🌱- トランジット
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「さくらって、元カノとかいるん?」
夜も更けた、静まり返った部屋の中。
ひかるちゃんのその問いは、不意に降る小雨のように、私の耳元でそっと響いた。
間接照明のほのかな灯りが壁を淡く染めるベッドの中。
私はひかるちゃんの背中にぴったりと身体を預けて、後ろからその細い体を抱きしめていた。
聞こえてくるのは、お互いの規則的な呼吸音だけ。
まるで世界に私たち二人しか存在しないかのような、そんな夜の静寂だった。
その静けさを破ったのが、ひかるちゃんのか細い声だった。
小さな声だったけれど、確かに私の心の深いところまで届いた。
——できれば、聞こえないふりをしたかった。
けれど、もう遅い。
その問いかけは、確かな重さを持っていた。
どう答えるのが正解なんだろう。
いないって、嘘をついてしまう?
でも、そんなのすぐにバレそうだし。
じゃあ、「いたけど、今はひかるちゃんだけしか見てないよ」とか?
……それもなんだか、取り繕っているようで嫌だ。
言葉を探して頭の中をぐるぐる巡らせていると、腕の中のひかるちゃんが、ゆっくりと私のほうを振り返った。
「さくら、寝た?」
油断していた私は、ばっちりその瞳と目が合ってしまった。
「……ごめん、起きてる」
小さくそう答えると、ひかるちゃんの表情が曇っていくのがわかった。
「元カノおるんやね」
その声は、怒っているというより、寂しそうだった。
「あー、まあ……うん」
もう、嘘はつけなかった。
正直に答えると、ひかるちゃんは私の胸元にぎゅっと顔をうずめてきた。
「何人」
「……え?」
「元カノ、何人」
「あー……えっと……うーん……」
「一人じゃないんやね。何人なの?」
もう逃げ道はなかった。
「……3人、です」
沈黙。
しばらく何も言わず、ただ私の胸に顔を押し当てていたひかるちゃんが、ぽつりと呟いた。
「私は、さくらと出会う前に誰とも付き合ったことないのに。さくらはそうじゃないんやね。私は、さくらが特別なのに……。私はさくらにとっての特別じゃないんやね」
心が、ぎゅっと締めつけられた。
違う。そうじゃない。
けど、うまく言葉が見つからない。
どうすれば、この気持ちがちゃんと伝わるのか。
私は、言葉を手探りするように紡いだ。
「前に付き合ってた人と、ひかるちゃんは全然違うっていうか……。今までは、なんとなく流されて付き合ってたところもあったけど……ひかるちゃんは、初めて、この人を幸せにしたいって、心から思った人で……」
「ふーん」
つれない返事。顔は見えない。
「今までは、ちょっとでも重いなとか、めんどくさいなって感じると、すぐに離れてた。でも、ひかるちゃんが重いって言われるようなことをしても、私はそれがむしろ嬉しくて……」
「……わたしのこと、重いって思ってたんだ」
「違う違う、そういう意味じゃなくて!その……あー、なんて言えば……!」
伝えたい気持ちは溢れているのに、うまく言葉にならない。
焦る私をよそに、ひかるちゃんがふっと小さく笑った。
「……十分わかったよ。さくらにとって、私が特別なんやね。……意地悪して、ごめん」
いたずらっぽく微笑むその顔を見て、ようやく私は息を吐いた。
胸の奥に渦巻いていた不安が、スッとほどけていく。
「あーーーーよかった……。大好きなひかるちゃんに嫌われたらどうしようかと思った」
「ほんと、ひかるちゃんのことになると余裕なくなる。好きで好きで、おかしくなりそう」
思わず口にしたその言葉に、ひかるちゃんはぱっと顔を赤くした。
「え、かわいい……」
思わずつぶやいた私に、「うるさい」と小さく言って、ひかるちゃんは反対側を向いてしまう。
「ちょ、え……」
本当は、その照れた顔をもっとちゃんと見ていたかったのに。
でも、そんな風に素直になれないひかるちゃんも、やっぱり愛おしい。
私は背中越しに、そっと抱きついたまま囁く。
「今も、これからも、私にはひかるちゃんだけだよ。だいすき。……おやすみ」
「……ん」
不器用な返事。
だけど、その身体から伝わってくる心臓の音が、今の気持ちを何よりも雄弁に語っていた。
愛されていることを、こんなにも確かに感じられる夜は、きっとそう多くない。
——この先もずっと、
ひかるちゃんの隣で、笑っていられますように。
夜も更けた、静まり返った部屋の中。
ひかるちゃんのその問いは、不意に降る小雨のように、私の耳元でそっと響いた。
間接照明のほのかな灯りが壁を淡く染めるベッドの中。
私はひかるちゃんの背中にぴったりと身体を預けて、後ろからその細い体を抱きしめていた。
聞こえてくるのは、お互いの規則的な呼吸音だけ。
まるで世界に私たち二人しか存在しないかのような、そんな夜の静寂だった。
その静けさを破ったのが、ひかるちゃんのか細い声だった。
小さな声だったけれど、確かに私の心の深いところまで届いた。
——できれば、聞こえないふりをしたかった。
けれど、もう遅い。
その問いかけは、確かな重さを持っていた。
どう答えるのが正解なんだろう。
いないって、嘘をついてしまう?
