刀剣乱舞
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審神者というのは特殊な力を要する職業だ。
何せ彼らは付喪神を降ろし、共に生活し、命令して戦わせ、その傷を癒さなければならない。
こういうことを為せる力を時の政府とやらは霊力と呼称しており、その質や量を審神者選定の際に最も重視しているそうだ。
ということは、まぁ、ウチの主もその点については合格点だったのだろう。
「よお、主。驚いたか?」
「…おはようございます、鶴丸さん」
と言いながら目線を泳がせる主。
言葉にされなくても何を考えているのか手に取るようにわかる。
なんで鶴丸さんがここに、だ。
「無理を言って加州に代わってもらったんだ。今日の近侍は俺が務めることになった。1日よろしく頼む」
「きよみつうーーーーーー!」
「まあ待て待て」
執務室から逃げ出そうとする主の首根っこを掴むと、彼女の断末魔の叫びもぴたりと止まる。
そのままその小さな体を引き寄せて羽交い締めにするように抱き留める。
努めて明るく優しい声音を心がけながら、彼女の後ろから問いかける。
「なんだ、主は俺が近侍じゃ不満か?」
「滅相もないです」
「そうだろうとも。腕にふるいをかけて驚きに満ちた素敵な1日を提供するぞ!」
と、俺がこんな冗談とも本気ともつかない戯言を言えば、普段の彼女なら「勘弁してください」とか「冗談ですよね?」とか冷静な一言で静止がかかるのだが、目の前の彼女はといえば真っ青な顔で冷や汗を流したまま一言も発さず固まっている。
念の為に言っておくが普段の俺と主はもっと親密だ。
挨拶はもっとにこやかにするし、廊下ですれ違えば冗談を交えた雑談もする。
全員分はない八つ時を2人でこっそり食べたりもするし、彼女が歌仙にこっぴどく叱られた時には泣きついてきてくれたこともある。
伊達に長年彼女の本丸に所属していない。
我ながらこの人の子とは上手くやっているのだ。
「…私、近侍交代を了承した覚えないんですけど」
「頼むからそんな泣きそうな顔をしてまで拒絶しないでくれ!俺まで泣きそうだ!」
まあ、時々しくじることもあることは認めよう。
彼女は稀にこうして特定の刀剣男士を遠巻きにすることがある。
俺達の些細な言動にいたく傷つき、恐ろしくなって距離を置こうとするのだ。
この本丸に所属すれば誰もが一度は経験すること。
面倒くさがる男士も確かにいるが、これも人の身を得たからこその貴重な経験。
しかも、相手は多かれ少なかれ敬愛している我らが主なのだ。
この本丸でお互いに快適な生活を送る為の歩み寄りのひとつとして、彼女その性質も暖かく受け入れられている。
ただし、大きな問題がひとつ。
彼女の傷つく原因があまりにも些細すぎて、避けるべき地雷がどこにあるのか全く検討もつかないのだ。
そう、我が本丸の大黒柱たる主はその霊力の程はいざ知らず、精神力が豆腐と紛うほどの弱さなのである。
「最近、俺を避けているのは知ってる。だから近侍を変わってもらったんだ。俺はまたきみに何かしてしまったか?」
あぁ、これも認める。
俺は彼女から避けられる常習犯だ。
「鶴丸さんって気分屋で雑なところがあるからなあ。鯰尾兄さんにそっくりな時あるもん」とは乱藤四郎の言である。
さすが古株の1振りだけあって鋭い指摘だ。
鯰尾と俺はむちゃくちゃ気が合う。
俺たちみたいな興味の対象があっちこっちに飛び、それ以外の物事を雑に扱う性分の相手はどうやら主にとって鬼門らしい。
「いや、鶴丸さんが悪いわけでは…」
「そうか。なら俺と仲直りしてくれないか?」
逃げる気はなくなったようだから羽交い締めを解き、こちらを振り向かせた。
それでもまだじわじわと障子の方に後ずさる彼女の両手をしっかりと握る。
この期に及んで逃げられたとあってはそれこそ加州に叱られてしまう。
答えを促すように彼女の顔を覗き込んだ。
「ん?どうだ?」
ちらりと俺の目を見てくれたと思えばすぐに逸らされてしまったが、彼女はそのままこくりと頷いてくれた。
俺が悪いわけじゃないと言った主の言葉はきっと本心だ。
今彼女が気まずそうにしているのは、勝手に傷ついただけの自分に俺がここまで気を遣って優しくするから。
そういう自尊心の低さが彼女の精神力に大きく影響しているのだろうと常々思ってはいるのだが、俺1人ではそれをどうすることもできまい。
「そうか!それじゃあ気を取り直して、今日1日よろしく頼むぞ、主!」
言いながら今度は彼女を正面から抱き寄せ、ぎゅうと抱きしめる。
俺は彼女の審神者としての力量を認めているし、自らの主として敬愛している。
彼女が笑っていてくれれば嬉しいし、泣いていれば悲しい。
(主!この鶴丸国永は、きみのことを心から愛しているのだぞ!)
