魔入りました!入間くん
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※これの続き
「おい、お前」
食堂でランチを食べていると、カルエゴくんに声をかけられた。
いくら同級生とはいえ、彼ほど有名な悪魔に声をかけられる覚えはもちろん全くない。
あっけにとられている私に、苛立ちを露わにしたカルエゴくんが再び口を開いた。
「おい、聞いているのか」
「えっと、私?」
「お前以外に誰がいる」
ごもっとも。
禍々しいオーラを放ちながら仁王立ちで登場した彼のせいで、一緒にランチを楽しんでいたはずのクラスメイト達は蜘蛛の子を散らすように席を離れていった。
自己中心主義は悪魔の本質とはいえ、なんて薄情な奴らだろう。
「お前、名前苗字だな」
「そうだけど」
「お前が番長の恋人だというのは本当か」
「違います!」
もちろん全力で否定する私。
もとを正せば、不良達の襲撃は他でもないその誤解が原因なのだ。
なりふり構わずきちんと否定して誤解を解いていかなければ最悪私の命に関わる。
「何故そんなに強く否定する」
「は?」
「ここ最近お前とオペラ先輩が 2 人きりで過ごしている姿が頻繁に目撃されている。これはどう説明するんだ」
「え、い…いやだから、それはやむにやまれぬ事情があって…」
「怪しい」
怪しいわけあるかーい!
そもそも説明を最後まで聞けや!
と言いたいところだけど、今の自分が必要以上に挙動不審であることも図星なので強く出られない。
なんでこんなにオドオドしているのかって、それは昨日のオペラ先輩とのやりとりが原因だ。
『どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか』
そう。その通り。
なんと私は、あの悪魔学校バビルスの番長・オペラ先輩から告白されてしまったのだ。
昨日の先輩の台詞がフラッシュバックしたせいで、人目も憚らずうめき声を上げながら頭を抱えた私に、カルエゴくんが文字通り一歩引いている気配を感じる。
よし、いいぞ…そのままこの場を立ち去れ!
「…まあ、お前とオペラ先輩がどういう関係なのかはこの際どうでもいい」
(座っちゃったよ…)
「先輩には迷惑しているんだ。俺の言うことは一切聞き入れてもらえないが、お前からなら違うかもしれない」
私の祈りもむなしく向かいのテーブルに腰を下ろしたカルエゴくんはこころなしかゲッソリとしていて、さっきまでの迫力も薄れたように見えた。
「ん?カルエゴくんも先輩の知り合いなの?」
「『も』ということは、お前もアイツの知り合いであることは認めるんだな?」
あのオペラ先輩をアイツ呼ばわりできるなんて、さすがエリート悪魔は心構えからして違う。
質問に質問で返されたことは取り敢えず受け流し、大人しく頷いた。
「ふん、最初からそう言えばいいものを」
(カルエゴくんって絶対に仲の良い悪魔いないだろうな)
「だったらさっき言った通りだ。俺に絡むのは止めてくれ、とお前からも先輩に伝えておけ」
「こんにちは、カルエゴくん」
とてもお願いをしに来たとは思えないカルエゴくんの高慢な態度に一周回って関心していると、どこからともなく現れたのはご本人・オペラ先輩だった。
何の気配もなくカルエゴくんの背後に立ったオペラ先輩はもちろん、先輩が声を発した瞬間に飛び上がって距離をとったカルエゴくんもさすがだ。
これでもかという程威嚇しているカルエゴくんにずかずかと近づいていくオペラ先輩は案の定そんなの全然気にしていないみたいだけど。
「ア、アンタ…実習だったんじゃ…!」
「あぁ、それはもう終わらせてきました。そんなことより、カルエゴくんが名前さんと仲が良いとは知りませんでした」
「は?別に仲が良い訳では…」
「そういえば喉が渇きましたねえ。お腹もペコペコです」
「は」
「なんせ急いで帰ってきましたから」
「…」
「あーあ、お腹すいたなあ」
「…クソ!」
カルエゴくんがいかにも不本意です!という雰囲気で足を踏み鳴らしながら食堂の列に加わりに行くのを見送ったオペラ先輩は当然のように私の隣に腰を下ろした。
一難去ってまた一難。泣きっ面に蜂。弱り目に祟り目。
「そういえば、2人は同じ学年でしたね。交流があるんですか?」
「いえ、今日初めて話しました」
「そうですか」
