魔入りました!入間くん
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「アリスくん、ちょっと」
「何だ、名前か」
「何だとは失礼な。はい、忘れ物」
「忘れ物?」
「校門でダビデさんとばったり会ってね。預かってきた」
「そうだったのか。ありがとう」
「何をしている」
「カルエゴ先生」
「アスモデウスはさっさと教室に入れ。予鈴はもう鳴ったぞ」
「…はい」
背後から現れたカルエゴ先生に促され、教室に入っていくアリスくん。
従うべき相手を見極めることができる聡明な彼にしては珍しく、明らかに不満げだったのが気になった。
(アリスくん、カルエゴ先生のこと苦手なんだっけ)
「で、お前は何故ここにいる」
「ちょっと野暮用で。もう済みましたから退散します」
「ちょっと待て」
職員室に戻ろうと振り返った私の肩がガシリと掴まれる。
顔だけ振り返ると迫力のある顔がこちらを見下ろしていて思わず固まってしまう。
相変わらず怖いお顔だこと。
「お前、噂については承知しているのか」
「お前って呼ぶのやめてもらえませんか?パワハラなんですけど」
「…」
「すいませんでした。噂って何のことでしょうか」
「チッ」
極悪な睨みをきかされたかと思えば、これでもかという程の舌打ちをお見舞いされた私の心は折れる寸前である。
何故私は朝からこんな目に逢わなければならないのか…。
まるで道ですれ違っただけのチンピラにありもしない因縁をつけられている気分である。
「アスモデウスの件だ」
「アリスくんですか?」
「…」
「え、あの」
「幼馴染なのは承知しているが、学校では態度を改めろ。お前らが爛れた関係なのではないかという噂がまことしやかに囁かれている」
「爛れた…」
その単語、カルエゴ先生の口から聞くと一層エッチに聞こえるなぁ、なんて暢気なことを考えていたのがばれたのか、頭上から大きな溜息が聞こえてきた。
舌打ちの次は溜息かよ。
「ご忠告はありがたいんですけど、私もそのあたりは充分気を配って…」
「お前は生徒を下の名前で呼ぶのか」
「呼びませんけど」
「さっきはアスモデウスを『アリスくん』と呼んでいたがな」
「え」
「無意識のうちに出ているということだ。つべこべ言わずに言動に気を付けろ馬鹿者が」
言いたいことだけ言ってさっさと教室に入って行ってしまったカルエゴ先生。
相変わらず態度も口も感じも悪い。
しかし、彼の忠告は的を射ているのだろう。
言われてみれば、最近生徒達からおかしな質問をよくされるのだ。
「恋人はいるか」だの「どんな悪魔がタイプか」だの「付き合う相手の家柄は気になるか」だの…これらも全て、生徒達の噂のネタにされていたのだとすれば合点がいくというもの。
教師である私に対してさえ影響があるということは、ファンクラブまであるアリスくんへの影響はいかばかりか。
「ということで、これからはより一層気をつけることにしたから」
「…」
「今まで悪かったね、アスモデウスくん」
その週の休日。
母がアスモデウス家に遊びに行くというのでついて来たのだが、アリスくんにも会えたので一応報告と謝罪をしておく。
「それにしても珍しいね。アスモデウスくんがアマリリス様と一緒にお家にいるなんて」
「おい」
「こら、言葉遣い」
「何で名前で呼ばない」
「普段から気を付けてないと学校でもポロッと出ちゃうんだよ。アスモデウスくんも、これからは学校以外でも気をつけてよね」
アスモデウス家の広いお庭で一緒に日向ぼっこをするのは幼い頃からの習慣だった。
彼に対してお姉さんぶれるほどの年の差も実力差もないけれど、赤ん坊の頃から知っているアリスくんが、バビルスに主席で入学するような立派な青年になり、私はそんな彼の先生になったのだと思うとしみじみしてしまう。
こうやって少しずつ色んなものが変わっていくんだなあ。
「…カルエゴ卿になにか言われたのか」
「え?」
「俺はどんな噂が流れていようと気にならない。名前は違うのか」
「まあ、私一応教師なので」
それきり黙り込んでしまうアリスくん。
彼は拗ねるとだんまりを決め込むのだ。
幼い時からいつもそう。
「アスモデウスくん?」
「そんな風に呼ぶな」
