その他トレーナー夢短編
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サンギ牧場のオーナー夫婦のもとで手伝いをするようになって、そろそろ二年が経とうとしていた。もともとポケモンの世話をすることが大好きだったわたしは、牧場のポケモンたちともすぐに仲良くなり、今ではまるで家族同然に暮らしている。早朝にご夫婦の相棒である二匹のハーデリアを連れて散歩に出かけるのが日課だ。「ほんと、助かるわあ」と奥さんはありがたがった。わたしにとっても大好きなポケモンたちと触れ合う時間がもてるのはありがたいことだ。やわらかな朝日を浴びながら若草の萌える牧場周辺を歩くと、心が洗われるようだった。
夏を目前にメリープたちの毛刈りが無事終了したところで、オーナー夫婦から「この二年間よくがんばったから」と、有給の長期休暇をもらった。とはいえこれといって何かしたいことがあるわけでもなかったので、初めは何度も断ったのだが、時には気分転換も必要だというご夫婦の考えは変わらず、結局わたしは断りきれずに時間をもて余すことになった。さてどうしよう。わたしは腰につけたモンスターボールに目を向けた。ゾロアがボールの中から何か訴えかけるような目でこちらを見上げている。わたしはゾロアをボールから出し、尋ねた。「何かいい考えある?」すると、ゾロアの体がぐにゃりと歪んで、ある人物に姿を変えた。「……チェレンくん?」わたしが首を傾げると、チェレンくんの姿をしたゾロアがニシシと笑った。本人はきっとこんなふうに笑わないだろうから、ちょっぴり新鮮だ。
チェレンくんは、最近ヒオウギジムのジムリーダーに抜擢された青年で、ジムに併設されたトレーナーズスクールの講師も務めている優秀な人物だ。彼との出会いは、以前わたしがサンギタウンに住む元ポケモンリーグチャンピオンのアデクさんを訪ねた際、彼が先客としてそこに居合わせたことがきっかけだった。その時アデクさんを訪ねた本来の目的は果たせなかったものの、偶然出会ったチェレンくんと意気投合し、互いのライブキャスターを登録して連絡を取り合うようになった。彼はジムではノーマルタイプの使い手としてミネズミやヨーテリーを育てているそうだが、その二匹とは別に、かつて共にポケモンリーグに挑戦したパートナーのポケモンたちがいて、そのうちの一匹であるジャローダを見せてもらったところ、チェレンくんにとてもなついている様子だった。ポケモンの表情を見れば、そのポケモンとトレーナーとの関係はすぐに分かる。それはわたしが昔仕えていた主から学んだことだ。彼は今一体どこにいるのだろうか。ふと視線を感じると、ゾロアはいつの間にか元の姿に戻っていて、きらきらとした眼差しをこちらに向けていた。「チェレンくんに会いたいの?」ゾロアは頷き、ドアの方へ駆けてこちらを振り返った。「早く!」と言わんばかりの様子に、わたしは思わず笑みをこぼした。「相変わらずせっかちだなあ」
サンギタウンから19番道路を抜けてヒオウギシティに到着するまで、寄り道さえしなければ自転車で一時間程度のゆるやかな道程だ。この一帯に住む野生のポケモンたちも比較的温厚で、こちらから攻撃しなければまず襲われることはない。初夏の爽やかな風を切り、ヒオウギシティへと向かう。目的地に到着したのは午後二時頃だった。マップでヒオウギジムの位置を確認し、再び自転車を走らせる。ヒオウギジムを目前に、見知った後ろ姿が見えた。「チェレンくん!」その声は無事彼の耳に届いたようで、振り向いた彼は驚いた顔をした。「ミズキじゃないか!」わたしは自転車を降りてチェレンくんと向かい合う。「ジムリーダー兼講師の仕事はどう?順調?」「ぼちぼちってところかな。ついさっき初めてのジム挑戦者が現れてね。二人に連続して負けてしまったよ。まだまだ修行が足りないね」チェレンくんはそう言って苦笑いした。
ふと腰の辺りに振動を感じ、見るとモンスターボールの中でゾロアが落ち着きなく尻尾を揺らしていた。ゾロアをボールから出すと、ゾロアは勢いよくチェレンくんの足に飛びつき、わたしとチェレンくんを交互に見上げて、何かをねだるように鳴いた。もしかしてーー「ポケモンバトルがしたいの?」ゾロアはわたしの言葉を肯定するように激しく尻尾を振り、力強い鳴き声を上げた。チェレンくんはあごに手をあてて思案する仕草をした。「そうだな、ミネズミとヨーテリーは連戦で疲れているだろうから……」すると妙案を思いついたように、パッと明るい表情に変わった。「ぼくのパートナーが相手をするよ」
ジムのバトルフィールドに立つのは今回が初めてだ。というより、そもそもバトル自体が初めてだった。そんなわたしが、果たしてポケモンリーグを勝ち抜いた実力者であるチェレンくんを前にして、ポケモンに適切な指示を出せるだろうか……不安が脳裏をよぎったが、それを見透かすかのように、前方で戦闘態勢を整えたゾロアが力強い視線を送ってきた。まるで「俺を信じろ」と言われているようだった。そうだ、ゾロアを信じよう。なんといっても、あの方のゾロアなのだから。わたしはチェレンくんと、チェレンくんのジャローダを見据える。ーー試合、開始!!
