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わたしは自分の目を疑った。目の前に立つその人は、七賢人ーープラズマ団の最高幹部ーーのうちの一人、ロットさまだった。
「ロットさま、お待たせしました……って、ミズキ!?」
ロットさまの後から駆けつけてきたのは、探していた元同僚。彼は驚いた様子で「どうしてここに?」と尋ねた。わたしは急な展開に混乱しつつも、どうにか気持ちを落ち着けて、元同僚の問いに答える。「あなたを探していたの。Nさまの行方を知りたくて」そのわたしの言葉に賛同するように、腕の中のゾロアも鳴き声を上げた。「そのゾロア、もしかして……」元同僚が懐かしそうにゾロアをのぞき込む。
「Nさまのトモダチだな?」
ロットさまの問いかけに、わたしは「はい」と頷いた。「久しぶりだなあ」元同僚がゾロアの頭を撫でると、ゾロアも嬉しそうに鳴いた。彼との再会を喜んでいるようだ。その光景を微笑ましそうに見守っていたロットさまは、しばらくして「さて、」と口を開いた。「せっかく遠路はるばるやってきたのだから、中でゆっくり話そうではないか」
話を聞くと、二人とも二年前にプラズマ団から脱退し、ほかの元プラズマ団員数人とともに、すぐそこに見えるコテージでひっそりと暮らしているということだった。建物の外観はシックな雰囲気の別荘という感じだ。二人の案内でさっそく中に通してもらうと、木造の広々とした空間は高さと奥行きがあり、開放的なつくりだった。ほかの元団員たちに出迎えられ、わたしたちはリビングのソファーに腰を下ろした。
「……さて、ミズキ。Nさまの行方を知りたいと言っておったな」ロットさまは静かに首を横に振った。「あいにくだが、わたしたちにも分からんのだ」
「そうですか……」わたしは落胆を隠しきれず、視線を落とす。だが、聞きたいことはもう一つある。わたしは再び顔を上げた。「実はつい最近、プラズマ団を名乗る男に会ったんです」わたしは事のいきさつをできるかぎり詳しく話した。「……プラズマ団が活動を再開したらしいという噂は耳にしておったが、事実だったのだな」ロットさまは考え込むようにあごに手をあて、視線を斜め下に向けた。
「それで、Nさまが戻られたんじゃないかと期待したんですが……」わたしは少し思案してから続けた。「でも、なんとなくそんな雰囲気じゃないように思うんですよね」
仮にNさまを統率者として再結成された組織であるならば、ポケモンを尊重し、けっして傷つけるようなことはしないだろう。だが先日見たあの男は、牧場のオーナー夫婦のハーデリアを追いかけ回し、無理矢理連れ去ろうとしていた。では、現在組織を束ねているのは一体誰か。
「おそらく、ゲーチスさまだろう」
ロットさまは確信しているようだった。ゲーチスーーそれはわたしが大嫌いな男の名前だ。彼は表向きには七賢人の一人としてNさまを支える立場にあったが、実際はNさまを利用し、プラズマ団を操ってイッシュを支配しようと目論んでいた。あの男にとってはNさまもポケモンもプラズマ団も、己れの野望を実現するための手駒にすぎなかったのだ。そんな人物のもとに集った組織なんて、ろくなもんじゃないだろう。新生プラズマ団が、果たして何を目的に再結成されたのかーー嫌な予感しかしなかった。
「わたしたちには、何ができるんでしょうか」
「そうだな……」ロットさまは室内で遊ぶポケモンたちを見て、言った。「粛々と罪を償うのが、わたしたちの務めだろう」
このコテージ内にいるポケモンたちは、二年前にプラズマ団の「解放活動」の一環としてトレーナーから引き離された後、元の主が分からなくなってそのままここで保護されているのだそうだ。「このポケモンたちの世話をしながら元のトレーナーを探すのが、せめてもの罪滅ぼしだ」ロットさまのその言葉に、元同僚も頷いた。「オレたちにできるのはこれくらいだよ」
*
わたしたちはその後も互いに近況を語り合い、話し込んでいるうちにすっかり日が暮れてしまった。名残惜しく思いつつも二人と別れ、丘を下りて今夜の宿泊場所を探すことにした。ホドモエ・オリエンタルホテル、ゴージャス・ホドモエ、グランドホテル・ホドモエ、ホテル・リッチホドモエ……どれも高級ホテルだが、普段倹約している分、少しくらい奮発してもいいだろう。
どのホテルにしようか考えながら歩いていたその時、街行く人々の中に見知った翠色の髪が見えた気がした。「えっ!?」わたしは思わず声を上げた。急いで人波をかき分け、その後ろ姿を追いかける。彼が曲がり角を曲がって路地に入ったところで、わたしは彼の背中に声をかけた。「Nさま!」
