文豪ストレイドッグス
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「え、乱歩さんって苗字さんの恋人じゃないんですか?」
「違いますよ?」
給湯室でたまたま鉢合わせた事務員の苗字さんと、休日の過ごし方を話している中で判明した衝撃の事実。
「すいません!僕てっきり…」
「お気になさらないでください。よく勘違いされるんですよ」
そりゃあ、休日を一緒に過ごしていると聞いたら恋人だと思うでしょう!という一言は飲み込む。
なにせ僕、こと中島敦はこの事務所では一番の新人なのだ。
失礼があってはいけないし、何よりいらぬ面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだった。
触らぬ神に祟りなし。
そうは言っても気になってしまうのは他でもない乱歩さんと苗字さんの間柄が新人の僕から見てさえ特別に見えたからだ。
だって、事務所での様子を見ている限り、乱歩さんが苗字さんのことを気に入っているのは一目瞭然なのだ。
調査や出張の度に苗字さんにお土産を用意しては一緒にお茶の時間を過ごし、暇さえあれば苗字さんの横でお喋りをして、苗字さんが忙しくてその暇を作れないとなれば何と彼女の仕事を手伝いさえするのだ。
あの乱歩さんが「誰かの為に」「推理以外の仕事をする」なんて、これ以上の愛情表現はないだろう。
更に今聞いたところによると、なんとお互いの休日が重なれば(恐らく乱歩さんの方は可能な限り苗字さんの休日に合わせて休みを取るようにしているのだろう)一緒にお出かけをしたりすると言うではないか。
「で、でも、その…お休みの日に出かけたり…デート?では、ないんですか?」
「まぁ、広義ではデートというのかもしれませんね」
「恋人としてのデートでは?」
「ありませんよ?」
「へ、へぇー…」
もうやだ、中島さんったらとでも言い出しそうな、あまりにも穏やかな雰囲気で否定を重ねる苗字さん。
個人的には、いつも側につきまとう乱歩さんに嫌な顔ひとつせず、なにくれとなく彼のお世話をする彼女の方も満更ではないのだろうと思っていたのだ。
それをこんな当たり前のように覆されると、立場上、嫌でも断れなかったのかもしれない…なんて想像まで働いてしまう。
乱歩さんと苗字さんがお互いに対して抱く感情の温度差に、他人事ながら目眩がしてきた。
(こ、こんなこと乱歩さんが知ったら大変なことになるんじゃ…)
「僕、名前ちゃんの恋人じゃないんだ」
「ひぇっ‼︎乱歩さん⁉︎」
自分でも分かるほど大袈裟な悲鳴をあげてしまった。
噂をすれば影。気付かぬうちに背後に乱歩さんが立っていた。
「お帰りなさいませ、乱歩さん。今ちょうど皆さんにお茶を淹れているところなんです。よかったら…」
「僕、名前ちゃんの恋人じゃないんだ」
お馴染みの糸目が心なしかしょんぼりしている乱歩さん。
普段の彼からは想像もつかないような生気の抜けた声で同じ言葉を繰り返す。
茫然自失とはまさにこの状態のことを指すのだろう。
「お、おおお落ち着いてください、乱歩さん。一旦席に戻ってお茶でも…」
「敦くんは黙ってて」
「はい」
あまりにも痛々しい雰囲気の乱歩さんに堪らず声をかけるも撃沈。
今すぐにでもこの場を離れたいところだが、一瞬にしてそれさえも許されないような緊迫した状況になってしまった。
それを意にも介していないのは苗字さんだけ。
「恋人?ですか?」
「僕、名前ちゃんの恋人じゃないんだ」
(3回言った…)
「乱歩さん、私の恋人なんですか?」
「僕はずっとそのつもりだったけど」
やっと事態の重大さに気づいたらしい苗字さんが、お茶を準備する手を止めて乱歩さんに向き合う。
それを受けて、拗ねたように言葉を返す乱歩さん。
苗字さんが真面目に取り合ってくれる様子を見せたことで、乱歩さんが醸し出す禍々しさも少し薄らいだように見えた。
この隙にこの場を離れてしまおうとしたところで、またもや苗字さんが爆弾発言を放つ。
「でも私、乱歩さんの恋人には向いていないと思います」
少し機嫌を持ち直したように見えた乱歩さんが一瞬にして灰になったのがわかった。
全く、僕はなんて現場に居合わせてしまったんだろう。
一刻も早くこの場を離れたい。
若しくは今すぐ誰かこの場に入ってきて欲しい。
道連れにしてやる。
「あの、乱歩さん?」
「な、何で?何で向いてないって思うの?」
上目遣いで心配そうに声をかける苗字さんを見て、何とか正気を取り戻した乱歩さんが震える声で当然の疑問を投げかける。
確かに、側から見ていても苗字さん以上に乱歩さんの恋人に向いている人は想像できない。
「だって、乱歩さんの座右の銘…」
「座右の銘?」
「『僕が良ければ全て良し』って…そんなことを言われてしまうと、恋人になったらどんな扱いを受けるんだろうってちょっと尻込みしてしまいます」
(ごもっとも!)
