「まさかとは思うけど、あんたまだ前言ってた幼馴染引きずってるんじゃないでしょうねぇ？」

由美が睨みを利かせながら聞いてきた。
痛いところを突かれて顔が強張ったが、ごまかしにお冷やを注文する。

「そんな訳ないじゃない。だって、5年以上連絡取れてないって言ってなかった？流石にそんな男のことなんて忘れるわよ。ね？」

美和子の笑顔がこちらに向けられる。
彼女なりのフォローだったようだが余計にグサリときた。

なんとか嘘で乗り切ろうと口を開く。

「う、うん。ないないない。ある訳ないじゃん。そんなの馬鹿だよ馬鹿。私馬鹿じゃないから。な、ないよ、そんなこと。逆にそんな奴いるの？」



……………………盛大にやらかした。

全力で首を横に振り否定したが、こんなの子供でも嘘だとわかる。
案の定2人は私に冷ややかな目線を向けていた。

無言が、怖い。



この雰囲気を破ってくれたのは店員さんだ。

「お冷やお待ちしました」
「ど、どうも」

私はそろりと受け取りグラスに口を近づけた。
2人は黙ってこちらを凝視し続ける。

「あ、あの…………」


まだ無視するか。


私は持っていた水を一気に飲み干しグラスを勢いよくテーブル置く。
そして空気をいっぱい吸って叫んだ。

「別にいいんじゃんか！そうよ、そうですよ！どうせ私は急にいなくなったクズ野郎を想い続ける馬鹿な女ですよ！」

流石に2人も開き直るとは思っていなかったのか目を見開いた。
そして顔を真っ赤にしている私を見ながら、腹を抱えて笑い始める。

「ごめんごめん。りよがそんなに動揺するの珍しいから。面白くてついね」
「そんな怒りなさんなって」

私もふと我にかえり、自分のしでかしてしまった事に羞恥を感じながら縮こまる。


お酒を飲んで少し笑いが落ち着いたのか、再び2人が私の方を見た。
わざとらしくニヤニヤしている。

「でもまさか、あのりよが恋の悩みね。音楽にしか興味ないと思ってたのに」
「別に悩んでません」
「こんな愛らしい天使様を惚れさせた挙げ句、どっかに行っちゃうなんてー。罪な男だよねぇ、そいつは」
「別に愛らしくも天使でもないです」

また弱みを握られてしまった。
由美はいじるネタが１つ増えたとばかりに悪戯な笑みを浮かべている。