密着するような距離に座られたわけでもないのに、隣から先輩の体温が伝わってくるような気がするほど敏感になってしまっているのは、昨日の告白を受けてドキドキしているのが理由…だったらどれほどいいか。
『どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか』
『…』
『…』
『に、2回言わないんですね…』
『こういう大事なことは何度も言うと安っぽくなるでしょう』
それは昨日の帰り道、いつものように家まで送ってもらっている時のことだった。
「ペット認定」をもらったことで私の先輩に対する緊張もようやく和らいできたところだったのだが、どうやら私が「ペット認定」だと思っていたのは恋人になるまでのファーストステップだったらしい。
あまりに大きな認識のギャップのせいでパニックに陥った私はその時の先輩の顔も、その後の展開も全く覚えていない。
私はその時、その場から脱兎のごとく逃げ出したからだ。
そう、甲斐甲斐しく私の護衛を務めてくださったあの泣く子も黙る番長の告白を無視して、私は逃げ出したのである。
お分かりいただけただろうか。
つまり私が今感じている鼓動は「キャ!告白してくれた先輩が隣にいる!どうしよー!キュン!」なんていう可愛いものではなく、死刑間際の虜囚が感じるであろう焦燥と恐怖の鼓動なのだ。
どうしよう冷や汗が止まらない。
「あ…あの、えっと、先輩、実習だったんですね」
「えぇ」
「あぁ、へー…じゃあの、お疲れでしょうから私はこれで…」
次から次へと襲った災難のせいで全く喉を通らなかった自分のランチを傍目に席を立とうとすると、目にも止まらぬ速さで先輩が私の腕を掴んだ。
「ひぃ!」
「まぁそう言わず、折角ですから一緒に食べましょう」
「いや、あああの、でも…」
「それともこのままあなたの肩を抱いて、恋人であることを見せびらかしながら学校中を練り歩くほうがいいですか」
「ランチご一緒させてくださいお願いします」
大人しく席に着いた私を確認すると、腕を掴んでいた先輩の手が今度はテーブルの上に置かれた私の手のひらに移動し、指を絡めるようにぎゅうと握られた。
逃げられない。これは逃げられない。まさに万事休す。
「持ってきてやりましたよ。先輩」
マイメシア、カルエゴくん!
ありがとう、カルエゴくん!
「私が食べたかったのはそのコースじゃないです」
「は?」
「私は他のコースのランチが食べたいので、もう一度並んでもらってきてください」
「だったら最初からそう…」
「何か?」
「…チッ」
負けた!カルエゴくん!なんで!行かないで!
なんて、心の中ではうるさい程の悲鳴をあげているものの、それを表に出せる程の勇気は当然ない。
真っ青な顔で微動だにもせずオペラ先輩に拘束されている私を見て、去り際のカルエゴくんが同情の表情を見せたのは気のせいじゃないはずだ。
「さて」
がっちりと握られたままの手を引かれ、先輩の方を見るように促される。
恐る恐ると目線を上げると、そこには相変わらず無表情の美しい顔。
身体の向きごと変えたせいで、テーブルの下で軽く触れ合っている膝も相まって自分の顔に一気に熱が集まったが分かった。
「青くなったり赤くなったり忙しいですね、名前さんは」
不思議なもので、長い間一緒に過ごしていると鉄面皮のオペラ先輩の感情さえなんとなく分かるようになるらしい。
彼に怯えたり、緊張したりすることが最近めっきり減ってきていたのはどうやらそのおかげだったみたいだ。
今、私の手を握って目の前に座っているオペラ先輩が、あまりにも愛おしいものを見る目でこちらを見つめるから、照れるのも忘れて驚いてしまった。
オペラ先輩、そんな顔するんだ。
というか私、そういう先輩の顔分かっちゃうんだ。
「昨日の返事をもらえますか」
「いきなり本題ですね…」
「そうですか?昨日あのままとっつかまえて聞いてもよかったんですけどね」
「ぐ…ご、ごめんなさい」
「…それは私の告白に対する返事ですか」
「え?あ!ち、違います!ごめんなさ…あ!あの、ちが…」
「分かったので、少し落ち着きましょう」
パニックで同じ言葉を繰り返す私をオペラ先輩が遮る。
「落ち着きましょう」なんて言いながら、じわじわとこちらに近づいてきている先輩は、どう考えてもこのまま押し切ろうとしているような気がする。
そもそもこの悪魔は本当に私のこと好きなのか?
