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※私にはラップは書けませんでした…。なんでも許せる方向けです。
別に私も褒められた人生を送ってきてないし、治人がしている仕事についてとやかく言うつもりは全くない。
なんなら普通に働く私なんかよりも羽振りのいい彼に食事を奢ってもらったり、プレゼントを貰ったりすることで間接的に恩恵を受けているくらいだ。
そんな私でも許容できないのは彼のヤク中ぶりだった。
「おいこら治人」
「おう」
「おうじゃねえだろカス。てめえまたクスリやってんだろうが」
玄関を開けた瞬間から独特の匂いがしていたし、やっと治人を見つけたと思ったらソファにふんぞり返ったまま目の焦点が合っていない。
なによりも、ブチ切れている私を目の前にしてへらへらと笑っているのが一番の証拠だった。
たまにはと思ってこちらから彼の部屋を訪れてみればこの有様である。
「そんな言い方すんなよ」
「誰がこんな言い方させてると思ってんだよ」
「ふは、俺か」
「どこに隠してんのか言いな」
「エロ本?」
「ガキか!クスリだよ!隠し場所を言え!」
どうしてこんなに彼のことを気に掛けるかって、それは幼馴染としての腐れ縁があるし、それに何より恋人としての愛情がある。
周りから見ればガラの悪い男女の爛れた関係に見えるだろうが、子どもの頃からの付き合いが恋愛に発展したともなればその情はそれこそヤクザの義理人情も顔負けである。
まぁ、治人はそういうのを気にしないタイプのヤクザらしいけど。
「言わねえなら勝手に探すからな。後から文句言うんじゃねえぞ」
「あ?家探ししようってか?何様だこら」
「あぁ?てめえが何様だ!ヤク中風情が偉そうに。ぶっ殺すぞ!」
危うく手が出そうになるのをグッとこらえる。
まだお互い子どもだった頃にひどく怯えられてからというもの、私は一度も彼に対して拳を見せていない。
そもそも治人と殴り合いの喧嘩なんて成立しないのだ。
それは、身体の作りが違うとかいう以前の問題。
すぐに暴力で解決しようとする私と、暴力にすぐに屈服してしまう治人。
どちらも子どもの頃におかれた劣悪な環境が残した禍根である。
脳筋タイプの半グレだった私と、インテリヤクザで通っている治人が恋人だと知ると「そういう趣味」なのかと笑う奴らもいたが、過去に縛られたお互いの傷を舐め合っているだけだと知れば、彼らはもっと笑ったかもしれない。
「名前」
皮肉なものだ。
クスリで気分が高揚している治人が呼ぶ私の名前は、他のどんな時よりも柔らかく、優しい音がする。
「なに」
「いいから、こっちこい」
徐に私の手を握った、意外と節くれだった男性的な手に絆されて、引かれるまま治人の膝の上に雪崩れ込んだ。
ひょろひょろのチビとはいえ彼も成人男性である。
こうして擦り寄ってみれば私の身体くらいはちゃんと抱き留めてくれる。
「悪かった」
「聞き飽きた」
「仕事で嫌なことがあって、つい使っちゃっただけだよ。常備はしてない」
「それも聞き飽きた」
「これでも頻度は少なくなってきてるんだ。リハビリだと思って許してよ」
こんなくそみてえなリハビリあるかよ、という思いを込めてこれでもかという程大きな舌打ちをしてやると、何が面白いんだかまたへらへらと笑いながら、お返しとばかりに私の額にキスをする治人。
密着した身体に、髪を撫でる手、宥めるようなキス。
こういうのって普通ベッドの上でするもんなんじゃないの。
「ごめんなあ、名前」
不謹慎な程ふわふわへらへらした謝罪もいつものことだった。
いっそのこと「てめえには関係ねえだろうが」とか言って殴ってくるような男や、「お前もやってみろよ超気持ちいいから」なんて強要してくるような男だったら見限ることができるのだ。
治人は一度もそんなことはしたことがない。
もう数え切れないほど彼のトランス状態を目撃して、数え切れないほど同じやりとりをしてきたのに治人はいつも謝るばかりで、くそ男みたいなことをしてくれない。
それは、彼自身も悪いことをしている自覚と罪悪感があって、それに私を巻き込みたくないと思ってくれているからだ。
それを愛情と呼ぶ私達の関係は、やっぱりどこか間違っているのかもしれない。
「ごめんな、名前。ごめんなあ」
クスリの効果によってほぼ前後不覚の状態に陥っている治人がこうして謝罪を繰り返すとき、私がいつも泣きそうになっていることをきっと彼は知らない。
こんな歳にもなって人生の不都合を家庭環境のせいにするなんて、それこそ間違ってる。
でも私は治人の幼馴染で、恋人で、傷をなめ合う間柄だから思わずにはいられないのだ。
クスリに手を伸ばしてしまったのも、未だにそれをやめられないのも、まともな職業に就かずに違法行為で荒稼ぎしているのも全部治人のせいじゃないよ。
治人のせいじゃないはずだから、だから謝ったりしないでよ。
「ばっかじゃないの。もういいから、さっさとクスリ抜いて」
「…うん」
顔を見られたくなくて少し強引に彼の首に抱き着くと、今度は治人が甘えるように頭を寄せてきたのでそのまま抱きしめてやる。
私達の人生なんてのっけから間違いだらけだし、私達の存在はきっと他人から見ればド底辺のカスだ。
実際、幸せだって胸を張って言うのが憚れるような生活をしている自覚はある。
でもさ、こうして大好きな人に出会うことができたんだから、きっとそんなに悪くないよね。
