🎯🌱🧸主- ドリーマー
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今日だって、何の変哲もない、ただの放課後のはずだった。
……少なくとも、さくらがあの一言を口にするまでは。
「そういえばさー、ひかる先輩と付き合うことになったんだよね」
——その瞬間、世界の音がすっと消えたような気がした。
なにかの冗談かと思った。
でも、さくらの笑顔はいつも通り自然で、悪びれた様子もなかった。
「え……田村先輩は?」
思わず口をついて出た言葉は、自分でも驚くくらい鋭くて。
でも、しょうがない。
あまりにも突然すぎて、頭がついていかなかった。
「保乃先輩には振られちゃったー。でもさ、そのあとひかる先輩が好きって言ってくれて」
「それでね、今“お試し”で付き合ってる」
お試し。
その言葉に、胸の奥がざらざらと音を立てて崩れていく。
「え? お試し?」
なんとか絞り出した声は、乾いていて、自分でも他人のようだった。
「うん。まだ、ちゃんと好きってわけじゃないけど……」
「でも、ひかる先輩が“それでもいい”って言ってくれたの」
——それって。
それって、誰でもよかったってことじゃないの?
保乃先輩に振られて、代わりに誰かが手を差し伸べてくれたから、その手を取ったってことだ。
それなら——それなら、私だってよかったんじゃないの?
……そう思ってしまった自分の心が、いちばん嫌だった。
でも、声に出すことはできなかった。
「へー、そうなんだ」
そう言うのがやっとだった。
喉の奥がひどく詰まっていて、息をするのすらしんどかった。
私は、誰よりもさくらのことを好きだった。
いつだって、となりにいたし、誰より近くで笑顔を見てきた。
でも、気付けばいつも、さくらの心は別の誰かに向いていて。
私はただ、そこで立ち止まっているだけだった。
田村先輩に片思いしていたあの時間、私はずっと待っていた。
振られたら、もしかしたら。
そんな期待を胸にしまって、何もできずにいた。
でも現実は、私にチャンスが回ってくることなんて一度もなかった。
行動しなかった私は、森田先輩にも負けた。
いや、もしかすると——勝負の土俵にすら立てていなかったのかもしれない。
それに気付いた途端、もう、悲しいとか、悔しいとか、そんな感情もどこか遠くへ飛んでいってしまった。
心の奥のなにかがふっと空っぽになって、私は乾いた笑いをこぼした。
「トイレ、行ってくるね」
それだけを言って、立ち上がった。
逃げるように、席を離れた。
廊下に出ると、ようやく空気が肺に入ってきたような気がした。
教室のざわめきが扉越しに遠ざかっていく。
私は壁にもたれて、深呼吸をひとつ。
自分の心音がやけにうるさく響いていた。
——そのときだった。
後ろから、突然誰かに抱きつかれた。
「美青〜!」
軽やかで、いつも通り無邪気な声。
「……純葉?」
振り返る間もなく、その声の主がぴたりと私に体を預けてきた。
「美青さ、うちで手打っときなよ」
「え?」
何を言ってるのか、最初はまったく理解が追いつかなかった。
「美青のこと、好きだよ。——本気だから。考えといてね」
さらりと、あまりにも自然なトーンで言い放たれて、
私はその場に立ち尽くすしかなかった。
「え……?」
「じゃあそれだけ! バイバーイ!」
純葉は、抱きついた勢いそのままに、くるりと背を向けて手を振って、まるで嵐みたいに去っていった。
残された私は、呆然とその背中を見送るしかなかった。
どうしてわたし?
