魔入りました!入間くん
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悪逆非道の限りを尽くす悪魔が「元祖返り」として忌諱されるようになった現代の魔界において、まさかこんな阿鼻叫喚の図を目の当たりにするなんて一体誰が想像できただろうか。
(うわー、こんなにたくさんの悪魔が地に伏している場面、歴史の教科書でしか見たことないやー)
なんて一生懸命目の前の状況から気を逸らそうとしている私の目は死んでいるに違いない。
こんな悠長なことを考えていられるのは、幸か不幸かこの世にも恐ろしい状況を掌握しているのが私の先輩だからである。
「名前さん、怪我はありませんか」
文字通り積み上げられた悪魔達の頂上に君臨しながらこちらを見下ろし、飄々としているのがこの死屍累々たる状況を作りあげた張本人、オペラ先輩である。
「は、はぁ…お蔭様で」
ぴょんぴょんと軽い身のこなしで悪魔達の山を降り、こちらに近づいて来る先輩を目で追いながらつい後ずさってしまう。
「だから私が家まで送ると言ったじゃありませんか」
私の前に降り立ち、そう言ったオペラ先輩の表情からは相変わらず感情が読み取れない。
もしかしたら先輩の厚意を無下にして勝手な行動をとり、逆に彼の手を煩わせてしまった私に怒りを覚えているのかもしれない。
そう思うと自然と顔が引きつる。
「す、すいませんでした。勝手に下校したりして…」
「いえ、元はといえば襲ってくる奴らのせいですから」
いや、先輩のせいです。
なーんてはっきりと言えたらどんなにいいか。
悪魔学校バビルスで「番長」として恐れられているこのオペラ先輩に面と向かって意見が言える悪魔なんているのだろうか。
そもそも彼と不良達との抗争にどうして私なんかが巻き込まれているのかというと、ことの始まりは2週間前まで遡る。
私が呑気に廊下を歩いていると、運悪くガラの悪い先輩達にぶつかってしまい、あれよあれよという間に命の危機すら感じる大ピンチに陥ってしまった。
そこをたまたま通りかかったのが「番長」・オペラ先輩。
不良たちは小者の私なんかを放っておいて一目散に彼に食って掛かったのだが結果は言わずもがな。
『そんなところで何をしているんですか』
『え』
『もしかして巻き込んでしまいましたか。怪我は?』
『いえ、だ、大丈夫です』
『そうですか。それでは』
多勢に無勢の圧倒的不利な状況をものともせず、軽く勝利を収めた「番長」は、近くでへたり込んでいた私に気付いて手を貸してくれた。
その日に交わした言葉は上記の通りほんの僅かだ。
しかし、その僅かなやりとりが私の日常を180度変えてしまったのだった。
この出来事が元となり「あの『番長』が身を挺して守った女悪魔がいるらしい」という噂が校内に流れた。
この時点でとんだ誤情報なのだが、まぁ、噂とは大概そんなものだ。
そして、噂には尾ひれがつくもの。
噂はいつの間にか「『番長』に恋人がいるらしい」というものになり、そして更に「『番長』の恋人を人質にとれば勝機がある」という話になってしまったのである。
それからはご想像の通り、ありとあらゆる不良たちが校内外問わず隙を見ては私に襲い掛かるようになった。
こうして下位ランクで魔力量も人並みの私はとんでもない状況に巻き込まれてしまった訳だが、予想外の出来事も起こった。
オペラ先輩が私の護衛を買って出てくれたのである。
(護衛って…そもそも先輩が事の発端なのに。なんか腑に落ちないんだよな)
なーんて本人に言えるわけもなく、登校・休み時間・ランチタイムから下校、そして時には休日まで、それこそまるで本当の恋人かのようにオペラ先輩と時間を共にすること2週間。
本当に残念なことに、未だ不良たちの奇襲は留まることを知らない。
「何か急ぎの用でもあったんですか?」
「え?」
「こんな状況で一人で下校した程ですから」
「えーと、まあ…はい」
というのはもちろん真っ赤な嘘。
本当は、1人の時間が欲しかったのだ。
不良たちに捕まって人質にされるのはもちろんまっぴらごめんだが、何を考えているのか分からない癖に不良達さえ凌駕して有り余るほどの力を持つオペラ先輩と四六時中一緒にいなければならない状況も苦痛だった。
そもそもなんで護衛なんて買って出てくれたんだろう。
自分に逆らう意思のある不良達をあぶりだす為のエサとして利用されているとしか思えないんですけど。
「そうですか。私は名前さんの教室の前で待っていたんですけどね」
「…」
「わざわざ私を避けて、窓から出て行くほどですから余程の用事だったんでしょう」
ばれとるやんけ!