「あ、あああの!」
握られていない方の手を意を決して彼の肩に置き、恐る恐る押し返すと、オペラ先輩はぴくりと反応した後に一応その場で止まってくれた。
「はい」
「私、その…先輩は私のことペットくらいにしか思ってないだろう、と思ってたので、イマイチ実感が湧かないというか」
「ペット?私そんなにひどい扱いをしていましたか?」
「え」
「私にとってのペットはああいうのを言うんですが」
心底意外といった感じで言いながら先輩が顎で指し示したのは、彼のランチを調達すべく列に並んでいるカルエゴくんだった。
「私の喉が渇けばジュースを買ってきてくれて、小腹が空けばパンを買ってきてくれる。気に入らない奴が入れば一掃する手助けをしてくれる」
「パシリ…」
「舎弟です」
「な、なるほど」
遮るように断言する先輩に圧されて一応納得したふりをする。
ご愁傷様です、カルエゴくん…。
「私は、好きな女性をペット扱いなんてしませんよ」
ぎゅうと握りなおされた手のひらが熱い。
こちらを覗きこむオペラ先輩はいつになく真剣、というか必死に見えた。
少し基準が歪んではいるけれど、思い返してみれば確かに先輩は私を今まで大事に扱ってくれた。
カルエゴくんのようにパシリ…舎弟扱いを受けることは一度もなかったし、実習があった日だろうと必ず学校に戻ってきて私の側にいてくれた。
しかもその側にいてくれたというのが、護衛を務めるためだけじゃなく、「私といると楽しい」からだというじゃないか。
「オペラ先輩」
「はい」
「オペラ先輩、もしかして私のこと大好きなんですか」
「だからそう言ってるじゃないですか」
いや、それは一度も言われてないです。
と冷静に思いながら、同時にそんなことどうでもよく感じるくらいふわふわした気持ちを感じる。
今までの照れくさい気持ちとは違って、心臓がきゅうと締め付けられてぽかぽかする感じ。
心底予想外で驚いているはずなのに、緩む頬が止められなくて恥ずかしい。
オペラ先輩はそんな私を見てまたあの、愛しくてたまらないという目をしていた。
そっか。きっと私今、先輩と同じ気持ちを感じてるんだ。
「どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか」
悪戯っぽく、でも少し呆れたように問いかけられた質問の答えは一択だ。
もしかしたらこの後見られるかもしれない、オペラ先輩の喜ぶ顔を見逃さないように、彼をまっすぐ見つめて答えてあげよう。
「おい、お前」
食堂でランチを食べていると、カルエゴくんに声をかけられた。
いくら同級生とはいえ、彼ほど有名な悪魔に声をかけられる覚えはもちろん全くない。
あっけにとられている私に、苛立ちを露わにしたカルエゴくんが再び口を開いた。
「おい、聞いているのか」
「えっと、私?」
「お前以外に誰がいる」
ごもっとも。
禍々しいオーラを放ちながら仁王立ちで登場した彼のせいで、一緒にランチを楽しんでいたはずのクラスメイト達は蜘蛛の子を散らすように席を離れていった。
自己中心主義は悪魔の本質とはいえ、なんて薄情な奴らだろう。
「お前、名前苗字だな」
「そうだけど」
「お前が番長の恋人だというのは本当か」
「違います!」
もちろん全力で否定する私。
もとを正せば、不良達の襲撃は他でもないその誤解が原因なのだ。
なりふり構わずきちんと否定して誤解を解いていかなければ最悪私の命に関わる。
「何故そんなに強く否定する」
「は?」
「ここ最近お前とオペラ先輩が 2 人きりで過ごしている姿が頻繁に目撃されている。これはどう説明するんだ」
「え、い…いやだから、それはやむにやまれぬ事情があって…」
「怪しい」
怪しいわけあるかーい!
そもそも説明を最後まで聞けや!
と言いたいところだけど、今の自分が必要以上に挙動不審であることも図星なので強く出られない。
なんでこんなにオドオドしているのかって、それは昨日のオペラ先輩とのやりとりが原因だ。
『どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか』
そう。その通り。
なんと私は、あの悪魔学校バビルスの番長・オペラ先輩から告白されてしまったのだ。
昨日の先輩の台詞がフラッシュバックしたせいで、人目も憚らずうめき声を上げながら頭を抱えた私に、カルエゴくんが文字通り一歩引いている気配を感じる。
よし、いいぞ…そのままこの場を立ち去れ!
