🦒🦉- かき氷
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めんどくさいものが始まったな
――そう思っていた。
茉里乃ちゃんのことは、ずっと仲間として大好きだった。
真面目で、優しくて、どこか抜けていて、それでいて努力家で。そんな彼女を、私は心から尊敬していた。
だから、最初に「好き」と言われたときは、正直に嬉しかった。
まさか自分なんかを好きだと言ってくれるなんて、そんなふうに思ってくれるなんて。
照れくささとくすぐったさで、顔を隠して笑った覚えがある。
でも。
それがおもしろいネタとして扱われるようになってしまった瞬間から、話は変わってしまった。
番組やラジオで、ことあるごとに茉里乃ちゃんの名前が出る。
「で、茉里乃ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「やっぱ気になっちゃうよね〜」
そんなふうに茶化されて、反応を求められて。
「なんか言ってやりなよ〜」
なんて同期たちに促されるたびに、私はめんどくさくなっていった。
同期は本当に――例えるなら、思春期の男子中学生のような存在だ。
もちろん、大切な仲間で、信頼しているし、ふざけ合える関係が心地よくもある。
でもそのだる絡みだけは、時々本当に、うっとうしい。
次第に、茉里乃ちゃんの好意にも戸惑いを覚えるようになった。
テレビで「井上梨名ちゃんが好きです」と言われるたびに、ラジオで「井上梨名ちゃん可愛い」と言われるたびに、私は「ありがたいですね」とだけ言って、軽く受け流すようになっていた。
茉里乃ちゃんは本気じゃない――そう思っていた。
ただの一時的なブームみたいなもので、アイドルとしてのノリで「好き」って言ってるだけで。
だから私は、その熱に巻き込まれないように、気持ちを冷まし続けていた。
そうして、数ヶ月が経った。
ある時を境に、茉里乃ちゃんはもう、私のことを「好き」とは言わなくなった。
積極的に話しかけてくることも、目が合うたびに笑いかけてくることも、自然と減っていった。
……ああ、よかった。
心の底から、そう思った。
これでもう、気を遣わずに済む。
変にいじられたり、答えに困ることもなくなる。
元通りの、何でもない日常が戻ってくる。
そう思っていた――つもりだった。
なのに。
ある収録の日、茉里乃ちゃんが「今、気になってる人がいるんです」と口にした。
その瞬間、胸の奥がぐらりと揺れた。
まるで、誰かに中からドンと押されたように。
次に発せられた名前――それが、私の一番仲の良い同期、唯衣ちゃんの名前だった時、息が止まりそうになった。
笑わなきゃ、と思った。
ちゃんと笑って、取り繕わなきゃ、って。
だから私は、まるで助かったみたいな、そんな風な笑顔を作って、収録をやり過ごした。
でも、心の中は、ざわついていた。
おかしいな。
私、茉里乃ちゃんのことを、特別だなんて思ったことなかったのに。
私はいじられるのが嫌だっただけで、あの子に振り回されるのが煩わしかっただけのはずだったのに。
どうして、こんなにも苦しいんだろう。
ねえ、茉里乃ちゃん。
あれだけ「好き」って言ってくれてたのに、そんな簡単に、次は唯衣ちゃんに気持ちが向くなんて。
誰でもよかったの? うちじゃなくてもよかったの?