俺にできるのはその気持ちをできる限り余すことなく彼女に伝えることだけだ。
そう思ってより力を込めてぎゅうぎゅうと抱きしめると、彼女の体はすっぽりと俺の腕の中へ収まってしまう。
それが何だか無性に愛しくて、主の体ごとゆらゆらと軽く左右に揺れると、下からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「鶴丸さん、苦しいです」
「はは、すまんな!でもこれは仲直りの証だからなあ。そう簡単には離してやらないぞ」
「仲直りの?」
「あぁ。だからきみも俺のことをちゃんと抱きしめてくれ」
思いの外懇願するようになってしまった自分の声音に驚く。
こんな声で頼み事をしてしまえば、この主は断ることなんてできないと知っていたから、もっと軽い口調で言うつもりだったのに。
案の定、彼女の細い腕がおずおずと出てきて俺の身体を囲み、遠慮がちに脇腹辺りの着物をきゅっと握った。
「くすぐったいぞ、主」
「だって届かないんですよ、背中まで」
「そんなことはない!頑張れ!」
「いや、頑張っても体格差はどうにもならないです」
「うーむ、これならどうだ!」
「んぎゃあ!」
さらに力を込めて彼女を抱き寄せると、あまりの苦しさに蛙が潰れたような声が出されて慌ててその身体を開放した。
「何でちょっと嬉しそうなんですか。危うく窒息するところでしたよ」
「あははは!すまんすまん!」
「むっちゃ笑ってる…」
恨めしげにこちらを見つめる主の目線は、いつもの調子を取り戻した証拠だ。
俺がどれだけ主を信頼し、愛しているのか、はっきりと伝えておくならこの機を逃す手はない。
これだけは自尊心の低さからくる奇想天外な曲解をしたりせずに、真正面から受け取って欲しい。
彼女の頬を両手で包んでまっすぐに彼女を見つめた。
「主よ、俺は隅々まできみの物だ。遠慮なんかいらないから好きにしてくれて構わないんだぞ」
驚きで見開かれた彼女の瞳が俺のいつになく真剣な顔を映しているのを確認していると、しばらく沈黙していた主が慌てて俺の両手から抜け出した。
「これは驚いた。まさかそんなに顔を赤くして照れてくれるとはな!予想外だったぜ」
「照れてないですけど!」
「きみは想像力が豊かだなあ」
「はぁ!?」
「一体どんな邪な想像をしたんだ?」
「よ、よこっ⁉」
「どんな過激な内容であろうと、他でもないきみが相手なら喜んで叶えてやろう!」
「邪な想像なんてしてません!にじり寄ってくるんじゃない!」
「なんだ、またご機嫌を損ねてしてしまったか。しょうがない。もう一度仲直りのハグだな!」
「ぎゃあ!こっち来ないで!」
「まあまあ、そう照れるな。可愛いなあ、俺の主は!」
「きよみつうーーーーーー!」
この主の断末魔の叫びを漸く聞きつけてきた加州清光には、もちろん俺たち2人そろってしこたま叱られた。
「で?なに騒いでんの?迷惑なんだけど」
「そ、それはごめんだけど…鶴丸さんがいきなり変なこと言うから…」
「あぁ、あれはだからつまり、俺が次にきみに何かしてしまった時は遠慮なんてせずにはっきり言ってくれ、ということだ」
「だったら!そう!言えや!最初から!」
「解決した?したならさっさと仕事してくんない?」
「はい…」
「はい…」
何せ彼らは付喪神を降ろし、共に生活し、命令して戦わせ、その傷を癒さなければならない。
こういうことを為せる力を時の政府とやらは霊力と呼称しており、その質や量を審神者選定の際に最も重視しているそうだ。
ということは、まぁ、ウチの主もその点については合格点だったのだろう。
「よお、主。驚いたか?」
「…おはようございます、鶴丸さん」
と言いながら目線を泳がせる主。
言葉にされなくても何を考えているのか手に取るようにわかる。
なんで鶴丸さんがここに、だ。
「無理を言って加州に代わってもらったんだ。今日の近侍は俺が務めることになった。1日よろしく頼む」
