🦒- どうか君も
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春の日差しがやわらかくて、少しだけ眠たくなる午後。
今日は、春らしい衣装での撮影だった。
桜の咲く公園で、私たちは何度も笑顔をつくって、無邪気にポーズを決めた。
「さくら、その髪飾りめっちゃ似合ってるな」
声の方を向くと、いのりちゃんが眩しそうに私を見ていた。
ドキッとして、思わず目をそらす。
こんな一言で、こんなにも胸が跳ねるの、ずるいって思う。
「ありがとう……いのりちゃんも、すごくかわいいよ」
「え、まじ? そんなん言ってくれるのさくらくらいやわ」
そうやって、照れたように笑うその表情がたまらなくて、私はまた目をそらした。
見ていられないくらい、好きになってしまいそうで。
撮影の合間。ふと2人きりになったベンチ。
沈黙が落ちて、鳥の声と、遠くの子どもたちの笑い声が風に混ざる。
「……なあ、さくら」
いのりちゃんの声が、少しだけ低くなった。
「最近、さくらのことばっかり考えてしまうんよ」
その言葉を聞いた瞬間、息が止まった。
唐突すぎて、でも、どこかでずっと聞きたかった言葉だった。
「同期とか、仲間とか、そんなんじゃなくて…… ほんまは、さくらのこと、好きなんかなって、思ってる」
胸がぎゅうっと締めつけられる。
ああ、いのりちゃんは、もう、はっきりと伝えてくれているんだ。
それなのに、口から出たのは——
「……やめてよ」
小さな、でも確かな拒絶のような声だった。
「え……?」
いのりちゃんの瞳が揺れた。
私の言葉が彼女を傷つけたことがすぐにわかって、私は自分の口を押さえた。
「ごめん、ちがうの……ほんとに、そういう意味じゃなくて……」
私は、怖かった。
いのりちゃんがくれるそのまっすぐな好意が、まぶしすぎて。
受け取ってしまったら、自分も変わってしまう気がして。
「私……いのりちゃんのこと、ちゃんと好きだよ」
「でも、私なんかがいのりちゃんに“好き”って言われるの、怖いの。その気持ちをちゃんと受け取っていいのか、自信がない」
言葉にした瞬間、胸の奥で重なっていた不安が溶けていくような気がした。
いのりちゃんはしばらく黙って、それからゆっくりと頷いた。
「さくらが不安にならんように、ちゃんとゆっくり行くから。それでも、そばにいてくれるなら、待てるで」
その言葉に、私は堪えきれずに涙をこぼした。
こんなに優しくて、まっすぐな人に、私は出会ってしまったんだ。
「……そばにいる、じゃ、だめ」
自分でも驚くくらい、はっきりと声が出た。
それまで胸の奥で小さく灯っていた想いが、一気に形を持った瞬間だった。
いのりちゃんが、静かに目を見開いた。
風が吹いて、彼女の髪が少し揺れる。
「私は……いのりちゃんの“特別”になりたい」
「ずっと怖かったけど、それでも、私は——」
言葉がつまる。
でも、逃げない。逃げたくない。やっと、ここまで来たから。
「私、いのりちゃんのことが、好き。ちゃんと、恋として、好き。自信なんて全然ないし、こんな私でいいのか不安だけど……それでも、私、一緒にいたいって思った」
声は少し震えていた。けれど、確かに届いたとわかった。
だって、いのりちゃんの瞳が、いままでに見たことのないくらい優しい光を湛えていたから。
「……ありがとう、さくら」
そう言って、いのりちゃんはそっと私の手を取って、指をからめるように握ってくれた。
その手があたたかくて、私は自然と涙がこぼれた。
「そんなふうに、言ってもらえるなんて、思ってなかった」
「怖かった、さくらに嫌われるんちゃうかって。でも——言ってよかった」
「私の方こそ……言ってよかった」
ふたりで笑って、また泣いて、また笑って。
桜の花びらが舞うベンチの上、私たちはやっと、お互いの気持ちをちゃんと結び合えた。
その瞬間、世界が少しだけ、色を変えた気がした。
おまけ
付き合い始めて、四日目。
まだ誰にも話してないし、話すつもりもなかった。
でも、楽屋って案外、秘密がバレやすい場所だ。
撮影終わり。
みんなで着替えているとき、ふといのりちゃんが私の隣に来て、そっと何かを渡してくれた。
「これ、昨日コンビニで見つけてん。さくら好きそうやなって」
差し出されたのは、はちみつレモンのキャンディ。
昔「こういう甘酸っぱいの好きなんだ〜」って話したこと、ちゃんと覚えてくれてたんだ……。
「ありがとう、嬉しい……」
ちょっとだけ声が甘くなってしまったの、自分でも分かった。
