◆ 塔尋

◯◯◯◯しないと出られない部屋





「くそ……低級怪異ごときが舐めやがって」

床から起き上がりながら周囲の状況を確認する。鍵穴もドアノブもない扉の前でイライラとした様子の彼と、自分と、2人きりのようだ。入った覚えすらない部屋には窓一つなく、ポツンと大きめのベッドが置かれているのみだ。外傷はなし。少し頭が眩むが、そのうち落ち着くだろう。再び彼に視線を戻すと、扉の上に大きく書かれた文字が目に入った。
「おや……、これは困りましたね」
「くだらねぇ」
彼は特質怪具の剣を出すと、扉を思い切り切りつけた。傷ひとつつかない。
「その様子ですと、ワープも……」
「ああ、もう試した」
念のため、自身の斧を取り出し力任せに扉にぶつける。
「アルギアス」
斧から振動が伝わり、部屋ごと揺らす。しかし扉は相変わらず元の姿のままだった。床や壁も、傷ひとつつかない。

彼はベッドにドカッと腰を下ろすと、おもむろに煙草を取り出し火をつけた。換気のないであろう部屋で……と出かかった言葉を飲み込みながら、改めて解錠条件であろう文字を見る。
「寮長、……私は構いませんよ」
「……静かにしろ」
彼はそう言うと立ち上がり、扉のそばまで歩いた。
「下僕、聞こえるか」
そう言うと僅かに外から、2年生2人と特待生の声が返ってきた。
「ガキどもつれて、ここから離れろ。いいと言うまで戻ってくるんじゃねぇぞ」


じきに外の声は聞こえなくなる。どうやら彼の指示通りその場を離れたようだ。腕を組んで何かを観察していた彼は、ふーっと煙草の煙を吐き出した。そして煙草を床に落とすと、靴で火を揉み消した。
「やっぱりだ」
彼はもう一度ベッドに戻ると、新しく取り出した煙草に火をつけようとした。彼の手首を掴んで、ライターを遠ざける。
「あ?」
「それで、人払いまで済ませていかがなさるおつもりですか?」
彼の肩を押そうと手をかけたとき、彼とまっすぐに視線がかち合った。
「空間を支配できるわりに、かなり低級の怪異だ。姿も声も見せねぇ」
「……」
「この部屋自体が怪異なんだろうな」
彼の腕と肩を離し、無言で続きを待つ。彼は煙草に火をつけ、こちらを値踏みするような視線でゆったりと煙草を吸った。
「かなり限定的な範囲の人間の思いしか力にできねぇ。見ろ」
彼の指し示した先ほどの吸い殻。床が、少し焦げている。
「斧で傷ひとつつかなかった床が……」
「そうだ」


彼は煙草の煙を吐きながら、自信満々に笑った。
「あとはお前だ。そうすれば出られる」




  ***




冠氷さんに言われたとおりに、俺たちはあの部屋が見えないほど離れたところで、2人が無事に戻るのを待っていた。

「冠氷さん!磴さん!」
特待生ちゃんが声をあげながら立ち上がり、こちらに歩いてくる2人のもとに駆け寄る。俺たちもその後を追った。
「大丈夫ですか?怪我とかは……」
「ご心配には及びませんよ」
にっこりと微笑む磴さんの隣で、冠氷さんは黙ったままいつものように煙草を吸っている。特待生ちゃんもルカも2人の無事に安堵しているようだった。もちろん俺も。

そして俺は、ふと思い浮かんだことをつい言葉にした。
「あれ?出られたってことは、あの文字に書かれてた……」
「歩二くん」
怖いくらいの笑顔で、磴さんが遮る。
「は、はいいい!」
「あの怪異は、人の思いや噂を糧に強くも弱くもなります。怪異のことは、忘れるように」
「はい!わかりました!忘れます!!!」
磴さんから逃げるように顔をそらした先で、不意に冠氷さんと目があってしまい、慌ててしゃがんで頭を抱えた。心配そうなルカの声が振ってくる。
「どうしたんだい、魁斗」
「考えるの、よそう……」

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