避けとるのばれとるやんけ!
この2週間、思えば意外にも私には一度も向けられたことの無かったあの剣呑な視線が、今はびしばしと突き刺さっている。
「い、いいいや、あの、えーと」
「…」
「あ!おばあちゃんが今入院してまして…」
「今『あ!』って言いましたけど」
鋭い指摘に為す術もなく黙り込む私。
を言葉なくじっと見つめるオペラ先輩。
怖い。怖すぎる。
私の頭の中では既にオペラ先輩が『私の手を煩わせるなんて良い度胸ですね』とか言いながら拳を振り上げている。
重い沈黙が苦痛過ぎて、先輩を見上げることなんてできない。
かと言って打開策も浮かばない無力な私は俯いたまま、冷や汗を垂れ流すばかりだった。
「私と一緒にいるのは苦痛ですか」
「え」
恐怖の余り張り付いていた私の喉から掠れた声が漏れる。
いつもと少し様子の違う静かな先輩の声につられてつい目線を上げてしまった。
まるで落ち込んでいるように聞こえたから。
ところがどっこい、こちらをまっすぐに見つめる彼の表情はいつも通りで全く感情が読めない。
何だこれ。脳がバグりそう。
「私と一緒にいるのが嫌で、私を避けたんじゃありませんか?」
「いや、そういう訳では…!」
「違うんですか」
「えっと、あの…」
「…」
「嫌、というか…も、申し訳なくて!」
これだ!と思いつき勢いよく顔を上げてオペラ先輩に伝える。
と、目の前には少し目を見開いて驚いた様子の先輩。
よく見ると耳もピクリと動いたようだった。
あれ?何だ。オペラ先輩もこんな顔するのか。
「…申し訳ない、ですか?」
「あ、その…もちろん襲ってくる悪魔達が一番悪いんですけど!赤の他人の私なんかの為に先輩が動いてくれるのが申し訳なくて…ですね…はい」
「はぁ、そうですか」
うわ、どーでもよさそー!
結構勇気を出して言い訳をしてみたのに、オペラ先輩の表情には一遍の揺らぎも見られない。
さっき少し感じた気がした先輩の落胆や驚きは夢か?幻か?
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しかったんですけどね」
何か爆弾発言をされた気がするけれど、オペラ先輩は相変わらずの鉄仮面ぶりで再び脳が混乱する。
今なんて?
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しかったんですけどね」
「2回言った…」
「理解できていないみたいだったので」
何を言われたのかは理解したものの、突然訪れた「番長」のデレに着いていけず、相変わらず脳は混乱したままだった。
だってだって!異性からこんな風に言われたの初めてなんだもん!
楽しい?一緒にいて?ちょっと待って。
もしかして私ペットか何かだと思われてる?
「まあはっきり言って、最初は不穏分子をあぶりだす為のエサに丁度いいとしか思っていなかったんですけど」
(やっぱりかーい!)
「そもそも私達が四六時中一緒にいる必要は無かったんですよ」
「え⁉」
「私がどこか遠くから名前さんを見張って、馬鹿共が群がってきた時だけ出向けば良かったんです」
その通り過ぎて言葉が出ない。
この2週間は一体なんだったんだよ…。
今までの自分の気苦労を思って私はつい頭を抱えてしまった。
「…今思えば、最初からその手を使えば良かったですね。名前さんと一緒にいるのが楽しくて、つい言い出すタイミングを失ってしまいました」
「はぁ」
「名前さんと一緒にいるのが楽しくて」
「2回言った…」
「理解できていないみたいだったので」
こんなぶっちゃけ話をしている間も、オペラ先輩はといえば相変わらずの鉄面皮である。
確信した。
これはやっぱりペットとして扱われている。
彼の言動を異性のソレとして意識したらダメだ。
「あーえっと、じゃあその、明日からはその作戦で行きますか?」
「どうしてですか?」
怖い怖い怖い!