「なにをそんなムキになってるんですかー」
俯いてしまった彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。
彼の桃色の髪の毛は相変わらずさらさらで、少しかき混ぜるだけでいい匂いがする。
「やはり婚約だけでももっと早くに済ませておくべきだったんだ」
「婚約?アリスくん許嫁がいるの?」
「は?」
「え?」
「まさか憶えてないのか」
「なにを?」
「それとも無かったことにしたいのか」
「いや!違くて!本当に何の話⁉」
やっと顔を上げたと思ったら、メラメラと魔力が漏れ出しているかのような迫力を湛えているアリスくんに焦りを隠せない。
状況が全く読めていない私の必死さが彼にも伝わったらしく、やっと状況の説明をしてくれた。
それによると、なんと私はアリスくんからの求婚に YES と答えたことがあるらしい。
「でもそれ、子どもの頃の話なんだよね?」
「あぁ。だから名前は『大きくなったらね』と言っていた」
「いや、そういうことではなくて…」
「両家の親からの了承も得ている」
「嘘でしょ」
アリスくんは「まさか忘れるなんて…」なんて言っているが、こちとら忘れるどころか何一つ記憶にない。
「それとも、」
「うん?」
「それとも、名前はもう俺のことは嫌いになってしまったのか」
これはずるい。
アスモデウス・アリスといえば、才色兼備の御曹司。
その社会通念はもちろん私にも備わっている。
でも、私の中のアリスくんはいつまでも幼い頃のままなのだ。
いくら紳士に成長したとは言え、口を尖らせ目元を赤くして、今にも泣き出しそうな声で駄々をこねる目の前の彼の姿はあまりにもあの頃のままで、とても強気には出られなかった。
「わ、私がアリスくんを嫌いになるなんてことある訳ないでしょ!」
「…本当か」
「当たり前だよ!ただ、その…恋人とか結婚とかとは違…」
「本当だな」
顔を上げて私の両手を握ったアリスくんがずいっとこちらに身を乗り出してくる。
眼前に迫った彼の端正な顔は、いつも通りの精悍な顔つきをしていて、先ほどまでのしおらしさはどこへやら。
しまった、やられた。
「二言はないな?名前は俺のことが好きなんだな?」
「いや、ちょ…」
「何だ、嫌いなのか」
「その二択ちょっと極端すぎないかな⁉」
「俺からの求婚を忘れるだけに飽き足らず、他の男共に靡いてさえいたお前に、今更この二択以外の選択肢があると思うか」
「今の発言の全てが私の認識と異なるんだよな…。いくらアリスくんとはいえ、子ども頃の戯言を真に受けて結婚相手を決めるなんて馬鹿げてるよ」
「何だと?」
先程から彼に握られたままの両手がギリギリと音を立てるように軋んで痛む。
怒ると握りこぶしを作るところも子どもの頃のままだ。
その癖を発揮するのはせめて私の手を開放してからにしてもらいたいが、怒りに歪んだアリスくんの顔を見る限り、そんな要求をできる余裕はなさそうだった。
「ほ、ほら。現に私は婚約のことなんて忘れてたんだし、アリスくんもそんな約束になんて縛られなくていいから、他に好きな人でも見つけて…」
「何でそんなこと言うんだ!俺はずっと名前のことが好きなのに!」
彼の大声が広大な庭に響き渡り、それに驚いた鳥が何羽か飛び去った。
その音を意識の端で捉えながら、停止していた思考回路を回復させる。
アリスくんの言った言葉の意味を漸く理解した時には、私の顔は真っ赤になっていたはずだ。
顔どころか全身が突然熱を帯び、汗まで吹き出す始末で自分では止められない。
「俺がただの義理立ての為にこんな約束を果たそうとすると思うのか。俺は、名前のことが今も好きだからこうして…」
「わか、分かった!分かったから!」
「…名前、もしかして照れてるのか」
私は何て簡単な悪魔だろう。
幼馴染の男の子としか思っていなかった彼を、愛の告白ひとつで異性として意識してしまうなんて。
自分の中のアリスくんと、目の前のアリスくんの違いに付いていけず、目を白黒させている私を見て、彼は満足げに言った。
「どうだ、立派に『大きくなった』だろう?」
ああ、もう。どうしよう。
ニヤリと笑うアリスくんにさえときめいてしまっている今の私が、 NO なんて言えるわけないじゃない!
