🦒🦉- かき氷
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控室の端っこ。
コンビニの紙パックをストローで吸いながら、私はただぼんやりと、窓の外の曇り空を眺めていた。
「……最近、元気ないなあって思ってたけど、やっぱ茉里乃のこと?」
唯衣ちゃんの声に、びくりと肩が跳ねた。
「べ、別に」
返事が遅れたのは、動揺のせいだった。
取り繕うように笑うと、唯衣ちゃんは苦笑しながら私の隣に腰を下ろした。
「わかりやすすぎ。うちらの中で一番表情に出るもん、井上。」
そう言って、唯衣ちゃんは私の紙パックをひょいと奪い取る。
そして一口飲んでから、「あ、これ思ったより甘いね」と、まるで茉里乃ちゃんのことなんて話してないかのようなトーンで言った。
「……茉里乃ちゃんが、唯衣ちゃんのこと気になるって言ったとき、嬉しかった?」
「うーん、びっくりはしたけど、嬉しいとか、そういうのとはちょっと違うかな」
唯衣ちゃんは、まっすぐな目で私を見つめてきた。
視線から逃げたくなって、私は膝の上で指先をいじる。
「井上のこと、ずっと見てきたからわかる。ほんとはめんどくさいんじゃなくて、どうしていいかわかんなかっただけなんでしょ?」
「……」
図星すぎて、何も言えなかった。
「茉里乃、ずっと井上のこと本気で好きだったと思うよ。あの子なりに、勇気出してた」
「でも、もう遅い。今は唯衣ちゃんのこと……」
「それでもさ、言わなきゃ、始まらないよ?」
唯衣ちゃんの言葉は、どこまでも優しかった。
後ろめたさで潰れそうだった私の心を、そっと救ってくれるような優しさだった。
「嫉妬してんの、自分でもわかってるでしょ?」
「……うん、悔しい」
「じゃあ、伝えて。茉里乃に」
唯衣ちゃんはそう言って立ち上がると、私の紙パックをもう一口吸って、ぽんと私の頭を撫でてから控室を出ていった。
残された私は、紙パックを見つめながら、深く息をついた。
めんどくさいって思ってたのは、好かれることに慣れてなかっただけ。
怖かったのは、自分も同じくらい誰かを好きになってしまうのが怖かったから。
でも、もう言い訳してる場合じゃない。
私は席を立った。
今日こそ、ちゃんと伝えなきゃいけない。
あのとき嬉しかったってことも。
あの笑顔が、ずっと頭から離れなかったことも。
そして今、誰よりも茉里乃ちゃんのことが
――好きだってことも。
収録終わりの夜のスタジオは、ひっそりと静かだった。
スタッフも帰り支度を始めていて、照明が少しずつ落とされていく。
その薄暗い廊下の奥に、ぽつんと立っている背中が見えた。
「……茉里乃ちゃん」
私が呼ぶと、彼女はゆっくりと振り返った。
「井上梨名ちゃん。どうしたん?」
明るく笑うその声に、一瞬だけ心が揺れたけど、今日はもう逃げないって決めたんだ。
「話、あるんよ。ちょっとだけでいいから、時間もらっていい?」
「うん、いいよ」
廊下の隅。
スタッフルームの扉の横にあるベンチに、ふたりで並んで座る。
いつもみたいにふざけた冗談も言えないまま、私は握りしめた手を見つめていた。
「ごめんな、あのとき」
最初に出たのは、その言葉だった。
「茉里乃ちゃんが“好き”って言ってくれたとき、ほんまは嬉しかったのに……それをちゃんと伝えへんかった」
「……うちも、しつこかったなって思ってた。井上梨名ちゃんが困ってるのも分かってたし」
「困ってた。けど、それは……茉里乃ちゃんが嫌だったわけじゃなくて、なんか、自分がどうしたらいいか分からへんくて」
茉里乃ちゃんは、小さく「うん」とだけ言って、私の話を待ってくれた。
「めんどくさいって思ってたの、ほんまやと思う。でもな、それって……自分が誰かから好かれることに慣れてなくて、うちがうち自身をちゃんと好きじゃなかったからやと思うんよ」
喉が詰まりそうだった。
でも、それでも言わなきゃ。
「だからって、何も言わずに“もう遅い”って、拗ねるのは違うなって思った。……あのな、今さらやけど、うち、茉里乃ちゃんのこと好きやねん」
言い切ったあと、私は視線を上げられなかった。
目を合わせたら、何かが崩れてしまいそうで。
沈黙が、数秒。でもすごく長く感じた。
それを破ったのは、茉里乃ちゃんの笑い声だった。
「なんや、今さらか〜」
そう言って、茉里乃ちゃんが私の肩にそっと額を預けてきた。
「うち、ずっと待ってたんやで。もう無理かなって思って、違う人の名前出してみたりして……でもやっぱ、ほんまに好きやったん、梨名ちゃんやったわ」
その言葉に、私は初めて、彼女の手に自分の手を重ねた。
「……これからはちゃんと言うから。めんどくさいって思わんようにする。ちゃんと、嬉しいって言えるようになるから」
「うん。うちは、何回でも言うよ。“梨名ちゃんのこと、好きやで”って」
「もう、それはほどほどにしてな?」
「無理やな」
笑い合いながら、私たちは手を繋いだ。
今日から、めんどくさいじゃなくて、うれしい“好き”を始めよう。
少しずつでいい。ちゃんと自分の気持ちを伝えながら。
それが、うちと茉里乃ちゃんの恋の始まりだった。