長い脚でこちらにずいっと近づいて来たオペラ先輩は、それだけに飽き足らずぐっと身をかがめて私の目線に自分の目線を合わせた。
手を後ろに組んだまま、こちらに向けて出そうとしないのが私にとって唯一の救いであり、きっと彼の優しさだ。
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しいですよ」
「そ、そうなんですね。光栄です」
「名前さんも、私と一緒にいるのは別に嫌じゃないんですよね?」
「え」
「『申し訳ない』だけなんですよね?」
「…」
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しいので『申し訳ない』なんて言わず、私の側にいてください」
オペラ先輩の無表情がどうしてこんなにも恐ろしいのか分かった。
もちろん彼の高すぎる戦闘力も理由の1つだけどそれ以上に、オペラ先輩はあまりにも顔面が整いすぎている。
この顔に無表情でいられたら、そりゃあ条件反射的に恐怖を感じてしまうのも仕方がない。
そして、こんなタイミングで先輩の身目麗しさに気付いてしまった私にとって、彼の一言は強烈な口説き文句だった。
「わ、かりました」
緊張でかっすかすの声のまま答えた私の顔はきっと真っ赤だったに違いない。
私をじっと見つめていたオペラ先輩の口元が満足げに弧を描いたから。
先輩の笑顔を初めて確認したこの瞬間、私は(ペットでもいいや…)なんて思ってしまった。
にも関わらずこれから更に一週間後、オペラ先輩に「どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか」なんて爆弾発言を落とされることになるのだが、それはまた別のお話。
悪逆非道の限りを尽くす悪魔が「元祖返り」として忌諱されるようになった現代の魔界において、まさかこんな阿鼻叫喚の図を目の当たりにするなんて一体誰が想像できただろうか。
(うわー、こんなにたくさんの悪魔が地に伏している場面、歴史の教科書でしか見たことないやー)
なんて一生懸命目の前の状況から気を逸らそうとしている私の目は死んでいるに違いない。
こんな悠長なことを考えていられるのは、幸か不幸かこの世にも恐ろしい状況を掌握しているのが私の先輩だからである。
「名前さん、怪我はありませんか」
文字通り積み上げられた悪魔達の頂上に君臨しながらこちらを見下ろし、飄々としているのがこの死屍累々たる状況を作りあげた張本人、オペラ先輩である。
「は、はぁ…お蔭様で」
ぴょんぴょんと軽い身のこなしで悪魔達の山を降り、こちらに近づいて来る先輩を目で追いながらつい後ずさってしまう。
「だから私が家まで送ると言ったじゃありませんか」
私の前に降り立ち、そう言ったオペラ先輩の表情からは相変わらず感情が読み取れない。
もしかしたら先輩の厚意を無下にして勝手な行動をとり、逆に彼の手を煩わせてしまった私に怒りを覚えているのかもしれない。
そう思うと自然と顔が引きつる。
「す、すいませんでした。勝手に下校したりして…」
「いえ、元はといえば襲ってくる奴らのせいですから」
いや、先輩のせいです。
なーんてはっきりと言えたらどんなにいいか。
悪魔学校バビルスで「番長」として恐れられているこのオペラ先輩に面と向かって意見が言える悪魔なんているのだろうか。
そもそも彼と不良達との抗争にどうして私なんかが巻き込まれているのかというと、ことの始まりは2週間前まで遡る。
私が呑気に廊下を歩いていると、運悪くガラの悪い先輩達にぶつかってしまい、あれよあれよという間に命の危機すら感じる大ピンチに陥ってしまった。
そこをたまたま通りかかったのが「番長」・オペラ先輩。
不良たちは小者の私なんかを放っておいて一目散に彼に食って掛かったのだが結果は言わずもがな。
『そんなところで何をしているんですか』
『え』
『もしかして巻き込んでしまいましたか。怪我は?』
『いえ、だ、大丈夫です』
『そうですか。それでは』
