■再び公園より
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静かな川に沿ってまのは歩いている。
水は限りなく澄んでいて、立ち止まって覗き込めば川底に鎮座している鮮やかな色の石や様々な生き物が観察できそうなほどである。まのはしゃがみ込んで覗いてみる。けれどもどうしたことか、水の中は確認することができない。
澄み切っているということは分かるのに、まるで遠い日の記憶を眺めているかのように、水面はひとしくぼんやりしている。
『綺麗なのに…よく見えないみたい 、』
しゃがみ込んだまま呟いて、ふと、背後に誰かがいることに気付く。なぜならその誰かに聞いてほしくて今まのは呟いたのだったから。
そしてずっと一緒にこの川沿いの道を歩いてきたことにも、ふと気付く。
"落ちたら危ないから、早く身をひきなさい "
といった意味の言葉が背後から伝わってくる。
『うん 』
まのは素直に従い、身を引こうとゆっくり振り向くと、そこには大きな手が差し出されていた。
それは、そっと重ねたまのの手を立ち上がることができるように優しく導いてくれた。
ずっと、こうして歩いて来た気がする。この人と。ただ、この川の水面と同じで、顔も名前も不明瞭なのだ。
優しく導いてくれた手のその先、この手の持ち主の顔を確認しようとまのはゆったりと仰ぐ、と。目の前に広がるは先ほどまで屈んで眺めていた美しい川。
しかし先ほどよりも随分と幅の広がった大きな河になっており、気がつくと二人揃って向こう岸を眺めていた。
まのの肩が一歩背後に立つ誰かの硬い脇腹に触れる。なるほど、きっと背の高い男なのだろう。そういえばそんな気がする。
随分大きくなった河に再び視線を落とすと、やはり先程と変わらずたいへん澄んでおり美しい。ただ、その解像度も変わらずに悪い。
どこからか差し込んでくる陽射しを反射させていて、それは規則性こそないものの、決して乱れず、ただただ美しかった。
"人気もなく、こんなに綺麗な処があったなんて知らなかったね。また一緒に来よう "
確かに傍らに立つ男はそう言った。しかしその声は捉えられなかった。
まるでまのの耳に入った瞬間、言葉の意味のみを抽出して、媒体とする声は捨てられてしまったかのように。
『うん 』まのは返事を縫って、は、とする。今夢を見ている、と突然自覚する。それにこの川辺は昔実際に行ったことがある、と継いで思い出す。
ここは、澄んだ川と 幽邃 な竹林が並行してずっと続いていたはずだった。
気が付いて視線を水面から上げると、背後にいたはずの彼は向こう岸に立っており、此方の岸はまのひとりになっていた。そして男の背後には、先ほどまでは確認できなかった竹林が鬱蒼と茂っている。
そうだ、あの竹はどこか様子がおかしかった。ただ具体的に何がおかしかったのかは遠くて分からないし、思い出すこともできない。
まのは突如、あの竹をもっと近くで見てみたくなった。
この河はただ広いだけでとても浅く、水の流れもおとなしいために、ざぶざぶと渡っていけそうである。
足首までを隠している丈の長いワンピースの裾を結んで足を踏み出そうとしたその時、男が何かまのに話していることが伝わってきた。
" "
こちらには来てはいけない、ということと、あの竹について何かを言っているが、何故かその細かい言葉が拾えない。
でも、何かとても悲しいことを言っている。もうあとできることは諦めることくらいしかない、という気になってしまうようなことを言っている。
向こう岸の男は何かに気が付いたようだ、安心したかのようにも見える気怠そうな仕草で軽く手を上げると、背を向けて竹林の奥へ姿を消してしまった。
そっちに行かないでほしい、戻ってきてほしい、この先もずっと一緒にいてほしい。
あの男が誰かも分かっていないくせに、駄々にも近い沢山の言葉がまのの中に次々と湧いてくる。しかしいざ声にはならず、それならば、と足を進めようとしたその時。まのの前に遮るように横から伸ばされた長い腕。
首を軋ませ横を見上げると、そこには白髪の男が立っていた。向こう岸をじっと眺める整った顔は無表情である。
竹林に消えた男を追うならば、この腕は振り払わなければならない。でも、まのにはできなかった。
冷めた色の男の瞳は、底では何か思うことがあるのに、その気持ちを無理矢理抑えつけてただ黙っているような、そんな澱みを含ませていて、それが本当に気の毒に思えて仕方がなかったから。
横にいたはずの白髪の男の顔が、すぐ目の前に見える。
鉄棒に腰掛けて、あの青い目でこちらを見上げている。