その座右の銘に散々振り回されてきた身からすると首がもげるほど頷きたくなる、まともな反論だった。
仮に苗字さんにとって乱歩さんの世話を焼くのが苦じゃなかったとしても、彼の自己中心的な行いで恋人として蔑ろにされれば、悲しい思いをするのは苗字さんの方だ。
彼女は凄く申し訳なさそうにおずおずと拒絶の理由を伝えたけれど、個人的にはもっと強気に出てもお釣りが貰える程の立派な理由だと思う。
「なーんだ、そんなこと!」
急に明朗快活な声を取り戻した乱歩さんに目を向けると、先程まで狼狽えていたのが嘘のように、いつもの調子を取り戻していた。
「いーい?名前ちゃん。名前ちゃんは僕の好きな人なんだから、その『僕が良ければ』の中には名前ちゃんのことも含まれるんだよ」
「わ、私のこと、ですか?」
「そう、当然でしょ?だって、名前ちゃんが痛い思いをしたり、悲しい思いをしたり、怖い思いをしたりするのは僕にとって全く良いことじゃないもん」
「は、はぁ」
「………それとも、もしかして僕がお土産買ってくるの、迷惑だった……?」
「え?いえ、とんでもないです!」
「ほんと?」
「本当です!私なんかの為にわざわざ…とても嬉しく思っていますよ」
「休日のデートに誘うのは?」
「いつも楽しい場所に連れ出してくださって感謝しています」
「じゃあ、僕は少なとも友人としては合格ってことだよね?」
「まぁ、はい。そうですね…私なんかが乱歩さんの友人なんて恐れ多いですけど」
「だったら僕を恋人にしてくれてもいいんじゃない?」
「そ、それとこれとは…」
「名前ちゃんもよく知ってると思うけど、僕は自分の座右の銘を必ず実行する男だよ。これからは僕の全てをかけて名前ちゃんをあらゆる危険から守ってあげる」
まるで超推理をしている時のような気迫で言葉を並べたてる乱歩さん。
徐々に苗字さんを壁際に追い詰め、物理的にも精神的にもあっという間に立場が逆転してしまったようだった。
実際に犯人を追い詰めている時と違うのは、彼女の白魚の様な両手を乱歩さんがひっしと握りしめている点くらいである。
「そ、それは、ありがとうございます」
「じゃあ今から僕たち恋人同士だね!」
「その前に!」
「えーなぁに?まだ何かあるの?」
面倒くさいなあ、と今にも言い出しそうな勢いで駄々をこねる乱歩さんにひやひやしてしまう、部外者の僕。
苗字さん!この人の恋人なんて絶対にやめておいた方がいいですよ!苗字さんならもっとずっと素敵な人達から引く手数多です!
なんて、冒頭の勘違いを棚に上げて心の中で必死に叫び声をあげている僕なんてなんのその。
目の前の御二人はまさに自分たちだけの世界に浸っているようだった。
「私、まだ乱歩さんから大事な一言をいただいておりません」
心なしか苗字さんの頬が薔薇色に色づいているように見えるのは僕の目の錯覚だろうか。
おっとりとして落ち着ているいつもの様子とは少し違った、まるで恋をする乙女の様な苗字さんの態度に呆気に取られている僕。
そんな人間が、まさか彼女の言うところの「大事な一言」なんて分かるはずもない。
そして反対に、名探偵・江戸川乱歩にかかれば、想い人の欲している返答を導き出すなんて赤子の手を捻るようなものだ。
「好きだよ、名前ちゃん。僕の恋人になってくれる?」
名探偵の助手さえ満足に務められない武力探偵事務所の新人、中島敦。
そんな僕でさえ、次の苗字さんの言葉は明白だった。
あーあ!まさか恋をする女性の笑顔があんなに可愛らしいなんて!