……そんなこと、思いたくなかった。
思ってはいけない、と思った。
だけど、自分でも気づいてしまった。
あの日から、私はずっと――茉里乃ちゃんに、心を奪われていたんだ。
あんなにめんどくさいと思っていたのに、
いじられるのが嫌で仕方なかったのに、
それでも、あの「好き」は、私だけのものだと、どこかで信じていた。
今さら気づいたって、もう遅いかもしれない。
だって茉里乃ちゃんは、もう私のことを「好き」とは言ってくれない。
それに、あの子が私に向けていた「好き」は、きっと、今の私が感じている「好き」とは違う温度だった。
それでも。
いったん自分の気持ちに気づいてしまったら、もう止めることなんてできなかった。
私は、もう――好きになってしまったんだ。
――そう思っていた。
茉里乃ちゃんのことは、ずっと仲間として大好きだった。
真面目で、優しくて、どこか抜けていて、それでいて努力家で。そんな彼女を、私は心から尊敬していた。
だから、最初に「好き」と言われたときは、正直に嬉しかった。
まさか自分なんかを好きだと言ってくれるなんて、そんなふうに思ってくれるなんて。
照れくささとくすぐったさで、顔を隠して笑った覚えがある。
でも。
それがおもしろいネタとして扱われるようになってしまった瞬間から、話は変わってしまった。
番組やラジオで、ことあるごとに茉里乃ちゃんの名前が出る。
「で、茉里乃ちゃんのこと、どう思ってるの?」
「やっぱ気になっちゃうよね〜」
そんなふうに茶化されて、反応を求められて。
「なんか言ってやりなよ〜」
なんて同期たちに促されるたびに、私はめんどくさくなっていった。
同期は本当に――例えるなら、思春期の男子中学生のような存在だ。
もちろん、大切な仲間で、信頼しているし、ふざけ合える関係が心地よくもある。
でもそのだる絡みだけは、時々本当に、うっとうしい。
次第に、茉里乃ちゃんの好意にも戸惑いを覚えるようになった。
テレビで「井上梨名ちゃんが好きです」と言われるたびに、ラジオで「井上梨名ちゃん可愛い」と言われるたびに、私は「ありがたいですね」とだけ言って、軽く受け流すようになっていた。
茉里乃ちゃんは本気じゃない――そう思っていた。
ただの一時的なブームみたいなもので、アイドルとしてのノリで「好き」って言ってるだけで。
だから私は、その熱に巻き込まれないように、気持ちを冷まし続けていた。
そうして、数ヶ月が経った。
ある時を境に、茉里乃ちゃんはもう、私のことを「好き」とは言わなくなった。
積極的に話しかけてくることも、目が合うたびに笑いかけてくることも、自然と減っていった。
……ああ、よかった。
心の底から、そう思った。
これでもう、気を遣わずに済む。
変にいじられたり、答えに困ることもなくなる。
元通りの、何でもない日常が戻ってくる。
そう思っていた――つもりだった。
なのに。
ある収録の日、茉里乃ちゃんが「今、気になってる人がいるんです」と口にした。
その瞬間、胸の奥がぐらりと揺れた。
まるで、誰かに中からドンと押されたように。
次に発せられた名前――それが、私の一番仲の良い同期、唯衣ちゃんの名前だった時、息が止まりそうになった。
笑わなきゃ、と思った。
ちゃんと笑って、取り繕わなきゃ、って。
だから私は、まるで助かったみたいな、そんな風な笑顔を作って、収録をやり過ごした。
でも、心の中は、ざわついていた。
おかしいな。
私、茉里乃ちゃんのことを、特別だなんて思ったことなかったのに。
私はいじられるのが嫌だっただけで、あの子に振り回されるのが煩わしかっただけのはずだったのに。
どうして、こんなにも苦しいんだろう。
ねえ、茉里乃ちゃん。
あれだけ「好き」って言ってくれてたのに、そんな簡単に、次は唯衣ちゃんに気持ちが向くなんて。
誰でもよかったの? うちじゃなくてもよかったの?
……そんなこと、思いたくなかった。
思ってはいけない、と思った。
だけど、自分でも気づいてしまった。
あの日から、私はずっと――茉里乃ちゃんに、心を奪われていたんだ。
あんなにめんどくさいと思っていたのに、
いじられるのが嫌で仕方なかったのに、
それでも、あの「好き」は、私だけのものだと、どこかで信じていた。
今さら気づいたって、もう遅いかもしれない。
だって茉里乃ちゃんは、もう私のことを「好き」とは言ってくれない。
それに、あの子が私に向けていた「好き」は、きっと、今の私が感じている「好き」とは違う温度だった。
それでも。
いったん自分の気持ちに気づいてしまったら、もう止めることなんてできなかった。
私は、もう――好きになってしまったんだ。
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