🌺- 秘密の味
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今日はバレンタイン。
中学生の頃は、前日の夜にキッチンに立って友チョコをせっせと作っていた。
だけど、高校生になってからは、そんな気力もすっかり薄れてしまって、バレンタインをもらったらホワイトデーでお返しする、というスタンスに落ち着いた。
気の利いたものは用意していないけれど、気持ちだけはありがたく受け取る。
それで十分だと思っている。
今年も、仲のいい友達が何人かチョコをくれた。
中には手作りのもあって、食べるたびにその子の顔が浮かぶ。
ひかるや保乃がくれた可愛いチョコを口に運んでいると、視界の端に誰かの制服の影が映った。
松田里奈ちゃんだ。
ひかるとは仲が良さそうにしているけど、私とはまだ「ちゃん」付けで呼ぶか、呼び捨てにするかすら迷うくらいの距離感。
話したことはあるけれど、放課後一緒に帰るような仲ではない。
そんな彼女が、私の方に真っすぐ歩いてきた。
ひかるに友チョコ渡しに来たのかな? なんて思っていると、思いがけない言葉が落ちてきた。
「さくら、これあげる」
ふと目の前に差し出された小さな包み。
「えー、どしたのこれ?」
驚きながら受け取ると、彼女はにこっと笑って答える。
「今日、バレンタインでしょ」
「えー!ありがとう!え、うれしい、大好き!」
つい口にしてしまった「大好き」は、たぶん今日だけで十回くらい言っている。
友達にはよく「好きって言いすぎ」って怒られる。
でも、好きって感情にいちいち線を引くなんて無粋だと思う。
嬉しかったし、ほんとうにそう思ったんだから、それ以上の理由なんていらない。
でも——
「でも待って、ごめん、私返せるもんないわ」
慌てて手元を見て弁明すると、彼女は首をすこし傾けながら、あっさりと言った。
「全然いいよ。渡したかっただけ」
その言葉に、心の奥のほうがじんわりと温かくなった。
「絶対ホワイトデー返すね!!!ありがと!!!」
そう叫ぶと、彼女はまた少し笑って、何事もなかったかのようにその場を離れていった。
手の中に残ったカップケーキをじっと見つめていると、すぐ近くから声がした。
「それ、本命じゃん」
振り返ると、天がにやにやしながら覗き込んできている。
「え、まじ?……そうかな」
彼女とはそこまで仲が良いわけじゃない。
今日だって、偶然その場にいたから渡しただけかもしれない。
でも、そんなふうに言われると、意識せずにはいられなかった。
淡いピンクのリボンに、キラキラと光るパールのシール。
ラッピングのひとつひとつが、丁寧に選ばれたことを物語っている。
「里奈ちゃんってさ、かわいいよね」
ふと、思っていたことが口からこぼれた。
すると案の定、天がすぐさま食いつく。
「え!さくら惚れちゃってるじゃん?!付き合う?!」 「てか、カップケーキって絶対本命やん」
「カップケーキって、なんか意味あるの? バレンタインにあげるものの意味とか、今まで気にしたことなかった」
「あるわ!!自分で調べろ!!いいなリア充!!」
「いや、付き合うことになったわけじゃないし……ていうか、里奈ちゃんが私のこと好きとかわかんないし」
口では否定しながらも、スマホで「カップケーキ バレンタイン 意味」と検索してしまう。
——あなたは特別な人。
画面に表示された文字を見た瞬間、胸がどくんと脈打った。
もしかしたら。
いや、まさか。
でも。
本当のところなんて、本人にしか分からない。
だけど、この気持ちが少しずつほどけていく感覚は、きっと
——恋のはじまりだ。
手の中のカップケーキをそっと見つめながら、私はまだ知らない彼女の気持ちを想像する。
そして、笑った顔の向こうにあるものに、そっと心を伸ばしてみる。
——ねえ、里奈ちゃん。
あなたは私のことどう思ってるの?