「違いますよ?」
給湯室でたまたま鉢合わせた事務員の苗字さんと、休日の過ごし方を話している中で判明した衝撃の事実。
「すいません!僕てっきり…」
「お気になさらないでください。よく勘違いされるんですよ」
そりゃあ、休日を一緒に過ごしていると聞いたら恋人だと思うでしょう!という一言は飲み込む。
なにせ僕、こと中島敦はこの事務所では一番の新人なのだ。
失礼があってはいけないし、何よりいらぬ面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだった。
触らぬ神に祟りなし。
そうは言っても気になってしまうのは他でもない乱歩さんと苗字さんの間柄が新人の僕から見てさえ特別に見えたからだ。
だって、事務所での様子を見ている限り、乱歩さんが苗字さんのことを気に入っているのは一目瞭然なのだ。
調査や出張の度に苗字さんにお土産を用意しては一緒にお茶の時間を過ごし、暇さえあれば苗字さんの横でお喋りをして、苗字さんが忙しくてその暇を作れないとなれば何と彼女の仕事を手伝いさえするのだ。
あの乱歩さんが「誰かの為に」「推理以外の仕事をする」なんて、これ以上の愛情表現はないだろう。
更に今聞いたところによると、なんとお互いの休日が重なれば(恐らく乱歩さんの方は可能な限り苗字さんの休日に合わせて休みを取るようにしているのだろう)一緒にお出かけをしたりすると言うではないか。
「で、でも、その…お休みの日に出かけたり…デート?では、ないんですか?」
「まぁ、広義ではデートというのかもしれませんね」
「恋人としてのデートでは?」
「ありませんよ?」
「へ、へぇー…」
もうやだ、中島さんったらとでも言い出しそうな、あまりにも穏やかな雰囲気で否定を重ねる苗字さん。
個人的には、いつも側につきまとう乱歩さんに嫌な顔ひとつせず、なにくれとなく彼のお世話をする彼女の方も満更ではないのだろうと思っていたのだ。
それをこんな当たり前のように覆されると、立場上、嫌でも断れなかったのかもしれない…なんて想像まで働いてしまう。
乱歩さんと苗字さんがお互いに対して抱く感情の温度差に、他人事ながら目眩がしてきた。
(こ、こんなこと乱歩さんが知ったら大変なことになるんじゃ…)
「僕、名前ちゃんの恋人じゃないんだ」
「ひぇっ‼︎乱歩さん⁉︎」
自分でも分かるほど大袈裟な悲鳴をあげてしまった。
噂をすれば影。気付かぬうちに背後に乱歩さんが立っていた。
「お帰りなさいませ、乱歩さん。今ちょうど皆さんにお茶を淹れているところなんです。よかったら…」
「僕、名前ちゃんの恋人じゃないんだ」
お馴染みの糸目が心なしかしょんぼりしている乱歩さん。
普段の彼からは想像もつかないような生気の抜けた声で同じ言葉を繰り返す。
茫然自失とはまさにこの状態のことを指すのだろう。
「お、おおお落ち着いてください、乱歩さん。一旦席に戻ってお茶でも…」
「敦くんは黙ってて」
「はい」
あまりにも痛々しい雰囲気の乱歩さんに堪らず声をかけるも撃沈。
今すぐにでもこの場を離れたいところだが、一瞬にしてそれさえも許されないような緊迫した状況になってしまった。
それを意にも介していないのは苗字さんだけ。
「恋人?ですか?」
「僕、名前ちゃんの恋人じゃないんだ」
(3回言った…)
「乱歩さん、私の恋人なんですか?」
「僕はずっとそのつもりだったけど」
やっと事態の重大さに気づいたらしい苗字さんが、お茶を準備する手を止めて乱歩さんに向き合う。
それを受けて、拗ねたように言葉を返す乱歩さん。
苗字さんが真面目に取り合ってくれる様子を見せたことで、乱歩さんが醸し出す禍々しさも少し薄らいだように見えた。
この隙にこの場を離れてしまおうとしたところで、またもや苗字さんが爆弾発言を放つ。
「でも私、乱歩さんの恋人には向いていないと思います」
少し機嫌を持ち直したように見えた乱歩さんが一瞬にして灰になったのがわかった。
全く、僕はなんて現場に居合わせてしまったんだろう。
一刻も早くこの場を離れたい。
若しくは今すぐ誰かこの場に入ってきて欲しい。
道連れにしてやる。
「あの、乱歩さん?」
「な、何で?何で向いてないって思うの?」
上目遣いで心配そうに声をかける苗字さんを見て、何とか正気を取り戻した乱歩さんが震える声で当然の疑問を投げかける。
確かに、側から見ていても苗字さん以上に乱歩さんの恋人に向いている人は想像できない。
「だって、乱歩さんの座右の銘…」
「座右の銘?」
「『僕が良ければ全て良し』って…そんなことを言われてしまうと、恋人になったらどんな扱いを受けるんだろうってちょっと尻込みしてしまいます」
(ごもっとも!)
