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「風が心地いいね、ゾロア」
その言葉は、わたしの膝の上で丸くなって気持ち良さそうに寝息を立てているゾロアの耳には届かなかったようだ。今、彼はどんな夢を見ているのだろう。彼の夢に出てくるのは、過去の記憶か、未来の希望か、はたまた現在の近況か。いずれにしても幸せな夢であってほしいと、わたしは願う。
ゾロアとともにかつて暮らしていた城を離れ、たまたま訪れたこのサンギ牧場に住み込みで働くようになってから、もう二年ほどになる。当初は元の主人との別れを寂しがっていたゾロアだが、今ではそんな素振りなど一切見せず、ほかのポケモンたちにまざって元気に牧場を駆け回る日々だ。現在の暮らしを多少なりとも気に入ってくれているようで、わたしも一安心している。……あの方への想いをいつまでも引きずっているのは、寧ろわたしの方かもしれない。あの方ーーNさまは、一体今どこにいらっしゃるのだろうか。
わたしがまだプラズマ団の一員であった頃、わたしはプラズマ団の城でNさまの「お友だち」の世話役を任せられていた。ゾロアもそのうちの一匹だ。当時はあくまでNさまのお友だちのゾロアとして、やや距離を置いて接していた。けれども、Nさまがもう一人の英雄との最終決戦を迎える直前にご自身のポケモンたちを解放し、自由になったゾロアが望んでわたしと行動を共にするようになってからは、ゾロアに対してわたし自身の友人であるという感覚をもつようになった。以前は敬語を使っていたが、今は家族や気の置けない友だちと話をするときのように、ごく普通に話しかけている。ゾロアもまんざらでもないようで、堅苦しさがなくなった分わたしとのコミュニケーションも取りやすくなったのだろう、いい意味でも悪い意味でも遠慮がなくなった。この二年間で、わたしたちはすっかり気心の知れた仲になった。
わたしにも今の生活にも馴染んでいるゾロアだが、そうはいってもNさまのことを忘れたわけではないだろう。ゾロアをNさまに会わせてあげたい。そしてわたし自身も、Nさまにもう一度お会いしたいーーそんな思いから、元チャンピオンのアデクさんにNさまの行方を知る手がかりを聞こうと彼の自宅を訪ねたこともあったが、タイミングを逃して結局聞けずじまいとなっている。
Nさまが行方知れずになってから、わたしを含め、Nさまを慕っていた多くの団員がプラズマ団を脱退した。プラズマ団は活動休止に追い込まれたはずだったが、先日奇しくもプラズマ団員を名乗る男と遭遇し、プラズマ団が密かに活動を再開していることを知った。その時は元プラズマ団員のよしみで男を逃がしたが、Nさまが戻られたのか否か聞くべきだったと、後になって悔やまれた。それに、復活したプラズマ団の目的も気になった。ポケモンの幸せを一番に願うNさまの思想を継いでいるのか、それともーー。
とそこで、わたしはあることを思い出した。プラズマ団の城でわたしと同じくNさまのお友だちの世話を任されていた元同僚が、確か故郷のホドモエシティに戻ると言っていた。彼に会いに行けば、活動再開したプラズマ団について何か詳しい情報が得られるかもしれない。ホドモエまではかなり距離があるが、牧場のオーナー夫婦からもらった長期休暇を利用すれば、ギリギリ行って帰ってこられるだろう。
そう思い立ったところでちょうどゾロアが目を覚まし、大きなあくびをした。わたしはゾロアにホドモエへ出発する意向を告げた。「ゾロアはどうする?ここに残る?それとも一緒に来る?」そう尋ねると、ゾロアはわたしの体に頬をすり寄せた。おそらくわたしに同行するという意思表示だろう。「よし、じゃあさっそく準備して出発しよう!」わたしたちは急いで部屋に戻り、簡単に旅支度を済ませて、すぐに牧場を発った。
*
ホドモエまでは、隣街のタチワキシティから連絡船が出ている。当日の便には間に合わなかったため、タチワキシティで一泊し、翌朝一番の便でホドモエに向かった。約四時間ほどの船旅を終えてホドモエの波止場に到着すると、つい最近完成したと噂の新しい施設がわたしたちを出迎えた。「ポケモンワールドトーナメント」と呼ばれるバトル施設で、イッシュだけでなく各地方から強豪を集めてトーナメントを開催するそうだ。
