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日曜日の午後。
駅前の商業ビルの中、私とひかるちゃんは手を繋いでショッピングデートの真っ最中だった。
特に何か買う予定があったわけじゃないけれど、二人でウィンドウを覗くだけで、時間がゆっくりと優しく流れていく気がする。
ひかるちゃんは、最近ハマってるキャラクターのグッズを見て目をきらきらさせていた。
それを横目に見ながら、私は胸の奥にふわふわとした幸福感を感じていた。
——この人と出会えてよかったなぁ。
そんな風に、自然に思えた矢先だった。
「……あれ、さくら?」
その声に、空気がぴたりと静まった。
振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。
——元カノ、みゆだった。
「わあ、久しぶり。元気だった?」
笑顔を浮かべてくる彼女に、私は少し動揺しながらもなんとか微笑み返した。
「うん、元気だよ。みゆこそ、変わってないね」
その瞬間、ひかるちゃんの手に少しだけ力が入ったのがわかった。
無意識に、私はその手を優しく握り返した。
「……えっと、こちらは?」
みゆが視線を向けてくる。
「……ひかるちゃん。今、付き合ってる人」
そしてひかるちゃんにも。
一瞬、ためらいかけて、それでも——。
「……元カノの、みゆ。高校のときに付き合ってた」
そう、ちゃんと紹介した。逃げずに、曖昧にせずに。
ひかるちゃんのことを話すと、みゆはほんの一瞬だけ表情を固くしたあと、「そっか」と柔らかく笑った。
「なんか、さくらがそういうふうに紹介するの、ちょっと新鮮かも」
「そ、そう?」
「うん。前は、どっちかって言うと隠したがるタイプだったから」
さらりとそう言って、みゆは「じゃあね」と軽く手を振って去っていった。
その場に残された私とひかるちゃん。
まるで、一瞬だけ時間が止まったかのように、言葉が出てこなかった。
帰り道。
ひかるちゃんはいつもより少しだけ無口だった。
私はそれに気づいていたけれど、どのタイミングで声をかけていいかわからなくて、しばらく沈黙が続いていた。
でも、このままじゃいけない。
立ち止まって、そっと声をかける。
「……さっきの、嫌だったよね」
ひかるちゃんは少し驚いたように私を見たあと、目を伏せて、ぽつりとこぼした。
「……うん。ちょっとだけ。なんか、さくらが元カノの前で私のこと紹介するの、少し戸惑ってた気がして」
「それは……」
確かに、ちょっとだけ戸惑った。
でもそれは、今の私がどう思われるかじゃなくて、過去の自分をどう扱えばいいか分からなかっただけ。
「戸惑ったのは……みゆと、きちんと向き合えなかった自分に。でも、今は違う。ひかるちゃんのことは、ちゃんと恋人として、私の大事な人として紹介できる。そう思えたから、あの言葉が出た」
「……ほんと?」
「ほんと」
そう言って、私はひかるちゃんの手をぎゅっと握った。
「過去に誰といたかなんて関係ない。今、私の隣にいるのはひかるちゃん。私は、ひかるちゃんが好きなんだよ」
そう言いながら見つめると、ひかるちゃんの瞳にじわりと涙が浮かんでいた。
「……さくらって、ほんと、ずるいくらい優しい」
「ずるいのは、こんなにかわいい顔で泣いてるひかるちゃんの方だよ」
くすっと笑うと、ひかるちゃんも少し照れくさそうに笑った。
ひかるちゃんはそっと目元を指で拭って、私の肩にもたれかかってきた。
人通りの多い駅前なのに、その瞬間だけ世界が静かになった気がした。
「……わたしもさ、さくらと出会えてよかったって、思ってたんよ。さっきまで」
「さっきまで?」
「元カノの話聞いたとき、ちょっとだけ、わたしも通過点なんかなって思っちゃって」
「違うよ」
私はすぐに言った。
誰よりもまっすぐに、迷いなく言えた。
「ひかるちゃんは、通過点なんかじゃない。わたしの目的地だよ。ずっと、一緒にいたいって思える人」
ひかるちゃんは少しだけ照れて笑ったあと、小さく「じゃあ、迷子にならんように、ちゃんと手つないどいて」と言って、もう一度ぎゅっと手を握ってきた。
「うん、離さない」
夕暮れに染まりはじめた空の下、 私たちはまた歩き出す。
さくらの“過去”も、ひかるの“不安”も、全部ひっくるめて、
ふたりで未来に向かって歩いていける気がした。