するとその人はピタリと立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。その瞬間、モンスターボールからゾロアが飛び出し、一目散に彼の懐に飛び込んだ。激しく尻尾を振って喜びを表すゾロアを、彼はいとおしそうに撫でる。「久しぶりだね、ゾロア。元気にしていたかい?」その問いに、ゾロアは力強く鳴いて答えた。「それは良かった。……彼女が、キミのトモダチとしてそばにいてくれたんだね」Nさまはゾロアを抱いたまま、わたしに歩み寄った。「キミは城にいた頃からボクのトモダチの面倒を見てくれていたよね。感謝しているよ」
あれほど待ち望んでいたNさまとの再会なのに、いざ本人を目の前にすると、途端に何を言えばいいか分からなくなってしまう。ああでもない、こうでもないと考えているうちに、思わず口から出てしまったのは、「寂しかったです」という本心からの言葉だった。
「ゾロアも、……わたしも、Nさまが行方知れずになってから、ずっと寂しかったです。……こうしてお会いできて、本当に良かった」
言葉を紡ぐと同時に嬉しさと安堵感がこみ上げて、目頭が熱くなった。「どうして、」Nさまは困惑した表情でわたしを見ていた。「どうしてボクのことを、そこまで気にかけるんだい?」ダイレクトな問いに、わたしは口をつぐんだ。ここで彼に想いを伝えれば、ますます彼を困らせてしまうだろう。「……Nさまは、わたしが世界で一番尊敬している人ですから」それが、この場で答えられる精一杯の回答だった。Nさまは難しい顔をした。「……だが、ボクは過ちを犯した。レシラムと旅をして分かったんだ。自分がどれだけ愚かだったかということを」Nさまはゾロアの頭をそっと撫で、続けた。「でも同時に、ボクがこれから何をすべきかということも分かった。ポケモンたちの声をトレーナーに届けることが、ボクの使命だ」そう言い切ったNさまの声色は力強く、確信に満ちていた。
「ーーNさま」わたしは言った。「ぜひ、サンギ牧場にいらしてください。そこで、ゾロアと一緒に待っていますから」
プラズマ団とその城を失ったNさまの「帰る場所」になること。Nさまのためにわたしができることといえば、そんなことくらいだ。「ありがとう」その時のNさまの表情は、いつになく柔らかかった。「きっと会いに行くよ」
*
それから半年後。秋も深まり、いよいよ冬の足音が聞こえてきそうな季節、サンギ牧場に一人の来訪客がやってきた。待ちに待ったその人を、わたしはゾロアとともに出迎える。「お帰りなさい、Nさま!」Nさまは綺麗に笑った。「……ただいま!」
「ロットさま、お待たせしました……って、ミズキ!?」
ロットさまの後から駆けつけてきたのは、探していた元同僚。彼は驚いた様子で「どうしてここに?」と尋ねた。わたしは急な展開に混乱しつつも、どうにか気持ちを落ち着けて、元同僚の問いに答える。「あなたを探していたの。Nさまの行方を知りたくて」そのわたしの言葉に賛同するように、腕の中のゾロアも鳴き声を上げた。「そのゾロア、もしかして……」元同僚が懐かしそうにゾロアをのぞき込む。
「Nさまのトモダチだな?」
ロットさまの問いかけに、わたしは「はい」と頷いた。「久しぶりだなあ」元同僚がゾロアの頭を撫でると、ゾロアも嬉しそうに鳴いた。彼との再会を喜んでいるようだ。その光景を微笑ましそうに見守っていたロットさまは、しばらくして「さて、」と口を開いた。「せっかく遠路はるばるやってきたのだから、中でゆっくり話そうではないか」
話を聞くと、二人とも二年前にプラズマ団から脱退し、ほかの元プラズマ団員数人とともに、すぐそこに見えるコテージでひっそりと暮らしているということだった。建物の外観はシックな雰囲気の別荘という感じだ。二人の案内でさっそく中に通してもらうと、木造の広々とした空間は高さと奥行きがあり、開放的なつくりだった。ほかの元団員たちに出迎えられ、わたしたちはリビングのソファーに腰を下ろした。
「……さて、ミズキ。Nさまの行方を知りたいと言っておったな」ロットさまは静かに首を横に振った。「あいにくだが、わたしたちにも分からんのだ」
「そうですか……」わたしは落胆を隠しきれず、視線を落とす。だが、聞きたいことはもう一つある。わたしは再び顔を上げた。「実はつい最近、プラズマ団を名乗る男に会ったんです」わたしは事のいきさつをできるかぎり詳しく話した。「……プラズマ団が活動を再開したらしいという噂は耳にしておったが、事実だったのだな」ロットさまは考え込むようにあごに手をあて、視線を斜め下に向けた。
「それで、Nさまが戻られたんじゃないかと期待したんですが……」わたしは少し思案してから続けた。「でも、なんとなくそんな雰囲気じゃないように思うんですよね」