それにしても、この新しくできた施設のほか、街のあちこちに高級ホテルが建ち並び、以前とは見違えるほど発展している。元同僚がホドモエに帰郷したという情報だけで勢いづいてここまで来てしまったが、この広い街で彼を探すのは容易ではないし、それに今も彼がこの街に住んでいるという保証はない。まるで運試しに来たようなものだった。何の収穫もなく、すごすご引き返すことになるかもしれない。それでも、端から可能性を諦めて何もしないよりはずっとマシだ。
わたしはひとまず街を一望できそうな小高い丘の方へ向かうことにした。一か八か、高いところから見渡して偶然にも彼を発見できたら……と、大変短絡的で頭の悪い発想だった。とはいえ、今の状況では運に頼るほかないというのもまた事実。わたしはマーケットを横目に大通りをまっすぐ進み、さらにポケモンセンターを通りすぎて、長い階段を上った先にある丘の頂上を目指した。降り注ぐ初夏の日差しに、全身が汗ばむ。階段を上りきる頃には、額にじっとりと汗がにじんでいた。
丘の上からの景色は絶景だった。街全体を一目に見渡すことができ、さらに海峡の向こうにタチワキシティやヒウンシティも望むことができる。ただ、ここから人探しをするのはやはり無謀な試みだと言わざるを得なかった。
「そんな都合よく見つかるわけないか……」
落胆しながらも、今はとりあえず目の前の絶景を楽しむことにした。ボールからゾロアを出し、抱きかかえて景色を見せる。ゾロアは興奮した様子で鳴き声を上げた。彼もこの壮大な景色に感動しているようだ。わたしたちはそれからしばらくそよ風にあたりながらのんびりと景色を眺めていたが、いよいよ足の疲れを感じ、どこか休憩できる場所を探しにその場を後にしようとしたところで、後方から「おまえさん」と声をかけられた。振り向くと、そこに立っていたのはーー「ロ、ロットさま!?」
その言葉は、わたしの膝の上で丸くなって気持ち良さそうに寝息を立てているゾロアの耳には届かなかったようだ。今、彼はどんな夢を見ているのだろう。彼の夢に出てくるのは、過去の記憶か、未来の希望か、はたまた現在の近況か。いずれにしても幸せな夢であってほしいと、わたしは願う。
ゾロアとともにかつて暮らしていた城を離れ、たまたま訪れたこのサンギ牧場に住み込みで働くようになってから、もう二年ほどになる。当初は元の主人との別れを寂しがっていたゾロアだが、今ではそんな素振りなど一切見せず、ほかのポケモンたちにまざって元気に牧場を駆け回る日々だ。現在の暮らしを多少なりとも気に入ってくれているようで、わたしも一安心している。……あの方への想いをいつまでも引きずっているのは、寧ろわたしの方かもしれない。あの方ーーNさまは、一体今どこにいらっしゃるのだろうか。
わたしがまだプラズマ団の一員であった頃、わたしはプラズマ団の城でNさまの「お友だち」の世話役を任せられていた。ゾロアもそのうちの一匹だ。当時はあくまでNさまのお友だちのゾロアとして、やや距離を置いて接していた。けれども、Nさまがもう一人の英雄との最終決戦を迎える直前にご自身のポケモンたちを解放し、自由になったゾロアが望んでわたしと行動を共にするようになってからは、ゾロアに対してわたし自身の友人であるという感覚をもつようになった。以前は敬語を使っていたが、今は家族や気の置けない友だちと話をするときのように、ごく普通に話しかけている。ゾロアもまんざらでもないようで、堅苦しさがなくなった分わたしとのコミュニケーションも取りやすくなったのだろう、いい意味でも悪い意味でも遠慮がなくなった。この二年間で、わたしたちはすっかり気心の知れた仲になった。
わたしにも今の生活にも馴染んでいるゾロアだが、そうはいってもNさまのことを忘れたわけではないだろう。ゾロアをNさまに会わせてあげたい。そしてわたし自身も、Nさまにもう一度お会いしたいーーそんな思いから、元チャンピオンのアデクさんにNさまの行方を知る手がかりを聞こうと彼の自宅を訪ねたこともあったが、タイミングを逃して結局聞けずじまいとなっている。