——大丈夫、きっとこれからも。
ずっと、こうして並んで笑っていける。
そんなふうに、思えた。
駅前の商業ビルの中、私とひかるちゃんは手を繋いでショッピングデートの真っ最中だった。
特に何か買う予定があったわけじゃないけれど、二人でウィンドウを覗くだけで、時間がゆっくりと優しく流れていく気がする。
ひかるちゃんは、最近ハマってるキャラクターのグッズを見て目をきらきらさせていた。
それを横目に見ながら、私は胸の奥にふわふわとした幸福感を感じていた。
——この人と出会えてよかったなぁ。
そんな風に、自然に思えた矢先だった。
「……あれ、さくら?」
その声に、空気がぴたりと静まった。
振り向くと、そこには見覚えのある顔があった。
——元カノ、みゆだった。
「わあ、久しぶり。元気だった?」
笑顔を浮かべてくる彼女に、私は少し動揺しながらもなんとか微笑み返した。
「うん、元気だよ。みゆこそ、変わってないね」
その瞬間、ひかるちゃんの手に少しだけ力が入ったのがわかった。
無意識に、私はその手を優しく握り返した。
「……えっと、こちらは?」
みゆが視線を向けてくる。
「……ひかるちゃん。今、付き合ってる人」
そしてひかるちゃんにも。
一瞬、ためらいかけて、それでも——。
「……元カノの、みゆ。高校のときに付き合ってた」
そう、ちゃんと紹介した。逃げずに、曖昧にせずに。
ひかるちゃんのことを話すと、みゆはほんの一瞬だけ表情を固くしたあと、「そっか」と柔らかく笑った。
「なんか、さくらがそういうふうに紹介するの、ちょっと新鮮かも」
「そ、そう?」
「うん。前は、どっちかって言うと隠したがるタイプだったから」
さらりとそう言って、みゆは「じゃあね」と軽く手を振って去っていった。
その場に残された私とひかるちゃん。
まるで、一瞬だけ時間が止まったかのように、言葉が出てこなかった。
帰り道。
ひかるちゃんはいつもより少しだけ無口だった。
私はそれに気づいていたけれど、どのタイミングで声をかけていいかわからなくて、しばらく沈黙が続いていた。
でも、このままじゃいけない。
立ち止まって、そっと声をかける。
「……さっきの、嫌だったよね」
ひかるちゃんは少し驚いたように私を見たあと、目を伏せて、ぽつりとこぼした。
「……うん。ちょっとだけ。なんか、さくらが元カノの前で私のこと紹介するの、少し戸惑ってた気がして」
「それは……」
確かに、ちょっとだけ戸惑った。
でもそれは、今の私がどう思われるかじゃなくて、過去の自分をどう扱えばいいか分からなかっただけ。
「戸惑ったのは……みゆと、きちんと向き合えなかった自分に。でも、今は違う。ひかるちゃんのことは、ちゃんと恋人として、私の大事な人として紹介できる。そう思えたから、あの言葉が出た」
「……ほんと?」
「ほんと」
そう言って、私はひかるちゃんの手をぎゅっと握った。
「過去に誰といたかなんて関係ない。今、私の隣にいるのはひかるちゃん。私は、ひかるちゃんが好きなんだよ」
そう言いながら見つめると、ひかるちゃんの瞳にじわりと涙が浮かんでいた。
「……さくらって、ほんと、ずるいくらい優しい」
「ずるいのは、こんなにかわいい顔で泣いてるひかるちゃんの方だよ」
くすっと笑うと、ひかるちゃんも少し照れくさそうに笑った。
ひかるちゃんはそっと目元を指で拭って、私の肩にもたれかかってきた。
人通りの多い駅前なのに、その瞬間だけ世界が静かになった気がした。
「……わたしもさ、さくらと出会えてよかったって、思ってたんよ。さっきまで」
「さっきまで?」
「元カノの話聞いたとき、ちょっとだけ、わたしも通過点なんかなって思っちゃって」
「違うよ」
私はすぐに言った。
誰よりもまっすぐに、迷いなく言えた。
「ひかるちゃんは、通過点なんかじゃない。わたしの目的地だよ。ずっと、一緒にいたいって思える人」
ひかるちゃんは少しだけ照れて笑ったあと、小さく「じゃあ、迷子にならんように、ちゃんと手つないどいて」と言って、もう一度ぎゅっと手を握ってきた。
「うん、離さない」
夕暮れに染まりはじめた空の下、 私たちはまた歩き出す。
さくらの“過去”も、ひかるの“不安”も、全部ひっくるめて、
ふたりで未来に向かって歩いていける気がした。
——大丈夫、きっとこれからも。
ずっと、こうして並んで笑っていける。
そんなふうに、思えた。