ポケモンのレベル、トレーナーの経験ともに相手は格上だが、ゾロアの機転と素早い動きがジャローダを翻弄し、勝負は接戦だった。けれどもやはり実力の差を埋めることはかなわなかった。最後の最後でゾロアはジャローダの一撃に伏した。「ゾロア!」わたしは倒れたゾロアに駆け寄り、傷薬を使って手当てした。ゾロアは疲れた様子だったが、その表情は満足げだった。「きみもゾロアも、素晴らしい腕前だったよ」チェレンくんが額の汗を拭って言った。「かなり危なかったな」「チェレンくんもジャローダも、おつかれさま。さすが、息ぴったりだったね」わたしはゾロアをモンスターボールに戻した。ボールの中ですやすやと眠るゾロアを見て、ほっと胸を撫で下ろす。「わたし自身、ポケモンバトルはあんまり好きじゃないんだけど……ポケモンの方からバトルしたいって言われたら、やっぱりトレーナーとしてそれを叶えてあげたいよね」そう言うと、チェレンくんは「えっ?」と目を見開いた。「きみはポケモンの言葉が分かるのかい?」わたしは慌てて手を横に振った。「いや、そういうわけじゃないけど、ポケモンたちの様子からなんとなく気持ちを察することができるんだよね」それを聞いたチェレンくんは、なんだか難しい顔をした。「……昔、きみと似たようなことを言っていたトレーナーがいてね。思わず彼のことを思い出したよ」
わたしたちはそれから場所を移動して互いの近況やポケモン育成などについて日が暮れるまで語り合った。チェレンくんと話しているとつい時間の経過を忘れてしまう。わたしはチェレンくんに別れを告げ、空が完全に暗くなる前に家路を急いだ。その頃、サンギ牧場でオーナー夫婦のハーデリアの一匹が姿を消して大騒ぎになっているとも知らずに。
夏を目前にメリープたちの毛刈りが無事終了したところで、オーナー夫婦から「この二年間よくがんばったから」と、有給の長期休暇をもらった。とはいえこれといって何かしたいことがあるわけでもなかったので、初めは何度も断ったのだが、時には気分転換も必要だというご夫婦の考えは変わらず、結局わたしは断りきれずに時間をもて余すことになった。さてどうしよう。わたしは腰につけたモンスターボールに目を向けた。ゾロアがボールの中から何か訴えかけるような目でこちらを見上げている。わたしはゾロアをボールから出し、尋ねた。「何かいい考えある?」すると、ゾロアの体がぐにゃりと歪んで、ある人物に姿を変えた。「……チェレンくん?」わたしが首を傾げると、チェレンくんの姿をしたゾロアがニシシと笑った。本人はきっとこんなふうに笑わないだろうから、ちょっぴり新鮮だ。
チェレンくんは、最近ヒオウギジムのジムリーダーに抜擢された青年で、ジムに併設されたトレーナーズスクールの講師も務めている優秀な人物だ。彼との出会いは、以前わたしがサンギタウンに住む元ポケモンリーグチャンピオンのアデクさんを訪ねた際、彼が先客としてそこに居合わせたことがきっかけだった。その時アデクさんを訪ねた本来の目的は果たせなかったものの、偶然出会ったチェレンくんと意気投合し、互いのライブキャスターを登録して連絡を取り合うようになった。彼はジムではノーマルタイプの使い手としてミネズミやヨーテリーを育てているそうだが、その二匹とは別に、かつて共にポケモンリーグに挑戦したパートナーのポケモンたちがいて、そのうちの一匹であるジャローダを見せてもらったところ、チェレンくんにとてもなついている様子だった。ポケモンの表情を見れば、そのポケモンとトレーナーとの関係はすぐに分かる。それはわたしが昔仕えていた主から学んだことだ。彼は今一体どこにいるのだろうか。ふと視線を感じると、ゾロアはいつの間にか元の姿に戻っていて、きらきらとした眼差しをこちらに向けていた。「チェレンくんに会いたいの?」ゾロアは頷き、ドアの方へ駆けてこちらを振り返った。「早く!」と言わんばかりの様子に、わたしは思わず笑みをこぼした。「相変わらずせっかちだなあ」
