ほら、お姉さんズ優しいし」
正直にそう伝えると、美羽はまっすぐに私を見つめた。
その瞳が深くて、呑み込まれそうになる。
「何を慰めてもらってたの? 私じゃなくて、なんでふたりに? てか美青はなに?」
矢継ぎ早の質問に言葉が詰まる。
説明すべきなのに、恥ずかしくてうまく言葉にできない。
「……えっと……」
言いかけたところで、美羽が私のほっぺにキスをした。
「彼女に言えないことって、なに?」
普段あまりそういうことを言わない美羽が、「彼女」なんて言葉を使う。
胸がきゅっとなって、私はすべてを白状してしまった。
「美羽みたいな人と一緒にいるの、私なんかでいいのかなって。不安で……」
自分でも、情けない言い訳だなと思う。
でも、それが本音だった。
すると美羽が、隣の席から私の膝の上にすとんと乗ってきて、そのまま抱きしめてくる。
「なにそれ。私が好きなのは、さくらなのに」
顔を少し上げて、上目遣いで見つめながら、そんな愛おしいことを言ってくる。
「……私も、好き」
抱き締め返したその瞬間、楽屋の空気がざわついた。
視線を向ければ、璃花とゆづ、美青だけじゃない。
他の同期の子たちまでこちらを見ていて、ゆづが言った。
「はいはい、家でやってくださ〜い」
さすがに恥ずかしくて、私は美羽の手を引き、早足で楽屋をあとにした。
家に帰り、玄関で靴を脱いでいるとふと思い出してしまった。
「……そういえば、美羽。彩ちゃんのことかわいいって言ってたって本当?」
聞いた途端、美羽はちょっとだけ間を置いて、「うん……まあ、可愛いよね」なんて、どこか気まずそうに言う。
「なにそれ。かわいいもかっこいいも、美羽の一番は私であってほしいのに」
思わず口をついた言葉は、少しだけ重たかったかもしれない。
でも、美羽は立ち止まって振り返り答えた。
「……誰かと比べ物にならないくらい、さくらが特別だから」
たったその一言で、今日の不安も全部、溶けてしまいそうだった。
そっけなく歩き出す背中。
でも、その耳が真っ赤になってるの、私はちゃんと見てるからね。
――これからも、ずっとそばにいて。
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