「…まあ、お前とオペラ先輩がどういう関係なのかはこの際どうでもいい」
(座っちゃったよ…)
「先輩には迷惑しているんだ。俺の言うことは一切聞き入れてもらえないが、お前からなら違うかもしれない」
私の祈りもむなしく向かいのテーブルに腰を下ろしたカルエゴくんはこころなしかゲッソリとしていて、さっきまでの迫力も薄れたように見えた。
「ん?カルエゴくんも先輩の知り合いなの?」
「『も』ということは、お前もアイツの知り合いであることは認めるんだな?」
あのオペラ先輩をアイツ呼ばわりできるなんて、さすがエリート悪魔は心構えからして違う。
質問に質問で返されたことは取り敢えず受け流し、大人しく頷いた。
「ふん、最初からそう言えばいいものを」
(カルエゴくんって絶対に仲の良い悪魔いないだろうな)
「だったらさっき言った通りだ。俺に絡むのは止めてくれ、とお前からも先輩に伝えておけ」
「こんにちは、カルエゴくん」
とてもお願いをしに来たとは思えないカルエゴくんの高慢な態度に一周回って関心していると、どこからともなく現れたのはご本人・オペラ先輩だった。
何の気配もなくカルエゴくんの背後に立ったオペラ先輩はもちろん、先輩が声を発した瞬間に飛び上がって距離をとったカルエゴくんもさすがだ。
これでもかという程威嚇しているカルエゴくんにずかずかと近づいていくオペラ先輩は案の定そんなの全然気にしていないみたいだけど。
「ア、アンタ…実習だったんじゃ…!」
「あぁ、それはもう終わらせてきました。そんなことより、カルエゴくんが名前さんと仲が良いとは知りませんでした」
「は?別に仲が良い訳では…」
「そういえば喉が渇きましたねえ。お腹もペコペコです」
「は」
「なんせ急いで帰ってきましたから」
「…」
「あーあ、お腹すいたなあ」
「…クソ!」
カルエゴくんがいかにも不本意です!という雰囲気で足を踏み鳴らしながら食堂の列に加わりに行くのを見送ったオペラ先輩は当然のように私の隣に腰を下ろした。
一難去ってまた一難。泣きっ面に蜂。弱り目に祟り目。
「そういえば、2人は同じ学年でしたね。交流があるんですか?」
「いえ、今日初めて話しました」
「そうですか」
密着するような距離に座られたわけでもないのに、隣から先輩の体温が伝わってくるような気がするほど敏感になってしまっているのは、昨日の告白を受けてドキドキしているのが理由…だったらどれほどいいか。
『どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか』
『…』
『…』
『に、2回言わないんですね…』
『こういう大事なことは何度も言うと安っぽくなるでしょう』
それは昨日の帰り道、いつものように家まで送ってもらっている時のことだった。
「ペット認定」をもらったことで私の先輩に対する緊張もようやく和らいできたところだったのだが、どうやら私が「ペット認定」だと思っていたのは恋人になるまでのファーストステップだったらしい。
あまりに大きな認識のギャップのせいでパニックに陥った私はその時の先輩の顔も、その後の展開も全く覚えていない。
私はその時、その場から脱兎のごとく逃げ出したからだ。
そう、甲斐甲斐しく私の護衛を務めてくださったあの泣く子も黙る番長の告白を無視して、私は逃げ出したのである。
お分かりいただけただろうか。
つまり私が今感じている鼓動は「キャ!告白してくれた先輩が隣にいる!どうしよー!キュン!」なんていう可愛いものではなく、死刑間際の虜囚が感じるであろう焦燥と恐怖の鼓動なのだ。
どうしよう冷や汗が止まらない。
「あ…あの、えっと、先輩、実習だったんですね」
「えぇ」
「あぁ、へー…じゃあの、お疲れでしょうから私はこれで…」
次から次へと襲った災難のせいで全く喉を通らなかった自分のランチを傍目に席を立とうとすると、目にも止まらぬ速さで先輩が私の腕を掴んだ。
「ひぃ!」
「まぁそう言わず、折角ですから一緒に食べましょう」
「いや、あああの、でも…」
「それともこのままあなたの肩を抱いて、恋人であることを見せびらかしながら学校中を練り歩くほうがいいですか」
「ランチご一緒させてくださいお願いします」
大人しく席に着いた私を確認すると、腕を掴んでいた先輩の手が今度はテーブルの上に置かれた私の手のひらに移動し、指を絡めるようにぎゅうと握られた。
逃げられない。これは逃げられない。まさに万事休す。
「持ってきてやりましたよ。先輩」
マイメシア、カルエゴくん!
ありがとう、カルエゴくん!