「何だ、名前か」
「何だとは失礼な。はい、忘れ物」
「忘れ物?」
「校門でダビデさんとばったり会ってね。預かってきた」
「そうだったのか。ありがとう」
「何をしている」
「カルエゴ先生」
「アスモデウスはさっさと教室に入れ。予鈴はもう鳴ったぞ」
「…はい」
背後から現れたカルエゴ先生に促され、教室に入っていくアリスくん。
従うべき相手を見極めることができる聡明な彼にしては珍しく、明らかに不満げだったのが気になった。
(アリスくん、カルエゴ先生のこと苦手なんだっけ)
「で、お前は何故ここにいる」
「ちょっと野暮用で。もう済みましたから退散します」
「ちょっと待て」
職員室に戻ろうと振り返った私の肩がガシリと掴まれる。
顔だけ振り返ると迫力のある顔がこちらを見下ろしていて思わず固まってしまう。
相変わらず怖いお顔だこと。
「お前、噂については承知しているのか」
「お前って呼ぶのやめてもらえませんか?パワハラなんですけど」
「…」
「すいませんでした。噂って何のことでしょうか」
「チッ」
極悪な睨みをきかされたかと思えば、これでもかという程の舌打ちをお見舞いされた私の心は折れる寸前である。
何故私は朝からこんな目に逢わなければならないのか…。
まるで道ですれ違っただけのチンピラにありもしない因縁をつけられている気分である。
「アスモデウスの件だ」
「アリスくんですか?」
「…」
「え、あの」
「幼馴染なのは承知しているが、学校では態度を改めろ。お前らが爛れた関係なのではないかという噂がまことしやかに囁かれている」
「爛れた…」
その単語、カルエゴ先生の口から聞くと一層エッチに聞こえるなぁ、なんて暢気なことを考えていたのがばれたのか、頭上から大きな溜息が聞こえてきた。
舌打ちの次は溜息かよ。
「ご忠告はありがたいんですけど、私もそのあたりは充分気を配って…」
「お前は生徒を下の名前で呼ぶのか」
「呼びませんけど」
「さっきはアスモデウスを『アリスくん』と呼んでいたがな」
「え」
「無意識のうちに出ているということだ。つべこべ言わずに言動に気を付けろ馬鹿者が」
言いたいことだけ言ってさっさと教室に入って行ってしまったカルエゴ先生。
相変わらず態度も口も感じも悪い。
しかし、彼の忠告は的を射ているのだろう。
言われてみれば、最近生徒達からおかしな質問をよくされるのだ。
「恋人はいるか」だの「どんな悪魔がタイプか」だの「付き合う相手の家柄は気になるか」だの…これらも全て、生徒達の噂のネタにされていたのだとすれば合点がいくというもの。
教師である私に対してさえ影響があるということは、ファンクラブまであるアリスくんへの影響はいかばかりか。
「ということで、これからはより一層気をつけることにしたから」
「…」
「今まで悪かったね、アスモデウスくん」
その週の休日。
母がアスモデウス家に遊びに行くというのでついて来たのだが、アリスくんにも会えたので一応報告と謝罪をしておく。
「それにしても珍しいね。アスモデウスくんがアマリリス様と一緒にお家にいるなんて」
「おい」
「こら、言葉遣い」
「何で名前で呼ばない」
「普段から気を付けてないと学校でもポロッと出ちゃうんだよ。アスモデウスくんも、これからは学校以外でも気をつけてよね」
アスモデウス家の広いお庭で一緒に日向ぼっこをするのは幼い頃からの習慣だった。
彼に対してお姉さんぶれるほどの年の差も実力差もないけれど、赤ん坊の頃から知っているアリスくんが、バビルスに主席で入学するような立派な青年になり、私はそんな彼の先生になったのだと思うとしみじみしてしまう。
こうやって少しずつ色んなものが変わっていくんだなあ。
「…カルエゴ卿になにか言われたのか」
「え?」
「俺はどんな噂が流れていようと気にならない。名前は違うのか」
「まあ、私一応教師なので」
それきり黙り込んでしまうアリスくん。
彼は拗ねるとだんまりを決め込むのだ。
幼い時からいつもそう。
「アスモデウスくん?」
「そんな風に呼ぶな」
「なにをそんなムキになってるんですかー」