中学生の頃は、前日の夜にキッチンに立って友チョコをせっせと作っていた。
だけど、高校生になってからは、そんな気力もすっかり薄れてしまって、バレンタインをもらったらホワイトデーでお返しする、というスタンスに落ち着いた。
気の利いたものは用意していないけれど、気持ちだけはありがたく受け取る。
それで十分だと思っている。
今年も、仲のいい友達が何人かチョコをくれた。
中には手作りのもあって、食べるたびにその子の顔が浮かぶ。
ひかるや保乃がくれた可愛いチョコを口に運んでいると、視界の端に誰かの制服の影が映った。
松田里奈ちゃんだ。
ひかるとは仲が良さそうにしているけど、私とはまだ「ちゃん」付けで呼ぶか、呼び捨てにするかすら迷うくらいの距離感。
話したことはあるけれど、放課後一緒に帰るような仲ではない。
そんな彼女が、私の方に真っすぐ歩いてきた。
ひかるに友チョコ渡しに来たのかな? なんて思っていると、思いがけない言葉が落ちてきた。
「さくら、これあげる」
ふと目の前に差し出された小さな包み。
「えー、どしたのこれ?」
驚きながら受け取ると、彼女はにこっと笑って答える。
「今日、バレンタインでしょ」
「えー!ありがとう!え、うれしい、大好き!」
つい口にしてしまった「大好き」は、たぶん今日だけで十回くらい言っている。
友達にはよく「好きって言いすぎ」って怒られる。
でも、好きって感情にいちいち線を引くなんて無粋だと思う。
嬉しかったし、ほんとうにそう思ったんだから、それ以上の理由なんていらない。
でも——
「でも待って、ごめん、私返せるもんないわ」
慌てて手元を見て弁明すると、彼女は首をすこし傾けながら、あっさりと言った。
「全然いいよ。渡したかっただけ」
その言葉に、心の奥のほうがじんわりと温かくなった。
「絶対ホワイトデー返すね!!!ありがと!!!」
そう叫ぶと、彼女はまた少し笑って、何事もなかったかのようにその場を離れていった。
手の中に残ったカップケーキをじっと見つめていると、すぐ近くから声がした。
「それ、本命じゃん」
振り返ると、天がにやにやしながら覗き込んできている。
「え、まじ?……そうかな」
彼女とはそこまで仲が良いわけじゃない。
今日だって、偶然その場にいたから渡しただけかもしれない。
でも、そんなふうに言われると、意識せずにはいられなかった。
淡いピンクのリボンに、キラキラと光るパールのシール。
ラッピングのひとつひとつが、丁寧に選ばれたことを物語っている。
「里奈ちゃんってさ、かわいいよね」
ふと、思っていたことが口からこぼれた。
すると案の定、天がすぐさま食いつく。
「え!さくら惚れちゃってるじゃん?!付き合う?!」 「てか、カップケーキって絶対本命やん」
「カップケーキって、なんか意味あるの? バレンタインにあげるものの意味とか、今まで気にしたことなかった」
「あるわ!!自分で調べろ!!いいなリア充!!」
「いや、付き合うことになったわけじゃないし……ていうか、里奈ちゃんが私のこと好きとかわかんないし」
口では否定しながらも、スマホで「カップケーキ バレンタイン 意味」と検索してしまう。
——あなたは特別な人。
画面に表示された文字を見た瞬間、胸がどくんと脈打った。
もしかしたら。
いや、まさか。
でも。
本当のところなんて、本人にしか分からない。
だけど、この気持ちが少しずつほどけていく感覚は、きっと
——恋のはじまりだ。
手の中のカップケーキをそっと見つめながら、私はまだ知らない彼女の気持ちを想像する。
そして、笑った顔の向こうにあるものに、そっと心を伸ばしてみる。
——ねえ、里奈ちゃん。
あなたは私のことどう思ってるの?
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