Nさまが行方知れずになってから、わたしを含め、Nさまを慕っていた多くの団員がプラズマ団を脱退した。プラズマ団は活動休止に追い込まれたはずだったが、先日奇しくもプラズマ団員を名乗る男と遭遇し、プラズマ団が密かに活動を再開していることを知った。その時は元プラズマ団員のよしみで男を逃がしたが、Nさまが戻られたのか否か聞くべきだったと、後になって悔やまれた。それに、復活したプラズマ団の目的も気になった。ポケモンの幸せを一番に願うNさまの思想を継いでいるのか、それともーー。
とそこで、わたしはあることを思い出した。プラズマ団の城でわたしと同じくNさまのお友だちの世話を任されていた元同僚が、確か故郷のホドモエシティに戻ると言っていた。彼に会いに行けば、活動再開したプラズマ団について何か詳しい情報が得られるかもしれない。ホドモエまではかなり距離があるが、牧場のオーナー夫婦からもらった長期休暇を利用すれば、ギリギリ行って帰ってこられるだろう。
そう思い立ったところでちょうどゾロアが目を覚まし、大きなあくびをした。わたしはゾロアにホドモエへ出発する意向を告げた。「ゾロアはどうする?ここに残る?それとも一緒に来る?」そう尋ねると、ゾロアはわたしの体に頬をすり寄せた。おそらくわたしに同行するという意思表示だろう。「よし、じゃあさっそく準備して出発しよう!」わたしたちは急いで部屋に戻り、簡単に旅支度を済ませて、すぐに牧場を発った。
*
ホドモエまでは、隣街のタチワキシティから連絡船が出ている。当日の便には間に合わなかったため、タチワキシティで一泊し、翌朝一番の便でホドモエに向かった。約四時間ほどの船旅を終えてホドモエの波止場に到着すると、つい最近完成したと噂の新しい施設がわたしたちを出迎えた。「ポケモンワールドトーナメント」と呼ばれるバトル施設で、イッシュだけでなく各地方から強豪を集めてトーナメントを開催するそうだ。
それにしても、この新しくできた施設のほか、街のあちこちに高級ホテルが建ち並び、以前とは見違えるほど発展している。元同僚がホドモエに帰郷したという情報だけで勢いづいてここまで来てしまったが、この広い街で彼を探すのは容易ではないし、それに今も彼がこの街に住んでいるという保証はない。まるで運試しに来たようなものだった。何の収穫もなく、すごすご引き返すことになるかもしれない。それでも、端から可能性を諦めて何もしないよりはずっとマシだ。
わたしはひとまず街を一望できそうな小高い丘の方へ向かうことにした。一か八か、高いところから見渡して偶然にも彼を発見できたら……と、大変短絡的で頭の悪い発想だった。とはいえ、今の状況では運に頼るほかないというのもまた事実。わたしはマーケットを横目に大通りをまっすぐ進み、さらにポケモンセンターを通りすぎて、長い階段を上った先にある丘の頂上を目指した。降り注ぐ初夏の日差しに、全身が汗ばむ。階段を上りきる頃には、額にじっとりと汗がにじんでいた。
丘の上からの景色は絶景だった。街全体を一目に見渡すことができ、さらに海峡の向こうにタチワキシティやヒウンシティも望むことができる。ただ、ここから人探しをするのはやはり無謀な試みだと言わざるを得なかった。
「そんな都合よく見つかるわけないか……」
落胆しながらも、今はとりあえず目の前の絶景を楽しむことにした。ボールからゾロアを出し、抱きかかえて景色を見せる。ゾロアは興奮した様子で鳴き声を上げた。彼もこの壮大な景色に感動しているようだ。わたしたちはそれからしばらくそよ風にあたりながらのんびりと景色を眺めていたが、いよいよ足の疲れを感じ、どこか休憩できる場所を探しにその場を後にしようとしたところで、後方から「おまえさん」と声をかけられた。振り向くと、そこに立っていたのはーー「ロ、ロットさま!?」
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