「きよみつうーーーーーー!」
「まあ待て待て」
執務室から逃げ出そうとする主の首根っこを掴むと、彼女の断末魔の叫びもぴたりと止まる。
そのままその小さな体を引き寄せて羽交い締めにするように抱き留める。
努めて明るく優しい声音を心がけながら、彼女の後ろから問いかける。
「なんだ、主は俺が近侍じゃ不満か?」
「滅相もないです」
「そうだろうとも。腕にふるいをかけて驚きに満ちた素敵な1日を提供するぞ!」
と、俺がこんな冗談とも本気ともつかない戯言を言えば、普段の彼女なら「勘弁してください」とか「冗談ですよね?」とか冷静な一言で静止がかかるのだが、目の前の彼女はといえば真っ青な顔で冷や汗を流したまま一言も発さず固まっている。
念の為に言っておくが普段の俺と主はもっと親密だ。
挨拶はもっとにこやかにするし、廊下ですれ違えば冗談を交えた雑談もする。
全員分はない八つ時を2人でこっそり食べたりもするし、彼女が歌仙にこっぴどく叱られた時には泣きついてきてくれたこともある。
伊達に長年彼女の本丸に所属していない。
我ながらこの人の子とは上手くやっているのだ。
「…私、近侍交代を了承した覚えないんですけど」
「頼むからそんな泣きそうな顔をしてまで拒絶しないでくれ!俺まで泣きそうだ!」
まあ、時々しくじることもあることは認めよう。
彼女は稀にこうして特定の刀剣男士を遠巻きにすることがある。
俺達の些細な言動にいたく傷つき、恐ろしくなって距離を置こうとするのだ。
この本丸に所属すれば誰もが一度は経験すること。
面倒くさがる男士も確かにいるが、これも人の身を得たからこその貴重な経験。
しかも、相手は多かれ少なかれ敬愛している我らが主なのだ。
この本丸でお互いに快適な生活を送る為の歩み寄りのひとつとして、彼女その性質も暖かく受け入れられている。
ただし、大きな問題がひとつ。
彼女の傷つく原因があまりにも些細すぎて、避けるべき地雷がどこにあるのか全く検討もつかないのだ。
そう、我が本丸の大黒柱たる主はその霊力の程はいざ知らず、精神力が豆腐と紛うほどの弱さなのである。
「最近、俺を避けているのは知ってる。だから近侍を変わってもらったんだ。俺はまたきみに何かしてしまったか?」
あぁ、これも認める。
俺は彼女から避けられる常習犯だ。
「鶴丸さんって気分屋で雑なところがあるからなあ。鯰尾兄さんにそっくりな時あるもん」とは乱藤四郎の言である。
さすが古株の1振りだけあって鋭い指摘だ。
鯰尾と俺はむちゃくちゃ気が合う。
俺たちみたいな興味の対象があっちこっちに飛び、それ以外の物事を雑に扱う性分の相手はどうやら主にとって鬼門らしい。
「いや、鶴丸さんが悪いわけでは…」
「そうか。なら俺と仲直りしてくれないか?」
逃げる気はなくなったようだから羽交い締めを解き、こちらを振り向かせた。
それでもまだじわじわと障子の方に後ずさる彼女の両手をしっかりと握る。
この期に及んで逃げられたとあってはそれこそ加州に叱られてしまう。
答えを促すように彼女の顔を覗き込んだ。
「ん?どうだ?」
ちらりと俺の目を見てくれたと思えばすぐに逸らされてしまったが、彼女はそのままこくりと頷いてくれた。
俺が悪いわけじゃないと言った主の言葉はきっと本心だ。
今彼女が気まずそうにしているのは、勝手に傷ついただけの自分に俺がここまで気を遣って優しくするから。
そういう自尊心の低さが彼女の精神力に大きく影響しているのだろうと常々思ってはいるのだが、俺1人ではそれをどうすることもできまい。
「そうか!それじゃあ気を取り直して、今日1日よろしく頼むぞ、主!」
言いながら今度は彼女を正面から抱き寄せ、ぎゅうと抱きしめる。
俺は彼女の審神者としての力量を認めているし、自らの主として敬愛している。
彼女が笑っていてくれれば嬉しいし、泣いていれば悲しい。
(主!この鶴丸国永は、きみのことを心から愛しているのだぞ!)