分からない。
まったく分からない。
でも——
ふと、胸の奥に、小さくて柔らかい灯りが灯ったような気がした。
さくらじゃない誰かが、私の名前を呼んでくれた。
それだけで、少しだけ世界の色が変わって見えた。
まだ返事なんてできないし、自分の気持ちもよく分からない。
けれど。
——何かが、少しだけ、始まった気がした。
そう思った私は、目を閉じて、もう一度深く息を吸った。
次の一歩が、どこへ向かうのかはまだ分からない。
でも、今はただ、この風みたいな誰かの声が、少しだけ、心地よかった。
……少なくとも、さくらがあの一言を口にするまでは。
「そういえばさー、ひかる先輩と付き合うことになったんだよね」
——その瞬間、世界の音がすっと消えたような気がした。
なにかの冗談かと思った。
でも、さくらの笑顔はいつも通り自然で、悪びれた様子もなかった。
「え……田村先輩は?」
思わず口をついて出た言葉は、自分でも驚くくらい鋭くて。
でも、しょうがない。
あまりにも突然すぎて、頭がついていかなかった。
「保乃先輩には振られちゃったー。でもさ、そのあとひかる先輩が好きって言ってくれて」
「それでね、今“お試し”で付き合ってる」
お試し。
その言葉に、胸の奥がざらざらと音を立てて崩れていく。
「え? お試し?」
なんとか絞り出した声は、乾いていて、自分でも他人のようだった。
「うん。まだ、ちゃんと好きってわけじゃないけど……」
「でも、ひかる先輩が“それでもいい”って言ってくれたの」
——それって。
それって、誰でもよかったってことじゃないの?
保乃先輩に振られて、代わりに誰かが手を差し伸べてくれたから、その手を取ったってことだ。
それなら——それなら、私だってよかったんじゃないの?
……そう思ってしまった自分の心が、いちばん嫌だった。
でも、声に出すことはできなかった。
「へー、そうなんだ」
そう言うのがやっとだった。
喉の奥がひどく詰まっていて、息をするのすらしんどかった。
私は、誰よりもさくらのことを好きだった。
いつだって、となりにいたし、誰より近くで笑顔を見てきた。
でも、気付けばいつも、さくらの心は別の誰かに向いていて。
私はただ、そこで立ち止まっているだけだった。
田村先輩に片思いしていたあの時間、私はずっと待っていた。
振られたら、もしかしたら。
そんな期待を胸にしまって、何もできずにいた。
でも現実は、私にチャンスが回ってくることなんて一度もなかった。
行動しなかった私は、森田先輩にも負けた。
いや、もしかすると——勝負の土俵にすら立てていなかったのかもしれない。
それに気付いた途端、もう、悲しいとか、悔しいとか、そんな感情もどこか遠くへ飛んでいってしまった。
心の奥のなにかがふっと空っぽになって、私は乾いた笑いをこぼした。
「トイレ、行ってくるね」
それだけを言って、立ち上がった。
逃げるように、席を離れた。
廊下に出ると、ようやく空気が肺に入ってきたような気がした。
教室のざわめきが扉越しに遠ざかっていく。
私は壁にもたれて、深呼吸をひとつ。
自分の心音がやけにうるさく響いていた。
——そのときだった。
後ろから、突然誰かに抱きつかれた。
「美青〜!」
軽やかで、いつも通り無邪気な声。
「……純葉?」
振り返る間もなく、その声の主がぴたりと私に体を預けてきた。
「美青さ、うちで手打っときなよ」
「え?」
何を言ってるのか、最初はまったく理解が追いつかなかった。
「美青のこと、好きだよ。——本気だから。考えといてね」
さらりと、あまりにも自然なトーンで言い放たれて、
私はその場に立ち尽くすしかなかった。
「え……?」
「じゃあそれだけ! バイバーイ!」
純葉は、抱きついた勢いそのままに、くるりと背を向けて手を振って、まるで嵐みたいに去っていった。
残された私は、呆然とその背中を見送るしかなかった。
どうしてわたし?
分からない。
まったく分からない。
でも——
ふと、胸の奥に、小さくて柔らかい灯りが灯ったような気がした。
さくらじゃない誰かが、私の名前を呼んでくれた。
それだけで、少しだけ世界の色が変わって見えた。
まだ返事なんてできないし、自分の気持ちもよく分からない。
けれど。
——何かが、少しだけ、始まった気がした。
そう思った私は、目を閉じて、もう一度深く息を吸った。
次の一歩が、どこへ向かうのかはまだ分からない。
でも、今はただ、この風みたいな誰かの声が、少しだけ、心地よかった。