サンギタウンから19番道路を抜けてヒオウギシティに到着するまで、寄り道さえしなければ自転車で一時間程度のゆるやかな道程だ。この一帯に住む野生のポケモンたちも比較的温厚で、こちらから攻撃しなければまず襲われることはない。初夏の爽やかな風を切り、ヒオウギシティへと向かう。目的地に到着したのは午後二時頃だった。マップでヒオウギジムの位置を確認し、再び自転車を走らせる。ヒオウギジムを目前に、見知った後ろ姿が見えた。「チェレンくん!」その声は無事彼の耳に届いたようで、振り向いた彼は驚いた顔をした。「ミズキじゃないか!」わたしは自転車を降りてチェレンくんと向かい合う。「ジムリーダー兼講師の仕事はどう?順調?」「ぼちぼちってところかな。ついさっき初めてのジム挑戦者が現れてね。二人に連続して負けてしまったよ。まだまだ修行が足りないね」チェレンくんはそう言って苦笑いした。
ふと腰の辺りに振動を感じ、見るとモンスターボールの中でゾロアが落ち着きなく尻尾を揺らしていた。ゾロアをボールから出すと、ゾロアは勢いよくチェレンくんの足に飛びつき、わたしとチェレンくんを交互に見上げて、何かをねだるように鳴いた。もしかしてーー「ポケモンバトルがしたいの?」ゾロアはわたしの言葉を肯定するように激しく尻尾を振り、力強い鳴き声を上げた。チェレンくんはあごに手をあてて思案する仕草をした。「そうだな、ミネズミとヨーテリーは連戦で疲れているだろうから……」すると妙案を思いついたように、パッと明るい表情に変わった。「ぼくのパートナーが相手をするよ」
ジムのバトルフィールドに立つのは今回が初めてだ。というより、そもそもバトル自体が初めてだった。そんなわたしが、果たしてポケモンリーグを勝ち抜いた実力者であるチェレンくんを前にして、ポケモンに適切な指示を出せるだろうか……不安が脳裏をよぎったが、それを見透かすかのように、前方で戦闘態勢を整えたゾロアが力強い視線を送ってきた。まるで「俺を信じろ」と言われているようだった。そうだ、ゾロアを信じよう。なんといっても、あの方のゾロアなのだから。わたしはチェレンくんと、チェレンくんのジャローダを見据える。ーー試合、開始!!
ポケモンのレベル、トレーナーの経験ともに相手は格上だが、ゾロアの機転と素早い動きがジャローダを翻弄し、勝負は接戦だった。けれどもやはり実力の差を埋めることはかなわなかった。最後の最後でゾロアはジャローダの一撃に伏した。「ゾロア!」わたしは倒れたゾロアに駆け寄り、傷薬を使って手当てした。ゾロアは疲れた様子だったが、その表情は満足げだった。「きみもゾロアも、素晴らしい腕前だったよ」チェレンくんが額の汗を拭って言った。「かなり危なかったな」「チェレンくんもジャローダも、おつかれさま。さすが、息ぴったりだったね」わたしはゾロアをモンスターボールに戻した。ボールの中ですやすやと眠るゾロアを見て、ほっと胸を撫で下ろす。「わたし自身、ポケモンバトルはあんまり好きじゃないんだけど……ポケモンの方からバトルしたいって言われたら、やっぱりトレーナーとしてそれを叶えてあげたいよね」そう言うと、チェレンくんは「えっ?」と目を見開いた。「きみはポケモンの言葉が分かるのかい?」わたしは慌てて手を横に振った。「いや、そういうわけじゃないけど、ポケモンたちの様子からなんとなく気持ちを察することができるんだよね」それを聞いたチェレンくんは、なんだか難しい顔をした。「……昔、きみと似たようなことを言っていたトレーナーがいてね。思わず彼のことを思い出したよ」
わたしたちはそれから場所を移動して互いの近況やポケモン育成などについて日が暮れるまで語り合った。チェレンくんと話しているとつい時間の経過を忘れてしまう。わたしはチェレンくんに別れを告げ、空が完全に暗くなる前に家路を急いだ。その頃、サンギ牧場でオーナー夫婦のハーデリアの一匹が姿を消して大騒ぎになっているとも知らずに。
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