俺にできるのはその気持ちをできる限り余すことなく彼女に伝えることだけだ。
そう思ってより力を込めてぎゅうぎゅうと抱きしめると、彼女の体はすっぽりと俺の腕の中へ収まってしまう。
それが何だか無性に愛しくて、主の体ごとゆらゆらと軽く左右に揺れると、下からくすくすと笑い声が聞こえてきた。
「鶴丸さん、苦しいです」
「はは、すまんな!でもこれは仲直りの証だからなあ。そう簡単には離してやらないぞ」
「仲直りの?」
「あぁ。だからきみも俺のことをちゃんと抱きしめてくれ」
思いの外懇願するようになってしまった自分の声音に驚く。
こんな声で頼み事をしてしまえば、この主は断ることなんてできないと知っていたから、もっと軽い口調で言うつもりだったのに。
案の定、彼女の細い腕がおずおずと出てきて俺の身体を囲み、遠慮がちに脇腹辺りの着物をきゅっと握った。
「くすぐったいぞ、主」
「だって届かないんですよ、背中まで」
「そんなことはない!頑張れ!」
「いや、頑張っても体格差はどうにもならないです」
「うーむ、これならどうだ!」
「んぎゃあ!」
さらに力を込めて彼女を抱き寄せると、あまりの苦しさに蛙が潰れたような声が出されて慌ててその身体を開放した。
「何でちょっと嬉しそうなんですか。危うく窒息するところでしたよ」
「あははは!すまんすまん!」
「むっちゃ笑ってる…」
恨めしげにこちらを見つめる主の目線は、いつもの調子を取り戻した証拠だ。
俺がどれだけ主を信頼し、愛しているのか、はっきりと伝えておくならこの機を逃す手はない。
これだけは自尊心の低さからくる奇想天外な曲解をしたりせずに、真正面から受け取って欲しい。
彼女の頬を両手で包んでまっすぐに彼女を見つめた。
「主よ、俺は隅々まできみの物だ。遠慮なんかいらないから好きにしてくれて構わないんだぞ」
驚きで見開かれた彼女の瞳が俺のいつになく真剣な顔を映しているのを確認していると、しばらく沈黙していた主が慌てて俺の両手から抜け出した。
「これは驚いた。まさかそんなに顔を赤くして照れてくれるとはな!予想外だったぜ」
「照れてないですけど!」
「きみは想像力が豊かだなあ」
「はぁ!?」
「一体どんな邪な想像をしたんだ?」
「よ、よこっ⁉」
「どんな過激な内容であろうと、他でもないきみが相手なら喜んで叶えてやろう!」
「邪な想像なんてしてません!にじり寄ってくるんじゃない!」
「なんだ、またご機嫌を損ねてしてしまったか。しょうがない。もう一度仲直りのハグだな!」
「ぎゃあ!こっち来ないで!」
「まあまあ、そう照れるな。可愛いなあ、俺の主は!」
「きよみつうーーーーーー!」
この主の断末魔の叫びを漸く聞きつけてきた加州清光には、もちろん俺たち2人そろってしこたま叱られた。
「で?なに騒いでんの?迷惑なんだけど」
「そ、それはごめんだけど…鶴丸さんがいきなり変なこと言うから…」
「あぁ、あれはだからつまり、俺が次にきみに何かしてしまった時は遠慮なんてせずにはっきり言ってくれ、ということだ」
「だったら!そう!言えや!最初から!」
「解決した?したならさっさと仕事してくんない?」
「はい…」
「はい…」