でも、そんなのすぐにバレそうだし。
じゃあ、「いたけど、今はひかるちゃんだけしか見てないよ」とか?
……それもなんだか、取り繕っているようで嫌だ。
言葉を探して頭の中をぐるぐる巡らせていると、腕の中のひかるちゃんが、ゆっくりと私のほうを振り返った。
「さくら、寝た?」
油断していた私は、ばっちりその瞳と目が合ってしまった。
「……ごめん、起きてる」
小さくそう答えると、ひかるちゃんの表情が曇っていくのがわかった。
「元カノおるんやね」
その声は、怒っているというより、寂しそうだった。
「あー、まあ……うん」
もう、嘘はつけなかった。
正直に答えると、ひかるちゃんは私の胸元にぎゅっと顔をうずめてきた。
「何人」
「……え?」
「元カノ、何人」
「あー……えっと……うーん……」
「一人じゃないんやね。何人なの?」
もう逃げ道はなかった。
「……3人、です」
沈黙。
しばらく何も言わず、ただ私の胸に顔を押し当てていたひかるちゃんが、ぽつりと呟いた。
「私は、さくらと出会う前に誰とも付き合ったことないのに。さくらはそうじゃないんやね。私は、さくらが特別なのに……。私はさくらにとっての特別じゃないんやね」
心が、ぎゅっと締めつけられた。
違う。そうじゃない。
けど、うまく言葉が見つからない。
どうすれば、この気持ちがちゃんと伝わるのか。
私は、言葉を手探りするように紡いだ。
「前に付き合ってた人と、ひかるちゃんは全然違うっていうか……。今までは、なんとなく流されて付き合ってたところもあったけど……ひかるちゃんは、初めて、この人を幸せにしたいって、心から思った人で……」
「ふーん」
つれない返事。顔は見えない。
「今までは、ちょっとでも重いなとか、めんどくさいなって感じると、すぐに離れてた。でも、ひかるちゃんが重いって言われるようなことをしても、私はそれがむしろ嬉しくて……」
「……わたしのこと、重いって思ってたんだ」
「違う違う、そういう意味じゃなくて!その……あー、なんて言えば……!」
伝えたい気持ちは溢れているのに、うまく言葉にならない。
焦る私をよそに、ひかるちゃんがふっと小さく笑った。
「……十分わかったよ。さくらにとって、私が特別なんやね。……意地悪して、ごめん」
いたずらっぽく微笑むその顔を見て、ようやく私は息を吐いた。
胸の奥に渦巻いていた不安が、スッとほどけていく。
「あーーーーよかった……。大好きなひかるちゃんに嫌われたらどうしようかと思った」
「ほんと、ひかるちゃんのことになると余裕なくなる。好きで好きで、おかしくなりそう」
思わず口にしたその言葉に、ひかるちゃんはぱっと顔を赤くした。
「え、かわいい……」
思わずつぶやいた私に、「うるさい」と小さく言って、ひかるちゃんは反対側を向いてしまう。
「ちょ、え……」
本当は、その照れた顔をもっとちゃんと見ていたかったのに。
でも、そんな風に素直になれないひかるちゃんも、やっぱり愛おしい。
私は背中越しに、そっと抱きついたまま囁く。
「今も、これからも、私にはひかるちゃんだけだよ。だいすき。……おやすみ」
「……ん」
不器用な返事。
だけど、その身体から伝わってくる心臓の音が、今の気持ちを何よりも雄弁に語っていた。
愛されていることを、こんなにも確かに感じられる夜は、きっとそう多くない。
——この先もずっと、
ひかるちゃんの隣で、笑っていられますように。
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