仮にNさまを統率者として再結成された組織であるならば、ポケモンを尊重し、けっして傷つけるようなことはしないだろう。だが先日見たあの男は、牧場のオーナー夫婦のハーデリアを追いかけ回し、無理矢理連れ去ろうとしていた。では、現在組織を束ねているのは一体誰か。
「おそらく、ゲーチスさまだろう」
ロットさまは確信しているようだった。ゲーチスーーそれはわたしが大嫌いな男の名前だ。彼は表向きには七賢人の一人としてNさまを支える立場にあったが、実際はNさまを利用し、プラズマ団を操ってイッシュを支配しようと目論んでいた。あの男にとってはNさまもポケモンもプラズマ団も、己れの野望を実現するための手駒にすぎなかったのだ。そんな人物のもとに集った組織なんて、ろくなもんじゃないだろう。新生プラズマ団が、果たして何を目的に再結成されたのかーー嫌な予感しかしなかった。
「わたしたちには、何ができるんでしょうか」
「そうだな……」ロットさまは室内で遊ぶポケモンたちを見て、言った。「粛々と罪を償うのが、わたしたちの務めだろう」
このコテージ内にいるポケモンたちは、二年前にプラズマ団の「解放活動」の一環としてトレーナーから引き離された後、元の主が分からなくなってそのままここで保護されているのだそうだ。「このポケモンたちの世話をしながら元のトレーナーを探すのが、せめてもの罪滅ぼしだ」ロットさまのその言葉に、元同僚も頷いた。「オレたちにできるのはこれくらいだよ」
*
わたしたちはその後も互いに近況を語り合い、話し込んでいるうちにすっかり日が暮れてしまった。名残惜しく思いつつも二人と別れ、丘を下りて今夜の宿泊場所を探すことにした。ホドモエ・オリエンタルホテル、ゴージャス・ホドモエ、グランドホテル・ホドモエ、ホテル・リッチホドモエ……どれも高級ホテルだが、普段倹約している分、少しくらい奮発してもいいだろう。
どのホテルにしようか考えながら歩いていたその時、街行く人々の中に見知った翠色の髪が見えた気がした。「えっ!?」わたしは思わず声を上げた。急いで人波をかき分け、その後ろ姿を追いかける。彼が曲がり角を曲がって路地に入ったところで、わたしは彼の背中に声をかけた。「Nさま!」
するとその人はピタリと立ち止まり、ゆっくりと振り向いた。その瞬間、モンスターボールからゾロアが飛び出し、一目散に彼の懐に飛び込んだ。激しく尻尾を振って喜びを表すゾロアを、彼はいとおしそうに撫でる。「久しぶりだね、ゾロア。元気にしていたかい?」その問いに、ゾロアは力強く鳴いて答えた。「それは良かった。……彼女が、キミのトモダチとしてそばにいてくれたんだね」Nさまはゾロアを抱いたまま、わたしに歩み寄った。「キミは城にいた頃からボクのトモダチの面倒を見てくれていたよね。感謝しているよ」
あれほど待ち望んでいたNさまとの再会なのに、いざ本人を目の前にすると、途端に何を言えばいいか分からなくなってしまう。ああでもない、こうでもないと考えているうちに、思わず口から出てしまったのは、「寂しかったです」という本心からの言葉だった。
「ゾロアも、……わたしも、Nさまが行方知れずになってから、ずっと寂しかったです。……こうしてお会いできて、本当に良かった」
言葉を紡ぐと同時に嬉しさと安堵感がこみ上げて、目頭が熱くなった。「どうして、」Nさまは困惑した表情でわたしを見ていた。「どうしてボクのことを、そこまで気にかけるんだい?」ダイレクトな問いに、わたしは口をつぐんだ。ここで彼に想いを伝えれば、ますます彼を困らせてしまうだろう。「……Nさまは、わたしが世界で一番尊敬している人ですから」それが、この場で答えられる精一杯の回答だった。Nさまは難しい顔をした。「……だが、ボクは過ちを犯した。レシラムと旅をして分かったんだ。自分がどれだけ愚かだったかということを」Nさまはゾロアの頭をそっと撫で、続けた。「でも同時に、ボクがこれから何をすべきかということも分かった。ポケモンたちの声をトレーナーに届けることが、ボクの使命だ」そう言い切ったNさまの声色は力強く、確信に満ちていた。
「ーーNさま」わたしは言った。「ぜひ、サンギ牧場にいらしてください。そこで、ゾロアと一緒に待っていますから」
プラズマ団とその城を失ったNさまの「帰る場所」になること。Nさまのためにわたしができることといえば、そんなことくらいだ。「ありがとう」その時のNさまの表情は、いつになく柔らかかった。「きっと会いに行くよ」
*
それから半年後。秋も深まり、いよいよ冬の足音が聞こえてきそうな季節、サンギ牧場に一人の来訪客がやってきた。待ちに待ったその人を、わたしはゾロアとともに出迎える。「お帰りなさい、Nさま!」Nさまは綺麗に笑った。「……ただいま!」
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