まのは今日、あの公園に行かなければならない。
気付くと意識が近くなってくる。
もうまのは起きなければならない。
水は限りなく澄んでいて、立ち止まって覗き込めば川底に鎮座している鮮やかな色の石や様々な生き物が観察できそうなほどである。まのはしゃがみ込んで覗いてみる。けれどもどうしたことか、水の中は確認することができない。
澄み切っているということは分かるのに、まるで遠い日の記憶を眺めているかのように、水面はひとしくぼんやりしている。
『綺麗なのに…よく見えないみたい 、』
しゃがみ込んだまま呟いて、ふと、背後に誰かがいることに気付く。なぜならその誰かに聞いてほしくて今まのは呟いたのだったから。
そしてずっと一緒にこの川沿いの道を歩いてきたことにも、ふと気付く。
"落ちたら危ないから、早く身をひきなさい "
といった意味の言葉が背後から伝わってくる。
『うん 』
まのは素直に従い、身を引こうとゆっくり振り向くと、そこには大きな手が差し出されていた。
それは、そっと重ねたまのの手を立ち上がることができるように優しく導いてくれた。
ずっと、こうして歩いて来た気がする。この人と。ただ、この川の水面と同じで、顔も名前も不明瞭なのだ。
優しく導いてくれた手のその先、この手の持ち主の顔を確認しようとまのはゆったりと仰ぐ、と。目の前に広がるは先ほどまで屈んで眺めていた美しい川。
しかし先ほどよりも随分と幅の広がった大きな河になっており、気がつくと二人揃って向こう岸を眺めていた。
まのの肩が一歩背後に立つ誰かの硬い脇腹に触れる。なるほど、きっと背の高い男なのだろう。そういえばそんな気がする。
随分大きくなった河に再び視線を落とすと、やはり先程と変わらずたいへん澄んでおり美しい。ただ、その解像度も変わらずに悪い。
どこからか差し込んでくる陽射しを反射させていて、それは規則性こそないものの、決して乱れず、ただただ美しかった。
"人気もなく、こんなに綺麗な処があったなんて知らなかったね。また一緒に来よう "
確かに傍らに立つ男はそう言った。しかしその声は捉えられなかった。
まるでまのの耳に入った瞬間、言葉の意味のみを抽出して、媒体とする声は捨てられてしまったかのように。
『うん 』まのは返事を縫って、は、とする。今夢を見ている、と突然自覚する。それにこの川辺は昔実際に行ったことがある、と継いで思い出す。
ここは、澄んだ川と
気が付いて視線を水面から上げると、背後にいたはずの彼は向こう岸に立っており、此方の岸はまのひとりになっていた。そして男の背後には、先ほどまでは確認できなかった竹林が鬱蒼と茂っている。
そうだ、あの竹はどこか様子がおかしかった。ただ具体的に何がおかしかったのかは遠くて分からないし、思い出すこともできない。
まのは突如、あの竹をもっと近くで見てみたくなった。
この河はただ広いだけでとても浅く、水の流れもおとなしいために、ざぶざぶと渡っていけそうである。
足首までを隠している丈の長いワンピースの裾を結んで足を踏み出そうとしたその時、男が何かまのに話していることが伝わってきた。
" "
こちらには来てはいけない、ということと、あの竹について何かを言っているが、何故かその細かい言葉が拾えない。
でも、何かとても悲しいことを言っている。もうあとできることは諦めることくらいしかない、という気になってしまうようなことを言っている。
向こう岸の男は何かに気が付いたようだ、安心したかのようにも見える気怠そうな仕草で軽く手を上げると、背を向けて竹林の奥へ姿を消してしまった。
そっちに行かないでほしい、戻ってきてほしい、この先もずっと一緒にいてほしい。
あの男が誰かも分かっていないくせに、駄々にも近い沢山の言葉がまのの中に次々と湧いてくる。しかしいざ声にはならず、それならば、と足を進めようとしたその時。まのの前に遮るように横から伸ばされた長い腕。
首を軋ませ横を見上げると、そこには白髪の男が立っていた。向こう岸をじっと眺める整った顔は無表情である。
竹林に消えた男を追うならば、この腕は振り払わなければならない。でも、まのにはできなかった。
冷めた色の男の瞳は、底では何か思うことがあるのに、その気持ちを無理矢理抑えつけてただ黙っているような、そんな澱みを含ませていて、それが本当に気の毒に思えて仕方がなかったから。
横にいたはずの白髪の男の顔が、すぐ目の前に見える。
鉄棒に腰掛けて、あの青い目でこちらを見上げている。
まのは今日、あの公園に行かなければならない。
気付くと意識が近くなってくる。
もうまのは起きなければならない。