いのりちゃんは「へへ」って笑いながら、自分の荷物の整理を始めてる。
その様子を、斜め後ろからじーっと見つめていたのが、天ちゃんだった。
「……なんか、ふたりの空気、変じゃない?」
その一言に、私は思わず振り向いた。
そして、まるで示し合わせたみたいに、ちょうどロッカーの陰からひかるも顔を出した。
「わかる。井上、最近さくらのこと見てるときだけ目元がやさしいもん」
「ていうかさくらも、井上が近くに来るとちょっと笑い方かわいくなるよね?」
「なってないよ!?」
私が思わず声を上げた瞬間、いのりちゃんも焦ったように振り返ってきた。
「ち、ちがうで!これはただの……その、仲ええし!」
「え〜?その言い訳、無理ある〜」
天ちゃんがにやにや笑いながら、私のキャンディの袋を指差す。
「そのキャンディ、井上がさくらにだけ渡してたよね?しかも“好きそうやなって”って、え、それってもうさ、付き合ってる人への差し入れじゃん?」
「そ、そんなつもりやなかったって!」
「うそやー!その顔、“やってもうた”の顔!」
ひかるが横で小さく吹き出す。
「……まあ、いいと思うけどね。てかさ、井上、いつから?」
いのりちゃんは小さく「ん……」と息を吸い込んでから、観念したように言った。
「今週の月曜から、付き合ってる」
「やっぱり〜〜〜!!!」
天ちゃんが大声を上げて、私たちふたりは揃って耳まで真っ赤になった。
「ひかる、言った通りだったよね?最近のさくら、なんかやわらかかった」
「うん、なんかこう……すごい“花粉”みたいなオーラ出てた。ふわふわしてて、あったかいけどちょっとむずむずするやつ」
「花粉って何?」
「つまり、ラブの気配ってこと」
私たちはもう何も言えなかった。
ただ、恥ずかしさに耐えながら、笑う同期たちを見ていた。
でも——
「……ふたりとも、ちゃんと大事にし合ってそうだから、応援するよ」
そう言ったひかるの声が、あたたかくて。
私は思わずいのりちゃんと目を合わせて、そっと笑った。
隠していたはずの関係は、こうしてあっけなく知られてしまったけれど——
でも、信頼できる同期たちに見守られるのも、悪くないなって思えた。
こうして、私たちの“こっそり恋”は、少しだけオープンになった。
でも、まだふたりだけの秘密も、たくさん残しておきたい。
今日は、春らしい衣装での撮影だった。
桜の咲く公園で、私たちは何度も笑顔をつくって、無邪気にポーズを決めた。
「さくら、その髪飾りめっちゃ似合ってるな」
声の方を向くと、いのりちゃんが眩しそうに私を見ていた。
ドキッとして、思わず目をそらす。
こんな一言で、こんなにも胸が跳ねるの、ずるいって思う。
「ありがとう……いのりちゃんも、すごくかわいいよ」
「え、まじ? そんなん言ってくれるのさくらくらいやわ」
そうやって、照れたように笑うその表情がたまらなくて、私はまた目をそらした。
見ていられないくらい、好きになってしまいそうで。
撮影の合間。ふと2人きりになったベンチ。
沈黙が落ちて、鳥の声と、遠くの子どもたちの笑い声が風に混ざる。
「……なあ、さくら」
いのりちゃんの声が、少しだけ低くなった。
「最近、さくらのことばっかり考えてしまうんよ」
その言葉を聞いた瞬間、息が止まった。
唐突すぎて、でも、どこかでずっと聞きたかった言葉だった。
「同期とか、仲間とか、そんなんじゃなくて…… ほんまは、さくらのこと、好きなんかなって、思ってる」
胸がぎゅうっと締めつけられる。
ああ、いのりちゃんは、もう、はっきりと伝えてくれているんだ。
それなのに、口から出たのは——
「……やめてよ」
小さな、でも確かな拒絶のような声だった。
「え……?」
いのりちゃんの瞳が揺れた。
私の言葉が彼女を傷つけたことがすぐにわかって、私は自分の口を押さえた。
「ごめん、ちがうの……ほんとに、そういう意味じゃなくて……」
私は、怖かった。
いのりちゃんがくれるそのまっすぐな好意が、まぶしすぎて。
受け取ってしまったら、自分も変わってしまう気がして。
「私……いのりちゃんのこと、ちゃんと好きだよ」
「でも、私なんかがいのりちゃんに“好き”って言われるの、怖いの。その気持ちをちゃんと受け取っていいのか、自信がない」
言葉にした瞬間、胸の奥で重なっていた不安が溶けていくような気がした。
いのりちゃんはしばらく黙って、それからゆっくりと頷いた。
「さくらが不安にならんように、ちゃんとゆっくり行くから。それでも、そばにいてくれるなら、待てるで」
その言葉に、私は堪えきれずに涙をこぼした。