「私が食べたかったのはそのコースじゃないです」
「は?」
「私は他のコースのランチが食べたいので、もう一度並んでもらってきてください」
「だったら最初からそう…」
「何か?」
「…チッ」
負けた!カルエゴくん!なんで!行かないで!
なんて、心の中ではうるさい程の悲鳴をあげているものの、それを表に出せる程の勇気は当然ない。
真っ青な顔で微動だにもせずオペラ先輩に拘束されている私を見て、去り際のカルエゴくんが同情の表情を見せたのは気のせいじゃないはずだ。
「さて」
がっちりと握られたままの手を引かれ、先輩の方を見るように促される。
恐る恐ると目線を上げると、そこには相変わらず無表情の美しい顔。
身体の向きごと変えたせいで、テーブルの下で軽く触れ合っている膝も相まって自分の顔に一気に熱が集まったが分かった。
「青くなったり赤くなったり忙しいですね、名前さんは」
不思議なもので、長い間一緒に過ごしていると鉄面皮のオペラ先輩の感情さえなんとなく分かるようになるらしい。
彼に怯えたり、緊張したりすることが最近めっきり減ってきていたのはどうやらそのおかげだったみたいだ。
今、私の手を握って目の前に座っているオペラ先輩が、あまりにも愛おしいものを見る目でこちらを見つめるから、照れるのも忘れて驚いてしまった。
オペラ先輩、そんな顔するんだ。
というか私、そういう先輩の顔分かっちゃうんだ。
「昨日の返事をもらえますか」
「いきなり本題ですね…」
「そうですか?昨日あのままとっつかまえて聞いてもよかったんですけどね」
「ぐ…ご、ごめんなさい」
「…それは私の告白に対する返事ですか」
「え?あ!ち、違います!ごめんなさ…あ!あの、ちが…」
「分かったので、少し落ち着きましょう」
パニックで同じ言葉を繰り返す私をオペラ先輩が遮る。
「落ち着きましょう」なんて言いながら、じわじわとこちらに近づいてきている先輩は、どう考えてもこのまま押し切ろうとしているような気がする。
そもそもこの悪魔は本当に私のこと好きなのか?
「あ、あああの!」
握られていない方の手を意を決して彼の肩に置き、恐る恐る押し返すと、オペラ先輩はぴくりと反応した後に一応その場で止まってくれた。
「はい」
「私、その…先輩は私のことペットくらいにしか思ってないだろう、と思ってたので、イマイチ実感が湧かないというか」
「ペット?私そんなにひどい扱いをしていましたか?」
「え」
「私にとってのペットはああいうのを言うんですが」
心底意外といった感じで言いながら先輩が顎で指し示したのは、彼のランチを調達すべく列に並んでいるカルエゴくんだった。
「私の喉が渇けばジュースを買ってきてくれて、小腹が空けばパンを買ってきてくれる。気に入らない奴が入れば一掃する手助けをしてくれる」
「パシリ…」
「舎弟です」
「な、なるほど」
遮るように断言する先輩に圧されて一応納得したふりをする。
ご愁傷様です、カルエゴくん…。
「私は、好きな女性をペット扱いなんてしませんよ」
ぎゅうと握りなおされた手のひらが熱い。
こちらを覗きこむオペラ先輩はいつになく真剣、というか必死に見えた。
少し基準が歪んではいるけれど、思い返してみれば確かに先輩は私を今まで大事に扱ってくれた。
カルエゴくんのようにパシリ…舎弟扱いを受けることは一度もなかったし、実習があった日だろうと必ず学校に戻ってきて私の側にいてくれた。
しかもその側にいてくれたというのが、護衛を務めるためだけじゃなく、「私といると楽しい」からだというじゃないか。
「オペラ先輩」
「はい」
「オペラ先輩、もしかして私のこと大好きなんですか」
「だからそう言ってるじゃないですか」
いや、それは一度も言われてないです。
と冷静に思いながら、同時にそんなことどうでもよく感じるくらいふわふわした気持ちを感じる。
今までの照れくさい気持ちとは違って、心臓がきゅうと締め付けられてぽかぽかする感じ。
心底予想外で驚いているはずなのに、緩む頬が止められなくて恥ずかしい。
オペラ先輩はそんな私を見てまたあの、愛しくてたまらないという目をしていた。
そっか。きっと私今、先輩と同じ気持ちを感じてるんだ。
「どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか」
悪戯っぽく、でも少し呆れたように問いかけられた質問の答えは一択だ。
もしかしたらこの後見られるかもしれない、オペラ先輩の喜ぶ顔を見逃さないように、彼をまっすぐ見つめて答えてあげよう。