その座右の銘に散々振り回されてきた身からすると首がもげるほど頷きたくなる、まともな反論だった。
仮に苗字さんにとって乱歩さんの世話を焼くのが苦じゃなかったとしても、彼の自己中心的な行いで恋人として蔑ろにされれば、悲しい思いをするのは苗字さんの方だ。
彼女は凄く申し訳なさそうにおずおずと拒絶の理由を伝えたけれど、個人的にはもっと強気に出てもお釣りが貰える程の立派な理由だと思う。
「なーんだ、そんなこと!」
急に明朗快活な声を取り戻した乱歩さんに目を向けると、先程まで狼狽えていたのが嘘のように、いつもの調子を取り戻していた。
「いーい?名前ちゃん。名前ちゃんは僕の好きな人なんだから、その『僕が良ければ』の中には名前ちゃんのことも含まれるんだよ」
「わ、私のこと、ですか?」
「そう、当然でしょ?だって、名前ちゃんが痛い思いをしたり、悲しい思いをしたり、怖い思いをしたりするのは僕にとって全く良いことじゃないもん」
「は、はぁ」
「………それとも、もしかして僕がお土産買ってくるの、迷惑だった……?」
「え?いえ、とんでもないです!」
「ほんと?」
「本当です!私なんかの為にわざわざ…とても嬉しく思っていますよ」
「休日のデートに誘うのは?」
「いつも楽しい場所に連れ出してくださって感謝しています」
「じゃあ、僕は少なとも友人としては合格ってことだよね?」
「まぁ、はい。そうですね…私なんかが乱歩さんの友人なんて恐れ多いですけど」
「だったら僕を恋人にしてくれてもいいんじゃない?」
「そ、それとこれとは…」
「名前ちゃんもよく知ってると思うけど、僕は自分の座右の銘を必ず実行する男だよ。これからは僕の全てをかけて名前ちゃんをあらゆる危険から守ってあげる」
まるで超推理をしている時のような気迫で言葉を並べたてる乱歩さん。
徐々に苗字さんを壁際に追い詰め、物理的にも精神的にもあっという間に立場が逆転してしまったようだった。
実際に犯人を追い詰めている時と違うのは、彼女の白魚の様な両手を乱歩さんがひっしと握りしめている点くらいである。
「そ、それは、ありがとうございます」
「じゃあ今から僕たち恋人同士だね!」
「その前に!」
「えーなぁに?まだ何かあるの?」
面倒くさいなあ、と今にも言い出しそうな勢いで駄々をこねる乱歩さんにひやひやしてしまう、部外者の僕。
苗字さん!この人の恋人なんて絶対にやめておいた方がいいですよ!苗字さんならもっとずっと素敵な人達から引く手数多です!
なんて、冒頭の勘違いを棚に上げて心の中で必死に叫び声をあげている僕なんてなんのその。
目の前の御二人はまさに自分たちだけの世界に浸っているようだった。
「私、まだ乱歩さんから大事な一言をいただいておりません」
心なしか苗字さんの頬が薔薇色に色づいているように見えるのは僕の目の錯覚だろうか。
おっとりとして落ち着ているいつもの様子とは少し違った、まるで恋をする乙女の様な苗字さんの態度に呆気に取られている僕。
そんな人間が、まさか彼女の言うところの「大事な一言」なんて分かるはずもない。
そして反対に、名探偵・江戸川乱歩にかかれば、想い人の欲している返答を導き出すなんて赤子の手を捻るようなものだ。
「好きだよ、名前ちゃん。僕の恋人になってくれる?」
名探偵の助手さえ満足に務められない武力探偵事務所の新人、中島敦。
そんな僕でさえ、次の苗字さんの言葉は明白だった。
あーあ!まさか恋をする女性の笑顔があんなに可愛らしいなんて!