オフ本「黎明の虹」試し読み




【黎明の虹】





―――3年

待ち焦がれた存在が

今この腕の中にいる







「カガリ………」

「…やっ、離せ…!」


激しく抵抗する両手を、アスランは力尽くでシーツに縫い留めた。
出逢ったときより明らかに細くなった彼女の腕に、胸が締め付けられる。


世界を守っている腕。
世界の人々が必要としている腕。

どれだけの激務と心労を重ねればこんなにも痩せられるのか―――
でも自分にとっては、世界がどうかなんて関係ない。


…ただ愛しいひと。
心が揺さぶられる唯一の…


その衝動のまま、アスランは3年ぶりのキスをした。



「んん…っ……!!」


決めてたんだ。

カガリがもし“カガリ”として俺に会いに来てくれたなら
それがどこでも
誰がいても
絶対に抱きしめるって

強く抱きしめて離さないって―――





わずか1分前のこと。
オーブ軍の官舎の廊下に、カガリは目立たぬよう首長服ではなく階級の低い軍服を纏って立っていた。
壁の隅にひっそりと。

そこがアスランの部屋の前であること、アスランを待っていたことが明白で彼は機先を制した。


「…!」


カガリが何か言う前に抱きしめる。
もし彼女が仕事でここに来たのなら、もっと背筋を伸ばして“代表”の顔をして立っているはずだ。


「ア、アス…っ 人に見られる…!」

「なら、俺の部屋に来て」


いきなり抱きしめられてパニックになっているカガリを強引に部屋に連れ込むのは容易なことだった。
主導権を握ったのはアスラン。

カガリに“ザラ准将”と呼ばれなかったことが着火剤にもなって、部屋に入ったとたん飢えた獣のように掻き抱いた。
それでも抵抗をやめないカガリを、ついにはベッドに押し倒して両腕を奪ったのだ。



アレックスとしてカガリのそばにいた頃―――

ベッドに押し倒すなんて、そんなことは一度もしたことがなかった。一日の別れ際にときどきキスを交わすくらいだった。
今、どんなとんでもないことをしているのか分かっているけど、想いが溢れすぎてもう…

3年ぶりの口づけに溺れた。
脳が溶けそうになるくらいのアスランの悦びは、そう長くは続かなかった。

カガリが泣いて抵抗したのだ。
細い手が震えている。


その涙に気づいてアスランが唇を離すと、もうこちらを見ようともしないカガリがいた。
小さく、「離して…」と。


乱れたカガリのインナーの下。首に細いネックレスがあるのに気づいた。
その先には…あの指輪が―――


・・気づかないフリをする。
指摘すれば絶対にカガリは突き返してくるだろうから。



「私は…っ、たくさんの命を…。たくさんの人を死なせてしまった…。何をやっても、どう償っても、もう戻らない……」


ここでもカガリは、男と女としての会話をするつもりはないのだと、アスランは悟った。
その次元にはその次元で返す。


「じゃあ俺の命は? 俺のこの命は…カガリに救ってもらったものだよ」


ちゃんと言葉を聞いてもらえるよう、アスランは押さえつけていたカガリの腕を解いた。


「きみが自分で救った命は、見てくれないのか…?」


カガリが、俺を生き永らえさせた・・・

きみのそばにいることが、俺の生きる意味。




******




ここまでが冒頭2ページ分になります。
この後カガリが何者かに拉致される展開となります。
本編はぜんぶで58ページ、R-18指定、構想15年かけて書きました私の人生最後のオフ本です!


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