多勢に無勢の圧倒的不利な状況をものともせず、軽く勝利を収めた「番長」は、近くでへたり込んでいた私に気付いて手を貸してくれた。
その日に交わした言葉は上記の通りほんの僅かだ。
しかし、その僅かなやりとりが私の日常を180度変えてしまったのだった。
この出来事が元となり「あの『番長』が身を挺して守った女悪魔がいるらしい」という噂が校内に流れた。
この時点でとんだ誤情報なのだが、まぁ、噂とは大概そんなものだ。
そして、噂には尾ひれがつくもの。
噂はいつの間にか「『番長』に恋人がいるらしい」というものになり、そして更に「『番長』の恋人を人質にとれば勝機がある」という話になってしまったのである。
それからはご想像の通り、ありとあらゆる不良たちが校内外問わず隙を見ては私に襲い掛かるようになった。
こうして下位ランクで魔力量も人並みの私はとんでもない状況に巻き込まれてしまった訳だが、予想外の出来事も起こった。
オペラ先輩が私の護衛を買って出てくれたのである。
(護衛って…そもそも先輩が事の発端なのに。なんか腑に落ちないんだよな)
なーんて本人に言えるわけもなく、登校・休み時間・ランチタイムから下校、そして時には休日まで、それこそまるで本当の恋人かのようにオペラ先輩と時間を共にすること2週間。
本当に残念なことに、未だ不良たちの奇襲は留まることを知らない。
「何か急ぎの用でもあったんですか?」
「え?」
「こんな状況で一人で下校した程ですから」
「えーと、まあ…はい」
というのはもちろん真っ赤な嘘。
本当は、1人の時間が欲しかったのだ。
不良たちに捕まって人質にされるのはもちろんまっぴらごめんだが、何を考えているのか分からない癖に不良達さえ凌駕して有り余るほどの力を持つオペラ先輩と四六時中一緒にいなければならない状況も苦痛だった。
そもそもなんで護衛なんて買って出てくれたんだろう。
自分に逆らう意思のある不良達をあぶりだす為のエサとして利用されているとしか思えないんですけど。
「そうですか。私は名前さんの教室の前で待っていたんですけどね」
「…」
「わざわざ私を避けて、窓から出て行くほどですから余程の用事だったんでしょう」
ばれとるやんけ!
避けとるのばれとるやんけ!
この2週間、思えば意外にも私には一度も向けられたことの無かったあの剣呑な視線が、今はびしばしと突き刺さっている。
「い、いいいや、あの、えーと」
「…」
「あ!おばあちゃんが今入院してまして…」
「今『あ!』って言いましたけど」
鋭い指摘に為す術もなく黙り込む私。
を言葉なくじっと見つめるオペラ先輩。
怖い。怖すぎる。
私の頭の中では既にオペラ先輩が『私の手を煩わせるなんて良い度胸ですね』とか言いながら拳を振り上げている。
重い沈黙が苦痛過ぎて、先輩を見上げることなんてできない。
かと言って打開策も浮かばない無力な私は俯いたまま、冷や汗を垂れ流すばかりだった。
「私と一緒にいるのは苦痛ですか」
「え」
恐怖の余り張り付いていた私の喉から掠れた声が漏れる。
いつもと少し様子の違う静かな先輩の声につられてつい目線を上げてしまった。
まるで落ち込んでいるように聞こえたから。
ところがどっこい、こちらをまっすぐに見つめる彼の表情はいつも通りで全く感情が読めない。
何だこれ。脳がバグりそう。
「私と一緒にいるのが嫌で、私を避けたんじゃありませんか?」
「いや、そういう訳では…!」
「違うんですか」
「えっと、あの…」
「…」
「嫌、というか…も、申し訳なくて!」
これだ!と思いつき勢いよく顔を上げてオペラ先輩に伝える。
と、目の前には少し目を見開いて驚いた様子の先輩。
よく見ると耳もピクリと動いたようだった。
あれ?何だ。オペラ先輩もこんな顔するのか。
「…申し訳ない、ですか?」
「あ、その…もちろん襲ってくる悪魔達が一番悪いんですけど!赤の他人の私なんかの為に先輩が動いてくれるのが申し訳なくて…ですね…はい」
「はぁ、そうですか」
うわ、どーでもよさそー!
