🌺- 秘密の味
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ホワイトデーの朝。
登校途中のコンビニ袋の中には、きれいに包んだ小さな紙袋が入っている。
「絶対ホワイトデー返すね!」とあの日宣言したから、適当なものにはしたくなかった。
何をあげたら喜んでくれるのか、どれくらいの“気持ち”を込めたらいいのか——そんなことを何日も考えた。
結局選んだのは、ちょっと背伸びして買ったパステルカラーのマカロンと、短い手紙。
“手紙”なんて書いたの、中学生ぶりかもしれない。
昼休み。
チャンスはこのタイミングしかないと、教室を出て渡り廊下を歩く。
里奈ちゃんはこの時間、たいてい中庭のベンチにいる。
いた。
短めの髪を揺らして、スマホを見ている横顔。
光に照らされた髪がさらさら揺れて、あの日よりも、なんだか遠く見えた。
手の中の紙袋をぎゅっと握る。
「……里奈ちゃん」
声をかけると、彼女は少し驚いた顔をして、それからやさしく微笑んだ。
「さくら。どうしたの?」
「あの、バレンタインのお返し。今日ホワイトデーだから」
少し震える手で、紙袋を差し出す。
彼女は受け取りながら、目をぱちぱちとさせてから、ふわっと笑った。
「ありがとう。覚えててくれたんだ」
「うん。めっちゃ嬉しかったから、もらったとき」
ちょっと息を飲む音がした。
「それ、マカロンと、あと……手紙、入ってる。読むのあとでいいから」
「手紙?」
彼女の目が少し丸くなる。
「さくら、まじめか〜」
そう言いながら、嬉しそうに頬を染めて笑ってくれた。
「あ、でも——」
私がふと口を開くと、彼女は少しだけ真顔になる。
「え?」
「その……手紙、ちゃんと読んでから、できれば、返事がほしい……なって思ってて」
彼女は一瞬まばたきをして、それからほんの少し照れたように目を伏せる。
「……さくら、読まれるの待てないタイプでしょ」
「え、ばれてる?」
「ばれてるよ。さっきからずっとそわそわしてるし」
「だって、気になるじゃん!」
彼女は小さく笑って、袋の中から手紙を取り出すと、その場で封を切った。
えっ、今読むの……!?
心臓が、バクバクする。
そして、数十秒。
彼女の指が止まり、顔を上げた。
目が合う。
「さくら」
「うん」
「……私も、さくらのこと、特別だと思ってるよ」
「えっ」
「だから、あのバレンタイン、あげたの。……伝わってよかった」
私はその場で固まったまま、少しだけ、涙がにじみそうになるのをこらえる。
「……じゃあさ、これ、告白ってことで、いい?」
「うん」
「それで、付き合ってくださいって言っても、いい?」
「うん」
「……じゃあ」
小さく息を吐いて、私は彼女の目を見て言った。
「松田里奈ちゃん。私と、付き合ってください」
彼女はにっこりと笑って、うなずいた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
その日から、ふたりの関係は“友達”じゃなくなった。
けど、今までと同じようにふざけ合って、笑って、おしゃべりして。
そんな自然な日々の中に、“特別”がひとつ増えただけ。
でも、そのひとつが、私にはとても、うれしかった。
付き合ってから、まだぎこちないところもあるけど、今日は放課後にふたりで遊ぶって決めてた。
「せっかくだし、電車でちょっと出かけない?」
そんな里奈ちゃんの提案で、放課後すぐに駅に向かった。
目的地は、ちょっとおしゃれな街のショッピングモール。
特に何かを買う予定があったわけじゃないけど、ふたりで歩くだけで、なんだか新鮮だった。
アクセサリーショップの前で、里奈ちゃんがふと足を止める。
「ね、これ似合いそうじゃない?」
そう言って私に差し出したのは、小さな星のモチーフがついたイヤリング。
「え、かわいい……でも私、ピアス開いてないし……」
「イヤリングだよ。試してみて」
試着用のミラーの前に立つと、彼女がそっと、私の耳にイヤリングをつけてくれた。
指先が触れた瞬間、ちょっと心臓が跳ねる。
「うん、似合う。……買ってあげよっか?」
「えっ、いいの?」
「ホワイトデーのお返し、ちゃんともらったけど……私からも何かあげたいなって思ってたし」
私の顔が熱くなるのを感じた。
やばい、たぶん今、すごく赤い。
「じゃあ、おそろいにしよう?」
そう言ったら、里奈ちゃんはちょっと驚いた顔をして、それから笑った。
「いいね、それ」
おそろいのイヤリングを買って、ふたりでアイスを食べて、帰り道は手をつないで歩いた。
最寄りの駅で別れるとき、名残惜しそうに立ち止まる彼女を見て、勇気を出して小さな声で言った。
「また、デートしてくれる?」
「もちろん。またすぐ、行こうね」
その返事があまりにもやさしくて、私はうなずくしかできなかった。