コンビニの紙パックをストローで吸いながら、私はただぼんやりと、窓の外の曇り空を眺めていた。
「……最近、元気ないなあって思ってたけど、やっぱ茉里乃のこと?」
唯衣ちゃんの声に、びくりと肩が跳ねた。
「べ、別に」
返事が遅れたのは、動揺のせいだった。
取り繕うように笑うと、唯衣ちゃんは苦笑しながら私の隣に腰を下ろした。
「わかりやすすぎ。うちらの中で一番表情に出るもん、井上。」
そう言って、唯衣ちゃんは私の紙パックをひょいと奪い取る。
そして一口飲んでから、「あ、これ思ったより甘いね」と、まるで茉里乃ちゃんのことなんて話してないかのようなトーンで言った。
「……茉里乃ちゃんが、唯衣ちゃんのこと気になるって言ったとき、嬉しかった?」
「うーん、びっくりはしたけど、嬉しいとか、そういうのとはちょっと違うかな」
唯衣ちゃんは、まっすぐな目で私を見つめてきた。
視線から逃げたくなって、私は膝の上で指先をいじる。
「井上のこと、ずっと見てきたからわかる。ほんとはめんどくさいんじゃなくて、どうしていいかわかんなかっただけなんでしょ?」
「……」
図星すぎて、何も言えなかった。
「茉里乃、ずっと井上のこと本気で好きだったと思うよ。あの子なりに、勇気出してた」
「でも、もう遅い。今は唯衣ちゃんのこと……」
「それでもさ、言わなきゃ、始まらないよ?」
唯衣ちゃんの言葉は、どこまでも優しかった。
後ろめたさで潰れそうだった私の心を、そっと救ってくれるような優しさだった。
「嫉妬してんの、自分でもわかってるでしょ?」
「……うん、悔しい」
「じゃあ、伝えて。茉里乃に」
唯衣ちゃんはそう言って立ち上がると、私の紙パックをもう一口吸って、ぽんと私の頭を撫でてから控室を出ていった。
残された私は、紙パックを見つめながら、深く息をついた。
めんどくさいって思ってたのは、好かれることに慣れてなかっただけ。
怖かったのは、自分も同じくらい誰かを好きになってしまうのが怖かったから。
でも、もう言い訳してる場合じゃない。
私は席を立った。
今日こそ、ちゃんと伝えなきゃいけない。
あのとき嬉しかったってことも。
あの笑顔が、ずっと頭から離れなかったことも。
そして今、誰よりも茉里乃ちゃんのことが
――好きだってことも。
収録終わりの夜のスタジオは、ひっそりと静かだった。
スタッフも帰り支度を始めていて、照明が少しずつ落とされていく。
その薄暗い廊下の奥に、ぽつんと立っている背中が見えた。
「……茉里乃ちゃん」
私が呼ぶと、彼女はゆっくりと振り返った。
「井上梨名ちゃん。どうしたん?」
明るく笑うその声に、一瞬だけ心が揺れたけど、今日はもう逃げないって決めたんだ。
「話、あるんよ。ちょっとだけでいいから、時間もらっていい?」
「うん、いいよ」
廊下の隅。
スタッフルームの扉の横にあるベンチに、ふたりで並んで座る。
いつもみたいにふざけた冗談も言えないまま、私は握りしめた手を見つめていた。
「ごめんな、あのとき」
最初に出たのは、その言葉だった。
「茉里乃ちゃんが“好き”って言ってくれたとき、ほんまは嬉しかったのに……それをちゃんと伝えへんかった」
「……うちも、しつこかったなって思ってた。井上梨名ちゃんが困ってるのも分かってたし」
「困ってた。けど、それは……茉里乃ちゃんが嫌だったわけじゃなくて、なんか、自分がどうしたらいいか分からへんくて」
茉里乃ちゃんは、小さく「うん」とだけ言って、私の話を待ってくれた。
「めんどくさいって思ってたの、ほんまやと思う。でもな、それって……自分が誰かから好かれることに慣れてなくて、うちがうち自身をちゃんと好きじゃなかったからやと思うんよ」
喉が詰まりそうだった。
でも、それでも言わなきゃ。
「だからって、何も言わずに“もう遅い”って、拗ねるのは違うなって思った。……あのな、今さらやけど、うち、茉里乃ちゃんのこと好きやねん」
言い切ったあと、私は視線を上げられなかった。
目を合わせたら、何かが崩れてしまいそうで。
沈黙が、数秒。でもすごく長く感じた。
それを破ったのは、茉里乃ちゃんの笑い声だった。
「なんや、今さらか〜」
そう言って、茉里乃ちゃんが私の肩にそっと額を預けてきた。
「うち、ずっと待ってたんやで。もう無理かなって思って、違う人の名前出してみたりして……でもやっぱ、ほんまに好きやったん、梨名ちゃんやったわ」
その言葉に、私は初めて、彼女の手に自分の手を重ねた。
「……これからはちゃんと言うから。めんどくさいって思わんようにする。ちゃんと、嬉しいって言えるようになるから」
「うん。うちは、何回でも言うよ。“梨名ちゃんのこと、好きやで”って」
「もう、それはほどほどにしてな?」
「無理やな」
笑い合いながら、私たちは手を繋いだ。
今日から、めんどくさいじゃなくて、うれしい“好き”を始めよう。
少しずつでいい。ちゃんと自分の気持ちを伝えながら。
それが、うちと茉里乃ちゃんの恋の始まりだった。
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