こんなに優しくて、まっすぐな人に、私は出会ってしまったんだ。
「……そばにいる、じゃ、だめ」
自分でも驚くくらい、はっきりと声が出た。
それまで胸の奥で小さく灯っていた想いが、一気に形を持った瞬間だった。
いのりちゃんが、静かに目を見開いた。
風が吹いて、彼女の髪が少し揺れる。
「私は……いのりちゃんの“特別”になりたい」
「ずっと怖かったけど、それでも、私は——」
言葉がつまる。
でも、逃げない。逃げたくない。やっと、ここまで来たから。
「私、いのりちゃんのことが、好き。ちゃんと、恋として、好き。自信なんて全然ないし、こんな私でいいのか不安だけど……それでも、私、一緒にいたいって思った」
声は少し震えていた。けれど、確かに届いたとわかった。
だって、いのりちゃんの瞳が、いままでに見たことのないくらい優しい光を湛えていたから。
「……ありがとう、さくら」
そう言って、いのりちゃんはそっと私の手を取って、指をからめるように握ってくれた。
その手があたたかくて、私は自然と涙がこぼれた。
「そんなふうに、言ってもらえるなんて、思ってなかった」
「怖かった、さくらに嫌われるんちゃうかって。でも——言ってよかった」
「私の方こそ……言ってよかった」
ふたりで笑って、また泣いて、また笑って。
桜の花びらが舞うベンチの上、私たちはやっと、お互いの気持ちをちゃんと結び合えた。
その瞬間、世界が少しだけ、色を変えた気がした。
おまけ
付き合い始めて、四日目。
まだ誰にも話してないし、話すつもりもなかった。
でも、楽屋って案外、秘密がバレやすい場所だ。
撮影終わり。
みんなで着替えているとき、ふといのりちゃんが私の隣に来て、そっと何かを渡してくれた。
「これ、昨日コンビニで見つけてん。さくら好きそうやなって」
差し出されたのは、はちみつレモンのキャンディ。
昔「こういう甘酸っぱいの好きなんだ〜」って話したこと、ちゃんと覚えてくれてたんだ……。
「ありがとう、嬉しい……」
ちょっとだけ声が甘くなってしまったの、自分でも分かった。
いのりちゃんは「へへ」って笑いながら、自分の荷物の整理を始めてる。
その様子を、斜め後ろからじーっと見つめていたのが、天ちゃんだった。
「……なんか、ふたりの空気、変じゃない?」
その一言に、私は思わず振り向いた。
そして、まるで示し合わせたみたいに、ちょうどロッカーの陰からひかるも顔を出した。
「わかる。井上、最近さくらのこと見てるときだけ目元がやさしいもん」
「ていうかさくらも、井上が近くに来るとちょっと笑い方かわいくなるよね?」
「なってないよ!?」
私が思わず声を上げた瞬間、いのりちゃんも焦ったように振り返ってきた。
「ち、ちがうで!これはただの……その、仲ええし!」
「え〜?その言い訳、無理ある〜」
天ちゃんがにやにや笑いながら、私のキャンディの袋を指差す。
「そのキャンディ、井上がさくらにだけ渡してたよね?しかも“好きそうやなって”って、え、それってもうさ、付き合ってる人への差し入れじゃん?」
「そ、そんなつもりやなかったって!」
「うそやー!その顔、“やってもうた”の顔!」
ひかるが横で小さく吹き出す。
「……まあ、いいと思うけどね。てかさ、井上、いつから?」
いのりちゃんは小さく「ん……」と息を吸い込んでから、観念したように言った。
「今週の月曜から、付き合ってる」
「やっぱり〜〜〜!!!」
天ちゃんが大声を上げて、私たちふたりは揃って耳まで真っ赤になった。
「ひかる、言った通りだったよね?最近のさくら、なんかやわらかかった」
「うん、なんかこう……すごい“花粉”みたいなオーラ出てた。ふわふわしてて、あったかいけどちょっとむずむずするやつ」
「花粉って何?」
「つまり、ラブの気配ってこと」
私たちはもう何も言えなかった。
ただ、恥ずかしさに耐えながら、笑う同期たちを見ていた。
でも——
「……ふたりとも、ちゃんと大事にし合ってそうだから、応援するよ」
そう言ったひかるの声が、あたたかくて。
私は思わずいのりちゃんと目を合わせて、そっと笑った。
隠していたはずの関係は、こうしてあっけなく知られてしまったけれど——
でも、信頼できる同期たちに見守られるのも、悪くないなって思えた。
こうして、私たちの“こっそり恋”は、少しだけオープンになった。
でも、まだふたりだけの秘密も、たくさん残しておきたい。
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