そして、家に帰ってイヤリングを外すとき、なんだかまだ、彼女の指先のぬくもりが残っているような気がした。
登校途中のコンビニ袋の中には、きれいに包んだ小さな紙袋が入っている。
「絶対ホワイトデー返すね!」とあの日宣言したから、適当なものにはしたくなかった。
何をあげたら喜んでくれるのか、どれくらいの“気持ち”を込めたらいいのか——そんなことを何日も考えた。
結局選んだのは、ちょっと背伸びして買ったパステルカラーのマカロンと、短い手紙。
“手紙”なんて書いたの、中学生ぶりかもしれない。
昼休み。
チャンスはこのタイミングしかないと、教室を出て渡り廊下を歩く。
里奈ちゃんはこの時間、たいてい中庭のベンチにいる。
いた。
短めの髪を揺らして、スマホを見ている横顔。
光に照らされた髪がさらさら揺れて、あの日よりも、なんだか遠く見えた。
手の中の紙袋をぎゅっと握る。
「……里奈ちゃん」
声をかけると、彼女は少し驚いた顔をして、それからやさしく微笑んだ。
「さくら。どうしたの?」
「あの、バレンタインのお返し。今日ホワイトデーだから」
少し震える手で、紙袋を差し出す。
彼女は受け取りながら、目をぱちぱちとさせてから、ふわっと笑った。
「ありがとう。覚えててくれたんだ」
「うん。めっちゃ嬉しかったから、もらったとき」
ちょっと息を飲む音がした。
「それ、マカロンと、あと……手紙、入ってる。読むのあとでいいから」
「手紙?」
彼女の目が少し丸くなる。
「さくら、まじめか〜」
そう言いながら、嬉しそうに頬を染めて笑ってくれた。
「あ、でも——」
私がふと口を開くと、彼女は少しだけ真顔になる。
「え?」
「その……手紙、ちゃんと読んでから、できれば、返事がほしい……なって思ってて」
彼女は一瞬まばたきをして、それからほんの少し照れたように目を伏せる。
「……さくら、読まれるの待てないタイプでしょ」
「え、ばれてる?」
「ばれてるよ。さっきからずっとそわそわしてるし」
「だって、気になるじゃん!」
彼女は小さく笑って、袋の中から手紙を取り出すと、その場で封を切った。
えっ、今読むの……!?
心臓が、バクバクする。
そして、数十秒。
彼女の指が止まり、顔を上げた。
目が合う。
「さくら」
「うん」
「……私も、さくらのこと、特別だと思ってるよ」
「えっ」
「だから、あのバレンタイン、あげたの。……伝わってよかった」
私はその場で固まったまま、少しだけ、涙がにじみそうになるのをこらえる。
「……じゃあさ、これ、告白ってことで、いい?」
「うん」
「それで、付き合ってくださいって言っても、いい?」
「うん」
「……じゃあ」
小さく息を吐いて、私は彼女の目を見て言った。
「松田里奈ちゃん。私と、付き合ってください」
彼女はにっこりと笑って、うなずいた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
その日から、ふたりの関係は“友達”じゃなくなった。
けど、今までと同じようにふざけ合って、笑って、おしゃべりして。
そんな自然な日々の中に、“特別”がひとつ増えただけ。
でも、そのひとつが、私にはとても、うれしかった。
付き合ってから、まだぎこちないところもあるけど、今日は放課後にふたりで遊ぶって決めてた。
「せっかくだし、電車でちょっと出かけない?」
そんな里奈ちゃんの提案で、放課後すぐに駅に向かった。
目的地は、ちょっとおしゃれな街のショッピングモール。
特に何かを買う予定があったわけじゃないけど、ふたりで歩くだけで、なんだか新鮮だった。
アクセサリーショップの前で、里奈ちゃんがふと足を止める。
「ね、これ似合いそうじゃない?」
そう言って私に差し出したのは、小さな星のモチーフがついたイヤリング。
「え、かわいい……でも私、ピアス開いてないし……」
「イヤリングだよ。試してみて」
試着用のミラーの前に立つと、彼女がそっと、私の耳にイヤリングをつけてくれた。
指先が触れた瞬間、ちょっと心臓が跳ねる。
「うん、似合う。……買ってあげよっか?」
「えっ、いいの?」
「ホワイトデーのお返し、ちゃんともらったけど……私からも何かあげたいなって思ってたし」
私の顔が熱くなるのを感じた。
やばい、たぶん今、すごく赤い。
「じゃあ、おそろいにしよう?」
そう言ったら、里奈ちゃんはちょっと驚いた顔をして、それから笑った。
「いいね、それ」
おそろいのイヤリングを買って、ふたりでアイスを食べて、帰り道は手をつないで歩いた。
最寄りの駅で別れるとき、名残惜しそうに立ち止まる彼女を見て、勇気を出して小さな声で言った。
「また、デートしてくれる?」
「もちろん。またすぐ、行こうね」
その返事があまりにもやさしくて、私はうなずくしかできなかった。
そして、家に帰ってイヤリングを外すとき、なんだかまだ、彼女の指先のぬくもりが残っているような気がした。
3/3ページ