俯いてしまった彼の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやる。
彼の桃色の髪の毛は相変わらずさらさらで、少しかき混ぜるだけでいい匂いがする。
「やはり婚約だけでももっと早くに済ませておくべきだったんだ」
「婚約?アリスくん許嫁がいるの?」
「は?」
「え?」
「まさか憶えてないのか」
「なにを?」
「それとも無かったことにしたいのか」
「いや!違くて!本当に何の話⁉」
やっと顔を上げたと思ったら、メラメラと魔力が漏れ出しているかのような迫力を湛えているアリスくんに焦りを隠せない。
状況が全く読めていない私の必死さが彼にも伝わったらしく、やっと状況の説明をしてくれた。
それによると、なんと私はアリスくんからの求婚に YES と答えたことがあるらしい。
「でもそれ、子どもの頃の話なんだよね?」
「あぁ。だから名前は『大きくなったらね』と言っていた」
「いや、そういうことではなくて…」
「両家の親からの了承も得ている」
「嘘でしょ」
アリスくんは「まさか忘れるなんて…」なんて言っているが、こちとら忘れるどころか何一つ記憶にない。
「それとも、」
「うん?」
「それとも、名前はもう俺のことは嫌いになってしまったのか」
これはずるい。
アスモデウス・アリスといえば、才色兼備の御曹司。
その社会通念はもちろん私にも備わっている。
でも、私の中のアリスくんはいつまでも幼い頃のままなのだ。
いくら紳士に成長したとは言え、口を尖らせ目元を赤くして、今にも泣き出しそうな声で駄々をこねる目の前の彼の姿はあまりにもあの頃のままで、とても強気には出られなかった。
「わ、私がアリスくんを嫌いになるなんてことある訳ないでしょ!」
「…本当か」
「当たり前だよ!ただ、その…恋人とか結婚とかとは違…」
「本当だな」
顔を上げて私の両手を握ったアリスくんがずいっとこちらに身を乗り出してくる。
眼前に迫った彼の端正な顔は、いつも通りの精悍な顔つきをしていて、先ほどまでのしおらしさはどこへやら。
しまった、やられた。
「二言はないな?名前は俺のことが好きなんだな?」
「いや、ちょ…」
「何だ、嫌いなのか」
「その二択ちょっと極端すぎないかな⁉」
「俺からの求婚を忘れるだけに飽き足らず、他の男共に靡いてさえいたお前に、今更この二択以外の選択肢があると思うか」
「今の発言の全てが私の認識と異なるんだよな…。いくらアリスくんとはいえ、子ども頃の戯言を真に受けて結婚相手を決めるなんて馬鹿げてるよ」
「何だと?」
先程から彼に握られたままの両手がギリギリと音を立てるように軋んで痛む。
怒ると握りこぶしを作るところも子どもの頃のままだ。
その癖を発揮するのはせめて私の手を開放してからにしてもらいたいが、怒りに歪んだアリスくんの顔を見る限り、そんな要求をできる余裕はなさそうだった。
「ほ、ほら。現に私は婚約のことなんて忘れてたんだし、アリスくんもそんな約束になんて縛られなくていいから、他に好きな人でも見つけて…」
「何でそんなこと言うんだ!俺はずっと名前のことが好きなのに!」
彼の大声が広大な庭に響き渡り、それに驚いた鳥が何羽か飛び去った。
その音を意識の端で捉えながら、停止していた思考回路を回復させる。
アリスくんの言った言葉の意味を漸く理解した時には、私の顔は真っ赤になっていたはずだ。
顔どころか全身が突然熱を帯び、汗まで吹き出す始末で自分では止められない。
「俺がただの義理立ての為にこんな約束を果たそうとすると思うのか。俺は、名前のことが今も好きだからこうして…」
「わか、分かった!分かったから!」
「…名前、もしかして照れてるのか」
私は何て簡単な悪魔だろう。
幼馴染の男の子としか思っていなかった彼を、愛の告白ひとつで異性として意識してしまうなんて。
自分の中のアリスくんと、目の前のアリスくんの違いに付いていけず、目を白黒させている私を見て、彼は満足げに言った。
「どうだ、立派に『大きくなった』だろう?」
ああ、もう。どうしよう。
ニヤリと笑うアリスくんにさえときめいてしまっている今の私が、 NO なんて言えるわけないじゃない!