別に私も褒められた人生を送ってきてないし、治人がしている仕事についてとやかく言うつもりは全くない。
なんなら普通に働く私なんかよりも羽振りのいい彼に食事を奢ってもらったり、プレゼントを貰ったりすることで間接的に恩恵を受けているくらいだ。
そんな私でも許容できないのは彼のヤク中ぶりだった。
「おいこら治人」
「おう」
「おうじゃねえだろカス。てめえまたクスリやってんだろうが」
玄関を開けた瞬間から独特の匂いがしていたし、やっと治人を見つけたと思ったらソファにふんぞり返ったまま目の焦点が合っていない。
なによりも、ブチ切れている私を目の前にしてへらへらと笑っているのが一番の証拠だった。
たまにはと思ってこちらから彼の部屋を訪れてみればこの有様である。
「そんな言い方すんなよ」
「誰がこんな言い方させてると思ってんだよ」
「ふは、俺か」
「どこに隠してんのか言いな」
「エロ本?」
「ガキか!クスリだよ!隠し場所を言え!」
どうしてこんなに彼のことを気に掛けるかって、それは幼馴染としての腐れ縁があるし、それに何より恋人としての愛情がある。
周りから見ればガラの悪い男女の爛れた関係に見えるだろうが、子どもの頃からの付き合いが恋愛に発展したともなればその情はそれこそヤクザの義理人情も顔負けである。
まぁ、治人はそういうのを気にしないタイプのヤクザらしいけど。
「言わねえなら勝手に探すからな。後から文句言うんじゃねえぞ」
「あ?家探ししようってか?何様だこら」
「あぁ?てめえが何様だ!ヤク中風情が偉そうに。ぶっ殺すぞ!」
危うく手が出そうになるのをグッとこらえる。
まだお互い子どもだった頃にひどく怯えられてからというもの、私は一度も彼に対して拳を見せていない。
そもそも治人と殴り合いの喧嘩なんて成立しないのだ。
それは、身体の作りが違うとかいう以前の問題。
すぐに暴力で解決しようとする私と、暴力にすぐに屈服してしまう治人。
どちらも子どもの頃におかれた劣悪な環境が残した禍根である。
脳筋タイプの半グレだった私と、インテリヤクザで通っている治人が恋人だと知ると「そういう趣味」なのかと笑う奴らもいたが、過去に縛られたお互いの傷を舐め合っているだけだと知れば、彼らはもっと笑ったかもしれない。
「名前」
皮肉なものだ。
クスリで気分が高揚している治人が呼ぶ私の名前は、他のどんな時よりも柔らかく、優しい音がする。
「なに」
「いいから、こっちこい」
徐に私の手を握った、意外と節くれだった男性的な手に絆されて、引かれるまま治人の膝の上に雪崩れ込んだ。
ひょろひょろのチビとはいえ彼も成人男性である。
こうして擦り寄ってみれば私の身体くらいはちゃんと抱き留めてくれる。
「悪かった」
「聞き飽きた」
「仕事で嫌なことがあって、つい使っちゃっただけだよ。常備はしてない」
「それも聞き飽きた」
「これでも頻度は少なくなってきてるんだ。リハビリだと思って許してよ」
こんなくそみてえなリハビリあるかよ、という思いを込めてこれでもかという程大きな舌打ちをしてやると、何が面白いんだかまたへらへらと笑いながら、お返しとばかりに私の額にキスをする治人。
密着した身体に、髪を撫でる手、宥めるようなキス。
こういうのって普通ベッドの上でするもんなんじゃないの。
「ごめんなあ、名前」
不謹慎な程ふわふわへらへらした謝罪もいつものことだった。
いっそのこと「てめえには関係ねえだろうが」とか言って殴ってくるような男や、「お前もやってみろよ超気持ちいいから」なんて強要してくるような男だったら見限ることができるのだ。
治人は一度もそんなことはしたことがない。
もう数え切れないほど彼のトランス状態を目撃して、数え切れないほど同じやりとりをしてきたのに治人はいつも謝るばかりで、くそ男みたいなことをしてくれない。
それは、彼自身も悪いことをしている自覚と罪悪感があって、それに私を巻き込みたくないと思ってくれているからだ。
それを愛情と呼ぶ私達の関係は、やっぱりどこか間違っているのかもしれない。
「ごめんな、名前。ごめんなあ」
クスリの効果によってほぼ前後不覚の状態に陥っている治人がこうして謝罪を繰り返すとき、私がいつも泣きそうになっていることをきっと彼は知らない。
こんな歳にもなって人生の不都合を家庭環境のせいにするなんて、それこそ間違ってる。
でも私は治人の幼馴染で、恋人で、傷をなめ合う間柄だから思わずにはいられないのだ。
クスリに手を伸ばしてしまったのも、未だにそれをやめられないのも、まともな職業に就かずに違法行為で荒稼ぎしているのも全部治人のせいじゃないよ。
治人のせいじゃないはずだから、だから謝ったりしないでよ。
「ばっかじゃないの。もういいから、さっさとクスリ抜いて」
「…うん」
顔を見られたくなくて少し強引に彼の首に抱き着くと、今度は治人が甘えるように頭を寄せてきたのでそのまま抱きしめてやる。
私達の人生なんてのっけから間違いだらけだし、私達の存在はきっと他人から見ればド底辺のカスだ。
実際、幸せだって胸を張って言うのが憚れるような生活をしている自覚はある。
でもさ、こうして大好きな人に出会うことができたんだから、きっとそんなに悪くないよね。
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