結構勇気を出して言い訳をしてみたのに、オペラ先輩の表情には一遍の揺らぎも見られない。
さっき少し感じた気がした先輩の落胆や驚きは夢か?幻か?
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しかったんですけどね」
何か爆弾発言をされた気がするけれど、オペラ先輩は相変わらずの鉄仮面ぶりで再び脳が混乱する。
今なんて?
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しかったんですけどね」
「2回言った…」
「理解できていないみたいだったので」
何を言われたのかは理解したものの、突然訪れた「番長」のデレに着いていけず、相変わらず脳は混乱したままだった。
だってだって!異性からこんな風に言われたの初めてなんだもん!
楽しい?一緒にいて?ちょっと待って。
もしかして私ペットか何かだと思われてる?
「まあはっきり言って、最初は不穏分子をあぶりだす為のエサに丁度いいとしか思っていなかったんですけど」
(やっぱりかーい!)
「そもそも私達が四六時中一緒にいる必要は無かったんですよ」
「え⁉」
「私がどこか遠くから名前さんを見張って、馬鹿共が群がってきた時だけ出向けば良かったんです」
その通り過ぎて言葉が出ない。
この2週間は一体なんだったんだよ…。
今までの自分の気苦労を思って私はつい頭を抱えてしまった。
「…今思えば、最初からその手を使えば良かったですね。名前さんと一緒にいるのが楽しくて、つい言い出すタイミングを失ってしまいました」
「はぁ」
「名前さんと一緒にいるのが楽しくて」
「2回言った…」
「理解できていないみたいだったので」
こんなぶっちゃけ話をしている間も、オペラ先輩はといえば相変わらずの鉄面皮である。
確信した。
これはやっぱりペットとして扱われている。
彼の言動を異性のソレとして意識したらダメだ。
「あーえっと、じゃあその、明日からはその作戦で行きますか?」
「どうしてですか?」
怖い怖い怖い!
長い脚でこちらにずいっと近づいて来たオペラ先輩は、それだけに飽き足らずぐっと身をかがめて私の目線に自分の目線を合わせた。
手を後ろに組んだまま、こちらに向けて出そうとしないのが私にとって唯一の救いであり、きっと彼の優しさだ。
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しいですよ」
「そ、そうなんですね。光栄です」
「名前さんも、私と一緒にいるのは別に嫌じゃないんですよね?」
「え」
「『申し訳ない』だけなんですよね?」
「…」
「私は名前さんと一緒にいるのが楽しいので『申し訳ない』なんて言わず、私の側にいてください」
オペラ先輩の無表情がどうしてこんなにも恐ろしいのか分かった。
もちろん彼の高すぎる戦闘力も理由の1つだけどそれ以上に、オペラ先輩はあまりにも顔面が整いすぎている。
この顔に無表情でいられたら、そりゃあ条件反射的に恐怖を感じてしまうのも仕方がない。
そして、こんなタイミングで先輩の身目麗しさに気付いてしまった私にとって、彼の一言は強烈な口説き文句だった。
「わ、かりました」
緊張でかっすかすの声のまま答えた私の顔はきっと真っ赤だったに違いない。
私をじっと見つめていたオペラ先輩の口元が満足げに弧を描いたから。
先輩の笑顔を初めて確認したこの瞬間、私は(ペットでもいいや…)なんて思ってしまった。
にも関わらずこれから更に一週間後、オペラ先輩に「どうですか。そろそろ恋人になってくれる気になりましたか」なんて爆弾発言を落とされることになるのだが、それはまた別のお話。