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——さくらって、元カノとかいるん?
言った瞬間、部屋の空気が少し変わった気がした。
いつもは安心する、さくらの腕の中。
背中から感じるあったかい温もり。
でもこの夜だけは、それが妙にくすぐったくて、どこか、苦しかった。
言わなきゃよかったかな。
そんなこと、聞いたって、何になるんやろ。
そう思いながらも、私はさくらの返事を待っていた。
……返事が、来ない。
静まり返った部屋に、聞こえるのはふたりの呼吸だけ。
それがなんだか、余計に心細かった。
——もしかして、寝てるんかな。
ほんの少しだけ振り返って、そっと問いかける。
「さくら、寝た?」
その瞬間、ばっちり目が合った。
さくらの目が驚いたように開かれてて、それを見て、私は察した。
……聞こえてたんや。
「……ごめん、起きてる」
さくらの声に、少しだけ胸がズキンと痛んだ。
「元カノおるんやね」
できるだけ普通の声で言ったけど、自分でも分かるくらい、それは拗ねた響きを帯びていた。
「……あー、まあ……うん」
答えは、想像通り。でも、想像よりも少し、痛かった。
私は黙って、そっと胸元に顔を埋めた。
ほんとはもうこれ以上、聞きたくなかった。
でも、口が勝手に動いてしまった。
「何人」
聞いた自分を後悔しながら、それでも言葉を止められなかった。
「……え?」
「元カノ、何人」
「……3人、です」
……やっぱり。
私なんかより、ずっといろんな恋をしてきた人なんだ。
いろんな感情を知ってる人なんだ。
「私は、さくらと出会う前に誰とも付き合ったことないのに」
言いながら、涙が出るほど悲しくなった。
「私は、さくらが特別なのに……。私はさくらにとっての特別じゃないんやね」
……ずるいなぁ、さくらは。
私だけ、こんなに初めてで、こんなに本気で、こんなに怖がってるのに。
でも、それを言ったあと、さくらが必死に言葉を探してくれるのが分かった。
「ひかるちゃんは、初めてこの人を幸せにしたいって、心から思った人で——」
その言葉が、胸の奥にぽたぽたと落ちていく。
まだ、疑ってるわけじゃない。ただ、もっと聞いていたかった。
「ひかるちゃんが重いって言われるようなことをしても、私はそれがむしろ嬉しくて——」
「……わたしのこと、重いって思ってたんだ」
無意識に遮るように言ってしまった。
さくらの顔が焦っているのが分かって、それがちょっとおもしろくて。
……ふっと、笑いが漏れた。
「……十分わかったよ。さくらにとって、私が特別なんやね。……意地悪して、ごめん」
素直になれなくて、こじらせて。
ほんとに、子どもみたい。
でも、さくらはそんな私のことを、あったかい目で見てくれた。
「あーーーよかった……。大好きなひかるちゃんに嫌われたらどうしようかと思った」
「ほんと、ひかるちゃんのことになると余裕なくなる。好きで好きで、おかしくなりそう」
——そんな風に言われたら、もう勝てないじゃん。
顔が熱くなっていくのが分かって、思わず反対を向いてしまった。
「……うるさい」
「ちょ、え……」
さくらの慌てる声。
恥ずかしすぎて無理。
でも、そんな私の背中に、さくらがそっとくっついてくる。
「今も、これからも、私にはひかるちゃんだけだよ。だいすき。……おやすみ」
小さく「……ん」と返す。
言いたいことはいっぱいあるけど、もう言葉にしなくても、たぶん、伝わってる。
さくらのぬくもりが、ゆっくりと私を包んでいく。
心臓の音が、恥ずかしいくらい高鳴っているのに、彼女の腕の中は、どこまでも穏やかだった。
——大丈夫。
さくらの「特別」になれた。
だから、私は今夜も、ちゃんと幸せだった。
言った瞬間、部屋の空気が少し変わった気がした。
いつもは安心する、さくらの腕の中。
背中から感じるあったかい温もり。
でもこの夜だけは、それが妙にくすぐったくて、どこか、苦しかった。
言わなきゃよかったかな。
そんなこと、聞いたって、何になるんやろ。
そう思いながらも、私はさくらの返事を待っていた。
……返事が、来ない。
静まり返った部屋に、聞こえるのはふたりの呼吸だけ。
それがなんだか、余計に心細かった。
——もしかして、寝てるんかな。
ほんの少しだけ振り返って、そっと問いかける。
「さくら、寝た?」
その瞬間、ばっちり目が合った。
さくらの目が驚いたように開かれてて、それを見て、私は察した。
……聞こえてたんや。
「……ごめん、起きてる」
さくらの声に、少しだけ胸がズキンと痛んだ。
「元カノおるんやね」
できるだけ普通の声で言ったけど、自分でも分かるくらい、それは拗ねた響きを帯びていた。
「……あー、まあ……うん」
答えは、想像通り。でも、想像よりも少し、痛かった。
私は黙って、そっと胸元に顔を埋めた。
ほんとはもうこれ以上、聞きたくなかった。
でも、口が勝手に動いてしまった。
「何人」
聞いた自分を後悔しながら、それでも言葉を止められなかった。
「……え?」
「元カノ、何人」
「……3人、です」
……やっぱり。
私なんかより、ずっといろんな恋をしてきた人なんだ。
いろんな感情を知ってる人なんだ。
「私は、さくらと出会う前に誰とも付き合ったことないのに」
言いながら、涙が出るほど悲しくなった。
「私は、さくらが特別なのに……。私はさくらにとっての特別じゃないんやね」
……ずるいなぁ、さくらは。
私だけ、こんなに初めてで、こんなに本気で、こんなに怖がってるのに。
でも、それを言ったあと、さくらが必死に言葉を探してくれるのが分かった。
「ひかるちゃんは、初めてこの人を幸せにしたいって、心から思った人で——」
その言葉が、胸の奥にぽたぽたと落ちていく。
まだ、疑ってるわけじゃない。ただ、もっと聞いていたかった。
「ひかるちゃんが重いって言われるようなことをしても、私はそれがむしろ嬉しくて——」
「……わたしのこと、重いって思ってたんだ」
無意識に遮るように言ってしまった。
さくらの顔が焦っているのが分かって、それがちょっとおもしろくて。
……ふっと、笑いが漏れた。
「……十分わかったよ。さくらにとって、私が特別なんやね。……意地悪して、ごめん」
素直になれなくて、こじらせて。
ほんとに、子どもみたい。
でも、さくらはそんな私のことを、あったかい目で見てくれた。
「あーーーよかった……。大好きなひかるちゃんに嫌われたらどうしようかと思った」
「ほんと、ひかるちゃんのことになると余裕なくなる。好きで好きで、おかしくなりそう」
——そんな風に言われたら、もう勝てないじゃん。
顔が熱くなっていくのが分かって、思わず反対を向いてしまった。
「……うるさい」
「ちょ、え……」
さくらの慌てる声。
恥ずかしすぎて無理。
でも、そんな私の背中に、さくらがそっとくっついてくる。
「今も、これからも、私にはひかるちゃんだけだよ。だいすき。……おやすみ」
小さく「……ん」と返す。
言いたいことはいっぱいあるけど、もう言葉にしなくても、たぶん、伝わってる。
さくらのぬくもりが、ゆっくりと私を包んでいく。
心臓の音が、恥ずかしいくらい高鳴っているのに、彼女の腕の中は、どこまでも穏やかだった。
——大丈夫。
さくらの「特別」になれた。
だから、私は今夜も、ちゃんと幸せだった。